転職・求人dodaエンジニア モノづくり/トップ > ビルをぶら下げる?水に浮く建物?世界最先端、地震で揺れない技術の世界 - 清水建設株式会社 - 未来を変える“尖り”技術

未来を変える“尖り”技術

清水建設株式会社

清水建設株式会社

ビルをぶら下げる?水に浮く建物?
世界最先端、地震で揺れない技術の世界

掲載日:2013.06.17

中村 豊 氏
清水建設株式会社
技術研究所 上席研究員
なかむら・ゆたか。1984年、京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、清水建設株式会社に入社。1992年、米国カリフォルニア大学バークレー校土木工学科修士課程を修了。1997年、京都大学より博士号(工学)を取得。清水建設株入社後は、技術研究所に配属され、地震による建物の揺れを小さくし、人命・財産・事業を守るための免震構造、制震構造に関する研究開発に従事。2001年、粘弾性体を利用した制震ダンパーの開発で日本材料学会技術賞を受賞。現在は、海外への技術展開を担当する。

東日本大震災以降、地震に対する日本人の意識は根本的に変わったといっていい。日本に住む限り、地震を免れることはほぼないのだ。そこで住宅やビルの耐震化が急速に進んでいるわけだが、さらに建物のみならず建物の中も守る免震技術への関心も高まっている。その一つが塔頂免震だ。「やじろべえ免震」とも呼ばれ、中心の支柱から建物全体をつり下げ、やじろべえのように振動に対して建物がバランスをとることで振動を吸収するシステムである。この塔頂免震技術の開発コンソーシアムに参画した清水建設株式会社 技術研究所上席研究員の中村豊氏に最新の免震技術について話を聞いた。

ゆっくりと建物を動かす免震技術

一般人には「免震技術」と「耐震技術」の区別もつかないだろう。中村氏によれば、それは全然別の技術ということだった。

「法律によって、日本の建物はすべて耐震構造が義務付けられています。地震が起きても壊れない、倒壊しない建物にしなさいということですね。だから日本では住宅もオフィスも耐震構造ですが、建物は壊れなくても室内の被害は起こります。建物自体も壁が壊れるなど傷みは生じます。しかし、例えばオフィスビルであれば『地震があっても室内の被害を最小限に止め、事業を中断なく進めたい』というニーズがあり、免震技術が開発されました」

1980年代に研究が始まり、1983年に初めての免震建物が建ち、95年の阪神・淡路大震災を機に普及した。最近では一般のマンションなどでも免震構造を採用したものが増えている。現在、普及している免震構造は建物と地面の間に免震装置を設置し、免震装置の上に建物を載せる形式のものである。

「免震装置は建物の固有周期を長くして、あえてゆっくりと揺れるようにする働きをします。地震の周期の短い激しい揺れに対して、建物の固有周期を長くすることで揺れを小さくすることができます。一般的に免震の周期が長ければ長いほど免震効果が高いことになります」

地震の周期の短い揺れが建物に伝わりにくくなるように、免震装置が建物の周期を変えて、ゆっくりと長いものへと変更させている。そうすることで建物の揺れを小さくし、建物内部への被害を最小限に食い止めるわけだ。

「免震装置として広く使われているのは積層ゴムです」

積層ゴムは鋼板とゴムシートを交互に積み重ねて作られている。基礎の上に積層ゴムを敷いて建物を載せる、あるいは低層階の柱の上に積層ゴムを置いてから建物を載せる方法が免震構造の基本形式となっている。

逆転の発想!塔頂免震

積層ゴムの上に建物を載せるのが免震の基本である。その発想を完全に逆転させ、通常であれば建物の下にある免震装置を屋上へ持って行き、そこから建物をぶら下げたのが塔頂免震だ。

「建物の中心となる“コア”から建物をつり下げる構造です。地上から建っているのは鉄筋コンクリート造のコアシャフトだけで、そこから居室部分がつり下げられています」

建造物をワイヤーなどでつり下げる技術自体は、つり橋や大空間施設の屋根などでも使われている既存の技術である。しかし、免震装置を屋上に上げることは、思いがけない困難を伴った。

「つり下げられている居室部分が、地震の際、『やじろべえの腕』のように一体となって動くことが求められます。当然、従来のように単純に水平に設置した積層ゴムではこのような動きを可能にすることができません」

また、免震装置が載るコアシャフトの頂部は、地震の際に単純な水平方向の揺れに加えて弧を描いて揺れるため、この揺れが免震装置を通して伝わらないようにする必要があった。

「そこで積層ゴムを二段にし、傾斜をつけることで問題を解決しました」

積層ゴムをすり鉢状に傾けて上下(逆向きに)2段配置することで、「やじろべえ」の動きを可能にすると同時に、コアシャフトの揺れを絶縁するわけだ。さらに積層ゴム設置の傾斜角度を変えることで、「やじろべえ」の揺れの周期を自由に変更することができる。従来の積層ゴムを単純に水平に設置する免震構造では、周期を変更するためには積層ゴムの硬さや大きさなどを変える必要があった。塔頂免震構造は、積層ゴム自体の仕様を変えることなく、傾斜角度を調整することによって容易に周期を変更できる。

