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ベンチャーキャピタリストが語る、
最新のスタートアップ事情
インキュベイトファンド 代表パートナー・村田 祐介氏
[概要]
「スタートアップで築くキャリア ~起業する道 幹部として参画する道~」と題したイベントが2016年8月6日に行われました。
当日は4部構成で、第1部はインキュベイトファンドの村田氏による「最新のスタートアップ事情」と題して最近のスタートアップ動向を解説。
第2部はSansan寺田氏、ウェルスナビ柴山氏、ietty 小川氏によるパネルディスカッションを実施。「大企業出身起業家はこうして起業した」というテーマで、大企業出身者が起業するメリットや企業後のギャップを語りました。第3部はパーソルキャリア岩田氏による「キャリアとしてのスタートアップという選択肢」というテーマでスタートアップへの転職事情を解説。
そして第4部はベータカタリスト春田氏、メルカリ小泉氏、Sansan田中氏が「参画するスタートアップは経営者のここを見て決める」をテーマにしたパネルディスカッションを実施し、それぞれの参画のきっかけを語りました。今回はその中から、第1部の村田氏の「ベンチャーキャピタリストが語る、最新のスタートアップ事情」の講演模様をレポートします。
※第2部~第4部の講演レポートは後日公開予定です。
[profile]
村田祐介 インキュベイトファンド 代表パートナー
1980年生まれ。1999年、エンタープライズソフトベンダーに創業参画。2003年、エヌ・アイ・エフベンチャーズ株式会社(現:大和企業投資)に入社。ファンド組成管理業務などに従事し、約70億円のポートフォリオ(※1)を担当。2010年、インキュベイトファンドを設立し、代表パートナー就任。主なイグジット(※2)実績に、株式会社Aiming(IPO)、株式会社gumi(IPO)、エフルート株式会社(M&A)、マイトラックス株式会社(M&A)、株式会社イストピカ(M&A)、株式会社ポケラボ(M&A)、株式会社パワーテクノロジー(M&A)、プレイハート株式会社(M&A)など。
※1 ポートフォリオ:投資先の内訳のこと、または投資先一覧
※2 イグジット:ベンチャービジネスなどにおいて、創業者やベンチャーキャピタルなどが株式を売却し、利益を手にすること
スタートアップ事情最前線
現在のスタートアップの資金調達環境
ここ2~3年の間で、スタートアップへの注目が非常に高まっています。この状況を踏まえ、今日はベンチャーキャピタリストの目線から、昨今のスタートアップを取り巻く環境や市場の動きについて解説します。
昨年2015年に、ベンチャーキャピタルによって国内で新規に組成されたファンドの総額は、約2,000億円に上ります。また、2015年の単年度で、スタートアップに総額約1,500億円の資金調達が行われ、さらに細かく見ると、スタートアップの上位25社に全体の半分近い600億円ほどが投資されています。今年2016年は、第一四半期、第二四半期を合わせて、すでに2,000億円以上の新規ファンド組成がなされ、年間では、およそ3,000億円強に達すると予想されます。
これまでの動向を振り返ると、ファンドの組成額、スタートアップへの資金調達とも、2008年のリーマンショックを機に一度は落ち込みましたが、その後2012年を境にどちらも金額が右肩上がりに伸びています。それに比例して、スタートアップにおける人材のニーズも今後大きく高まっていくことが考えられます。
スタートアップの注目市場とその背景
近年のスタートアップを取り巻く環境に目を向けると、変化の軸として大きく次の4つが挙げられます。
1.既存産業への本質的なネット接続
既存産業下の大企業によるインターネット活用はこれまでeコマースやプロモーションなどにおいてのみ推進されてきましたが、ここ数年、産業構造そのものの中にインターネットが組み込まれていく動きが起きています。例えば自動車の分野で言うと、自動運転技術の開発や、自動車そのものにOSが搭載される動きが挙げられます。このように、特定の産業にネイティブな形でネットに紐づいたサービスが、今後のイノベーションの主戦場になると考えられます。
2.業界慣習に関わる負の構造
例えば金融や不動産など、それぞれの産業ごとに長年にわたる業界慣習が根づいています。
不動産業界で言ったら、不動産の売り買が成立した際に、仲介業者が売り手と買い手の双方から手数料を徴収する「両手取引」などがあります。その存在が、スタートアップの成長やイノベーションを妨げる要因となってきた現状があります。こうした負の構造を、時代に即して見直そうという動きが出ています。
3.法制度の変化
2.とも関連しますが、ここ2~3年の間に、スタートアップにまつわる法制度の変化が顕著に起きています。経済産業省が主体となって、規制ではなく緩和の方向性で、新しいサービスのための法律作りが進んでいます。
4.アメリカのスタートアップ動向
アメリカ、さらに言えばシリコンバレーで生まれたサービスが一気に拡大し日本で普及していくというタイムマシン型のケースも、これまでと同様に引き続き変化の1つとして注目されています。
これらの変化を受けて、従来からのインターネット系のサービスを展開しているスタートアップに加えて、特定の産業に根づいたハイテクノロジーなスタートアップへの投資が一気に拡大しています。特にわれわれが注目しているは次の4つの領域です。
