放送作家の高須光聖さんがゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
社会の第一線で活躍されている多種多様なゲストの「生き方や働き方」「今興味があること」を掘り下げながら「キャリアの転機」にも迫ります。
今回のゲストは前回に引き続き、アーティストの相場慎吾さんです。サンローランを退社後、アーティストとなった相場さん。最高峰の職場を経験しながらもファッション界を去ったのは、表現者としてのある思いがあったからでした。デザイナーからアーティストへと生き方を変えた相場さんの思いに迫ります。
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相場 慎吾(あいば・しんご) 元サンローラン(SAINT LAURENT)デザイナー。現在はクリエイティブディレクション・デザイン・写真・ファッションなど幅広く手掛けるアーティストとして活動。
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高須 光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。
最高峰の景色を見た6年半。ファッション界を去り、次のステージへ
高須:ご自身でブランドを立ち上げるっていう意識はなかったんですか?
相場:いやぁ…、今のところはないですねぇ。
高須:なんでですか? 全然興味ないです?
相場:自分の場合は入ってしまったところが、ある種の最高峰みたいな場所なので。ファッション(の業界)でこれより上があるのかなって。例えばエッフェル塔の前にランウェイを作って発表したコレクションは、15分のショーのために数億円使うんですよ。一度そのスケールを味わってしまったら、そこで見たような景色を、「これから自分でブランドを始めたとして、死ぬまでにまたそれを見ることができるのだろうか?」と。そう考えたらなんか違うなと思って。ただ、まったく興味がないということではないです。今後お話をいただいた際にはもちろん検討したいと思っています。
高須:もうここが一番の高みかなっていう気もしてしまったんですね。それでもう自分の中での楽しい時期はあっという間に終わっちゃうの? その高みを見たら。もうデザイナー自体を辞めようと思っちゃうの? そこから。
相場:デザインを突き詰めるっていうのは、もう誰にもできないデザインを作り出して、みんな頭を抱えながらやっているみたいに思っていたので。
高須:そうじゃないの?
相場:案外そうでもなかったんですよ。特に当時のサンローラン(SAINT LAURENT)がコマーシャル(商業的)に特化していたので、「もっといろいろやりたいけどな」みたいな思いもいろいろあって。でも実質売り上げとして数字がついてくるのを見ると、「やっぱりこれが正義なんだ」みたいな。
高須:なるほど。そうだよね。売れないとダメだもんね。
相場:そうなんです。まあ、いくら面白いことをやっていても売れなかったら話にならないので。会社も回っていかないし。
高須:サンローランに入って何年で辞めることになるんですか?
相場:6年半ぐらいですね。
高須:早いなぁ。
相場:長いほうなんです。平均勤続年数2年とかいかないです。
高須:えー! そうなの?
相場:はい。あっという間にクビになる人はクビになりますので。
高須:「こいつあかんな」と思ったらすぐ代えられる?
相場:すぐです。それに、もうみんなポンポン移籍していきますので。特にフランスは雇用が守られていますし、手厚い失業手当や退職金ももらえるので、むしろクビになったほうがいろいろと都合がいいんですよね。
高須:なるほどね。
相場:それで次の会社に行って、「前のブランドでいくらもらってたの? うちはこれぐらいあげますよ」みたいな感じでどんどんステップアップしていくんですけど、自分は行かなかったので。
高須:行きなさいよ。もったいない。
相場:その分サンローランに上げてもらったので(笑)。退社してから2年ぐらいはフランスを拠点にヨーロッパや周辺国を巡りました。写真を始めたのはそのころです。
奇跡の“アイバ”コラボ? 褒めない上司をほほ笑ませた初仕事のデニム
高須:自分でやっていていちばん、「ああ、これはすごかったなぁ」って思う仕事ってどんな仕事でした?
