HSPとは?うつ病との違いや特性に合った仕事探しのポイント
日常で困りごとが多く悩みが絶えないと感じがちで、「もしかして自分はHSPかも」と思っている方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、繊細で感受性が強いために苦労が増えてしまうといわれるHSPについてご紹介します。困りごとの原因やうつ病との違いなど、単純に「繊細さん」といった言葉では片付けられないHSPという特性を、この機会に詳しくご理解いただければと思います。
目次
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)とは?
HSPとは感受性が高く、繊細で敏感な気質の人のこと
HSPは「Highly Sensitive Person」を略した呼び名で、そのまま直訳すると「極端に感覚が鋭い(=感受性の高い)人」という意味です。直訳どおり、HSPの方は外部からの影響を敏感に受けやすく、繊細で疲れやすいという特徴があります。
なおHSPという名称は、アメリカの心理学者エレイン・アーロン氏の自著の中で初めて使用されました。アーロン氏によると「5人に1人はHSPの傾向を持っている」とのことなので、全体の2割の人がHSPの特徴を備えているといえます。
ただ、HSPは病名や障害名、医療用語ではありません。その人がどのような人間なのかを表す言葉です。病気や障害、後天的な原因によるものではなく、個人が生まれつき持っている気質や特性であるとされています。
HSPだから仕方ない?
SNSや書籍などで目にしたHSPの特徴がご自身に当てはまることなどから「自分はHSPかも」と感じている方も少なくないでしょう。しかし、落ち込みやすさや疲れやすさなどの困りごとについて「自分はHSPだから」「生まれつきの性質だから仕方ない」と自己判断で終わらせるのは良くありません。その特性は、HSP以外の要因から発生しているものかもしれないからです。
例えば発達障害や、職場・家庭など周囲の環境から発症する継続的なトラウマ症状など、障害や病気の症状が関連してHSPに似た状態を招いていることもあります。また、HSPの特性と発達障害の両方がある方も珍しくありません。もし病気や障害が主な原因であると分かれば、現在抱えている困りごとを改善する手段が見つかる可能性は高まります。
いずれにせよ専門家の方の診断を仰ぐことで、ご自身の困りごとに対する正しい理解にもつながります。もし日常生活に支障が出ているようであれば、「HSPだから」で片付けずに、専門的なクリニックを受診することをおすすめします。
HSPの特徴
HSPの提唱者であるエレイン・アーロン氏は、HSPの方が持つ特徴を以下のように「DOES」という4つの頭文字で始まる言葉でまとめています。
1. Depth of processing:深く処理をする
すぐ結論づけられる単純な事象に対しても、さまざまなことを深く考えがち
2. Overstimulation:過剰に刺激されやすい
外部からの刺激を過剰に受け取って疲れてしまう
3. Empathy and emotional responsiveness:感情移入しやすい
自分と他者の心理的境界があいまいで、周囲の人の感情まで「自分事」に捉えがち
4. Sensitivity to subtleties:機微な刺激を受けやすい
わずかな光や音、色彩やにおい、触感などに過剰に反応しがち
HSPの人が上記の性質を持つ理由として、脳内で感覚刺激への心理的な対応をつかさどる「扁桃体」という器官が過剰にはたらきがちだからといわれています。刺激に強く反応しすぎるため、それが不安や恐怖につながってしまうのです。
HSS型HSPとは?
HSP傾向のある人全体の約3割程度を占めているといわれるのが、「HSS型HSP」という特徴を持つ人です。これは「High Sensation Seeking」の略称で、「刺激探求型」と訳されます。
HSS型HSPの方の主な特徴は、以下のとおりです。
- 社交的でにぎやかなシーンを好むが、そこで無理をしすぎて疲れてしまう
- 好奇心旺盛で新しいことを積極的に始める反面、飽きも早い
- 困難への挑戦が苦ではないが、その過程で些細な失敗を気にしすぎる
- 誰ともすぐ仲良くなれるが、場合によっては人間関係を長続きさせられない
HSS型ではないHSPの方は、刺激を恐れて行動を避ける傾向があります。一方でHSS型HSPの人は刺激を求めて積極的に行動するものの、人一倍消耗してしまうという特徴を持っています。
HSPとうつ病(精神疾患)・他の障害との違い
HSPには不安の強さなど心理面に強く表れる特徴があるため、うつ病などの精神疾患と混同されがちです。HSPと、うつ病などの精神疾患や精神障害とは、どのような点が異なるのでしょうか。
うつ病との違い
HSPとうつ病は、現れる精神状態に共通点があるため混同されがちです。しかしHSPは心理学上定義された「特性」、うつ病は医学上の「精神疾患」であるという点で、明確な違いがあります。
HSPは「気疲れしやすい」「自己評価が低くなる」など、うつ病とも共通した状態が現れます。しかしHSPが生まれつきの気質・特性である反面、うつ病は人間関係や体調不良などで後天的に罹患する精神の病気です。病気ではないHSPには、薬などでの治療法はありません。またうつ病に罹ったときのように、本人の性格が急に変わってしまうといった症状も現れないとされています。
その他HSPと似ている病気・障害
ASD(自閉スペクトラム症)や適応障害、パニック障害や社交不安障害(あがり症)、そして気分変調性障害などの障害や病気によってHSPに似た症状が現れることがあります。不安や困りごとで生きづらさを感じている場合は自己判断に頼らず、まずは医師の診断を受けましょう。
HSPと上手に向き合うために必要なこと
HSPの特性は上手く向き合うことで楽になります。ここでは、HSPと上手く向き合うために知っておきたいことをご紹介します。
