適応障害とは?原因や症状・向いている仕事選びのポイント
社会生活や家庭生活の中で、ストレスと向き合うことは避けられないものです。誰もが日常でのストレスにその都度適応しながら暮らしていますが、そのバランスが崩れてしまうこともあります。ストレスへの適応がうまくいかない状態が続き、何らかの症状を引き起こしてしまうのが「適応障害」です。
この記事では、適応障害の主な症状や原因、発症した際の対策などをご紹介します。
目次
適応障害はストレスによる精神疾患
まず、適応障害という疾患の概要をご説明し、似た症状が現れることのあるうつ病との違いもご紹介します。
適応障害とは
適応障害とは、ストレスへの適応が困難になることで心身にさまざまな症状をきたしてしまう精神疾患です。米国精神医学会による『DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)』では、以下のような定義がされています。
- 発症の原因として考えられる明確なストレス源(ストレッサー)がある
- ストレスを感じ始めて3ヶ月以内に発症
- 症状によって日常生活に支障が出ている
- 他の精神疾患や近親者の死別によるものではない
適応障害は何らかのストレス源があって発症するものであるため、ストレス源から距離を置き休養を取るなどの方法でストレスを軽減することで、回復が可能とされています。しかし、ストレスを解決できずにいると症状が長期化し、慢性化するおそれもあります。
慢性化によって症状が深刻になると、うつ病など他の精神疾患へ移行してしまうことも。適応障害を発症した場合は回復を最優先し、悪化や再発を防がなければなりません。
ストレスの要因となるもの
ストレスの要因には仕事での失敗や上司からのパワハラ、長時間労働といったトラブルだけでなく、昇進、進学、結婚、本人やパートナーの出産など通常は喜ばしいものとされるようなライフイベントによる環境変化なども挙げられます。
うつ病との違い
適応障害は、身体症状や心理症状として現れます。これらの症状はうつ病でも見られますが、適応障害の症状はストレスの原因が適切に取り除かれることや、休養によって回復が可能とされています。一方で、うつ病には一度発症するとストレスを回避しても回復が困難になりやすい傾向があります。
適応障害の主な症状
適応障害を発症することで、具体的にどのような症状が現れるのでしょうか。ここでは適応障害の主な症状を、身体・心理・行動の3つの側面から見ていきましょう。
【身体症状】
不眠、頭痛、倦怠感(だるさ)、動悸、息苦しさ、手の震え、めまい、発汗 など
【心理的症状】
強い不安、焦燥感、気分の落ち込み、過度の心配性、涙もろくなる など
【行動面での特徴】
遅刻・欠勤、食欲不振、暴飲暴食、危険行動、過度の飲酒 など
日々ストレスの大きさを感じていて、上記のような症状や行動特性を自覚した場合、適応障害の可能性を疑う必要があるかもしれません。
適応障害を発症した場合の対策
適応障害を発症した場合、できるだけ早く回復に向けた対策をとる必要があります。ここでは、適応障害を発症した場合にとりたい対策をご紹介します。
まずは医療機関を受診する
適応障害は、適切な治療を受ければ早期回復が見込めます。上記でご紹介したような症状が出ていて、適応障害やうつ病が疑われるような場合は、できるだけ早く精神科や心療内科を受診しましょう。
ストレスの要因を考える
ご自身のストレスが生活上の何によって引き起こされたかを考えてみましょう。ストレスの要因を知ることで、それに合わせた具体的な対処法を検討できます。
ストレスの要因から離れる
適応障害から回復を図るため、最優先で対処したいのはストレス要因の回避です。職場などの環境が原因なら、仕事を休むなどしてストレス源から距離を置くことが有効です。
ただし、家庭状況や引っ越しなどがストレス要因の場合、ストレス源と距離を置くのが難しいこともあります。ストレスへ正しく適応できるよう、次からご紹介する方法をとってみましょう。
自分のストレス対処法を見つける
ストレスを感じたときにそれをうまく解消できる対処法(コーピング)を用意し、手帳などに書き留めておきましょう。お風呂にのんびり入ることや、好きな本・音楽に浸る時間を作ることなどでかまいません。日常の中で気分転換できることを見つけるのも、ストレスへの有効な対策になります。
周囲へ相談する
ご自身だけで対処することが難しいと感じたら、家族や周囲の人に相談して辛いことを理解してもらいましょう。ストレスの要因が仕事であってもはたらき続けなければいけない場合は、会社に相談して業務の調整を行ってもらうのも手です。
適応障害でも仕事は続けられる?