相場:サンローランに入って最初に任された仕事ですかね。メンズのショーだったんですけど、エディさん※に「チェーンがついたデニムが欲しい」って言われたんですよ。「え?」と思って。「どんなのだろうな?」と思いながら試行錯誤して、「こういうのがいいんじゃないか」というものを作りました。
※相場さんの当時の上司である元サンローラン クリエイティブディレクターのエディ・スリマンさん
高須:それぐらいしか言わないんですか? どういうものとか言わずに、「チェーンがついたデニムが欲しい」だけしか。
相場:細かく言うときもあるんですけど、漠然とパッと思い浮かんだときはすぐ「あれが欲しい」みたいな感じでした。
高須:なるほど。
相場:それで「エディだったらどんなのが好きだろうな」って思い浮かべながら作ったら結構気に入ってくれて。彼はあまり褒めることがなく、普段はチラッと見てうなずくぐらいなんですけど、そのときは目をパッと開いて「いいね!」みたいな。ちょっとニヤッとしてくれたんですよ。
高須:うれしいねぇ。
相場:そのときは「よし!」と思いました。とりあえずお眼鏡にかなったみたいな。それで引っかからなかったらクビになりますし。そのときは結構苦労して作ったので、認めてもらえて本当にうれしかったです。ただ、その後エディからデニムの色違いも追加で欲しいと言われて、結局何本も作ることに(笑)。
高須:そのパターンをね(笑)。
相場:ショー当日ギリギリまでデニムに穴あけて、フリンジ作って、チェーンつけて、みたいなことをずーっと一人でやっていましたね。
高須:へぇー。でもそんな地道な作業が実っていくんよね、たぶんね。
相場:そうですね。あと個人的にそのデニムに関してうれしかったことがあって。これ日本でも実は少数生産で販売されていたんです。そのデニムを、嵐の相葉雅紀さんがベストジーニストで。
高須:履いてたの?
相場:履いてくださったんですよ。
高須:ええー! 同じ“アイバ”で。
相場:「うわ! “アイバ”コラボだ!」って。彼もまさか同じ日本人で同じ“アイバ”が作っていたとは思わないだろうと(笑)。
高須:それはうれしいね。
「自分が終わる」危機感の中で見いだした写真という新たな表現方法
高須:(ファッション業界から)ガラッと変わって写真を。なんで写真へと流れていくんですか?
相場:きっかけはサンローランの2年目ですね。仕事がちょっとルーティンになり始めたころで、飽きが出てきてしまいまして。「何かクリエイティブなことしないと自分が終わってしまう」と焦燥に駆られていたときに、カメラに気づいて。「今まではただリサーチの一環で撮っていたけど、これを作品にしたらどうだろう」と思ったのがきっかけです。撮り始めてみたら意外と面白くて、いろいろと試行錯誤して作ってみたのが始まりでした。
高須:へぇー。写真はまた一から勉強したんですか?
相場:独学ですね。いろいろ本を読んだりYouTubeを見たりして。編集のやり方とか設定の仕方も、そういうものを見ながら学びましたね。
高須:もういろんな個展もされたんですよね。賞も取られたりとか。
相場:はい。ちょっと…カメラが欲しかったんで…(笑)。
高須:カメラぐらい買えるじゃないですか。
相場:買えるんですけど(笑)。どうせだったらもらえるものはもらいたいよねって。「じゃあコンテスト応募しよう」みたいな。
高須:コンテスト好きやなぁ。そんでまたピンポイントで当てにいくからなぁ。
相場:そのときは「これが勝てる」とかいうのはなかったんですけど、自分が絶対的に面白いと思うもの(を出品した)。それがうまいこと引っかかってカメラもらえるぞっとなったので、そこからさらに没頭していったって感じですかね。
相場慎吾さんのキャリアの転機|「アーティストとして生きた証しを残したい」ブランドでの安定を捨て、挑戦の道へ
高須:あなたのキャリアの転機を教えてください。ちょっと重複するかもしれませんけども、転機ってありました?
相場:世界的なビッグメゾンでの経験を経て、いざ日本で何をしようかって考えたときです。少なくともファッションに関しては一つの最高峰とも言える現場・チームで仕事ができたので、正直これを超えることはなかなか難しいし、このままファッションを突き詰めるのはどうかなと思いました。少なくとも人がなかなか見られないものは見られたし。もちろんサンローランの後に、ほかのブランドからオファーもありましたが。
高須:そりゃそうですよね。
相場:ただ自分の心が求めたのが、そういうブランドに属して得られる安定とかではなくて。「もっと足掻いて模索し、、挑戦していくこと」だと気づいたんです。ファッションデザイナーとしてこれからも生きていくというよりは、もっと自分自身の可能性を試したくて。自分ができる最大限に面白い表現をしてみたいっていう、ある種の探求心に突き動かされるようになったんですよね。
高須:じゃあやっぱり、そこで辞めるときが一番の転機ですか?
