座談会

LGBTQ当事者✕障害者✕はたらく
職場のダイバーシティを考える

マイノリティの課題に向き合うことは、マジョリティの課題に向き合うことでもある。
誰もが、はたらきやすい社会へ

今回の座談会には、『元女子高生、パパになる』の著者であり、NPO法人東京レインボーブライド共同代表理事の杉山文野さん、
dodaチャレンジの転職支援サービスを利用しご転職された精神障害がありLGBTQ当事者でもある今将人さん、
そして当社パーソルチャレンジ株式会社のアライ(Ally)コミュニティ「P-Rainbow」メンバーから5名が参加。
LGBTQ当事者や障害者のはたらきやすさとは何か、職場におけるダイバーシティについての考えについてお話いただきました。

ゲストスピーカー

  • 杉山 文野氏

    杉山 文野

    FUMINO SUGIYAMA

    株式会社ニューキャンバス 代表取締役
    NPO法人東京レインボーブライド共同代表理事

  • 今 将人氏

    今 将人

    MASATO IMA

    損害保険ジャパン株式会社
    人事部 人材開発グループ

パーソルチャレンジ株式会社
アライコミュニティ「P-Rainbow」メンバー

  • 並木 崇之

    並木 崇之TAKAYUKI NAMIKIキャリア支援事業部
    首都圏CA マネジャー

  • 記田 良恵

    記田 良恵YOSHIE KIDAキャリア支援事業部
    首都圏CA

  • 木村 勇

    木村 勇ISAMU KIMURA人材紹介事業部
    事業企画グループ

  • 相木 由希絵

    相木 由希絵YUKIE AIKIキャリア支援事業部
    カスタマーサービスグループ

  • 月花 麻紀子

    月花 麻紀子MAKIKO GEKKAキャリア支援事業部
    カスタマーサービスグループ

社会ではたらくことがイメージできない。社会に出るまで迷いや葛藤がありました

並木
就職や転職をするとき、困難なことはありましたか?
私は大学生の頃から、社会に出てはたらく自分が想像できなかったですね。「自分は就職に向いていないかも」と思っていました。そう思うきっかけは、サークルやアルバイトで、男女別で役割を決められたことへの違和感からでした。当時、男子学生は他大学の交流会に参加し、女子学生は給湯室で飲食の用意をすることが慣習になっていたりして。納得できずに理由を聞くと、女性の先輩から「そんなこと言っていると社会不適合者になるよ」という言葉が返ってきました。男女で役割が分かれていることを当たり前に思えないなら、社会に出られない。卒業後の社会でも、きっと男女で区別され、性別での役割を求められるのかと考えると耐えがたく、社会ではたらく自分の姿を思い描けずにいました。
並木
社会に出る前の段階でジェンダー的役割を感じて、就職すること自体が難しいと思われたんですね。杉山さんは、就職に関してはどうでしたか?
杉山
就職する以前に遡りますが、ジェンダーに関する僕の体験から話をしますね。僕は、日本女子大学附属の幼稚園から高校まで通いました。自分で選んだのではなく親が選んだ学校ですが、小学校から高校は女子校でした。今になって女子校で良かったと思うのは、男子がいない女子校は、男女で分けられることがないんですよ。重たい荷物を持とうが、学級委員長だろうが、みんな女子で分担するので、ジェンダーの刷り込みがあまりない環境で育ちました。
一方、僕はフェンシングの選手でしたが、スポーツの世界では常に男女を意識させられました。合宿では女子学生が食事の用意をするなどは当然で、その居心地の悪さと違和感は大きかったです。
座談会の様子1
並木
大学入学後は、何か変化はありましたか?
杉山
最終学歴が「女子大」となることを避けるためにフェンシングの推薦で早稲田大学に進学しました。卒業後のロールモデルがなく、自分はこの先どうやって生きていけばいいのかを考えるとしんどかったです。LGBTであることをオープンにして社会で活躍する大人がまったく見えてこないので、子どもの頃から、将来、自分がどんな大人になるのか想像できませんでした。それは大学に入っても同じでした。「どうやって生きていけばいいんだろう」「女性として年を重ねていく未来はまったく想像ができない」「男性として暮らしていく方法も知らない」「どうやって大人になっていくんだろう」と考えていたのが、学生時代の僕でした。
並木
就職活動はどうされましたか?
杉山
周りの友達が就職活動を始めても、僕は履歴書の「男・女」どちらに丸をすればいいのか困ったり、制服がある会社でははたらけないし・・・と悩んだりして、就活が進みませんでした。今さんと同じように、社会に出ることを遅らそうと、そんなネガティブな理由で大学院進学を考え始めました。
当時、僕はまだマイノリティである自分の社会的な立場についてあまり考えていなかったのですが、教授から「セクシュアル・マイノリティは、社会にはまだ理解されていない厳しい状況にあるから、学術的にマイノリティを学んで理論武装してはどうか」と助言いただいた一言が大きく、大学院に進むことに決めました。その後も自分が社会ではたらくイメージは持てませんでしたが、最後は進路も何も決まらないまま論文だけ書き上げてしまったので、押し出されるように卒業しました。その頃、最初の本『ダブルハッピネス』を出版したので、印税で多少のお金はある、時間もある、だけどやることがない、という状態でした。それなら、「自分探しの旅をしよう」と海外に出て、2年間のバックパッカー生活を送りながら、世界約50ヶ国と南極を回りました。
座談会風景2

