スマートフォン版で表示

現在、お知らせはありません。

転職・求人doda(デューダ)トップ > dodaイベント情報(転職イベント・転職セミナー) > キャリアセミナーアーカイブ >  はやぶさプロジェクトマネージャー川口淳一郎氏が語る!できる理由こそがイノベーションを生む
このエントリーをはてなブックマークに追加

doda Career seminar archive

キャリアーセミナーアーカイブ

“dodaキャリアセミナー アーカイブ”とは、
キャリアを考えるヒントやスキルアップに
つながる情報・ノウハウなどを発信する
イベントのレポートです。
あなたの明日のキャリアにつながる
情報・ノウハウをお届けします。

すべての方におすすめ!

はやぶさプロジェクトマネージャ
川口淳一郎氏が語る!
できる理由こそがイノベーションを生む

はやぶさプロジェクトマネージャ
川口 淳一郎氏

[概要]

今、世界的に大きな広がりを見せている宇宙ビジネス。その将来性ややりがい、求められる人物像などを考えるセミナーが、2017年1月21日に開催されました。前半の基調講演では、「はやぶさ」のプロジェクトマネージャを務めた川口淳一郎氏や、内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 参事官補佐の畑田康二郎氏が登壇。宇宙ビジネスの今と未来について語りました。ここではその中から、川口氏の講演の模様をダイジェストでレポートします。

[profile]

川口 淳一郎(かわぐち・じゅんいちろう)氏/はやぶさプロジェクトマネージャー

宇宙工学者、工学博士。1978年に京都大学工学部卒業後、東京大学大学院工学系研究科航空学専攻博士課程を修了。旧文部省宇宙科学研究所に助手として着任、2000年に教授に就任。現在、独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(ISAS/JAXA)宇宙飛翔工学研究系教授、2011年8月より、シニアフェローを務める。
ハレー彗星探査機「さきがけ」、工学実験衛星「ひてん」、火星探査機「のぞみ」などのミッションに携わり、小惑星探査機「はやぶさ」では、プロジェクトマネージャを務めた。
宇宙の迷子になったと思われていた「はやぶさ」が2010年に奇跡の生還を果たした際には、川口氏も一躍“時の人”となった。
※シニアフェロー・・・JAXAの研究開発業務の重要な事項に参画する研究者

世界との差に直面しながらも日本の匠の技に誇り

私は宇宙開発において日本と世界にはさまざまな面で差があると思いますが、日本の技術の中には匠の技が発揮されていると常々思っています。
日本と欧米の宇宙開発の予算に目を向けてみると、そこには大きな開きがあります。JAXAの年間予算は、NASA(米航空宇宙局)の10分の1にも及びません。しかしながら、この限られた資金や人員のもとで日本の宇宙開発の技術力が発揮されてきたのです。

例えば2016年9月、NASAは小惑星探査機「OSIRIS-REx」を打ち上げました。この探査機は「NASA版はやぶさ」と呼びたくなるほど、形がそっくりです。はやぶさの打ち上げが2003年だったので、日本は実に13年も先行したことになり、その事実に私は誇りを感じています。一方、ヨーロッパでは2014年11月、探査機「ロゼッタ」から着陸機「フィラエ」を彗星に軟着陸させました。実はフィラエにはエンジンがないので着陸というより落下に近いのですが、はやぶさはイオンエンジンを搭載し着陸しています。ここでも私は日本の匠の技を再確認しました。

今だから冷静に振り返れる出来事もあります。はやぶさが最終試験中だった2001年、NASAは探査機「NEARシューメーカー」を小惑星エロスに着陸させました。この探査機はもともと着陸用には設計されておらず、着陸しても観測する装置を持たないのに、それでも強行着陸させたのは、「世界で初めて小惑星に着陸した探査機」の座を勝ち取るためでしょう。当時、はやぶさはまだ打ち上がる前で、言ってみれば、私たちが入学式を迎える前に、NASAに卒業を見せつけられたようなもの。非常にショックでしたね。しかし、その後2005年、はやぶさはイトカワへの着陸、そして離陸を果たし、世界で初めて地球圏以外の天体から離陸した探査機となりました。ようやく日本の技術が世界に認められた瞬間でもありました。

一方で宇宙開発において日本はまだ入門者だと気づかされたこともあります。はやぶさは3億キロ離れた場所から通信速度8kbpsで通信を行いました。一方、NASAの冥王星探査機「ニュー・ホライズン」は、はるか木星の距離から38kbpsで通信したのです。仮に同じ場所から私たちの技術で通信したならば、2kbpsとなり、実に20倍近い開きがあります。日本はまだまだ世界水準から遠く離れた存在であることを痛感しながら歩んできたことも事実なのです。

