聴覚過敏とは?はたらくうえでの工夫や仕事選びのポイント

聴覚過敏のある人

日常生活や仕事中、周囲の音に過敏なせいでイライラすることはありませんか。近くで人が会話している声すら不快に感じるほど敏感だと、集中できずに困ってしまいますよね。

音が気になり過ぎて生活や仕事に支障が出る場合、聴覚過敏の可能性があります。聴覚過敏は周囲にそのつらさが伝わりにくく、人知れず悩みを抱えている方もいるかもしれません。

そこで今回の記事では、聴覚過敏の症状の特徴と、原因に応じた治療法を解説します。職場でできる聴覚過敏の対処法もお伝えしているので、ぜひ最後までご覧ください。

聴覚過敏とは

聴覚過敏のある人

まず、聴覚過敏とはどのような症状なのかを説明します。

聴覚過敏の特性

聴覚過敏とは、周囲の音に対して敏感過ぎる性質のことであり、複数ある感覚過敏の一種です。誰しも、大きな音や不快音を聞くと嫌な気分になるでしょう。しかし聴覚過敏があると、音の区別や聞き分けが難しかったり、特定の音に過剰反応したりしてしまい、些細な音や会話にすら耐え難いほどの苦痛を伴います。

つまり聴覚過敏とは、自分に関係あるかどうかにかかわりなく、すべての音に反応し過ぎてしまう症状です。暮らしの中にはさまざまな音が溢れかえっているため、聴覚過敏のある方にとっては、常時ストレッサーと隣り合わせの状態だといえます。

なお、不快に感じる音の種類や範囲、程度は人それぞれです。そのため明確な定義はなく、日常生活や仕事に支障が出るほど音が気になり過ぎる場合に聴覚過敏だと判断される傾向にあります。

聴覚過敏のある方が苦手な音の種類

苦手な音の種類は人によって異なりますが、一般的に次の3種類です。

苦手な音の分類 具体例
特定の音 ・家電の稼働音
・トイレの水洗音
・パソコンやマウスの操作音
特定の人の声 ・赤ちゃんや幼い子どもの声
・笑い声や泣き声
・大勢の声がいっぺんに聞こえる状況
予測不能な音 ・電話の着信音
・ドアの開閉音
・チャイムの音

聴覚過敏がある場合、自分にとってどのような音が苦手なのかを把握しておくことで対策しやすくなるでしょう。

【大人の聴覚過敏】チェックリスト

大人の聴覚過敏のある方の特徴は以下の通りです。

  • 極端に嫌悪感を覚える音がある
  • 人混みといったたくさんの音が聞こえる場所へ行くと苦痛を感じる
  • ほかの人が気にならないような些細な音でも耳を塞ぎたくなる
  • 音を聞くと耳を突き刺すような激しい不快感がある
  • 苦手な音を聞いているとパニックになってしまう

ただし上記はあくまでも目安であり、正確な診断ができるテストではありません。該当項目が多い場合や、気になる症状のある方は、耳鼻科を受診して診断テストを受けてみてください。耳鼻科で診察を受けたのち、聴覚過敏を引き起こしている原因や疾患によっては、精神科や心療内科、脳神経内科・外科などへの受診を案内されることもあります。

聴覚過敏の原因と治し方

聴覚過敏は、その原因によって治療の可否と治し方が異なります。ここでは、聴覚過敏の主な原因と、それぞれの治療法をみていきましょう。

聴覚障害

耳の機能のいずれかに障害があることにより、聴覚過敏が引き起こされる場合があります。全体的な音が聞こえづらく、特定の音に極端に敏感な場合は、聴覚障害による聴覚過敏かもしれません。なお、聴覚過敏を引き起こす障害の代表格として、突発性難聴やメニエール病など、内耳の機能障害が挙げられます。

聴覚障害による聴覚過敏の治療の際は、耳鼻科への相談が必要です。投薬や生活習慣の改善など、適切な治療を受けることで治る可能性があります。

脳・神経の機能障害

聴覚過敏は、脳もしくは神経の機能障害がある場合に生じやすい特性です。原因は不明ですが、発達障害やてんかんなどの脳や神経にかかわる障害があると、聴覚過敏をはじめとする感覚過敏になりやすいといわれています。特に発達障害のうち、ASD(自閉スペクトラム症)およびADHD(注意欠陥・多動症)の主な特性の一つが、聴覚を含む感覚過敏です。

脳の機能障害による聴覚過敏の場合、根本的な治療法は明らかになっていません。投薬や行動療法によって改善・コントロールできる可能性があるため、精神科や心療内科、脳神経外科・内科などを受診することをおすすめします。

APD

聴覚過敏があるときは「APD」によるものである可能性があります。APD(Auditory Processing Disorder:聴覚情報処理障害)とは、聴覚の機能に異常がないにもかかわらず、音がうまく聞き取れない症状のことです。音がどこから聞こえるのか分からなかったり、音声のみの情報がスムーズに理解できなかったりと、人によってさまざまな症状が出るといわれています。