オープンにしてはたらくか、
クローズではたらくか

並木
海外から戻られてからはどうされたのですか?
杉山
僕は、トランスジェンダー当事者であることをオープンにしながら、一企業の一社会人として生活することが、ひとつのメッセージになるのではないかと考えていました。やっと就職を決意したのが28歳の時でしたが、新卒でもない、就職したこともない、性別も不明で入れる会社がないんです。いくつか履歴書を送りましたが、受け入れてくれる会社はありませんでした。ウェディング業界なら、これからの社会を見据えて可能性があるのではないかと応募しましたが、返事すらいただけませんでした。その後、トランスジェンダーを理由に一度は不採用となった飲食業界の会社の社長に、知り合い経由で会う機会をいただき拾ってもらいました(笑)。
私の場合、セクシュアリティをオープンにする前に、精神障害について説明するだけで精一杯でした。私は、大学院時代にうつ病を発症し、アルコール依存症にもなりました。30代は治療に専念し、症状が落ち着いてきた40歳のとき、障害者採用枠で就職をしたのですが、企業の面接では、精神障害の特性を話す余裕しかなかったです。
並木
あえてクローズしたわけではなく、障害の特性をオープンにするだけで精一杯だったということですね。
dodaチャレンジには2回、転職支援をしてもらっていますが、1社目の面接では精神障害のみオープンにして応募しました。入社して仕事に慣れてきた頃、ダイバーシティ推進に関心があることを当時の上司に伝えたところ、「今さんはLGBTとかいう人なの?」と聞かれました。業務にプラスになればと思い「はい、そうです」と答えたところ、上司から「そういうことは人に言わない方がいいよ」と言われたんです。この会社ではクローズドでいるしかないと感じ、すぐにキャリアアドバイザーに連絡し「もう1回転職したい!」と相談しました。
並木
今さんのアイデンティティそのものを消されてしまった感じですね。その後、2回目で転職した会社が、現在の損害保険ジャパン株式会社でしたね。
はい、2社目が現職の損害保険ジャパン株式会社です。障害のこともトランスジェンダーであることもオープンにして応募し、現在はダイバーシティ&インクルージョンの推進施策に当たっています。いろいろな人がはたらきやすい会社は、障害があっても、セクシュアルマイノリティであってもはたらきやすいという、私の経験からくる強い信念をもって仕事をしています。
座談会風景3

トランスジェンダーならではの問題とは?

