放送作家の高須光聖がゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
今回のゲストは、前回に引き続き放送作家の樋口卓治さんです。主にバラエティの放送作家として活動してきた二人ですが、最近は仕事が変化してきたそう。放送作家以外にも多方面で活躍する二人が、仕事をシフトすることや複数の仕事を持つ魅力について語り合いました。現在の仕事に対する姿勢などもたっぷり語っていただきました。
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樋口卓治(ひぐち・たくじ) 放送作家、小説家、脚本家。
放送作家として『笑っていいとも!』など多数担当。小説『危険なふたり』を2023年4月に発売された。 -
高須光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。
離婚もネタに。自身の思いや体験を誰かの言動として表現できるのが小説の魅力
高須:せっかくの機会だから、樋口君とぼくの出会いについても話してみようかな。初めて会ったのは作家温泉※?
※高須さん主催の放送作家が集まる温泉旅行の会のこと。
樋口:作家温泉の前に一度あいさつしていますね。放送作家の駐車スペースになっていたTBSの坂道で、高須さんがマリオカートみたいな車に乗っていたんですよ。
高須:マリオカート(笑)。インドの車やね。
樋口:そうそう。そこで降りてくるのを待ってあいさつしたのが多分最初です。
高須:えーっ! そうやったっけ? 俺、態度悪くなかった?
樋口:いや全然。
高須:そうだよね。意外と感じのいい高須で売っていたから。
樋口:不思議な車に乗っているなぁとは思いましたけど(笑)。
高須:いじることはせずにね(笑)。
樋口:「屋根ないんですか?」って言おうと思ったけど(笑)。
高須:関西弁でまくられてもいややしね。それで放送作家10人くらいで温泉旅館に行ってね。
樋口:今から20年くらい前ですね。
高須:とんでもない温泉旅行だったけどね。
樋口:まだ裸になるのがギリ許されるみたいなころね。
高須:いやすごかったよね。
樋口:そのころのノリで番組を作れていた時代でしたね。
高須:「あの番組どうなってるの?」「あれ面白いね」とかいろんなこと言いながらね。
樋口:似ていることにすごく敏感になっていた時代でしたね。絶対パクっちゃいけないみたいな。
高須:「あれ絶対パクってるよな」とか言っていたもんね。樋口君はいつもどこから物語を考えているの? 言葉から入るか、人物から入るか、シーンから入るか。
樋口:ぼくの場合は主人公に問題が起きて、それをいかに解決するかを考えていきますね。
高須:俺はシーンなのよ。面白いシーンや絵が一枚あって、そこからストーリーを考えていく。樋口君は確かに、主人公が窮地に立たされて成長していく、もしくは発見する喜びにたどり着くみたいな感じになるよね。
樋口:ホームドラマの脚本家が奥さんに離婚を突きつけられるとか。そういう「世間体が悪い」みたいなところから始まるのが面白い。
高須:好きそうやな。分かるわ。これ言っていいのかな? 樋口君自身が離婚しているよね。
樋口:その経験も小説のネタにしています。
高須:離婚をきっかけに家族の話を書こうと思ったのかなと勝手に想像していたんだけど。家族だけでなく自分についても振り返ることが多かっただろうし。
樋口:家族のことを一通り書いて、次に離婚の話も書いて。さらに離婚の話がドラマになって、初めて脚本を書くことになったという感じです。ケンカ別れしなかったんですよね。いまだに家族全員がLINEでつながっているし、半年に1回みんなで食事にも行きます。全員バラバラに帰るからすごい切ないですけど。
高須:すごいね。思ったことや体験したことを小説に書きこむほう?
樋口:それを誰かに言わせたり、やらせたりできるのが小説だと思っています。エッセイは自分の思ったことを自分の言葉で書くから、どうしても着飾ったりするじゃないですか。小説は自分の言葉じゃないから、頭にきたことでもセリフに書けますよね。そういう意味では客観性があるからいいかもしれない。
お話を考えるのが楽しい。キャリアシフト期に感じる新たな充実感
樋口:高須さんも小説を書かれたらどうですか?
