1987年、東京大学工学部計数工学科卒業。同年沖電気工業株式会社入社。日本市場におけるTUXEDO事業立ち上げ、X/Open Transaction Processing Working Group主要メンバーやWebLogicTM上のEJBコンポーネント開発など、その他大規模エンタープライズシステムの構築に多数従事。2000年、ウルシステムズ株式会社創業。
後編では、戦略的ITコンサルティングを掲げるウルシステムズの漆原茂社長に、先端的なエンタープライズITを支える組織の話を聞いた。売り上げではなく、付加価値を指標とするマネジメントによって、規模より利益、生産性を重視する風土を作り出しているという。
- ──先端的なエンタープライズITを推進するには専門性が強いエンジニアが必要です。エンジニアのキャリアパスをどのように整えるかが課題になるのではないでしょうか。
- 私たちの会社には、アーキテクト、プロジェクトマネージャ、データモデラー、業務分析屋、ギークエンジニア等、たくさんの専門家集団で構成されています。年収1000万円以上のエンジニアもゴロゴロいます。
- ITエンジニアの進路というと、何となくプログラマからプロマネになり、部長になって数字とライン管理、あるいは営業、みたいな流れがありますが、専門性を追求したいプロが望む道とは違ってしまいます。エンジニアを全うできる道があってもいいじゃないですか。一生アーキテクトとか、一生プロマネとか。これからはより一層「個」が輝く時代になっていくことでしょう。
- 私たちの会社には、ちょうど60歳を迎えた現役プログラマがいるんです。大変優秀で、今日もお客様の最前線でバリバリに活躍しています。こうしたエンジニアのキャリアのモデルケースを作りたいと思っています。
- ──先端的なITをやりたいという考え方と、システム会社として利益を追求することの間に、軋轢はないんですか。ウルシステムズはどういう指標で経営しているんでしょう。
- 売り上げ優先の会社では、先端的なIT「だけ」を手がけることは無理でしょう。「売り上げ目標を達成しろ」となった瞬間に、やりたい仕事より規模が重要になる。売り上げ目標を作ると、営業が先走りして案件受注を優先して、開発体制が崩れていく。どんどん質が悪くなる。会社規模が大きくなるほど、おかしくなります。だから利益率は低いし人も育たない。
- 顧客満足を謳いながら社内で「売り上げ数字」を目標にすると、どうしても矛盾します。だから私たちには、売り上げ目標がありません。代わりに「付加価値」を全社統一の目標にしています。これは、売り上げから仕入れコストを引いたものです。1億円受注して、9000万円をパートナー企業に外注したら、付加価値は1000万円に下がります。だから付加価値を目標にすると、いたずらな売り上げ肥大化が防げるんです。大きな案件でも自分たちの価値が出せない仕事はやってはいけません。高い価値を提供できる仕事を評価する。売り上げよりも中身です。無謀と感じるかもしれませんが、当社はそれで健全に経営できていますし、しっかりと利益成長も実現しています。
- ──連結決算から売上高営業利益率に注目すると、2012年3月期で6.3%、2013年3月期で12.7%、2014年3月期で13.2%と数字が年々良くなっています。
- それはあくまで結果ですね。私たちの会社には、兼務もありません。1人1案件に100%アサインが原則。現場のアサインができない限り提案もしない。だから営業が暴走できない。そのかわり、提案するからには自信ある必勝体制で臨めるようになります。質が上がり顧客の評価も上がります。
- 顧客満足が高く、価値の高いチームが正当に評価される。こういう経営にすると、チームがどんどん濃くなります。濃いチームのまま、絶対に薄めないことが肝心です。また付加価値目標を全社で共有していますから、他部署でトラブルが起きたときに放置するようなことはありません。別の部署を積極的に助けられる人間だけをマネジャーにしています。だからトラブルが非常に少なく、お客様と揉めることも極めて少ない。
- 会社の価値観に沿った経営目標を掲げ、品質と提供価値重視のリソース配分を徹底しています。結果、売り上げは自然に伸びますし、現場の士気も高く利益成長も実現できているんだと思います。
- ──クラウドDWH(データウェアハウス)の「White-eYe」を提供していますが、これはどういう経緯だったのですか。
- 本来は、こういうサービスはイケてる情報システム部が内製すべきものですが、それを待っていられないので作りました。必要性が見えているのに、誰も提供しない、ベンダーも作ってこない、だったら自分たちで出そうと。
- メインフレーム時代のDWH(データウェアハウス)は、2~3年で5億円かかる世界でした。それがクラウドDWHだと初期コスト数百万~数千万円でできてしまう。性能も桁違いに良い。二桁安くて納期はたった数か月。これはもう、後戻りできません。
- こうしたミッシングピースは、日本の業務ITにたくさんあります。今後はクラウドベースのエンタープライズ向けサービスがどんどん出てくるのではないでしょうか。
- ──次のサービスの構想も?
- 詳細内容は明かせませんが、たくさんネタはあります。リアルタイムデータ処理が浸透して、オンラインの世界はどんどん変わっていきます。以前はRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)で作っていた堅いシステムを、これからはNoSQLで柔らかく作れる。すべての処理を厳密なトランザクション処理として同期させる必要があったかというと、実はないんですよ。完全な同期を取らなくてもいい。そして、それを実現できる技術が目の前にある。インメモリーを更に高速化するような技術なども独自に開発しています。どうぞ期待していて下さい。
- ──最新技術の見極めで工夫はありますか?
- もちろん必ずPoC(Proof of Concept、試行による検証)はやります。それから製品技術を作った本人と直接話すことを徹底しています。オープンソースの場合は自分たちでソースを見ます。知らないまま、自信を持って使えるはずがない。海外の製品技術者を招いた社内勉強会も頻繁に開催しています。
- 技術動向の検証は、私自身の仕事でもあります。シリコンバレーにいい“ダチ”がいっぱいいますから。いわゆる“オタクネットワーク”ですね。技術屋だから話してくれることはいっぱいある。当社には技術屋が社長をやっている強みがあります。
- エンタープライズITのイノベーションの多くは、シリコンバレーのベンチャーから出てくる。だから大手だけでなくスタートアップ企業の動向も細かくチェックしています。彼らがこれから何をやってくるか、考えただけでもわくわくします。
- 例えばクラウド型DWHサービスのWhite-eYeで活用しているAmazon Redshiftも元々はベンチャーが開発したものですし、BIツールのTableauもスタンフォード発のベンチャーです。知人の知人が開発したものばかりです。コアとなるテクノロジーはかなり狭い世界で開発されているんです。幸いにもその中にたくさん知り合いも友人もいる。こうしたエンジニア人脈は私の宝です。エンジニアが目を輝かせて活躍する世界、心から素晴らしいと思います。日本でも必ず実現させてみせます。
漆原茂氏出演のschooオンライン講座!
テーマ:「Geekのための経営論~現場のエンジニアだから、経営を変えられる~」
2015年2月10日(火)に、オンライン学習サービス「schoo WEB-campus」doda公式チャンネルにて
当記事に基づいた授業をオンライン生放送で行いました。
今回のテーマをさらに深掘り、エンタープライズITのこれからとエンジニアのキャリアに迫りました。
録画授業をこちらから観覧することができます。
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