杉山
LGBTQといっても様々で、トランスジェンダーという観点で話をすると、トランスジェンダーには、2種類のカミングアウトがあります。僕で言えば女性として生活していたときに、「これから男性に移行します」という未来のカミングアウト、そして男性として社会生活を送るようになってからは、「昔は女性でした」という過去のカミングアウトです。これがある限り、トランスジェンダーの方が職場で隠し通すことはかなり難しいと感じています。LGBの方は、ご自身がオープンにすることを望まなければ隠し通せることはあるだろし、福利厚生面においてもマニュアル化しやすいかもしれません。
トランスジェンダーが社会生活を送る上で難しいのは、性別の移行期のどの段階なのか、見た目がどの程度変わったのか、戸籍は変えたのか、治療したかなどで、周りの受け入れ方や会社の対応がかなり変わってくるからです。
並木
トランスジェンダーならではの問題、難しさがあるということですね。
杉山
トランスジェンダーの多くは、学校を卒業して、生まれたときに割り当てられた性別で一旦就職をします。何年かはたらいてお金を貯めたら仕事を辞めて、そのタイミングで手術や戸籍変更など性別移行をある程度終えてから次の会社に就職します。同じ会社にはたらき続けながらトランジションするのは難しいですね。戸籍を変えればカミングアウトしなくてもいいのではないか?と言われるかもしれませんが、例えば、僕の場合、胸は切除しましたが子宮は残っているので戸籍は女性のままですし、仮に戸籍が変わっていたとしても履歴書の学歴に日本女子大学附属校と書いた時点で分かってしまいます。つまり、トランスジェンダーは隠し通すことが困難なので、職場の理解が必要です。そもそもLGBも含め、隠し通す必要がない職場づくりが大切なんだと思います。
座談会風景4

「トイレくらい、行きたいときに行かせてくれよ!」

杉山
個人的には、トランス男性の場合は“女子扱い”されなくなり、性別移行前よりはたらきやすくなるケースもあります。例えば、お茶汲み、コピー取りなどといった業務を頼まれなくなったりしますね。僕は、見た目が男性に移行してからは、ジェンダー的には強い立場となり、女性として生活していた時より楽になったと感じました。逆にトランス女性は、女性かつトランスジェンダーというダブルマイノリティとなり、生きづらさ✕生きづらで、よりはたらきづらくなる現実があると思います。
トランスジェンダーはルッキズムの問題もありますよね。
杉山
見た目は大きいですよね。特にトランス女性の場合は発達した骨格を戻すことができないため、トランジションが非常に難しい現実があります。また、僕が男子トイレに入って、仮に元女性と分かったところで周りからとやかく言われることはほぼないのですが、トランス女性の場合は、元々男性であったということに懸念を抱く方もいます。トランスジェンダーに対する理解が進まない現状の中、トイレや更衣室などの利用をどうするか、問題視されてしまうのが現実です。
企業の方からも、トイレはどうしたらいいのか?どんな設備にすればいいのか?レインボー表記をすればいいのか?などとよく聞かれますが、議論されなければ、トランスジェンダーはトイレも行けないんですか?って思ってしまいます。生理現象さえも、議論の対象なんです。
座談会風景5

はたらく人たちの気持ちや価値観といったソフト面をアップデートすることが大切

杉山
ハードよりハート。すぐに制度は変えられなくても、ともにはたらく人たちの知識や気持ちが変わるだけで、乗り越えられることがあります。当事者への理解が進めば企業全体のパフォーマンスも上がるのではないでしょうか。
並木
はたらく社員がマイノリティに対して理解を深め、気持ちやソフト面をアップデートすることで、組織の心理的安全性が高まる話は興味深いですね。
杉山
マイノリティに対して理解できている企業はまだ多くはないので、ポテンシャルが眠っている状態です。つまり、取り組めば生産性が上がるわけですから、僕はポジティブに捉えています。
座談会風景6