「はやぶさ」当時のプロジェクトを振り返る川口氏

「ロケットで宇宙へ」と思い込むなかれ

では、どうすれば日本が宇宙開発において世界との差を埋められるのでしょうか。私自身がそのために大事だと思うことをお伝えさせていただきますと、まず思い込みを捨てることでしょう。世の中の多くの人が当然だと思っていることが、実は思い込みに過ぎないということは往々にしてあります。例えば、「宇宙へはロケットで出かけるものだ」と考える人が大多数ではないでしょうか。しかし、それも思い込みに過ぎません。そもそもロケットは、理にかなった乗り物とは言えません。ロケットには、酸素のない宇宙で燃料を燃やすための酸化剤が大量に積み込まれています。そして打ち上げた後、燃焼を終えたエンジンを1段目、2段目と切り離していくのですが、実は、その時点ではまだ周りの大気中に酸素はたくさんあります。つまり、わざわざ持って行かなくても済むものを多く抱えて飛ぶ「古代の乗り物」とも呼べるのです。

数十年後の未来では、ロケットと飛行機の境目はなくなり、スペースプレーンの時代が到来することでしょう。「今見えているものはみんな過去のもの」。これは私の上司の一人である故・長友信人教授の言葉です。中国の古典にも「智者は未し萌に見る」とあるように、ものごとが形になって表れてくる前に、次にやることを見定められてこそ智者の証だと言えます。見えていない未来を探す挑戦こそが必要なのです。

宇宙開発においては、先人の業績にとらわれ過ぎないことも大切だと私は考えます。確かに先人は、日本の技術を世界に出しても恥ずかしくないレベルにまで引き上げました。しかし先人を敬うあまり、後に続く人たちがその延長線上だけを歩んでいては、進化はありません。大切なのはイノベーションを起こすこと、つまり世界に向かってオリジナリティを発揮し、技術を創造し、未踏の理学成果を手にしていくことです。先人の成果を伸ばすも落とすも、今の現役世代が既存を打破できるかどうかにかかっています。

予算においてNASAと10倍もの差がある圧倒的な劣勢の中で、創造力を発揮してイノベーションを図るには、叡智(えいち)を結集した戦略が必要です。例えば、実験機を先行させて投資効果を引き出し、リスクを埋めていくことも有効でしょう。わが国の宇宙開発の歴史とは、この「限られた資金」と「期待される成果」とのギャップとを、いかに埋めるかに試行錯誤してきた歴史でもあるのです。

会場には大勢の方が来場し熱気に包まれました

新たなページをめくることで初めて、より広い世界が見える

「完璧主義」というのは、イノベーションを生む上では余計なものだと私は思っています。「見ているページを100%理解してから次のページに移ろう」と考える人は多いのですが、たとえ理解が不十分だとしても次のページをめくった方が良いのです。不安はあるかもしれませんが、ページをめくらないでいることの方がよほどリスクは高いと言えます。新たなページを開くことで初めて、より広い世界を見ることができるのです。

宇宙開発は常に新しいことへの挑戦であり、興味は尽きません。私自身も新たな挑戦を続けていて、超小型衛星に搭載できる無毒で低価格の推進装置の開発など、さまざまなプロジェクトに携わっています。自著にも記しましたが、私の持論の一つは「せんべいの耳は残さなくてはならない」。せんべいの型に生地を流し込み、挟んで焼くと、生地がはみ出して「耳」ができます。この部分を無駄だと考えて生地の量を減らしてしまうと、型いっぱいに生地は広がらず、肝心の中身が縮小してしまいます。無駄を省くことや、成功の確実性に重きを置いていては、こぢんまりとした進展しか描けず、イノベーションは決して生まれません。耳を残すくらいの気持ちが必要なのです。

日本人は「できること」や「知っていること」だけを選びがちですが、たとえ知らないことであっても「できる理由」を自分で見つけて、自信を持って取り組んでいく姿勢が、若い人にこそ必要だと思います。「できないかもしれないから、やらない」ではなく、「できるかもしれないから、やってみる」。行動に移さない限り、決して成果は得られません。型をはみ出す勢いで、臆することなく挑戦を重ねてほしいと期待しています。

「できるかもしれないから、やってみる。」熱く語る川口氏

<学びのポイント>

・宇宙開発において日本の限られた資金・人的リソースの中でイノベーションを生むためには固定概念や思い込みにとらわれない自由な発想が重要。

・目の前のものを100%理解できていなくても、次のページをめくり、より広い世界を見る勇気がチャンスになる。

・宇宙開発は常に新しいことへの挑戦。知らないことであっても「できる理由」を見つけて新しいことに取り組むことがイノベーションにつながる。

宇宙ビジネスに携わることができる求人はこちら
宇宙に関連する求人特集
キャリアのヒントや転職ノウハウを習得できるイベント情報はこちら
dodaのイベント情報を見る
このエントリーをはてなブックマークに追加