場面緘黙症とは?仕事でよくある悩みと自分に合った働き方を見つける方法

場面緘黙症のある人

人前でうまく話せないことに悩みを抱えていませんか。自宅や家族、友人などの親しい間柄だと流暢に話せるのに、仕事などの特定の場面になると話せなくなる場合は「場面緘黙症(ばめんかもくしょう)」かもしれません。

今回の記事では、場面緘黙症とはどのような症状なのかを解説します。仕事中によくある困り事を踏まえた対処法や、おすすめの職種についてもまとめました。うまく話せないことにより仕事で本来の実力が発揮できないと悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

場面緘黙症とは

まず、場面緘黙症の特性や原因および治療法をみていきましょう。

場面緘黙症の特性

場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)とは、特定の条件下でのみ話せなくなる症状のことです。米国精神医学会のDSM-5の不安症およびWHOのICD-10の情緒障害に分類される精神障害の一種であり、ただの恥ずかしがり屋な性格とは異なります。

そもそも「緘黙」には、状況にかかわらず話せない「全緘黙」と、条件によって話せたり話せなくなったりする「選択的緘黙」の2種類があります。場面緘黙症の分類は後者ですが、選択といっても自らの意思でコントロールできるという意味ではありません。

場面緘黙症は、継続した症状により社会生活に支障が出ているかどうかが診断基準となります。なお、発達や言語能力、コミュニケーション力に問題はなく、自宅などの普段から慣れた場所だと普通に話せるケースが大半です。また緘黙症状が出る状況は、学校や職場、特定の個人などさまざまであり、個人差が大きいといわれています。

大人の場面緘黙症について

場面緘黙症は本来、子ども(特に女児)に多い症状です。しかし、まれに大人になっても治らなかったり、年齢を重ねてから発症したりすることもあります。

また場面緘黙症は、その認知度の低さが発見・治療が遅れる一因です。もともと幼少期に発症していたにもかかわらず「物静かな良い子」と誤認され、大人になるまで気づかないまま成長しているケースも少なくありません。

場面緘黙症の原因

場面緘黙症の原因は、まだ明らかにされていません。現時点では、脳の扁桃体の過剰反応や、環境の変化およびつらい経験などのストレスによる強い不安感・恐怖感での自己防衛が要因ではないかといわれています。なお場面緘黙症と親のしつけや育て方との関連性は薄く、生まれつきの気質によるところが大きいというのが通説です。

また、場面緘黙症は発達障害との関連性も指摘されています。発達障害の特性である感覚過敏や認知のゆがみ、言葉の理解の遅れによって、場面緘黙症が引き起こされているケースもあるようです。とはいえ、両者はあくまで併発しやすいというだけであり、場面緘黙症だからといって発達障害があるとは限らない点に注意してください。

場面緘黙症の治し方

場面緘黙症の治療は、精神科や心療内科において、薬物療法や認知行動療法、言語聴覚士によるトレーニングなどが行われるのが一般的です。また近年では、最新の治療法であるTMS(磁気刺激治療)を施す医療機関も増えています。

ただし、場面緘黙症があるとうつ病などの二次障害を併発している場合もあるため、すべて患者に一律の治療が施されるわけではありません。各症状の状態によって、適切な治療法が異なります。いずれにせよ、早期に治療を受けることで、社会生活が支障なく送れるレベルにまで改善できる可能性が高まるでしょう。

チェックリストで確認!仕事での場面緘黙症あるある

慌てる男性

専門的な知識がない方にとって、場面緘黙症とシャイな性格を見分けるのは極めて困難です。以下では、場面緘黙症があると仕事で起こりがちな困り事をリストアップしました。あくまで一つの目安でしかありませんが、自分が場面緘黙症ではないかと疑っている方は、次の項目に当てはまるかどうかチェックしてみてください。

  • 質問されると固まってしまう
  • 一度聞いたことを聞き返せない
  • 書類がなかなか渡せない
  • 会議での意見やプレゼンが難しい
  • 周囲から浮いてしまいがち

質問されると固まってしまう

場面緘黙症があると、上司や同僚、取引先の方から質問されたとき、ひどく緊張して固まったように黙ってしまうケースが多く見受けられます。言葉だけではなく、体まで動かせなくなってしまうことも珍しくありません。質問されただけで体が硬直してしまうと、受け答えもままならず、仕事に差し支えてしまうでしょう。

一度聞いたことを聞き返せない

場面緘黙症がある方は、聞き逃しや理解できなかったことを聞き返すことが苦手です。分からないことがそのままになり、結果的にミスにつながってしまいやすくなります。

書類がなかなか渡せない

場面緘黙症の特性により、上司や同僚に書類を提出しようとしても体がうまく動かなくなってしまい、声がかけられないケースが多々あります。稟議書や重要性の高い書類がなかなか出せないと、業務の進行が滞り、自分も周囲も困ってしまうでしょう。

会議での意見やプレゼンが難しい

会議中に意見を求められても、自分の考えが言葉にできないのも場面緘黙症のある方に多い悩み事の一つです。本当は言いたいことや良いアイデアがあっても、それを周囲にプレゼンできないので評価につながりません。

周囲から浮いてしまいがち

場面緘黙症のある方は、休憩中などの雑談ばかりか、症状がひどいと簡単な挨拶すらままならないので仲良くなれず、職場で浮いた存在になりがちです。ポピュラーな症状ではないことから、周囲から「変わった性格の人」「わざと話さない」などといった誤解を受けてしまうこともよくあります。