自分がLGBT当事者であることは絶対知られてはいけないと思っていました

木村
僕はゲイで、学生のときに自覚しました。在日コリアンなので、学校も朝鮮学校、最初の就職も在日企業でした。狭いコミュティの中で生きていて、自分がLGBTQ当事者であることは絶対知られてはいけないと思っていました。一番苦痛だったのは、結婚について聞かれることでしたが、普段の何気ない会話の中からでも周りに知られてはいけないというのは、本当に大変で辛かったです。それが理由で転職しようと決めました。
杉山
そうですよね。日常のささいな会話でも気を遣う辛さはありますよね。自分のアイデンティティに関わる話ができないので、職場の関係構築にも影響が出ます。
ある企業で、性自認については理解が必要だが、性的指向に関して対応する必要はないのでは?と意見が出ました。では、「ヘテロセクシュアルの社員には認められている慶弔休暇や祝金、お見舞金が、同性パートナーがいる社員にはなく、福利厚生制度も適用されない、そんな会社が誰にでもはたらきやすいですか?」と問いかけたことがあります。私の友人で、実際にセクシュアリティの問題で、日系企業ではなく外資系企業を選んだ人がいました。英語も堪能で、海外勤務を希望する優秀な人でしたが、日系の場合、海外赴任をするには結婚していることを条件にする企業が多いので、外資系に就職したわけです。
並木
就職先や転職先の企業が、LGBTフレンドリーな会社なのかを見極めるのは難しいです。個人で情報を探すのは大変ですし、また入社してみないと分からないでは不安ですよね。
杉山
制度と風土の両方が揃っていることが大切です。制度さえあれば安心ではなく、部署によって環境は違うし、上司によって周りの理解も変わってきます。制度と風土の両輪を回す努力が企業には必要です。
私の会社には23000人ほどの社員がはたらいていて、社員の隅々まで意識を届けるのは難しいと感じています。eラーニングや勉強会で学ぶ機会は多いので知識はあるのですが、自分の周りにLGBT当事者がいないと自分事になりにくいんです。私が社内講師でいるメリットは社員にとってLGBT当事者が身近な存在になることです。「うちの会社にもいた!」となるわけですね。一人一人の意識が変われば風土も変わってくると考えています。
座談会風景7

風土は入社してみないとわからない。だからdodaチャレンジのサポートが心強かった

dodaチャレンジを利用して転職して良かったことは、LGBTを理解しているキャリアアドバイザーに何でも相談できたことです。履歴書の性別欄はどちらを選択すればいいのか、どこまで話したらいいのかなど全てキャリアアドバイザーに相談でき、一緒に考えてくれるので、安心して活動できました。私のアイデンティティを理解した上で、企業を紹介してくれることも心強いです。自分ひとりでは、情報は集められませんから。
並木
そもそも転職が、入社してみないと分からない要素が多いものです。セクシュアリティや障害、ほかにも様々な制約がある人にとっては、さらに未知な部分が多いので、私たちは入社後のフォローも大切にしています。相木さんは、うちの会社に転職してどうですか?
相木
私は一度結婚して子どもがいます。今は同性のパートナーも一緒に3人で暮らしています。前職では、話せる人にだけオープンにする程度でしたので、職場では本当のことが言えない息苦しさがありました。例えばパートナーからもらった指輪をつけていると、「いつ結婚するの?」「まだしないの?」という質問に答えられなかったりと、ちょっとした会話でも傷ついてきました。転職した今では、隠さず自分の話が自然にできるので、心地よいです。
杉山
お子さんがいらっしゃるんですね。きっとパートナーの方とお子様の法的関係はないですよね?
相木
はい、ありません。
杉山
一緒に子育てしていても、パートナーが会社でどこまで子どもの話を共有できているかで安心感が変わってきますよね。もし話していなければ、子どもに何かあったときに駆けつけられるのかといった不安があります。例えばお子さんが怪我をしてしまったとき、すぐにでも駆けつけたいけど会社になんて言おうか、そんなことを考えなければいけない負担は大きいのではないでしょうか。
並木
自分のことだけでなく、パートナーの職場理解も必要ということですね。
杉山
あと、最近よくある話ですが、リモートワークが増えて在宅で仕事している人も多いですよね。オンライン会議で子どもの声が入ったりすると、LGBTQ当事者であることをオープンにしていない場合、プライベートの生活音が聞こえて困る人もいるんですよね。
その子、誰?ってなりますよね。
杉山
その通りです。制度として、パートナーシップ制度からファミリーシップ制度に変わって広がってきていますが、企業としても、子どもを含めた福利厚生を考えていただきたいです。まだ可視化していませんが、LGBTQ当事者の子育ては増えてきているので、今後、職場でも配慮が進むといいですね。
座談会風景8