相場:そうですね。
高須:ファッションから変わるんですもんね。それは転機ですよね。
相場:実際、(ファッションを)表現しきれたから辞めたというわけではないです。自分が何者かっていう肩書をつけるのも難しいと思うので、今は大きなブランドとかに入ってラベル付けをするより、相場慎吾という一人の人間がアーティストとして生きた証しを残すことに興味があるので。
高須:なるほどね。
相場:フォーマットはなんでも良いんですよ。例えばクリエイティブディレクションだったり、デザインだったり、写真だったり。アートでも。正直なんでも良いっていうのが今の心境。
高須:なんか自分だけで完結するもので表現したいっていうのは分かるな。だからぼく、生まれ変わったら写真家になりたいんですよ。
相場:そうなんですか。今からでもできるじゃないですか(笑)。
高須:いやいや、ぼくは今からやるつもりは全然ないんですけど。…全然ないことないですけど。
相場:(笑)
高須:でも、たぶんいちばん完結するんだろうなと思って。一人で。
相場:自分のものとして、個としてやれますからね。
高須:はい。一人でやれるなって気がしていて。そういうものに惹かれるのはすごい分かるんですよね。
仕事のマイルール|職人ではなく表現者。ご縁とともに可能性を広げていく
高須:生きていく上で仕事のマイルールみたいなものをお聞きしているんですけど、ありますか?
相場:デザイナーの特性上、どうしても職人っぽいイメージに見られてしまうと思うんですけど、突き詰める職人ではなく「可能性を広げられる表現者であること」、これをマイルールとして捉えていますね。
高須:なるほどね。
相場:そこに楽しみを見いだしているので。今、実際に。
高須:そっか。でもやっぱり職人気質みたいな方もいらっしゃるし、そうじゃない人もやっぱりいるんですよね。デザイナーって。
相場:います、います。いろんなタイプがいます。一口にデザイナーとは言っても。
高須:そりゃそうですよね。この番組のゲストにどういう人がいいかってよく聞いているんですけど、誰かいらっしゃいますか?
相場:自分のバックグラウンドを面白いと思われるのか、いろいろな方につなげていただいて。音楽、芸術、食。あらゆる分野の方がいらっしゃるんですけど、最近だとGLAYのTERUさんだったり、EXILEの橘ケンチさんだったり。あとはYouTuberから始まって今はアーティストとして活動しているODAKEi(おだけい)くんだったり。。
高須:すげぇな。じゃあいろんな方とつながって。
相場:ありがたいことに、本当にいろんな方からご縁をいただいて。あと日本酒とか。結構好きなんです。
高須:お酒飲まれるんですか?
相場:お酒は好きですね。ワインから始まり、日本酒も好きになりました。昔フランスで「日本ってどんなお酒があるんだ? どんな味?」って聞かれて、答えられなかったことがきっかけですね。
高須:ああ、確かに。
相場:これはいけないと思って、一時帰国した際に日本酒を試しました。そのときにいただいたのが『新政のNo.6』というお酒、もうめちゃくちゃおいしくて。そこから日本酒でも何か仕事をしてみたいと方々に話していたら、「俺の身内『新政』だよ」って方がいらっしゃって。「来週秋田の蔵に行くんだけど、よかったら来る?」って言われて、ついて行ったんですよ。
高須:すごい縁だね。
相場:そのときにご紹介いただいた方が、新政酒造の佐藤祐輔さん。今の蔵元の社長なんですけど。初めてお会いした際に「あれ? それもしかして、サンローランですよね?」みたいな。
高須:え!
相場:まさに自分がデザインで携わった服を着ていらっしゃったんです。
高須:まったく向こうは知らずに?
相場:はい。
高須:えー、面白い。縁だね。
相場:「これも何かのご縁なので、何かいっしょにやりませんか?」って話になって。行く前から蔵の写真とか記念に撮れたらいいなと思っていたんですけど、「蔵の写真よかったら撮ってよ」と言っていただいて。
高須:へぇー。
相場:ファッションアートみたいな切り口で撮ったんですけど、新政さんの頒布会の限定グッズだったり、書籍を出版された際にもイメージビジュアルとして使っていただいたりしています。
高須:へぇ、すごいね。縁だね。
相場:本当ご縁だなと思っていて。あとは言葉にしていくことって大事なんだなと思いました。
高須:サンローランの服着てるってすごいですよね。
相場:びっくりしました。本当に(笑)。「これはもう始まった」みたいな。
高須:それ、なんかやらないとダメですよね。
相場:本当にカメラ持って行ってよかったなと思いました。
――アーティストの道を選んだ相場さんの思い、いかがでしたか? 次回のゲストはお笑いコンビかもめんたるの、う大さんです。お楽しみに!
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