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反抗と挫折の連続からつかんだキャリア。モーリー・ロバートソンのパンクな半生

反抗と挫折の連続からつかんだキャリア。モーリー・ロバートソンのパンクな半生

後編:2023.4.16(日)放送回
モーリー・ロバートソンさん
タレント、ミュージシャン、国際ジャーナリスト

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今回のゲストは前回に引き続きタレント、ミュージシャン、国際ジャーナリストとして活躍するモーリー・ロバートソンさんです。前回は不良扱いから東大・ハーバード大合格を果たした破天荒な青春時代について伺いましたが、今回は東大入学後から芸能活動に至るまでのエピソードです。パンクなモーリーさんは、東大入学後も波乱だらけ! 現在の仕事に対する姿勢などもたっぷり語っていただきました。

  • モーリー・ロバートソンさん

    モーリー・ロバートソン モーリー・ロバートソン 国際ジャーナリスト、ミュージシャン、コメンテーター、DJといった多岐な分野で活躍。 日米双方の教育を受け、1981年に東京大学とハーバード大学に同時合格する。

  • 高須光聖さん

    高須光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
    中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。

東大中退→ミュージシャンデビュー→ハーバード入学。失望続きの半年間

高須:東大に行かれたんでしたっけ?

モーリー:東大に入学しました。でも新入生歓迎コンパとかに行って新入生と話してみると、みんな裕福な家庭の子ばかりで。

高須:イメージが違い過ぎると。

モーリー:特に燃える情熱を持って何かやってやろうとしているような子はいなかったですね。

高須:その中でも高校時代みたいに自分らしくしようとはしなかったんですか?

モーリー:都会はやっぱりでかすぎて。駒場の東大キャンパスに行くときに渋谷を通過するんですけど、渋谷が大きすぎて怖くなっちゃった。

高須:いや、ちょっと待ってくださいよ。そこを怖がる人がハーバードに行かないですよ?

モーリー:萎縮しちゃったんだよね。ちょっと。

高須:マジですか(笑)。

モーリー:入学したころスカウトされて、ソニーミュージックからデビューしました。

高須:当時のソニーでデビューってすごいですよ。

モーリー:すごいんですよ、ソニーのスタジオ。PCM録音っていう最新の機材を使っていた。

高須:PCM録音?

モーリー:正式にはパルスコードモジュレーションっていうソニーとフィリップスが共同開発した最初のデジタル録音で、ソニーでも大瀧詠一さんしか使えなかった。

ディレクターに「モーリー、知ってるか? 普通の録音にはノイズが入るのに、これはノイズが入らないんだ」ってクラシックの録音を聞かせてもらって感動しました。そんなキラキラな世界を見たら、東大に戻るわけないから。

高須:「もうやめた」となったと。

モーリー:「俺はもう芸能人だ」なんて言って行かなくなった。それで8月にアルバムをリリースしたんだけど、そのタイミングでプロダクションに入るよう言われて広報の方たちと会ったんですよ。ところが「ハーフだから、アイドルとして芸能活動をしてください」って言われたんです。

高須:パンクミュージシャンではなくタレントとして活動しろと。

モーリー:ぼくが作ったパンクのデモテープを聴いて「こういうのは売れないな」って言われた。

高須:でもみんながアイドルとして売ろうとした気持ちはなんとなく分かります。ぼく写真見ましたけど、昔のモーリーさんかわいいんですよね。

モーリー:でしょう? 今見てもかわいいと思う。でも自分としてはハーフの顔がかわいいからアイドルとして売るなんて信じられなかった。それであらがっちゃったんですよ。「俺は自分のやりたいことをやる。プロダクションにも入らない。ソニーから出てるアルバムを俺が一人で手売りする」って。

高須:何言ってんですか、また…。

モーリー:もちろん売れるわけないですよね。それで8月の終わりころまで1カ月頑張ったけど、しんどくなって。9月までにアメリカに戻ればアメリカの大学に行けるって聞いたから、「じゃあこの状況から脱出だ!」ってハーバードに入学することにしました。