ストレスの要因が、現在の仕事にあるという方も少なくないでしょう。職場内でも可能な範囲でコミュニケーションをとり、周囲の理解を促したり配慮のお願いをしたり、席替えや業務量の調整してもらうなどすることで、解決の第一歩となる場合もありえます。仕事の中でストレスを感じずに済む状況を作れれば、同じ職場で仕事を続けることができるかもしれません。
しかし、職場で変えることが難しい人間関係や、業務そのものが主なストレス要因の場合は、一度現在の仕事から離れたほうが良いことも多いでしょう。
ストレス要因が職場自体にあり、環境を変えることが難しいのであれば、休職や転職を検討したほうが良いかもしれません。公的な傷病手当金制度や会社の休職制度などを確認し、回復最優先で利用を検討してみてはいかがでしょうか。
適応障害で休職した場合の復職までの流れ
適応障害との原因となるストレスが現在の仕事にあり、休職の選択をした場合は、まずは休養に専念しましょう。考えすぎたり、また別のストレスが重なったりすることで、適応障害はうつ病に移行する恐れがあります。回復までの時間が長引く可能性があるので、できるだけリフレッシュして過ごし、通院は医師の指示のもと継続してください。
まずは医師に相談する
適応障害からの回復が見られれば、医師から「復職可能」という診断書をもらいます。体調以外にも生活習慣が安定し、「復職の許可が下りている」と会社の人事部門に報告することで、復職の手続きが進めることができます。
復職について職場と話し合う
転職ではなく、復職を希望される場合は、元いた部署からの配置転換や、業務量・担当業務を調整してもらうなどの対応を職場と話し合う必要があります。適応障害の原因になったストレスが何なのかをきちんと伝えることが重要です。
必要書類を提出する
必要な人事書類を提出したら、復職後は無理なく徐々に業務に慣れていきましょう。職場によっては、産業医面談がある場合もありますし、ストレスを感じることがあれば、産業医や上司、サポートしてくれている周囲の方に伝えるようにしましょう。
適応障害のある方に向いているはたらき方は?
適切な治療と休養によって適応障害から回復できたとしても、ストレス要因が依然として変わらず存在している職場に戻って勤務することはおすすめできません。適応障害の既往がある方に適したはたらき方の特徴についても、押さえておきましょう。
自分に合っている業務
職場環境が特に問題なくても、業務内容にストレス要因があると適応障害を再発してしまうおそれがあります。ご自身が「気持ちよく仕事できる」「楽しく仕事できる」「自分に合った仕事ができる」と感じられることが大切です。
ルーティン業務
適応障害から回復しても、状況変化が多いなど心身に無理のかかる仕事は避けたほうが良いでしょう。軽作業やデータ入力など、やるべきことや日々の業務量が規則的な仕事は、適応障害の回復後に適しているといえます。
個人を尊重してくれる職場ではたらく
長くはたらき続けるには、ご自身に合う職場を選んで、安心して仕事に就くことが何より得策です。個人の特性に対しても理解があり、尊重してくれる職場が適しているでしょう。
適応障害はストレス要因と距離を起き、適切な治療を受ければ回復できる疾患ですが、再発しやすい点は無視できません。ご自身の特性や、抱えた困りごとを理解してもらえるような職場を見つけましょう。
適応障害のある方の仕事探しをするときのコツ
適応障害になった経験のある方が新しい職場を探す際には、どのような点に注意することが大切なのでしょうか。
自分自身を理解する
「このような状況ではストレスを感じやすいので避けるべき」など、ご自身の取扱説明書のようなものをノートに書き留めたり頭に入れたりしておきましょう。
適応障害を発症したことのある方は、ご自身の特性をよく知り、転職を試みる場合も症状の再発や悪化のおそれの少ない仕事を探すことが大切です。ご自身のストレス要因となりやすいものを知り「自分が適応障害になりやすいこと」を容認できれば、自分に合う仕事探しができるでしょう。
