放送作家の高須光聖さんがゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
今回のゲストも前回に引き続き、演出家、放送作家の乾雅人さんです。26カ国で開催され、2028年のロサンゼルス五輪にまで採用されるほど世界中から高く評価されている『SASUKE』。今回はそんな世界的ヒット作を手がけてきた乾さんのマイルールや、今後の展望に迫ります。『SASUKE』とともに世界を見てきた乾さんが企む、新たな挑戦とは? ぜひご覧ください。
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乾 雅人(いぬい・まさと) 演出家、放送作家。スポーツバラエティー番組『SASUKE』や『風雲!たけし城』をはじめ、スポーツやバラエティ、ドキュメンタリーなどさまざまな番組を手がける。
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高須 光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。
日本独自の構成で大ヒット! 世界に広がる『SASUKE』のノウハウ
高須:『SASUKE』という名前が世の中にどんどん知られていくようになって、あるときアメリカに行くじゃないですか。あれはどういう経緯でなったんですか?
乾:アメリカで最初は、日本の放送を細切れにしてケーブルテレビで放送した時期があったんですよ。で、向こうで大人気になって。当時忍者ブームだったこともあり。
高須:おお、そういうことか。
乾:それで分かりやすく、日本の忍者みたいな感じになっていったんです。「じゃあ日本人がやるんじゃなくて、アメリカ人がやるものを地上波でやろう」って、NBCっていう超巨大ネットワークが『アメリカン・ニンジャ・ウォリアー』(※1)の地上波放送を決めたっていうのが12年前ぐらいやったんですけど。
(※1)『SASUKE』をもとにしたアメリカのリアリティショー
高須:それはTBSのフォーマットを買って『ニンジャ・ウォリアー』として向こうでやるわけじゃないですか。そのときって、乾さんはどういう契約です?
乾:ぼくは基本的には契約とかしないんですよ。ぼくが作ったアトラクションのどれを使うかっていうのは、現地のテレビ局が決めることなので。そこに対してのコンサルティングの仕事で(現地に)行ったりはしますけど。
高須:コンサルティングという形で向こうに行くと、「これはどうやってんねん」って全部聞いてくるじゃないですか。それ(ノウハウ)も全部教え…で、アメリカで(放送を)やりました。それでどうなったんですか?
乾:まずアメリカの番組って、必ず誰かチャンピオンとか優勝とか、「この人が勝ちです」っていうのが必ずあるじゃないですか。
高須:なるほど。「達成できない」がない。
乾:そう。でも『SASUKE』は「今回(達成者)ゼロ」とかよくやるじゃないですか。そんなもん(アメリカでは)受け入れられないよって(言われていた)。
高須:「なんやねんそのエンディング」って。
乾:そう。「え? “今回残念でした”で終わるの?」って。ただそういう番組がそれまでなかったんで、「これ、めっちゃ新しいやん」と。全滅か誰か一人がゴールするって新しいねってなったらしいんですよ。それで爆発的に人気になったんです。
言葉がなくても分かる面白さで、世界に通用する新たなフォーマットを作りたい
乾:ちょっと海外で仕事をしようと思っていて。
高須:乾さん、それを今日言おうと思っていたんですけど、なんか作りませんか?
乾:やる?
高須:海外で作れるものを。フォーマットがしっかりあるものを、何か1個。それは何か乾さんとやりたいなと思っていたんですよ。
乾:いいですね。例えばぼくと高須さんだけ日本人で、スタッフさん全員(現地スタッフ)。
高須:ああ、いいですね。
乾:「こういうもんだから、こうやって撮ってくれ」っていうことだけを言い続けるようなものを作っていきたいなぁって。海外でコンテンツを作ることを始めて、権利を自分たちで保持していくみたいな流れを作ったほうがいいかなと思うんですよね。
高須:何度か海外に行かれていて、乾さんなりに「実は海外の人はこういうものが好きで」とか、「日本のものを海外の人にもうちょっとハマりやすくするには」っていう肌感が、たぶんあるんやろうなと思うんですよね。
乾:ぼくが作っている番組って、ほとんど言葉が分からなくても理解できるものばかりなんで。
高須:確かに。
乾:フィジカル系とかゲームアクション系がいちばん(言葉がなくても)分かりやすい。自国のプレイヤーが泥水に落っこちているのを見てゲラゲラ笑う、シンプルな構造だから。そういうものをまず手がかりに、「こんな番組もできるよ」「こんなクイズ番組もできるよ」みたいに広げられたらなぁと思っているんですけどね。
高須:なんかやっぱりやりましょうよ。
乾:ぜひお願いします。作りましょか?