APDの原因は、発達障害や脳の損傷、心理的な問題による認知のゆがみが原因だというのが現在の通説です。しかし、まだ研究中で謎の多い障害であり、明確な治療法も確立されていません。

HSP

「HSP」のある方は、聴覚が敏感になりやすい傾向にあります。HSP(Highly Sensitive Person)気質とは、心身への刺激に非常に敏感な気質のことです。

HSPがあると、自他の感情の機微や感覚にとても敏感であり、それによって体調にまで影響を及ぼすことも少なくありません。音への感受性も高く、聞こえてくる音すべてに敏感に反応してしまう傾向にあります。

なお、HSPは生まれ持った繊細な気質であり、病気や障害ではありません。したがって治療法がなく、聴覚過敏の症状を和らげるためには、自分にとって適切な対処法を身につけていくことが大切です。

ストレス

過度なストレスによって自律神経のバランスが崩れると、聴覚が敏感になり過ぎたり、逆に聞こえづらかったりなど、聞こえ方に異常が出ることがよくあります。ストレスが原因の場合、一時的に聴覚過敏になっているだけなので、適切な処置で治せるケースも多いでしょう。

ストレスによる聴覚過敏の治し方は、ストレッサーと距離を取り、しっかりと休養を取ることです。ただし、うつ病などの症状の一つとして聴覚過敏になっている可能性もあるため、自己判断に頼らず速やかに医療機関を受診することが推奨されます。

聴覚過敏による仕事上の困り事

聴覚過敏があると、仕事中や職場で次のような困り事が生じやすいといわれています。

  • 集中できない
  • 睡眠不足になりがち
  • 心身に悪影響を及ぼす
  • 誤解を受けやすい

集中できない

聴覚過敏がある方は、周囲に苦手な音が流れていると、仕事や会話に差し障ります。耳の近くで騒音や不快音を掻き鳴らされているような状態なので、業務にうまく集中できません。

睡眠不足になりがち

聴覚障害があると、就寝時に音が気になってぐっすり眠りづらい傾向にあります。時計の音や屋外の会話、雨の音などあらゆる音が気になり、よく眠れない日が続いて睡眠不足になりがちです。睡眠が足りていないと、仕事中に眠くなったり、ミスしやすくなったりなどの弊害が生じやすくなってしまいます。

心身に悪影響を及ぼす

聴覚過敏の症状はただ音がうるさく聞こえるだけではなく、頻繁に不快な音に囲まれている状態になるため、心身に悪影響を及ぼすことがあります。人によっては耳に痛みを感じるほどであり、耳や頭、気が休まる暇もなかなかなく、特に疲れるようなことをしていなくても1日の終わりには疲労困憊です。実際に、頭痛やめまい、抑うつ状態といった不調を起こし、仕事に行くことすらままならなくなることもあります。

誤解を受けやすい

聴覚過敏の苦しみは、そうでない人には分かりづらいため「気にし過ぎ」「わがまま」などあらぬ誤解を受けることも少なくありません。職場でも、「そのうち慣れる」と軽く捉えられてしまうケースがあり、周囲に理解されない苦しみを抱えている方もいるでしょう。

聴覚過敏のある方がはたらきやすくなる5つの方法

LGBTQ+

聴覚過敏があっても、工夫次第でぐっと楽にはたらけるようになります。具体的な対処法は、次の5つです

  • 環境調整を行う
  • イヤーマフや耳栓を活用する
  • リラックスできる休憩場所を確保する
  • ストレスを溜め過ぎない
  • 周囲に事情を説明して理解を求める

環境調整を行う

聴覚過敏のある方にとって重要なのは、自分にとって苦痛な音を可能な限り遠ざけることです。具体的な対策として、以下のような環境調整が挙げられます。

  • 周囲の声が気になるときは、デスクの位置を静かな場所に配置してもらう
  • イスを引く音が不快なら脚にカバーをつける
  • ドアの開け閉めする音が苦手な場合は、防音テープなどを貼ってもらう
  • 人の話し声が刺激に感じる場合は、メール・チャットなどのコミュニケーションツールを活用する
  • 自分が過ごしやすいよう環境を整えることで、仕事が格段にやりやすくなるはずです。

    イヤーマフや耳栓を活用する

    手軽に取り入れられる聴覚過敏の対策アイテムといえば、耳栓やイヤーマフ。音から耳を防護するアイテムを活用することで、聴覚過敏があっても快適に過ごせるようになります。

    サイズ、対応する音の種類、ノイズキャンセリング、遮音率などさまざまなタイプの耳栓・ヘッドホンがあるので、使いやすいものを探してみてください。ただし、耳栓やイヤーマフは音楽鑑賞やファッションなどと誤解される恐れがあるため、あらかじめ職場に相談したうえで使用することをおすすめします。