情報収集をする
求人情報や条件をよく確認し、無理のないはたらき方ができる職場探しを心がけましょう。
例えば、通勤手段や通勤時間に無理がないか、また職場環境が自分に合うかなどの要素を重視することもポイントです。また、障害に対して理解がある職場であれば長くはたらき続けられる可能性も高まります。企業のWebサイトなどを見て、採用ページやCSRに関するページなどに障害者雇用に関する記載があるかどうかなどをチェックすると良いでしょう。
就職・転職支援サービスを利用する
職場選びに失敗してしまうと症状が再発したり、悪化したりするおそれがあります。自力での職場探しにとどまらず、就職・転職支援サービスを利用することも有用な手でしょう。
就職・転職支援サービスを利用することで、ご自身の知りたい情報を入手しやすくなるだけでなく、客観的にご自身に適した求人の紹介を受けることもできます。
適応障害のある方が就職・転職する場合に利用できる支援サービス
適応障害を治療中の方や、回復後まもない方などが就職や転職を試みる場合、公的な支援などを利用できる可能性があります。
就労移行支援
就労移行支援とは、65歳未満で一般企業への就職を考えている方に対し、サポートを行う支援サービスです。就職活動の手伝いにとどまらず、ストレスへの対処法の習得や、企業インターンによる適職探しなど、長期就業に向けた支援を受けられます。障害者手帳を持っていなくても利用可能な場合もあるため、主治医や自治体に確認してみると良いでしょう。
ハローワーク
一般の求職者を対象としているイメージの強いハローワークですが、障害のある方向けの「障害者相談窓口」も用意されています。障害に関する知識を持つ担当者のサポートを受けられ、障害者手帳を持っていない方でも相談できます。
転職エージェント
転職エージェントの中には障害がある方の転職活動を支援し、最適な求人を紹介するサービスがあります。自力での職場探しにとどまらず、転職エージェントを利用することで、ご自身の知りたい情報を入手しやすくなるだけでなく、客観的にご自身に適した求人の紹介を受けることができます。
dodaチャレンジは、障害者手帳をお持ちの方や申請中の方に向けた就職・転職エージェントサービスです。適応障害からうつ病などを発症された方などはdodaチャレンジまでご相談ください。必要な障害配慮やご希望をプロの専任担当者が綿密にヒアリングし、適切なアドバイスを行っています。
まとめ
適応障害を経験した方が職場で長くはたらくために大切なのは、発症時と同じ状況になったときにも適切に対処できることです。再発しやすいとされる適応障害だけに、ストレスを感じた際に速やかに対処できる手段が身についていることが重要です。今回ご紹介した対処法のほか、認知行動療法などさまざまな対応策を押さえ、心と体をストレスから守る手段を確保しておきましょう。
- 監修者:木田 正輝(きだ まさき)
- パーソルダイバース株式会社 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 担当総責任者
- 旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社後、特例子会社・旧インテリジェンス・ベネフィクス(現パーソルダイバース)に出向。採用・定着支援・労務・職域開拓などに従事しながら、心理カウンセラーとしても社員の就労を支援。その後、dodaチャレンジに異動し、キャリアアドバイザー・臨床心理カウンセラーとして個人のお客様の就職・転職支援に従事。キャリアアドバイザー個人としても、200名以上の精神障害者の就職転職支援の実績を有し、精神障害者の採用や雇用をテーマにした講演・研修・大学講義など多数。
- ■国家資格キャリアコンサルタント
- ■日本臨床心理カウンセリング協会認定臨床心理カウンセラー/臨床心理療法士