○FinTech(金融とITを組み合わせた技術を用いたサービス)
WealthNavi(ウェルスナビ)
高度な金融サービスを自動化し、機会が投資運用を行ってくれるロボットアドバイザーと言われる分野でサービスを展開。機械がアルゴリズムに基づいて自動で資産を運用する。
bitFlyer(ビットフライヤー)
仮想通貨・ビットコインの取引所としてサービスを展開しており、規模は国内最大。
代表の加納裕三氏は、2017年施行予定の仮想通貨法の成立準備にも精力的に関わる。
○Digital Health(医療とITを組み合わせた技術を用いたサービス)
MEDLEY(メドレー)
大きく4つの医療にまつわる事業を展開する中で、最も注力している領域は「遠隔診療」。
代表2名のうち1名は医師で、エンジニアと医療従事者とがタッグを組んでいる点が特色。
minacolor(ミナカラ)
これまでまったくインターネットが活用されていない領域だった、処方薬を家庭にデリバリーするサービスを展開。処方薬の市場規模は6.5兆円にも上る。
○Real Estate Tech(不動産とITを組み合わせた技術を用いたサービス)
ietty(イエッティ)
オンラインの賃貸物件仲介サービスを提供。利用者が希望条件を登録すると、不動産仲介業者が利用者に情報をレコメンドしていく仕組み。国土交通省は不動産ネット取引の解禁に向けた社会実験を実施中で、同社はその採択企業の1社に選ばれている。
マンションマーケット
マンション売却サービスを提供。先ほど述べたように不動産の売買においてはこれまで、売り手と買い手の双方から手数料を徴収する「両手取引」と呼ばれる慣習が横行していた。この負の構造を解消し、売り手と買い手をCtoCでマッチングするサービスを提供している。
SQUEEZE(スクイーズ)
ホームシェア(民泊)やホテルなどの宿泊施設・物件の運営をサポート。リネン交換やクリーニングなどのサービスをクラウドソーシングで提供する。
○Frontier Tech(全く新しい製品や技術を展開しているサービス)
ispace(アイスペース)
月面探査ローバーの開発に取り組み、宇宙資源開発を目指しているスタートアップ。Googleが主催する月面探査の国際レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加しているチーム「HAKUTO」のメンバーでもある。
Pixie Dust Technologies,(ピクシーダストテクノロジーズ)
超音波スピーカーを使った音響浮揚技術「Pixie Dust」を開発。特定の場所に特定の音を届けられる指向性スピーカーとしても注目を集める。
キーワードは既存産業×ネットへの接続
スタートアップに求められる人材
先ほども申し上げたように、スタートアップにおける人材のニーズが今後大きく高まっていくことが考えられます。
それを踏まえて、ここからはどのような人材がスタートアップに求められているのかをお伝えします。
領域を問わず、スタートアップで求められる人材像として私は次の3つを挙げたいと思います。
1つ目は「アントレプレナーシップ」。自らが起業家精神を持って物事に取り組める人です。
2つ目は「成長志向」。会社や組織の仕組みがまだ整っていない状況の中でも、能動的かつアグレッシブに
自分を成長させていく姿勢が重要になります。
そして3つ目は「変化耐性」。スタートアップの環境は変化がつきもので、朝令暮改も当たり前の世界。
そうしたさまざまな変化に柔軟に対応できる力が不可欠です。
加えて、特定の産業に根づいたサービスを提供するスタートアップが大きく伸びているなかで、既存産業で経験を積んできた人材が活躍できる状況が生まれています。例えばこれまで金融業界出身の人が管理系のポジションでスタートアップに入ることは少なからずありましたが、最近はそれにとどまらず、金融業界での経験を活かしてフロントサイドの人材としてスタートアップに移る例も多くなっています。業界の「負の構造」についての知識や経験も含めて、特定の産業に根づいた専門的スキルやエンジニアリングスタイルが、これまで以上に求められる状況になってきていると言えます。
そうした既存業界出身の人材とインターネット系人材とを、両方含めたチーム作りをしようとするスタートアップが増えています。特に、先ほど挙げた4つの注目領域では「ネット系人材×既存産業人材」というチーム構成が、サービスを拡大していく上での非常に重要な要因になっています。
このようにスタートアップにおいて、既存産業での経験や大手企業での経験を持つ人材へのニーズがかつてないほど高まっています。スタートアップへの転職に関心をお持ちの方はぜひ、このチャンスを活かして新たな環境に飛び込んでいただければと思います。
<学びのポイント>
最新のスタートアップ注目市場とその背景
既存の産業のIT化と法の規制緩和の影響で、特定の産業に紐づいたサービスが、今後のイノベーションの主戦場になる。
注目市場は、FinTech/Digital Health/Real Estate Tech/Frontier Tech の4つの領域
スタートアップで活躍できる人材像とは?
アントレプレナーシップを持ち、変化に柔軟に対応しながら能動的に自らを成長させられる能力が必要不可欠に。
既存の産業とネットを掛け合わせて考えることができる人材が今後必要とされる。
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