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『Spotify』普及の立役者・玉木一郎のサクセスストーリー|ラジオアーカイブ

『Spotify』普及の立役者・玉木一郎のサクセスストーリー|ラジオアーカイブ

前編:2023.10.8(日)放送回
玉木 一郎さん
ユニバーサル ミュージック合同会社上席執行役員

ラジオ音源はこちらから

「空想メディア」ロゴ04

放送作家の高須光聖さんがゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
社会の第一線で活躍されている多種多様なゲストの「生き方や働き方」「今興味があること」を掘り下げながら「キャリアの転機」にも迫ります。

今回のゲストは、ユニバーサル ミュージック合同会社上席執行役員の玉木一郎さんです。音楽ストリーミングサービス『Spotify』を日本に普及させた立役者である玉木さん。しかしその手法は、かなり型破りだったようです。今回はそんな『Spotify』普及の裏側と、玉木さんのキャリアの原点を探ります。

  • 玉木 一郎(たまき・いちろう)さん

    玉木 一郎(たまき・いちろう) ユニバーサル ミュージック合同会社の上席執行役員。
    『Amazon Kindle』や『Spotify』の日本での普及に貢献。

  • 高須光聖さん

    高須 光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
    中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。

ラジオにハマって始まった音楽との関わり。バンド三昧で過ごした大学時代

高須:今夜のゲストはユニバーサル ミュージック合同会社上席執行役員ビジネス統括、玉木一郎さんです。

玉木:こんばんは。よろしくお願いします。

高須:なんか肩書きがすごいですね。どんなことをされているんですか?

玉木:音楽会社って基本的にアーティストと契約して、楽曲を制作して、プロモーションするっていう“レーベル”という組織があるわけです。これが当社のような大きいレコード会社になってきますと、複数あります。またそれとは別のところで、例えばCDを特約店さん経由で売るとか。ストリーミングサービスと契約してプロモーションしていくとか。SNSやマーケティングとか。アーティストのグッズを作って、ポップアップストアみたいなものを運営したりとか。ライブの制作をしたりイベントをつくったり。あとはアーティストのマネジメントですとか。

高須:なるほど。それを全部一括管理するみたいなことですか?

玉木:そうですね。それぞれチームがあるんですけど、そこ(レーベル以外のチーム)を一応束ねている格好になっています。

高須:(以前は)Spotifyにいらっしゃったんですよね。昔から音楽がずっと身近にあった感じですか?

玉木:私が3歳のときですかね。父親が短波放送を聴けるラジオをかけて。

高須:ああー、ありましたねぇ!

玉木:クルクルッと回していくと、英語か何か聞こえてくるわけですよ。「ああ、これいいなぁ」と。なんか世界が見えたみたいな気持ちになるわけですね。そこからFMのエアチェック(※1)を始めて。一生懸命レターを作って。カセットを作って。

(※1)放送を個人で録音して楽しむこと

高須:やりましたね!

玉木:(小学)5年生ぐらいになると『オールナイトニッポン』とかをこっそりと聴くわけですよ。その内容をまとめた“ラジオ新聞”を友達といっしょに作って、勝手に学校にばらまくみたいなことをやっていた子ども時代があり。そこからだんだん楽器とかやり始めて。大学になっていわゆる音楽サークルに入ったんですけど、いっしょにやっていた男が「もっとうまいやつとやろうぜ」みたいな話を言い始めて。それで大学がバラバラのメンバーで集まったバンドができたんですよ。ちょうどバンドブーム世代ですから、いろんなコンテストが数多くあって。

高須:『イカ天』(※2)とかあった時代ですよね。

(※2)三宅裕司のいかすバンド天国。TBS『平成名物TV』の1コーナーで1989年2月~1990年12月に放送された

玉木:『イカ天』にも出て、完奏したんですよ。

高須:おぉ! すごいじゃないですか!

玉木:『イカ天』にいっしょに出ていたバンドに誘われて、ホコ天(歩行者天国)でライブをやって。あといろんな音楽コンテストに出てみたり、大学の学園祭に呼ばれてライブをやったり。

高須:へぇー、じゃあ半分プロみたいなことをしてたんですね。

玉木:プロというか、あの時代はアマチュアバンドの需要があって。そんなバンド三昧みたいな生活をしていたんですよ。

知らぬ間に決まっていたドイツ留学。そのままドイツで就職へ

玉木:サークルでいっしょだった人の中にはソニーミュージックに就職した人もいて。「なるほど。そんな道もあるんだな」と思ったんですけど、私は思うところがあってドイツに留学しちゃいまして。

高須:なんでですか? そのままバンドの世界でっていう夢はなかったんですか?

玉木:夢はなくてですね。

高須:えぇー。

玉木:なんか漠然と「音楽、楽しいなぁ。以上」みたいな感じで。縁があって、私が知らない間にドイツの大学への留学話が決まっちゃってですね。

高須:ええ? そんなことあるんですか?

