放送作家の高須光聖さんがゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
社会の第一線で活躍されている多種多様なゲストの「生き方や働き方」「今興味があること」を掘り下げながら「キャリアの転機」にも迫ります。
今回のゲストは、お笑いコンビ『かもめんたる』の岩崎う大さんです。キングオブコントで優勝するほどの実力派芸人でありながら、世間に認められていないと感じてきたという岩崎さん。芸人としての活動に悩む中で岩崎さんが挑んだ新たな生き方とは? 多才な岩崎さんの挑戦の物語をご覧ください。
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岩崎 う大(いわさき・うだい) 槙尾ユウスケと組むお笑いコンビ『かもめんたる』のメンバー。主宰する『劇団かもめんたる』では脚本、演出、俳優を務め、劇作家としても高い評価を受けている。
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高須 光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。
高須さんも嫉妬するセンス。優勝後もキングオブコントの舞台へ
高須:この業界入って何年目?
岩崎:20歳…だから20年は超えていまして。キングオブコントで優勝してから10年たちました。
高須:そんなたつの、あれ(笑)。あの俺…なんか電話してて、念でそこから出てくるみたいな(ネタ)。あれ何やっけ?
岩崎:あれはですね、2013年にわれわれ優勝して。で、優勝したにもかかわらず、その1年間で全然ハネなくて。
高須:(笑)
岩崎:それで次の年にトロフィーを返しに行くんですよね。そのときにキングオブコントの本番裏で(ダウンタウンの)松本(人志)さんに「あれ? 自分ら出んかったんや?」みたいに言われて。優勝しても出ていいんだってそこで初めて知って、次の年からまた出始めたんですよ。
高須:そっかぁ。
岩崎:そして、2016年でもう1回決勝に上がれたんですよ。そのときに披露したネタが遠距離恋愛で…。
高須:そう。俺あれ好きやねん。
岩崎:(笑)。電話している彼女の所に電話の相手が出てきて、「え?」みたいになって。電話の相手が「今、俺の念送ったけど、届いてる?」みたいな感じに言って、「いや、いるけど…」みたいな(笑)。
高須:いや、あれ俺好き。あれ覚えてるわぁ。
岩崎:ありがとうございます。
高須:なんやったら(2013年優勝ネタの)『白い靴下』よりもそっちのほうが覚えてる。
岩崎:本当ですか。あの『念』のコントは確かに発想一発っていうか。ぼくがほとんどしゃべらないんですよ。
高須:そうやったっけ?
岩崎:はい。ずっとぷかぷか浮いている感じの。
高須:そう! 気持ち悪い。「何やってんねん、こいつ」と思って。
岩崎:(笑)
高須:「なんて気持ち悪いこと考えんねん」と思って、すごい残ってる。
岩崎:あれを思いついたときは、すごくいいネタだなとは思って。
高須:偉そうなことを言うようやけど、あのコントは「あ、いいセンスしてるな」って本当に思ったの。「こんな気持ち悪いの考えんねや」って。ああいうの好きなのよ。今までにない、一線越えてくるような設定が好きで。ああいうのを見ると、「うわ、なんかええのん見つけたな」と思ってまうねんな。嫉妬心が湧くよね。
岩崎:ありがとうございます。ぼくとしては2013年に優勝したときに、「いや高須さん、俺を見つけてくださいよ」っていう気持ちだったんですよ。
高須:そうなんや(笑)。
岩崎:そこから10年で、高須さんとこれが初めての仕事です。
高須:仕事というか、会うことはなかったもんね。まあ、俺が見つけなあかんのやけどな。
岩崎:2016年以降も何回かキングオブコントに出てはいるんですよ。それである年の準決勝の日にTBSで高須さんとすれ違って、「いつも気持ち悪いの、よう思いつくな」みたいなことを言ってくれたんですよ。そのときに「あ、認識してくれてるんだ、ちゃんと」っていう喜びはあったんですよ。
高須:してるよ、そりゃ。全然してる。いや、面白いことは分かってるし、発想がいいのも分かってるけど、テレビで使うときに難しいと思ったのよ。基本俺はコント番組を作っているわけじゃないから。やっぱりなんか企画がある中で「どういう人が必要かな、この企画」って思うときに、なんかそこにはう大が出てけぇへんのよね。
岩崎:その道しるべを立ててほしかったです。「う大の使い方はこうやで」っていうのを。
高須:そうね(笑)。う大の使い方なぁ。
高須・岩崎:(笑)
反響のなさに悩んだ日々。1本の寸評で得た初めての手応え
高須:今、う大の使い方はどういうのがポピュラーなの?