高須:いや、俺はいいや。俺、樋口君に昔言われた「とりあえず1日1行でもいいから書き足そう」って言葉を実践しようとしているんだけど、その1行ですら止まることがあるからね。「無理。もういいや」って。
樋口:でもぼくもバラエティの仕事をちょっと休ませてもらったり整理したりしたことで集中できたから、今回の小説を書けたんだと思います。
高須:バラエティの仕事はもう減らしていくの?
樋口:やっぱりテレビをちゃんと見ていないとできない仕事だし、企画を持ち帰って1週間ずっと考えちゃうこともあるし。それがちょっと今の自分には無理じゃないかなと思いまして…。
高須:じゃあドラマや小説にシフトしていく感じ?
樋口:そっちに興味が湧いてきています。
高須:しんどくない?
樋口:楽しいですよ。脚本家としてまだ4年目だし。
高須:俺はしんどいなぁ。いややな。
樋口:そうですか?
高須:異常な飽き性でもあるから。ノッているときはずっと書けるけど「何がおもろいねん、これ?」なんて思いだしたらもうやりたくなくなるんだよね。逃げるように頭が違う企画を考え出す。試験勉強をやっていると部屋の掃除をしたくなるみたいな感じで。
樋口:でも企画ってそういうことですもんね。前に高須さんがおっしゃっていた、「番組が企画じゃない。日常が企画に思える」っていうのはすごいですよね。
高須:地上波はチャンネル数や時間が決まっているからね。決まった番組の枠内で企画を考えるよりは、世の中が面白くなるような企画をやりたくなる。
樋口:この街を興そうとか?
高須:「この企業はあれをやったらいいのにな」とか「こんなものがあればいいのにな」といったことを日常のいろんなところから考えるようになって。そういうことをやらせてもらったり、それを実現できる人に会わせてもらったりするように、今ちょっと自分をシフトしている。そうするとテレビもあんまり苦なくやれるんだよね。
樋口:いい感じで行ったり来たりができるということですよね。
高須:そう。「テレビでものを作るって楽しいな」ってもう一回思えるのよね。面白いおもしろいって言われたらやっぱりうれしいなぁと思うようになった。
樋口:放送作家一本だと味わえないかもしれないですね。
高須:ずっとテレビだけをやっていると体がなじめないけど、そういうものがあると逆にテレビが楽しく見えてくるよね。
樋口:3行ぐらいでお話を考えることを“ログライン”って言うらしいんですけど、ぼくも最近はそんなものばかり考えています。なんかそっちのほうが楽しくなってきて。
高須:そうやって書いたものって、どこかで発表しているの? それとも個人的に書きためているの?
樋口:何かのときに見返そうと思って書きためています。ほかの人が書いた小説の一文もメモっているんですよ。「うまいこと書くな、なこの人」なんて思いながら。小説を書くときは、それをヒントにして書いています。
高須:今の1週間のバランスってどんな感じなの?
樋口:午前中でテレビの仕事を全部終わらせて、昼から夕方にかけて小説を書いたり映画を見たり脚本のプロットを作ったりしています。昔は放送作家として2週間で2本作っていたじゃないですか。そのサイクルじゃ全然なくなっちゃいましたね。レギュラー何本って感覚じゃないんですよね。長い間おもちゃをいじっているような感じです。
キャリアの転機|ダメ出しの連続が興奮するほど楽しかった。監督との交流で変わった小説家・脚本家としての意識
高須:樋口君の中でのキャリアの転機ってなに?