高須:いや本当ですよ。やっぱりこのノウハウは活かして、莫大なお金を。
乾:(笑)
高須:乾さんが海外に別荘を10個作るんですよ。
乾:10個!
高須:そんな1個や2個て言うてたらだめですよ。10個作ってください。
乾:(笑)。10個を目指して。
高須:はい。10個を目指して。
予想以上に長く歩んできたテレビ人生。素晴らしい番組たちとの出会いに感謝
乾:ぼくら世代が現場のいちばん近いところでやっているなんて、ちょっと考えられなかったでしょう?
高須:考えられないです。こんな年まで番組やっているなんてありえないですよね。
乾:そうですよ。ビックリしちゃうもん。
高須:そーたに君(※2)とも昔、「ミレニアム(2000年)にはギリギリテレビやっていないね」「まだちょっと売れっ子でいたいな」っていう話をしてましたもん。
(※2)『世界の果てまでイッテQ』などを担当している放送作家
乾:だいぶ経ったねぇ。
高須:そうなんですよ。ありがたい話なんですよ。
乾:こんな年までディレクターをやれるんだと思って、ちょっとびっくりしていますよ。本当に。
高須:でもやっぱりノウハウですよ、それは。乾さんのその知識は明らかにほかにはないものだし。演出能力プラス安全性も込みで、そのノウハウは誰も持っていないですから。それはもう唯一無二ですよ。
乾:ありがたいですね。
高須:いや素晴らしいもんですよ。そういうものを持って自分の武器として戦う演出家はなかなかいないですからね。
乾:そうですね。やりたいって言うても、なかなかやらせてもらえないじゃないですか。
高須:そんな企画にめぐり合うこともできないし。魂込めて何十年も作るようなものに出会うことすら。
乾:本当そうですね。毎年お金をいっぱい使って、好きなものを作らせてもらって。ありがたいですよ。
高須:ありがたいですよ。乾さんの言葉によって、数字も変われば面白みも変わるわけですよ。でもそれが楽しいじゃないですか。
乾:そうですね。ぼくが演出になってから今年まで、だいたいいくらぐらい使ったんやろって思って。
高須:おお! それすごそうやね。乾さんの番組やったら。
乾:大体130億(円)ぐらいです。
高須:うわ(笑)! ええー! 130億使ってるの? すごいね。
乾:そんなディレクター人生ないじゃないですか。
高須:ぼくもこの間ね、自分のホームページにこれまでにやった番組をバーッと書いたんですよ。300本あったんですよ。
乾:300本!
高須:300本というか300タイトル。『ガキの使い(やあらへんで)』なんかの今なお続いている番組も1タイトルとして。特番あわせたら300本あったんですよ。
乾:300やりましたか。
高須:なかなかすごいでしょう? ようさんやったなぁと思いながら。
乾:それはすごいわ。
高須:そうなんですよ。いいときにいろいろな番組やらせてもらったなと思って。だから、いい時代も生きたからこそ、次なることもちょっと。海外に打って出るようなものを作りましょうよ、なんかね。
乾:そうですね。やりましょか。
仕事のマイルール|いいと思える人とだけ仕事をしたら、仕事がすごく楽しくなった
高須:生きていく上で仕事のマイルールをみなさんに聞いてるんですけど、そういうのって乾さんなんかあります?