岩崎:今はちょっとお笑いを審査するとか、お笑いについて語るみたいなのが、ぼくの中では自分ですごい自信がある。自分のコントは面白いって自信はあるというか、自分が好きなものができているっていうのがあるから、それを世の中にバーンって毎回ぶつけているんですよ。演劇もそうなんですけど。だけどやっぱり、自分の労力とか自分のエネルギー以上の返りが来ることがないんですよ。「今回もあんまり反響なかったな」とか。
高須:ネガティブやなぁ。
岩崎:(笑)。でも実際そういう感覚としてあるんです。
高須:でも、使いづらいのと面白いと思ってるのとは違うからね。だからう大のこと面白いと思ってる人はたくさんいると思う。
岩崎:ぼくは今までやってきたことに対して「もうちょっと反応あっていいんだけどな」ってたいてい思ってきたんですけど、『note』っていう媒体で賞レースの寸評みたいなのを400円ぐらいの記事で出したところ、すごい反響があって。自分がやった労力以上の反応が、初めて仕事であったんですよ。よく考えたら、仕事ってこういうもんだよなと思って。
高須・岩崎:(笑)
高須:そう。お金を生んで仕事になるからね。
岩崎:そうなんですよ。やっぱぼくがお笑い寸評するっていうのは、ちょっとやぼみたいなところもあるじゃないですか。その感覚はもちろんあるんです。でもずっとお笑いの女神に振り向いてもらえない状況の中で「俺がやっていることがお笑い界にとって必要なことだったら、反応があるはずだ」「じゃあ俺がやっていることって、結局お笑い界に必要ないことなのかな?」とか思っていたときに寸評を出して、反応があったので。じゃあこれはぼくが思っているかっこいいことではないかもしれないけど、実は何かの正しいことではあるのかなぁと。それが何かを見つけられてはいないんですけど。
高須:でもそれはたぶん、う大がコントを一生懸命やり尽くしてきたから。さっき言ったみたいに、“面白いコントを作る人間”と“売れる人間”って違うから。だから面白いコントを作る人間としては、みんな認知はしてんのよ、絶対に。そういう意味じゃその寸評は、世の中の人が「この人の目になってコントを見たら、どういうふうに見えているのかな」っていう疑似体験をできる、いいツールになったんやと思うで。
岩崎:そういうことなんですかね。
高須:だから(コントを一生懸命)やってきたからだって。やってないやつの目になりたくもないし、そいつの疑似体験なんかしたくもないし。それだけコントに向き合ってきた人だっていうのは、ちゃんと世の中に刺さってんのよ。だからやっぱり評価も知りたいし、無駄ではないのよね。
岩崎:そうですね。今ちょっとそこに流れ着いて。そういう関連のお仕事もちょっと。
高須:すごいねぇ。なんか流れ流れていろんなとこに行くもんやな。
ゆくゆくは役者に。芸人だからたどり着ける作品を作りたい
高須:役者としてこんなうまかったんやと思って。今回ちょっと(『劇団かもめんたる』の映像資料を)見させてもらったのよ。「ああ、こんな演技すんねや」と思って。もちろんキングオブコントで優勝してる人たちっていうのは基本的に演技うまいんやけど。ただ、「あ、こういう芝居もできんねんなぁ」っていうのが、今回初めて分かって。
岩崎:やっぱコントはデフォルメした濃い演技で、お芝居だとちょっとグラデーションがある感じなので。その辺をちょっと見ていただけて、役者としても良いと思っていただければ。
高須:思った。俺、たぶんなんかやるときには絶対う大呼ぶわ。
岩崎:…約束ですよ?
高須:ぼくがやるときにはね?
岩崎:任せてください。もうすべてをささげます。
高須・岩崎:(笑)
高須:いやいやそんな、ささげんでいいよ(笑)。でも本当にうまかった。
岩崎:ありがとうございます。
高須:あの『キジコ』?