場面緘黙症のある方がより良くはたらくための5つのポイント

ここからは、場面緘黙症の特性や困り事を踏まえて、より良くはたらくためにはどのような工夫が必要なのかを考えていきましょう。

特性への自己理解を深める

場面緘黙症とうまく付き合いながらはたらくには、まず自らの特性をきちんと理解することが重要だといえます。どのような状況・条件で症状が出るのかが分かっていれば、事前に対策が立てられるはずです。自分にできること・できないことを具体的にリストアップし、どのようにすれば円滑なコミュニケーションが図れるかを考えてみてください。

とはいえ、できないことをすべてなくす必要はありません。まずはかかりつけの医療機関と相談しながら、状況の整理と把握から取り組んでみることをおすすめします。

コミュニケーションツールを活用する

人前でどうしてもうまく話せないときは、仕事でのコミュニケーションにメールやチャットなどのツールを取り入れてみるとよいでしょう。直に人と話すのは難しくても、文字ならぐっとやり取りしやすくなります。

特に近年は、社内外の連絡にコミュニケーションツールを導入している企業も珍しくありません。リモート勤務も増えているため、コミュニケーションツールを仕事に活用できる場面は多いでしょう。自分で職場に提案しにくい場合は、医師の診断書や意見書があるとスムーズに通る可能性があるので、かかりつけ医に相談してみてはいかがでしょうか。

周囲に症状を開示する

あらかじめ周囲に場面緘黙症があることを開示していれば、適切な「合理的配慮」が得られる可能性が高まります。なお合理的配慮とは、障害などがある人が公平な状況で社会生活を送るための環境調整のことであり、企業・事業所が従業員に提供すべき義務的措置です。

症状の開示は任意ですが、あらかじめ周囲に説明しておくことで、あらぬ誤解を防げます。職場で合理的配慮が得られれば、うまく話せない場面があっても仕事が格段にやりやすくなるはずです。

障害者手帳を取得する

場面緘黙症は、冒頭でも触れた通り不安障害の一種のため、精神障害者保健福祉手帳の交付対象になる可能性があります。障害者手帳を取得するメリットは、次の通りです。

  • 公共料金や税金などが減免される
  • 医療費や生活費などの扶助・貸与がある(自立支援医療制度)
  • 障害者専門の就活サポートや職業訓練が受けられる
  • 障害者雇用枠で就労できるようになる
  • 就労移行支援事業所へ通所できる

障害者手帳は必須ではありませんが、取得することでこれまでより生活が楽になったり、自分に合う仕事が見つかりやすくなったりします。障害者手帳を申請する際は、まずかかりつけ医の診断を受けた後、自治体の障害者支援窓口へ相談してください。

転職を検討する

「現職ではどうしてもうまくコミュニケーションが取れない」「職場からの十分な理解が得られない」という場合は、思い切って転職するのも一つの方法です。場面緘黙症の特性に理解を示し、適切に配慮してくれる職場ではたらくことで、過度なプレッシャーを感じずにはたらけるようになります。

なお、障害者手帳を取得している方が仕事を探す際は、障害者専門の転職・就職エージェントの利用がおすすめです。障害者雇用のプロとしてのノウハウ・伝手を駆使し、より良くはたらける仕事が見つかるようサポートしてもらえます。

場面緘黙症のある方におすすめの仕事

おすすめの仕事

場面緘黙症のある方におすすめなのは、他者とのコミュニケーションそのものがコア業務ではない仕事です。どのような職業でも最低限のコミュニケーションは必要ではあるものの、会話が業務のメインだとプレッシャーが大き過ぎます。

例えば次のような仕事は自分のペースで進めやすく、直接の会話なしでも完結できる業務が多いため、過度な緊張を感じることが少ないでしょう。

  • SE(システムエンジニア)
  • プログラマー
  • Webサイト制作(Webデザイナー、Webライターなど)
  • クリエイティブ職(作家、漫画家、イラストレーターなど)
  • 工場の作業員
  • 清掃・ベッドメイキング
  • 新聞配達・ポスティング
  • 警備員

また上記以外の職種でも、在宅勤務やリモートワークができる仕事なら、場面緘黙症があってもはたらきやすいといえます。ただし、職業適性は人によってさまざまです。上記を参考に、自分が好きなことや興味のあることを基準にして選ぶとよいでしょう。

仕事探しに迷ったときは、転職・就職エージェントなどの仕事探しのプロに相談してみることをおすすめします。

場面緘黙症で障害者雇用枠の仕事を探すなら「dodaチャレンジ」

場面緘黙症があると、コミュニケーションに支障が出ることから、仕事上でもさまざまなトラブルを抱えがちです。職場で挨拶や雑談、上手な受け答えができず、浮いている自分を責めている方もいるでしょう。しかし大人の場面緘黙症は障害の一種であり、性格や意思のせいではないため、自分を責める必要はありません。適性に応じた環境ではたらくことで、自らの実力を十分に発揮して活躍できるはずです。

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公開日:2024/12/25

監修者:木田 正輝(きだ まさき)
パーソルダイバース株式会社 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 担当総責任者
旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社後、特例子会社・旧インテリジェンス・ベネフィクス(現パーソルダイバース)に出向。採用・定着支援・労務・職域開拓などに従事しながら、心理カウンセラーとしても社員の就労を支援。その後、dodaチャレンジに異動し、キャリアアドバイザー・臨床心理カウンセラーとして個人のお客様の就職・転職支援に従事。キャリアアドバイザー個人としても、200名以上の精神障害者の就職転職支援の実績を有し、精神障害者の採用や雇用をテーマにした講演・研修・大学講義など多数。
  • ■国家資格キャリアコンサルタント
  • ■日本臨床心理カウンセリング協会認定臨床心理カウンセラー/臨床心理療法士
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