マイノリティに関する制度化は企業主導が不可欠

杉山
企業の制度も、鶏が先か、卵が先かといった問題があります。企業担当の方は、「社員から声を上げてもらわないとわからない」と言いますし、当事者からすると「会社がやってくれないと言いづらい」となります。双方の立場はわかりますが、やはり企業主導で動いて欲しいです。制度があれば、当事者もカミングアウトしやすくなります。社員のカミングアウトがあって制度化するというのは、個人の負担が大きすぎると思います。
マイノリティへの負担――
杉山
制度を作ったのに誰も言ってこない、制度を作った意味はあったのかと企業から相談を受けることもあります。しかし、当事者にとっては、「言えない」のと「言わない」には大きな違いがあるんです。いつでも言えるという、選択肢が増えた安心感。目に見えないマイノリティに対する制度化はぜひ企業主導でやって欲しいと思います。
並木
当社も企業から同じ質問をよく受けますが、制度をまず作る、そして風土を作っていくことが大事だとお伝えしています。何のために作ったのか、目的を大切にして欲しいですね。
職場にはオープンにしていないけれど、私のところに個人的に相談にくる方もいらっしゃいます。アライのメンバーに相談する方もいます。大切なのは、いろいろなところで相談相手がいることです。それだけで当事者は安心できるものです。

今の上司には理解してもらえそうだけど、次の上司は理解してもらえるかわからない

転勤が多い職場なので、カミングアウトを躊躇する不安はよくあります。私からは、あなたの能力は会社も評価しているので、この先も能力発揮できる環境を作っていきますとお伝えするようにしています。そのメッセージは、私だけでなく、上司や人事部やアライのメンバーからも発信していきます。
並木
目に見えるように発信するといいですよね。まずは人事の方がバッチをつけたり、パソコンにシールを貼ったり、メールの署名に表したりすることで風土は変わっていきます。当社のキャリアアドバイザーである記田はLGBTQ当事者でもありますが、転職支援の際、当事者の方からどんなお話を聞きますか?
記田
ご登録頂いた個人の方からお話をお伺いすると、直属の上司からSOGIハラ(性的指向と性自認に関連したハラスメント)を受けて、それが起因となってうつ病を発症し離職する方が多いんです。私自身も、前職が差別的な発言の多い職場で非常に不快だったことから、ここでははたらけないと考えて転職しました。セクシュアリティや障害だけでなく、それぞれ個人のアイデンティティが制約とならない社会にしていきたいです。
LGBTQ当事者の精神疾患発症率は有意に高いという調査もあります。キャリアアドバイザーの方が、経験も踏まえて共感・理解してくれるというのは大変心強いです!
座談会風景9

風土づくりは、トップがリードしていく!

杉山
力のある人は、正しく力を使って欲しいです。シーソーに例えると、片方にすごく重い人が乗っていて、もう片方に軽い人が乗っていたら傾きますよね。シーソーを真ん中に戻すとき、どこに乗りますか?という話です。よく「平等に」と真ん中に乗る人がいますが、これでは何も変わらないです。弱い立場の人と強い立場の人がいたら、力のある人は弱い立場の人に寄り添ってもらわないと、傾きを変えられないんです。弱きにつく勇気を持ってもらいたいです。本気で風土を変えたいなら、「シーソーのどこに乗るか」を意識してもらえたら企業も社会も変わっていくと思います。
月花
シーソーのお話、まさにそうだなと思いました。私自身、自分が何者か分からないまま生きてきて、おそらく、クィアなんだと思います。父はこうあるべき、母はこうあるべき、娘はこうあるべきという家庭環境で、「普通」を目指して生きてきました。「普通」を目指しているけれど、それは私ではないという葛藤があったので、アライのコミュニティに出会って本当に嬉しかったです。それから、私が体験したことを知らない人に理解してもらうのは正直難しいとも感じています。「あ、そうなんだね」と聞いてくれるだけでいい。職場でも、上司や同僚が、「そうなんだね」とただ聞いてくれる人が一人でも増えたら嬉しいなと思います。
杉山
そうそう。知ったかぶりが一番嫌ですよね。
月花
自分でも説明がつかないことに対して答えを求められるとすごく苦しい。ただただ聞いてくれるだけでいいなと思います。
杉山
どういう人にだったらカミングアウトしやすいですか?と聞かれますが、LGBTQについて詳しい人にだけカミングアウトしやすいわけではないんです。