岩崎:はい、『奇事故』。奇妙な事故と書いて『奇事故』という話で。ぼくはお父さん役で。娘がちょっと奇妙な事故に遭ってしまって、催眠術が解けないで、ずっと自分を海賊だと思い込んで生きていってしまう少女を持つ父の役をしました。
高須:そう。いや面白かった。設定も面白かったし。途中で2人っきりのシーンになるやんか。あのときの芝居が、すげえいい演技してるなと思って。
岩崎:ありがとうございます。あそこは泣かせるシーンです。
高須:そう。あの芝居がすごい良くて。「あれ? なんかグッとくる芝居してるやん」と思いながら。で、どうなるんかなと思ったらいいオチになってるから、「ああ、うまいなぁ」と思って。「あ、このやり方すげぇうまいし、緩急ついてすごいなぁ」と思って。何よりあそこでグーッといい芝居してないと、あの緩急はつかへんから。
岩崎:ありがとうございます。もうぼくは、ゆくゆくは役者になりたいんです。
高須:(展開が)早いなぁ(笑)。
岩崎:10代のころの夢はコンビで芸人になってとか、そんなことを思っていたんですけど、どうやら自分には違うなぁっていうことに気づいてきて。
高須:それはなんで違うなと思い出したの?
岩崎:…しゃべっているところを見られるのが嫌だった。
高須・岩崎:(笑)
高須:あかんやんか、それ。それ裏方の考えやで? 俺とおんなし感覚やで、それ(笑)。
高須・岩崎:(笑)
岩崎:なんかテレビで見ているときは自分もできるつもりでいたんですけど、やっぱ改めて大勢を目の前にすると全然違うなぁと思って。でも作ったものを演じているところは見られたいんですよ。
高須:すごいね。そこはやりたいねや?
岩崎:そこはやりたいです。やっぱり自分が考えたものは、自分がやったらいちばん面白いっていうのはあるんで。
高須:そりゃそうやな。間も、顔も、動きも。全部そうやもんね。
岩崎:やっぱ芸人がいいのって、演出、作家、演者、全部自分がやるから一切のロスがないじゃないですか。
高須:そうね。ズレがないよね。
岩崎:ズレがないです。そこが芸人だからこそたどり着けるところ。しかもそれを笑いでやっているっていうのは、なんかすごくいいなって思うんですよね。やっぱ演劇では作・演出をして演技までやっている人はあんまりいないんで。ぼくは芸人出身だから、あえて自分のところではそのメリットを活かすためにも、作・演出して自分も出ていって。今はそんな形でやっています。
「うまい飯を食える作品が良い」 “う大流”作品の特徴とは
高須:なんか書き手によってリズムが違うやんか。なんか“う大流”のところってあるよね。不思議な、ちょっとアートっぽく感じる瞬間も。
岩崎:あ、そうですかね。
高須:何やろうね? 見させてもらった『奇事故』もそうやけど。2人が椅子持ってスーッと離れて、照明だけでボーッと合わせるとことかも、「あ、きれいな演出するなぁ」と思って。
岩崎:本当ですか。
高須:「あ、こんなきれいな演出すんねんな」「こういうテンポなんやなぁ」と思って。それも初めて感じた。それはしっかり見させてもらったことなかったから。もっと目の前で見たら、もっと違うんやろうけどね。
岩崎:ぼくはちょっとリアルめのリズムっていうか。ちょっとゆっくりっていうか。そういうのもなんかあるかなと。
高須:そうやんな。そのシーンの丸め方も、こんなきれいにするんやなと思って。良かったよ。もっとなんかどぎつくいくのかなと思ったら、意外とロマンチックな感じで。
岩崎:コンビの単独のときからそうなんですけど、ぼくの中に「終わった後にうまい飯を食える作品がいいよな」っていうのがやっぱあるんですよね(笑)。
高須:(笑)。分かる。そうやな。ほんまやな。
岩崎:ぼくも(舞台を)そうやって見るタイプなんで。「きっとう大は本当はこういうこともやりたいんじゃないかな」みたいに見てくれる人がいるのは、ある意味うれしいというか。
高須:結婚してんの?
岩崎:子どもが3人いて、いちばん上は高1です。
高須:そっか。男の子? 女の子?
岩崎:いちばん上は男で、小学校4年生の男の子と小学校2年生の女の子が。
高須:女の子が1人いてんねんなぁ。
岩崎:はい。だからちょっとそこはありましたね。自分の娘のあれと。
高須:たぶん娘さんがいるような感じはした。いろんなことを頭の中で巡らせて作られたのかなと思いながら。
岩崎:ちょっとそこまで高須さんにちゃんと楽しんでいただけたのは光栄です。本当に。うれしいです。
――次回もお笑いコンピ『かもめんたる』の岩崎う大さんをゲストに、キャリアの転機やマイルールを伺います。お楽しみに!
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