樋口:2018年に初めて脚本を書いたときですね。自分の書いた小説がドラマ化されるときに脚本を書いたんです。監督が『桐島、部活やめるってよ』を撮った吉田大八さんだったんですが、主演のリリー・フランキーさんとは何度かお仕事をされていたようで。二人の間で「(大八さんは)人が書いた脚本で一回撮ってみたほうがいいよ」という話になったらしく、リリーさんがぼくを紹介してくれたんです。
それで脚本を書いてみたらすごく楽に書けて。案外楽だなと思いながら監督に見せたんですが、「やるからには自分のやりたい方向でやりたいんで、これ書き直してくれないか?」って言われたんです。
高須:え?
樋口:あれ? リリーさんの話と違うなと思ったんですけど(笑)。それで「家に例えるならどれぐらい建て直し(書き直し)ですか?」って聞いたら「残るのはドアノブぐらいだな」と言われたんですよ。それで書き直すことになって。
高須:ええ!? ドアノブって言われたら、今回の仕事やめようかなと俺なら思うけどな。
樋口:書き直しては「ここをもうちょっとこうダイナミックにしてください」って言われるようなやりとりを何回も何回もしたんですが、それが興奮するくらい楽しかったんですよ。
高須:えー!? いや、ちょっと…。
樋口:チーフ作家になるとそんな経験もうないじゃないですか。
高須:いや、チーフ作家とかの問題じゃなくて、そのやりとりがいややわ。すごいね!
樋口:でも大八さんはそれぐらい良い映画を作っている人だから、そこで学べるのは絶対得だと思って。
高須:やっぱり納得することが多かったの?
樋口:大八さん自身は書かないんだけど、アドバイスがすごい的確なんですよ。返ってくるメモを見るのが楽しみでしょうがなかった。
高須:どれくらい書き直したの?
樋口:細かいものも含めて20個ぐらい書き直しました。
高須:20個! なかなかやね。
樋口:それが楽しすぎて。本当にやってよかったなと思っていたら、その作品を見た大根仁監督からドラマの脚本を書かないかって誘われて。そこは本当にターニングポイントだったと思います。
高須:大根さんとはどうだったの?
樋口:やっぱり大八さんと同じで自分の世界を持っている方だし、大根さんもぼくもちょっと不良っぽい面白さが好きなので馬が合いましたね。あと、大八さんもですけど、監督の気持ちをていねいに教えてくれるんです。例えば「一流の監督っていうのは準備に命をかけているから撮影中に考えない」とか。大根監督とのアイデア会議はすごい面白かった。それがターニングポイントだったな。
高須:それが2018年。なるほどな。
樋口:それまでは「こんなに忙しいのによく書けますね」と言われるのが褒め言葉だと思っていたんですよ。でもそれはちょっと違うなと思いだしてきて。「小説家や脚本家として面白いですね」じゃないと意味ないなと思ったのが、大八さんと大根監督のおかげかもしれないです。
仕事のマイルール|面白そうなタイトルでワクワクさせたら、中身でも満足させる
高須:仕事をやる上でのマイルールってある?
樋口:アバン※を見たら面白そうだったけど、中身を見たらつまらないことってバラエティでよくあったじゃないですか。だから「ワクワクさせたら満足させろよ」っていつも思っています。タイトルが面白そうだったら中身も満足させなきゃって。そういう考えは自分のルールとしてあるかもしれないですね。
※番組のオープニング前に流れる映像のこと。
高須:今後やっていきたいことはある?
樋口:新作の『危険なふたり』(幻冬舎/2023年4月発売)から広がる次の小説とか、この小説から何か広がるきっかけができればいいなと思っています。
高須:実は今日『危険なふたり』をいただいて。
樋口:樹木希林さんの肩に内田裕也さんが乗っている表紙の。
高須:すぐ分かる表紙だよね。しっかり読ませていただきます。今ちょうどみんながあの二人の関係性を想像する話を見たいころだと思うんだよね。いや楽しみです。今日はありがとうございました。
――次回のゲストはDJ、音楽プロデューサー、アーティストのテイ・トウワさんです。お楽しみに。
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