高須:ぎりぎりで(笑)。

モーリー:でもハーバードに行けばなんとかなるだろうと思っていたら大間違いだったっていう第2幕が始まるんだけどね。

訓練のような論文漬けの日々に挫折。論文から逃れるため映像研究の道へ

高須:ハーバードってとんでもないですか? 世界中のすごい人たちが集まっているじゃないですか。

モーリー:厳しすぎて日本の受験どころの話ではないんですよ。メンタルをやられる人が続出なの。1学期にすべての人が、まるで知的なブートキャンプのように論文を書かされるから。

高須:知的なね。

モーリー:本物のブートキャンプだったら多分合格してたと思う。ところが知的なブートキャンプは、弁護士のように資料をどっさり持ってきて議論を組み立てる。まるで国会討論みたいなことをやるんです。

高須:うわー、毎日やるんですか?

モーリー:週に2回はやっていましたね。それ以外の日にも別の課題があって、締め切りを過ぎると減点されるんです。ぼくはどんどん減点されて、これ以上減点になると今学期をやり直させるという警告ハガキが来ました。そこでリセットすればよかったんですけど、「東大とハーバードに合格してソニーからデビューしたんだぞ!」っていうプライドがあってできなかった。本当に情けない話だけど、「元アイドル」っていう過去にしがみついたの。

高須:なるほど、逆に。

モーリー:日本のスカした若者みたいに「こんな下世話な議論に俺を巻き込むな」なんて言って、ちゃんと勉強をしなかったの。落ち込んでブツブツと大和魂や侍スピリットを語っていたら、聞いてくれる人がだんだんいなくなって。唯一聞いてくれていたもの好きな彼女にも、最後には「モーリー、あなたは変わる勇気を持たなきゃダメ」と言われました。

高須:うわー、きましたねー。いよいよ。

モーリー:そんな状態が何年も続きましたね。でも紆余曲折している間に、電子音楽とアニメーションしか研究しなくていいっていう道を見つけたんです。なぜその道を見つけたかというと、論文を書きたくないから

高須:なるほど(笑)。

モーリー:学位論文って、普通は100ページぐらい書かなきゃいけないんですよ。でもぼくの学位論文は一切文字がないんです。映像なんです。論文を書くぐらいだったらゼロから勉強してストップモーションアニメを作ったほうがまだいいと思って逃げ切ったの。

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モーリー・ロバートソンさんのキャリアの転機|ハーバード卒業も無職に。背水の陣で日本に帰国してつかんだ芸能活動への道

高須:モーリーさんのキャリアにおける一番大きな転機はなんですか?

モーリー:おそらくハーバードを卒業した後の時期ですね。途中で3年休みながらも7年かけてやっと卒業したけど、今度は就職しなきゃいけないじゃないですか。

高須:世界中どこに行っても「ハーバードを卒業した人間ですよ」と言えば通用しますよね。

モーリー:学士号も取ったし、通用すると思うじゃないですか。でも、ぼくにはマーケットに売れるスキルが何もなかったんです。アメリカの中高校生の多くは、夏休みの間にテニスコートのボールを追いかけたりプールでライフガードをやったりして大人になっていくんですよ。あとバーガーキングやマクドナルドで毎週働くとか。

高須:なんかアメリカっぽいなぁ。

モーリー:でもぼくはバイト経験ゼロなんですよね。そうすると使えないって言われて、どこにも採用されず実家に戻っちゃった。

高須:また戻って(笑)。

モーリー:ハーバード卒業から半年近く、メリーランド州の郊外にあった実家でぶらぶらしてました。合気道クラブとかヨガ教室に通ったりスピリチュアルをやったりもしていたけど、それって全然仕事につながらないですよね。

高須:でもそれが転機なんですよね? そうやって逃げていい方向に行ったということですか?