ストレスをため込まず、常に解消するよう心掛ける
HSPは、簡単にいうと「極端に強い心配性」といえます。ストレスが多いと不安も増えるため、ため込まずに都度解消するよう心掛けることが大切です。さまざまなことに敏感でストレスを受けやすい、自己評価が低いなどのHSPの特徴は、放置するとうつ病などの精神疾患を引き起こすこともあります。
ストレスの原因が何なのかを認識してできるだけ遠ざけるよう心掛けるとともに、上手にストレスを解消することが大切です。そのためにもストレス解消法や心を落ち着ける手段を、いくつか見つけてストックしておくことをおすすめします。
異変を感じたら早期受診を行う
HSPの方は、ご自身で気づかないうちに精神疾患を発症していることもあります。日常生活で何らかの異変を感じたら、何より早期受診が重要です。生きることがつらく感じるまでに不安が大きくなってしまったら、精神科や心療内科を早めに受診し、専門医師に相談しましょう。
職場環境の改善が難しければ転職も一つの手段として考える
HSPの方の中には、職場環境にストレスを感じている方もいらっしゃることでしょう。職場環境がご自身に合わないことが原因で、業務スキルや強みを発揮できない状況が続く場合は、転職することも一つの解決策となります。
HSPの方が仕事を続けていく上で知っておきたいこと
HSPの特徴は「強み」もなる
HSPの方の特徴は、ご自身にとってネガティブな要素と感じてしまうことが多いかもしれません。しかし、HSPの特性が仕事をするにあたっての「強み」になることもあります。
まず「細かなことによく気がつき、周囲に適切な気遣いができる」ことは、HSPの方の代表的な長所です。敏感なため周りの人や状況の些細な変化に気づきやすく、それを適切に伝えることで業務や環境の改善がスムーズにできます。
また共感力が高く、周囲の事象を「自分事」に解釈できることや、物事を深く考え抜く能力の高さも、他にない着想や豊かなアイデアの創出につながるでしょう。
HSPの方がはたらきづらいと感じる職場環境
一定の強みがある一方で、HSPの方にとってはたらきにくい職場もやはりあります。まず、「人間関係が良好に保たれていない会社」では不安も多くなり、スキルが十分に発揮できない可能性があるでしょう。
他にも「怒鳴り声を聞く機会が多い職場」や、「体育会系の雰囲気を強要するタイプの会社」も、静かで落ち着いた状況を望むHSPの方には向かないかもしれません。大きな機械がある製造現場や工事現場、駅・線路が近い職場など、「大きな音を聞くことを避けられない場所」ではたらくことも、感覚が過敏なHSPの方には適さない可能性があります。
また「イレギュラーな状況の発生が多い仕事」も、周囲の環境や雰囲気に影響されやすいHSPの方は、ストレスを感じやすくなることが考えられます。
HSPの方がはたらきやすく、能力を発揮できる職場環境とは?
HSPの方がはたらくにあたって良い環境と言えるのは、どのような職場なのでしょうか。
やはり、「人間関係が良い職場」であることがまず大切でしょう。他人の怒りや不安と、自分との関わりを過剰に意識してしまう特性上、人と人とのつながりは円満であるに越したことはありません。
また、環境が頻繁に変わることでも不安要素が増える可能性があります。このため、「転勤や異動など環境の変化が少ない職場」のほうが、落ち着いて業務にあたれるでしょう。この他、「ご自身のペースで得意なことに取り組める職場」であることも、HSPの方のはたらきやすさにつながります。
HSPの方が仕事探しをするためのポイント
繰り返しになりますが、HSPは特性であって疾患ではありません。このため、HSPの特性を必ずしも不利と考えず、長所や強みとしていける状況を選んだり整えたりすることが大切です。
HSPの強みと弱点をしっかり理解し、その上でご自身の特性を活かせる職場環境を選定すると、将来にわたって長く有意義にはたらくことができるでしょう。
HSPの方の中には、長期にわたる不安や困りごとで精神疾患を発症してしまう方もいます。自己評価の低さや居場所のなさを感じ続けてしまうと、適応障害やうつ病、パニック障害、社交不安障害(あがり症)、気分変調性障害などにつながる可能性があるためです。
HSPがきっかけで精神疾患を引き起こしてしまった方や、現在の職場環境で悩みごとが多い方は、職場の変更も一度考えてみてください。
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まとめ
ご自身のHSPの特性を、短所と考えてしまう方は多いかもしれません。しかし生まれ持った感受性の高さは、はたらき方次第で大きな強みとすることができます。
日常の中で心が休まる方法を見つけたり、物理的に外部からの刺激を減らす手段を持ったりして、自身を楽にする方法をとってみてください。仕事や生活に関する環境を選ぶ際には、HSPゆえの困りごとや悩みを感じずに済む工夫を取り入れ、有意義な人生を築いていきましょう。
公開日:2022/4/27
- 監修者:木田 正輝(きだ まさき)
- パーソルダイバース株式会社 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 担当総責任者
- 旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社後、特例子会社・旧インテリジェンス・ベネフィクス(現パーソルダイバース)に出向。採用・定着支援・労務・職域開拓などに従事しながら、心理カウンセラーとしても社員の就労を支援。その後、dodaチャレンジに異動し、キャリアアドバイザー・臨床心理カウンセラーとして個人のお客様の就職・転職支援に従事。キャリアアドバイザー個人としても、200名以上の精神障害者の就職転職支援の実績を有し、精神障害者の採用や雇用をテーマにした講演・研修・大学講義など多数。
- ■国家資格キャリアコンサルタント
- ■日本臨床心理カウンセリング協会認定臨床心理カウンセラー/臨床心理療法士