高次脳機能障害がある方の仕事復帰|できないことを踏まえてより良くはたらくコツ
高次脳機能障害は、目に見える特性が少なく、周囲からの理解が得られにくい障害です。障害特性によりできない仕事も多く、就業継続が困難になるケースも珍しくありません。スムーズに仕事へ復帰し、定着するためには、できること・できないことを理解したうえで、自分に合った働き方を見つけることが重要です。
この記事では、高次脳機能障害がある方の仕事復帰における問題点と、就労に欠かせない対応を説明します。向いている仕事の特徴や利用できる就労支援サービスに関する情報も解説しているので、ぜひ最後までお読みください。
目次
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・高次脳機能障害とは
- ・高次脳機能障害の特性と原因
- ・高次脳機能障害の治療
- ・高次脳機能障害の等級
- ・高次脳機能障害があるともらえる給付金
- ・高次脳機能障害があっても仕事復帰できる?
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・高次脳機能障害による仕事上の困り事
- ・業務の手順が正しく覚えられない
- ・指示がうまく理解できない
- ・柔軟な対応ができない
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・高次脳機能障害がある方に向いている仕事
- ・自分のペースで落ち着いて進められる仕事
- ・指示がうまく理解できない
- ・合理的配慮が得られる仕事
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・高次脳機能障害のある方が利用できる就労支援サービス
- ・ハローワークの障害者専門窓口
- ・障害者専門の転職・就職エージェント
- ・高次脳機能障害のある方がはたらきやすい仕事を見つけるなら「dodaチャレンジ」
高次脳機能障害とは
まず、高次脳機能障害とはどのような障害なのかをみていきましょう。
高次脳機能障害の特性と原因
「高次脳機能障害」とは、主に脳の損傷による認知機能の障害の総称です。特性は幅広く、身体・精神・知的に以下のような障害が生じます。
障害の種類 | 特性 |
---|---|
注意障害 | 刺激への反応および注意の持続が難しくなる |
記憶障害 | 新しいことが覚えられなくなる |
遂行機能障害 | 物事の一連の動作が段取りよくできなくなる |
社会的行動障害 | 感情のコントロールや状況に適した行動の選択が困難になる |
高次脳機能障害を引き起こす脳の損傷は、主に脳梗塞やくも膜下出血などの脳血管疾患が原因です。まれに、頭部への外傷や感染症、自己免疫疾患などによっても引き起こされるといわれています。
「令和4年 生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」の結果によると、高次脳機能障害のある方の人数は推計22万7,000人です。障害特性により、多くの方が日常生活や仕事に苦労していると指摘されています。
(※)出典:令和4年生活のしづらさなどに関する調査 (全国在宅障害児・者等実態調査)結果の概要|厚生労働省
高次脳機能障害の治療
現時点で、高次脳機能障害の根治に向けた治療方法はまだ確立されていません。しかし、特性改善のための医学的な訓練によって症状の改善が見込めるといわれています。
リハビリテーションは、発症から早ければ早いほど経過が良い傾向です。またリハビリ後は、環境調整や生活・職業訓練が行われ、徐々に社会復帰を目指します。
高次脳機能障害の等級
高次脳機能障害は「器質性精神障害」として障害者手帳の交付の対象になる場合があります。精神障害者保健福祉手帳の対象となるケースが大半ですが、言語障害がある方のみ身体障害者手帳の交付対象です。
障害の等級は特性の程度によって区分され、精神障害者保健福祉手帳では1〜3級、身体障害者手帳では1〜6級に分類されます。障害者手帳の取得には医師の診断書が必要なので、主治医とよく相談したうえ、自治体の障害者福祉窓口に申請しなければなりません。
高次脳機能障害があるともらえる給付金
高次脳機能障害がある場合、これまでの就業状況や現在の生活状況・収入などに応じて「傷病手当金」や「生活保護」受給の対象になる可能性があります。
また高次脳機能障害の原因となる受傷ののち、1年半以上経過してからも障害が残り、就業に支障がある場合、一定の条件を満たせば「障害年金」の受給の対象です。
そして、初診日から5年以内に当該症状が治ったものの、障害厚生年金が受給できる等級より軽い障害が残ったときは「障害手当金(一時金)」が受け取れます。
なお、各種給付金における等級と障害者手帳での区分は同一ではありません。審査および認定基準がそれぞれ定められているので、自治体の年金事務所に相談してみるとよいでしょう。
高次脳機能障害があっても仕事復帰できる?