「一般的な住宅から20階ぐらいの建築物まで利用可能だろうと考えられます」

塔頂免震構造には、建築デザイン上のメリットもある。通常の建物の場合、柱で建物の重さを支えなければならないため、その強度を確保するために柱は太くする必要がある。塔頂免震構造の場合、つり下げられている居室部分の支柱(ロッド)は、通常の柱とは全く逆で引っ張る力に耐えられればよいため、鋼棒を使って柱を非常に細くできる。

「まるで柱がないかのような、透明感のあるデザインができます。居室部分の下部は支える柱の占有スペースがなくなるため、利用できる空間が広くなります」

横から見た塔頂免震構造は、木のような形をしている。コアの周囲には柱がないため、オープンな空間ができる。イベントスペースや広場などに使ったり、線路や保存建築物など既存の建築物の上に建物を作ることができる。

塔頂免震の建築「安全安震館」

清水建設は、第一工房の建築家・高橋靗一氏、東京工業大学の和田章氏、竹内徹氏、オーヴ・アラップ・ジャパンの彦根茂氏らとコンソーシアムを組成して技術を開発、2006年に清水建設技術研究所の一角に「安全安震館」を完成させた。中央のコアからぶら下がった建物という見慣れないデザインは、塔頂免震の発想の新しさを伝えるには十分なインパクトがある。

地震が来るとコアと吊り下げられている居室部分の間に変形が生じるため、コアの周りの床は電車の連結部分と同様に、スライドする構造になっている。

「『安全安震館』では固有周期を5秒に設定しています。塔頂免震構造では、積層ゴムの傾斜角の調整によって、5秒という免震建物としては非常に長い固有周期を実現できました」

コアと周囲の建物部分の間にはオイルダンパーが設けられている。オイルダンパーは、地震の際に、揺れのエネルギーを吸収する働きをする。

「居室部はつっているため、強風に対する揺れを抑えることが必要でした。地震の際に機能するオイルダンパーを使って、強風時の揺れも抑えられないかを考えました」

そのため、ロック機能を持つ特殊なオイルダンパーを開発した。普段はロックされた状態で居室部が揺れないようにしているが、地震を感知すると同時にロックは自動的に外れて居室部が免震されるようにする。

「コアの中には階段、トイレ、設備配管などを設置して、スペースを有効に活かしています」


地震国家日本を守る最新の免震技術

免震構造の場合、耐震構造と比べて初期の建設コストが一般に5~7%程度上がるとされている。しかし、地震時の高い安全性、資産価値の保全、優れた事業継続性などから、地震の多い日本では免震構造の普及が進むと思われる。まだ開発課題もある。

「現在の免震構造は横揺れにしか効果がありません。地震には縦揺れもあります。そこで三次元の揺れに対応できるように、積層ゴムに加えて、縦方向の振動を電車の車両などで使われている空気バネの大型版を使って絶とうという技術も開発しています」

三次元免震構造は、東京・阿佐ヶ谷のマンションに実際に導入されているのだそうだ。

「パーシャルフロート免震構造は、地面に造ったピット部内に水を張り、積層ゴムの上に載った建物の地下部分を水に沈める構造になっています。そこで浮力が発生します。船と同じです。建物の重量の半分を水で支えるため、積層ゴムへの負荷を半分にし、積層ゴムの数を減らし、長周期化できるメリットがあります」

南海トラフ地震の発生が危惧され、地震対策が急がれている。清水建設の開発した最新の免震構造が利用されることで、被害を防ぎ、地震に強い街づくりが実現するのだ。

COMPANY INFO

清水建設株式会社

設立
1937年(1804年創業)
本社所在地
〒104-8370 東京都中央区京橋2-16-1
事業内容
建築・土木等建設工事の請負(総合建設業)
dodaエージェントサービス 「世の中に価値あるものを残したい」そう考えるエンジニアの方へ。能力を発揮する舞台探しを、専任のキャリアアドバイザーがサポートします。 エージェントサービスに申し込む【無料】 「転職のプロに相談」dodaエージェントサービスとは?
【合格診断】建築・プラントの大手・優良企業への合格可能性を無料一括診断

エージェントサービスに申し込む(無料)

モノづくり業界・建築・土木業界に精通した専任のキャリアアドバイザーが、エンジニアの転職活動を無料でバックアップします。

イベント情報

転職のプロに相談できる dodaエンジニア個別相談会

インタビュー、コラム

未来を変える“尖り”技術

未来を変える“尖り”技術

先端技術が社会に提供する新しい価値とは

インフラストラクチャーの未来

インフラストラクチャーの未来

インフォグラフィックで読み解くこれからの社会インフラ

モノづくりエンジニアのキャリアづくり

モノづくりエンジニアのキャリアづくり

電気・機械系 設計・開発技術者のための転職コラム

建築業界専任キャリアアドバイザーが語る!技術者マッチングプロジェクト

技術者マッチング
プロジェクト

建築業界専任キャリアアドバイザーが語る!

最新の求人動向・転職事例などをタイムリーにお届け!化学系エンジニアの転職最前線

化学系エンジニアの転職最前線

最新の求人動向・転職事例などをタイムリーにお届け!

メールマガジン無料配信

簡単登録で最新の転職情報、
希望の求人が届く