玉木:もともと通っていた大学の先生が私のことを気に入ってくれていたみたいで。「玉木君に決まったよ」「いや、申し込んでませんけど?」みたいなところで留学話が決まり。そのままドイツの大学に行っちゃうんですよね。そこからまったく違う分野の道をさまよい歩き、四半世紀が経ちました。

高須:(笑)

玉木:(留学中)いろいろなパーティーに呼ばれていくうちに、あるドイツの大手企業さんに「うちでインターンやんない?」って言われて。「じゃあやります」とインターンをしていたら、インターンが終わった後に「うちに来ない?」っていう話になって、そのままドイツで就職しちゃうことになるんですよ。

高須:へぇー。玉木さんって偉い方の目に留まるというか。そういう人が手を差し伸べてくれることが多いですね、聞いていると。

玉木:1、2回ありましたね。共通しているのは、「やってみない?」って言われたら、「あ、分かりました」みたいにやっちゃう。今のユニバーサル ミュージックも、社長の藤倉さんが「うち来ない?」って誘ってくださったんですよね。「じゃあ行きます」みたいな。

高須:早い(笑)。

玉木:(笑)

窮地に立たされていたSpotify Japan。ゴリゴリの手腕を期待され社長に抜擢

玉木:留学から25年経ちまして、あるときSpotifyの偉い方から「Spotifyの(日本支社の)社長どうだ?」という話をいただいて。

高須:そのころのSpotifyはどれぐらいの規模感だったんですか?

玉木:まだ日本ではサービスが始まっていないときです。

高須:なるほど。どうなるかも分からない。

玉木:どうなるかもまったく分からないです。おまけに競合他社さんは次々に日本でサービスが始まっていて、Spotifyだけが始まっていないみたいな状態だったんですね。

高須:海外ではSpotifyは?

玉木:海外ではSpotifyがいちばん大きかった。実は私に声がかかる4年も前に日本法人はできていて。

高須:あ、そうなんですか?

玉木:はい。もうやる気満々だったんですね。ところが一向にやらせてもらえない。Spotifyっていうのは有料会員と広告を聞けば無料で聴けるものがあるんですけれど、この「無料」というのが日本の音楽業界的にいうと「これは違うだろう」ということで。だって日本はみんながCDを買ってくれる国なので。タダで音楽を渡すというのはどういうことなんだと。

高須:それは分かります。

玉木:分かりますよね? そういうわけで、まあどなたも賛成してくれない。

高須:なるほど。どこも乗ってこない。

玉木:乗ってこない(笑)。で、4年経ってしまいました。

高須:うわぁ。

玉木:それで多分Spotifyの上層部もいろいろ考えて。これはビジネスの経験豊富な人間を連れてきて、ゴリゴリと交渉していけばきっとうまくいくだろうと。当時私はAmazonでゴリゴリな感じのヴァイスプレジデントでしたから、多分お声がかかったと。

契約獲得の切り札はまさかの“卓球”。型破りな作戦で深めたアーティストとの絆

玉木:私は「Amazonでゴリゴリ偉い人だから、ビシビシと契約を決めていくんだろう」っていう期待でSpotifyに雇われたんですよ。ところが私は『Kindle』という電子書籍を日本に導入したときの(出版業界との)経験から、Spotifyが来たときに日本の音楽業界の方たちがどんなことを思い浮かべるかイメージがついちゃうわけですよね。Amazonは超巨大企業なのでゴリゴリとやっていけたわけですけど、Spotifyは当時の日本では誰も知らない。そんなときに無理だと。「日本のエンターテインメント業界に本気で根差したかったら、交渉で勝ち取るんじゃなくて、まず自分が認めてもらうのが先だろう」ということで、本社の人間に「悪いけど、俺はこれから一切契約の交渉はしないから」と。

高須:ほう?

玉木:「もう何もしないから」と伝えたら、向こうは「ふざけんな!」みたいになるわけですよ。

高須:「ゴリゴリやってもらうつもりで来てもらってるのに、こっちは!」って。

玉木:「おまえを雇ったのはそういうことじゃない」と。

高須:「“ゴリゴリ”だからな、キーワードは!」っていうことですもんね、向こうからすると(笑)。

玉木:「とにかく待っていてください。見ていてください。私のやることを」と。自分の契約チームにも「もう電話もかけなくていいし、行かなくていいから」と言って、一切(営業を)やめたんですよ。その代わりアーティストと仲良くしようと。新人のアーティストや大手のレコード会社に属していないようなアーティストの方は、オフィスに喜んで遊びに来てくれるんですね。

高須:なるほど。

玉木:新人アーティストたちがSpotifyに来ると、みんなでワーワーキャーキャー遊んでいるんですよね。そのうちに遊んでいるのが面白くなってきて、オフィスに卓球台を置き始めたんですよ。それで自分も面白くなってきちゃって、毎日オフィスで卓球をやり始めて。