高次脳機能障害を発症した場合、まずは治療を優先させるため、1年間程度の休職を要するケースが多いようです。予後が良ければ復職も可能であり、復職率は45%だといわれています。
(※)出典:回復期リハビリテーション病棟での模擬的就労訓練と定着支援を経て復職を達成した脳卒中後高次脳機能障害者の事例|木田 聖吾( 株式会社LITALICO(前所属;イムス板橋リハビリテーション病院))、由利 拓真( 京都大学医学部附属病院)、加藤 早紀子(厚生労働省埼玉労働局ハローワーク所沢)|2022 年1月13日受付、2023年3月8日受理
復職前には、高次脳機能障害による困難とその対処法、はたらきやすい環境などの知識を身に付けなければなりません。仕事とのうまい付き合い方を模索しながら、少しずつ復帰していきます。
ただ高次脳機能障害があると、以前は当たり前のようにできていたことができなくなる場合があります。ストレスに感じるだけではなく、これまでの仕事に支障が出ることもあるでしょう。
どうしても今までの仕事ができないと悩んでいるなら、転職も一つの選択肢だといえます。適切な配慮および支援が受けられる職場に転職すれば、無理のない就業が実現するはずです。
高次脳機能障害による仕事上の困り事
高次脳機能障害があると、仕事上で次のようなことに悩まされる方が少なくありません。
- 業務の手順が正しく覚えられない
- 指示がうまく理解できない
- 柔軟な対応ができない
業務の手順が正しく覚えられない
高次脳機能障害の特性である記憶障害および遂行機能障害により、業務の正しい手順を覚え、効率よくこなすことが難しくなります。作業内容が複雑になるほど、困難の度合いが上がるでしょう。
仕事のやり方を覚えるコツは、情報を視覚化することです。全体の流れや現在の段階を書き出すことで、思考が整理しやすくなります。
また、手順の記憶がどうしても難しいときは、やることをリストアップしてみてください。ToDoリストを作成し、それに沿って仕事を進めるとよいでしょう。
指示がうまく理解できない
高次脳機能障害があると、仕事での指示がスムーズに理解できないことが増えます。これまで難なく理解していたことが分からなくなるのは、高次脳機能障害による注意障害および記憶障害が原因です。物事の速やかな理解と、記憶の定着が困難になります。
指示を理解しやすくするためには、口頭に加え、マニュアルや書面でシンプルに説明してもらうよう配慮を求めるとよいでしょう。また一気にたくさんの情報を列挙すると見落としやすいため、一つこなすごとに指示を出すスタイルが適しています。
柔軟な対応ができない
高次脳機能障害がある方は、感情がうまくコントロールできないため、その場に合わせた柔軟な対応が難しい場合があります。物事の説明がうまくできなかったり、些細なことについカッとなったりすることも多く、思わぬトラブルに発展することもあるでしょう。
何かを説明するときは、口頭のほか文字や図形、イラスト・写真などを活用することで、コミュニケーションが円滑になります。また、接客業をはじめとする対人コミュニケーションが不可欠な仕事は不向きなので、特性によっては配置転換などの配慮を求めることも必要です。
高次脳機能障害がある方に向いている仕事
高次脳機能障害のある方がより良くはたらける環境を見つけたいなら、下記の条件を満たした仕事を探すことをおすすめします。
- 自分のペースで落ち着いて進められる仕事
- 単純作業の多い仕事
- 合理的配慮が得られる仕事
自分のペースで落ち着いて進められる仕事
高次脳機能障害のある方には、無理に急かされず、自分のペースでコツコツと進める仕事が適しています。具体的には、データ入力をはじめとする事務作業全般のほか、Web系技術職など自分でペース配分が決められる仕事がおすすめです。
また、在宅勤務や時短勤務など、自らの特性・体調に合わせてはたらける仕事も向いています。
単純作業の多い仕事
高次脳機能障害のある方に最適なのは、同じことを繰り返す業務や清掃、サポート業務を基本とする軽作業など、指示に従って進める仕事です。