モーリー:そんな日々を過ごす中で、スキルがなくてもできる公務員バイトをやったんです。一番時給が低くて、美術館で立っているだけのバイトがあったんですよ。これを3カ月やったけど、頑張っても無気力にならざるを得なかった。だって生活費にもならないくらい時給が低いし、立っているだけで何もステップアップできなかったから。

高須:ステップアップはできないですよね。

モーリー:お客さんが絵に触れようとするのを「触れないでください」って止めるだけの仕事を1日7時間とかやっているわけです。そんなことをやっていたら、「こんな状態で一生過ごしたらどうなる?」って危機感がふつふつと沸き起こったんです。それがきっかけで日本語で本を書き始めて、日本の出版社が見つかったので日本に戻りました。1991年のことかな。「今度こそは絶対何か獲物を仕留めないと俺はまずい」なんて思っていました。

高須:やっと本気になったんですね(笑)。

モーリー:それで日本に来て、NHKの英語の音楽番組で流す字幕を作るバイトをやったんです。ある日同僚の女性の一人があるフレーズに行き詰まって「これは冗談なのかしら?」って聞いてきたんです。ぼくにはそれがアメリカのネタだって分かったから、日本語のダジャレに書きかえたの。

高須:なるほどね。

モーリー:それを見た上司が「お前はすごい」って言い出し、勝手にJ-WAVEに紹介されたんです。漢字の原稿を見せられて日本語を読めるかと聞かれたから、「読めます。ちなみにこの漢字間違っているかもしれないんで書き直しますね」って言ったら驚かれて。それで番組を持つことになったんだよね。だから背水の陣で日本に帰ってきたことが転機かな。

高須:転機といえば転機ですよね。どん底にいましたからね。

モーリー:どこからも声がかからない状態から収入源ができたんですよ。生まれて初めてまとまったお金が口座に振り込まれて「なんだこの金額は」と驚きました。

仕事のマイルール|好きなことともうかることは違う。仕事のポイントは理想と現実のさじ加減

高須:生きていく上で仕事のマイルールみたいなものはありますか?

モーリー:昔はお金じゃなくて、「報酬が0円だとしても本当にやりたいことをやる」と思って情熱を集中させてたんだけど。

高須:パンクだ。

モーリー:その後逆に、お金だけになった(笑)。

高須:なるほど(笑)。

モーリー:『ハーバード白熱教室』という番組をやっていたサンデル教授の著書の中に「成功している人は才能や道徳心があるから成功しているんじゃなくて、たまたま市場ニーズに自分の持っている個性が合致しただけだ。あなたと同じぐらいの才能があってたまたまタイミングがずれた人はいくらでもいるから、自分が人より頑張ったから成功したと思うんじゃない」といった叱責の言葉があるんです。それがすごく心に残っていて。自分が好きなことと一番もうかることは食い違うものだと今は思っているんです。

高須:分かるなぁ。

モーリー:やりたいことにどこまで寄り添って現実路線にできるかというところが重要かな。テレビの世界でも承認欲求のために出演している方もいるように感じるけど、「承認欲求」と「稼ぐというプロフェッショナリズム」を冷静に分けるかどうかは本当に紙一重なんですよね。だから今はそこを意識しているかな。と言いつつ、魅力的なオファーを受けておだてられたら乗るかもね。

高須:ドラマの依頼とかが来たらやるでしょ? 実は今までに何本も出られてるんですよね? すごいですよね。

モーリー:そうですね。秋になったら俳優になっているかも(笑)。今は誰にもおだてられていないからいいんだけど、「今言ったこの言葉、覚えとけよ」って自分に言いたいですね。

高須:でも、もしかするとまたアメリカに行っている可能性もありますよ。この順番で行くと、そろそろ。

モーリー:本当に何が起きるか分からないですよね。だからもう受け入れるしかないんじゃない? 自分でコントロールできることとできないことがあるということを知っているし。

高須:今日はいろんな話を聞きましたね。ありがとうございました。

モーリー:ありがとうございました。

――モーリー・ロバートソンさんのパンクな人生のお話、いかがでしたか?次回のゲストは放送作家の樋口卓治さんです。お楽しみに!

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