    リラックスできる休憩場所を確保する

    仕事中に音が気になってイライラしたときに備え、気分転換できる場所を見つけておくとよいでしょう。人目がない場所に移動する、休憩時間は社外でリラックスするなど、耳や心が落ち着ける場所を確保することで、勤務時間のストレスが軽減されます。

    ストレスを溜め過ぎない

    ストレスは聴覚過敏の悪化を招く元なので、溜め過ぎないよう、こまめに解消することが重要です。また、規則正しい生活や栄養バランスの取れた食事を徹底するなどの習慣作りも、ストレスに負けない健やかな心身を育むことにつながります。

    周囲に事情を説明して理解を求める

    聴覚過敏の症状があることを周囲に開示し、苦手な状況をあらかじめ説明しておくことで、環境や接し方などに配慮が得やすくなるでしょう。また「聴覚過敏保護用シンボルマーク」といったのツールを活用するのも一つの方法です。自治体によっては、特定のヘルプマークを配布しているケースもあります。とはいえ、症状の開示は必須ではないため、自らの症状の範囲や程度に応じて検討してみてください。

    聴覚過敏のある方の仕事の選び方

    ここからは、聴覚過敏がある方が活躍しやすい仕事の特徴を紹介します。加えて、あまり向いていない仕事の特徴と障害者雇用枠ではたらく方法についても解説しているので、選択肢の一つとして検討してみてください。

    聴覚過敏のある方に向いている仕事

    聴覚過敏のある方に向いているのは、あまり聞き取りを要さない仕事です。例えば、人と直に会話せずに完結する仕事や、音声以外の情報の処理が主な業務となる仕事ならはたらきやすいといえます。具体的には、次のような職種です。

    • データ入力
    • 電話・来客対応の少ない事務職
    • SE(システムエンジニア)
    • プログラマー
    • Webデザイナー
    • Webライター
    • Webディレクター
    • イラストレーター
    • 翻訳家

    上記の職種は、直接会話しなくてもコミュニケーションが取りやすい傾向にあります。在宅勤務の仕事も多いので、聴覚過敏があってもはたらきやすいでしょう。

    聴覚過敏のある方に不向きな仕事

    逆に、人との直接の会話や聞き取り、大きな声を出すことが重要な役割を担う仕事だと、聴覚過敏があると活躍しづらいかもしれません。不向きな仕事の具体例は、次のような職種です。

    • コールセンター
    • 工場の作業員
    • 建設現場の作業員
    • 接客業
    • 看護師
    • 介護士
    • 教育職
    • 消防士
    • 自衛官

    また職種にかかわらず、大きなBGMや騒音が常に流れている場所での仕事は聴覚過敏のある方にとって苦痛が大き過ぎます。

    ただし、向き不向きは人によって異なるため、一概にはいえません。適性や苦手な音を踏まえ、自分に合う仕事を見つけることが大切です。

    障害による聴覚過敏の場合は障害者雇用枠での就労も検討

    身体的・精神的な障害によって感覚過敏が引き起こされている場合は、障害者雇用枠の求人も視野に入れて仕事探しを進めることをおすすめします。障害者雇用枠の求人は、障害特性があることを前提としているため、適切な合理的配慮の下ではたらける可能性が高いでしょう。

    障害者雇用枠に応募するためには、障害者手帳を取得しなければなりません。障害者手帳の申請の際は、かかりつけの医療機関で診断を受けた後、自治体の障害者支援窓口への相談が必要です。

    障障害者手帳があれば、専門の転職・就職支援サービスの利用も可能になるため、特性や症状に応じて検討してみてください。

    聴覚過敏でお困りなら「dodaチャレンジ」ではたらきやすい仕事探しを!

    聴覚過敏は「ただ音が過剰にうるさく聞こえるだけ」と安易に捉えられがちですが、問題はそれだけではありません。音に敏感な性質によって日常生活や仕事に支障が出て、悩んでいる方もいるでしょう。

    とはいえ、聴覚過敏の特性は、環境調整や耳の防護グッズの活用など、アイデア次第で大きく軽減できます。原因に応じて、自分がより良く過ごせるにはどうしたらよいかを考えたうえで仕事を選ぶと長期就労が実現しやすくなるはずです。

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    公開日:2024/12/25

    監修者:木田 正輝(きだ まさき)
    パーソルダイバース株式会社 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 担当総責任者
    旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社後、特例子会社・旧インテリジェンス・ベネフィクス(現パーソルダイバース)に出向。採用・定着支援・労務・職域開拓などに従事しながら、心理カウンセラーとしても社員の就労を支援。その後、dodaチャレンジに異動し、キャリアアドバイザー・臨床心理カウンセラーとして個人のお客様の就職・転職支援に従事。キャリアアドバイザー個人としても、200名以上の精神障害者の就職転職支援の実績を有し、精神障害者の採用や雇用をテーマにした講演・研修・大学講義など多数。
  • ■国家資格キャリアコンサルタント
  • ■日本臨床心理カウンセリング協会認定臨床心理カウンセラー/臨床心理療法士
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