乾:嫌いな人と仕事をしないっていうのが(マイルール)。ぼく、40歳のときに独立して会社を作ったんですけど、独立したタイミングで「この会社をどうしていこうかな」と思ったときに、自分が「嫌だな、この人といっしょにやるの」って思った仕事は受けないっていう大方針にしたんですよ。
高須:それ40代からできているっていいですね。
乾:最初はきつかったですよ? ただ、そこをブレずにやったら、ものすごく楽しくテレビを作れるんですよ。そこですかね、ルール的に言うと。
高須・乾:でもそれは、シンプルだけど言い得て妙というか。それはそのとおりなんですけどね。
乾:いろいろあるじゃないですか。お付き合い上とか、ご紹介とか、なかなか断れないことあるじゃないですか。「お金欲しいし、この人との付き合いだから仕方ない」とかも全部ひっくるめて「でもこの人とはやらない」って決めたっていうのが。
高須:いや分かるわ。
乾:だから今ごいっしょしている皆さんは、全部「この人とならいっしょにやってもいいな」っていう人。
高須:え? 呼ばれてないですよ、ぼく。何も(笑)。
乾:そもそも1回も番組やってないですもんね。
高須:そうなんですよね。
乾:これ不思議なんですよ。
高須:そうなんですよ。乾さんとごいっしょすることなかったんですよね。
乾:食事会はちょいちょいありますけどね。
高須:そうそう(笑)。ちょこちょこ廊下で会ったりとか。「乾さんすごいね」とか「乾さんまたこんなの作って」とかいう話はあるんですけど、ほんとないですよね。
乾:そろそろ最終コーナーになったんで、じゃあ1回なんかいっしょに作りましょう。
高須:いいですよね。そういうのもちょっと組んでいきましょうよ。いやなんかそんなのが楽しいなぁ。
乾雅人さんのキャリアの転機|代表作『SASUKE』との出会い。長寿番組を支えてきた演出家の陰の努力
高須:あなたのキャリアの転機を教えてくださいっていうコーナーがあって。まあ、乾さんの転機みたいなね。
乾:やっぱりあれですよ。『SASUKE』を97年に作ったのが、いちばんでかいですよ。結局ぼくの名前イコール『SASUKE』になっちゃったから。
高須:もう本当そうです(笑)。“乾SASUKE”でもいいぐらいですもんね。
乾:“乾SASUKE”!
高須:“乾SASUKE雅人”でもいいですよね。なんか真ん中に入れても。
乾:(笑)。そんな番組に出会えるディレクターってそんなにいないと思うんですよ。「この番組はあいつやで」っていう。
高須:本当にいてないんじゃないですか? 今なお続いている番組っていう意味ではね。
乾:そういう意味で97年の『SASUKE』1回目を作らせていただいたっていうのは、完全な転機ですね。
高須:しかもそれをちゃんと成功させ、何発目かにはしっかりしたものに作り切れたっていうのは大きいですよね。息切れする可能性もあるじゃないですか。ずっと手を変え品を変え、そのスピリッツみたいなのを残しながらずっと活かしていくって難しいじゃないですか。
乾:難しいですね。
高須:番組って当てることも大変ですけど、続かせることって難しいですよね。裏切らないで続けるってね。
乾:そう。いろいろ担当する人が変わったりすると、「それは入れたらあかんねん」「それお客さん望んでないぞ」っていう提案もあるから、そういうのを極力バレないように…。
高須:そうなんですよね。そこがちょっと難しい。うまいこと傷つけず(伝えるのが)。その気持ちは分かるから。「何かやろう」「いいようにしよう」という気持ちは分かるから。でもそれをうまく丸めながら、結果こっちに持ってくる。その演出も大変ですよね。
乾:そうですね。最近女性のお客さんがものすごく増えて。この間TBSの前の広場でイベントをやったんですけど、8割が女性のお客さん。
高須:ええ! 子どもとかもすごいかなと思ったけど、女性?
乾:女性です。
高須:そうなんですか。
乾:出場者もイケメンが多いんですけど。素人さんも含めて。それで盛り返しましたね。
高須:不思議やな。そういう風にまた変わってくるんですね。『SASUKE』ファンはもっと男くさいと思ってました。
乾:そうでしょう? 出場者とぼくも「なんかファン変わったなー」って。
高須:ね(笑)。『SASUKE』のマニアって著名人も多いですよね。
乾:松本さんもご覧いただいているんでしょ? ちょっと緑山にきて「おれもやったろか」っていう(笑)。
高須:それはない(笑)。怪我しちゃいますよ。もう60歳ですからね。ダウンタウンも。
乾:松本さんが来てくれたら、もう、ちょっと番組終わってもいいかも。
高須:いや、終わったらダメでしょ。ずっとやり続けてください。80歳になってもやっていてください。
高須・乾:(笑)
乾:長いことやなぁ。
高須:長いことやらなあきませんよ。いや面白い。ありがとうございました。
――世界中で愛される『SASUKE』のお話、いかがでしたか? 次回のゲストはユニバーサル ミュージック執行役員の玉木一郎さんです。お楽しみに!
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