逆に、顧客に応じて臨機応変な対応が求められるサービス業や、自らの判断に重い責任がのしかかる職種は不向きだといえます。覚えることが比較的少なく、単純な作業がメインの業務なら、問題なくはたらけるでしょう。
合理的配慮が得られる仕事
高次脳機能障害のある方が無理なくはたらくためには、職場からの合理的配慮が不可欠です。合理的配慮とは、障害がある方に平等な就業環境を提供するため、特性に合わせて対応、環境調整することを指します。
職場からの的確な合理的配慮を得るためには、自らの障害特性を正しく理解し、周囲に開示したうえで勤務する「オープン就労」ではたらくことが条件です。なお、障害があるからといって、オープン就労が義務だというわけではありません。より良い働き方の実現のための選択肢の一つなので、自らの特性や状態に応じて検討してみてください。
高次脳機能障害のある方が利用できる就労支援サービス
高次脳機能障害のある方が転職・再就職を志す際には、以下の就労支援サービスが利用できます。
- ハローワークの障害者専門窓口
- 障害者専門の転職・就職エージェント
ハローワークの障害者専門窓口
全国各地に設置されているハローワークには、障害者支援を専門とする窓口が設けられています。就職活動に関する全般的なアドバイスが受けられるほか、障害者手帳を取得していれば障害者雇用枠の求人への応募も可能です。また「障害者就業・生活支援センター」や「地域障害者職業センター」などその他の行政機関と連携したサービスを受けることもできます。
ハローワークなどの行政サービスは、誰でも無料での相談が可能です。ただし混み合うことも多いため、事前に問い合わせておくとよいでしょう。
障害者専門の転職・就職エージェント
障害特性に合った仕事を見つけたいなら、障害者専門の転職・就職エージェントの利用をおすすめします。
障害者専門の転職・就職エージェントは、主に障害者手帳を持っている方を対象とする転職支援サービスです。就職および長期就労へ向けて、幅広く手厚いサービスがワンストップで受けられます。また、一般公開されていない非公開求人の紹介や、企業との条件交渉・面接日程の調整なども代行してもらえます。
高次脳機能障害のある方がはたらきやすい仕事を見つけるなら「dodaチャレンジ」
高次脳機能障害のある方が仕事に復帰する際、これまで難なくできていたことが思うようにできなくなり、悩みも増えるかもしれません。とはいえ、自らの障害特性に向き合い、自分に合う仕事を適切な配慮の下で進めることで、気持ちよくはたらけるようになるはずです。
高次脳機能障害を理由に現在の仕事を変えたいと考えているなら「dodaチャレンジ」にご相談ください。非公開求人を含む豊富な求人の中から、専任のキャリアアドバイザーが最適な仕事を提案し、就職活動から定着まで全力でサポートします。ご利用の際は、無料会員登録が必要です。ぜひお気軽にご登録ください。
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転職について不安なことも
障害者雇用の知りたいことも
キャリアドバイザーが親身にお話をうかがいます
公開日:2024/10/30
- 監修者:木田 正輝(きだ まさき)
- パーソルダイバース株式会社 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 担当総責任者
- 旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社後、特例子会社・旧インテリジェンス・ベネフィクス(現パーソルダイバース)に出向。採用・定着支援・労務・職域開拓などに従事しながら、心理カウンセラーとしても社員の就労を支援。その後、dodaチャレンジに異動し、キャリアアドバイザー・臨床心理カウンセラーとして個人のお客様の就職・転職支援に従事。キャリアアドバイザー個人としても、200名以上の精神障害者の就職転職支援の実績を有し、精神障害者の採用や雇用をテーマにした講演・研修・大学講義など多数。
- ■国家資格キャリアコンサルタント
- ■日本臨床心理カウンセリング協会認定臨床心理カウンセラー/臨床心理療法士