多様性を受け入れるとは、「ただ話を聞く」だけでいい

杉山
僕は、乾杯のときのビールで考えると分かりやすいと思っています。みんながビールを頼んでいるときに僕がウーロン茶を頼んだとしますよね。ある上司は、「なんだよ、杉山、ビール飲めよ」と言ったとします。もう一人の上司は、「飲みたいウーロン茶でいいよ」と言ったとします。じゃあ、どちらの人にカミングアウトしたいですか?と聞かれたら、僕は後者の上司です。LGBTの知識があるかどうかということよりも、相手の話を聞こうとする姿勢、気持ちが大切だと思うんですね。人を尊重するとか、柔軟なコミュニケーション力といのは、多様な社会で必要なビジネスマナーなのかなと考えています。
月花
シンプルに、話を聞く、でいいですよね。知識をつけようとしたり勉強しなきゃと意気込んだりしなくていいのかなと。
目の前の人が言っていることを「鵜呑みにする」ことが大事だと私は考えています。話を聞いて価値判断をしてほしくないんですね。例えば、相手が「私は同性パートナーがいます」と言ったら、「そうなんだ、OK!」そんなふうに鵜呑みにしてほしいんです。
杉山
「そんなはずはない!」と言う人もいますよね。
そう、います、います!私も外見で、「そうは見えない」と言われることもありますが、今現在そういう外見を選んでいるからであって、性別違和感との葛藤もありますし、身体の一部も手術で変更しています。私はLGBT当事者であり、精神障害者でもあるアイデンティティを強く自認していますが、いろんな人が、はたらきやすい社会にしたいと思っています。男性が育休を長期で取りたいと言えば、OK!と言える会社、社会にしたいです。そのために、私自身もみんなの話を鵜呑みにしていこうと思っています。
並木
LGBTだから、障害があるからではなくて、繋がっているのは、シンプルに相手が何に困っているのか、そのことに対応できる社会でありたいですね。誰もが、いつ障害を発症するかわからないし、セクシュアリティについて考えることがあるかもしれない、自分の大事な人がそうなるかもしれない、誰にでも起こりうることなんですよね。
座談会風景10

マイノリティの課題解決はマジョリティの課題解決にもなる。より良い社会へ。

杉山
当事者、非当事者で考えると表裏一体だと思います。今、当事者じゃなくても、明日当事者になるかもしれないし、一生ならないかもしれない。そんなみんなの課題はみんなで解決していった方がいい。誰もが何かしらのマイノリティだと思うし、マイノリティの課題に向き合うことは、マジョリティの課題に向き合うことでもあります。マイノリティにとって優しい職場、社会というのは、きっとマジョリティにとっても優しいのではないでしょうか。LGBTQに限らず、いろいろな課題に広げて、より良い社会にしていくきっかけになったらいいですね。

公開日:2022/1/20

監修者:杉山 文野(すぎやま ふみの)
株式会社ニューキャンバス 代表取締役 
NPO法人東京レインボーブライド共同代表理事
1981年東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。早稲田大学大学院教育学研究科修士課程終了。2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地で様々な社会問題と向き合う。日本最大のLGBTプライドパレードである特定非営利活動法人東京レインボープライド共同代表理事や、日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。2021年6月から公益社団法人 日本フェンシング協会理事、日本オリンピック委員会(JOC)理事に就任。現在は父として子育てにも奮闘中。

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