高須:毎回なんか好きなことができちゃうんですね(笑)。

玉木:できちゃう(笑)。そうしたら「あ、これ使えるね」とみんなが言い始めて。私が“卓球部長”になって、アーティストが来たら卓球に誘う作戦でいきましょうとなったんですよ。「うちの卓球部長と卓球やります?」「やりたい、やりたい」「(卓球部長は)うちの社長ですよ」「え? 社長と?」みたいな。

高須:なるほど。

玉木:アーティストは毎日来るので、来る日も来る日もいろんな人と(卓球をして)。そのうち自分だけ本気になってきちゃって。

高須:勝っちゃったりする? 何度も何度も(笑)。

玉木:何度も勝って、「何なのこの人?」みたいな(笑)。

高須:そりゃ毎日やってますからね(笑)。

玉木:そうしたら「あそこの社長、卓球うまいらしいぞ」みたいなうわさが広まって。

高須:どんだけ卓球やってたんですか、それ(笑)?

玉木:そういう意味では、当時は社長やってたのか卓球をやっていたのか。好きになりすぎて卓球スクールにも通っちゃって(笑)。

高須:本末転倒ですね(笑)。

玉木:本末転倒(笑)。

高須:でもすごいですね。そこからアーティストさんと仲良くなって、アーティストさんが少しずつ理解してくれることにつながっていくんですか?

玉木:はい。そこからですね。

画像02

「俺がやらずに誰がやる」四半世紀の時を経て戻ってきた音楽業界での成功

玉木:みんなでワイワイ遊び始めて8カ月~9カ月ぐらい経ったところですかね。電話がかかってきたんですよ。某レコード会社の重役の方から、「玉木さんと最近全然話してませんね」と。

高須:お?

玉木:「ぜひちょっと話をさせてください」みたいな感じで。そうしたら「実は契約したいんだ」と言ってきて。

高須:向こうから。

玉木:「いろいろといい話も聞いている」と。

高須:なるほど。

玉木:「Spotifyというのは決して黒船じゃない。ピースボートで緑の船なんだ」っていうことをみんなに気づいていただけて。そうしたら、もう皆さんワーッとやって来て。

高須:9カ月でそうなります?

玉木:その電話から3カ月以内にほとんどの方に契約いただいたと考えると、だいたい最初の丸一年って感じですね。

高須:すごい。こっちから「少しでも会ってください」って営業に行くのが普通じゃないですか。アーティストの心をつかむ理由があるとすると、どういうことなんですか?

玉木:商売としてお付き合いすると人間としての会話がしにくい。けど、卓球する仲間みたいになってくると、もう少し本音の言葉が交わせる。卓球しながら「今度うちのオフィスでライブやってみない?」「お、やりたいです」みたいな。そういうところから新しいことをやっていって、それが同時にアーティストの方のプロモーションにも役立っていく。もう一つ、アーティストのコミュニティは本当に皆さん仲が良くて、交流がすごいんですよね。そうすると、「先輩、Spotifyは…」。

高須:「めっちゃいいですよ」と。

玉木:「めっちゃいいですよ」「なんならあそこ、こたつ置いてありますよ」みたいな。そういう感じで関係性ができた。

高須:多分、内からちゃんといい情報が入っていったんですね。外からじゃなくてね。

玉木:そう思いますね。でも現場ではそうやってみんなで地道に関係をつくっていったわけですけど、本社の上層部の人からすると「あいつは何やってんの?」という感じで。1年間、かなり苦しんでいたと思うんですよね。

高須:でもちょうど1年後には。

玉木:そこまでにクビにならなくて良かったなっていう、それだけですよね。

高須:(笑)。Spotifyに入られるときに、海外でのSpotifyが他社よりも長けている部分は、ご自身で一応調査もされたんですか?

玉木:少なからず転職しているんですけど、転職するときにどうしても譲れないのは、誰に話しても自信を持って「これはいいよ」と人に言えるものかどうか。そういう意味でいうとSpotifyは、転職前に自分でいろいろ研究した結果、「これは間違いない」「絶対素晴らしいものだから、きっと分かってもらえる」と。音楽業界に入らない道を選んで時が経ったわけですけど、音楽業界が自分を必要としてくれる局面が人生で突然現れたわけですよね。「これを俺がやらずに誰がやる」「これはテクノロジーが分かっていて、音楽を愛している人間がやるべきだ」と。

高須:「じゃあ俺だ」と。

玉木:「俺だ」みたいな。

高須:すごいなぁ(笑)。

――玉木さんの型破りな経営戦略のお話、いかがでしたか? 次回も玉木一郎さんをゲストに、キャリアの転機や仕事のマイルールを伺います。お楽しみに!

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