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悩める日々で開花した才能。『かもめんたる』岩崎う大の新たな生き方|ラジオアーカイブ

孤独の中で生まれた才能。TIDEの下積み時代と成功への軌跡|ラジオアーカイブ

前編:2024.1.28(日)放送回
TIDEさん
アーティスト

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「空想メディア」ロゴ04

放送作家の高須光聖さんがゲストの方と空想し、勝手に企画を提案する『空想メディア』。
社会の第一線で活躍されている多種多様なゲストの「生き方や働き方」「今興味があること」を掘り下げながら「キャリアの転機」にも迫ります。

今回のゲストは、アーティストのTIDE(タイド)さんです。絵は独学だというTIDEさん。なぜ絵の道に進み、いかにして世界的アーティストへと駆け上がったのか。所属するギャラリー「HENKYO」オーナーのサカグチコウヘイさんとともに、その成功への軌跡を振り返ります。

  • TIDE

    TIDE(タイド) モノクロームで描かれる独自の世界観で、国内外で高い評価を受けるアーティスト。
    代表作は猫をモチーフにしたキャラクターが描かれた『CAT(キャット)』シリーズ。

  • TIDE

    サカグチ コウヘイ 渋谷区にあるギャラリー「HENKYO」のオーナー。
    TIDEなど国内外で注目されるアーティストのマネジメントを行う。

  • 高須光聖さん

    高須 光聖(たかす・みつよし) 放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティーなど多岐にわたって活動。
    中学時代からの友人だったダウンタウン松本人志に誘われ24歳で放送作家デビュー。

留学先でホームシックに。孤独を乗り越えるため始めた絵画

高須:今回のゲストはアーティストTIDEさんです。

TIDE:よろしくお願いします。

高須:そして、今回はもう一人の方に来ていただいています。

サカグチ:TIDEの所属するギャラリー「HENKYO」の代表のサカグチです。

高須:(TIDEさんは)今おいくつなんですか?

TIDE:今39歳です。

高須:この業界で「よし、俺プロでやっていこう」って思ったのはいつぐらいですか?

TIDE:24、5(歳)ですかね。プロでやっていこうというよりも、趣味の延長で始めてしまったという感じなんですけど。

高須:それまでは普通の学校ですか? 別に芸大に行くわけでもなく。

TIDE:4年生大学で英文学を勉強していました。

高須:全然違うじゃないですか。

TIDE:そうですね(笑)。

高須・TIDE:(笑)

TIDE:絵は昔からノートの落書きみたいにずっと描いてはいたんですけど、大学に3年通ったあとに、ちょっと海外に1年行くことになって。そこでホームシックなのか、すごい孤独になってしまって。「なんとかこの1年間を乗り越えよう」っていうことで絵を描き始めたんです。

高須:「なんかここにおっても面白くない。なんかモヤモヤするな」と思って描き出したのがきっかけで?

TIDE:そうですね。モヤモヤするっていうか、自分が外国人になるっていう経験をそのとき始めてしたものですから。頼りになるものもないし。

高須:友達もいてないしね。

TIDE:そうそう(笑)。孤独で時間だけはすごいたくさんある。

高須:じゃあ着いて結構すぐにホームシックに?

TIDE:そうですね。それで現地のおばさんたちが通う絵画教室みたいな所に自分で電話して行ってみて。3〜4カ月ぐらいそこで描いたのかな。だんだんコミュニティーができてきたんですけど、それでも早く日本に帰りたいなぁっていう気持ちはずっと変わらず。

高須・TIDE:(笑)

手本は水木しげる。キャリアの原点となったオーストラリアでの初の作品

高須:海外はどちらに行かれたんですか?

TIDE:オーストラリアですね。

高須:オーストラリアで絵を描かれているときに、「あれ? なんか楽しいな」って思うきっかけがあったんですか?

TIDE:現地の蚤の市みたいな所で絵を売っている集団がいて。週末になると毎週そこに出かけていって絵を見せ合っていたら、「交換しようよ」って言われて交換したんですよ。そこのおばさんと。それで「私たちのグループで今度ショーをやるから、あなたもこの絵、ちょっと出してみない?」って言われて。

高須:ほう。

TIDE:原画は自分で持って帰りたかったので、プリントを作ってそのグループショーに出店してもらったんですね。でもそのタイミングでぼく、帰国しなきゃいけなくて、実際そのショーは見ていないんです(笑)。

高須:(笑)

TIDE:でも「あのプリント、200ドルぐらいで売れたよ」って言われて。そこがスタートかもしれないですね。

高須:顔は知らないけど、自分の作品に好意を持ってくれる人がいることにちょっと喜びがあったのかな?

TIDE:かもしれないですね。しかもそれがオーストラリアっていう、自分に何のゆかりもない土地で。なんか認められた感じがしたんですよね。だからそれがうれしかったのかもしれないですね。

高須:すごいね。初めて出した物が売れちゃって。でもそのときって、今の代表作になるあの『CAT』じゃないわけでしょ? 木の絵ってどうやって描いてたんですか?

TIDE:ペンだったんですよ。水木しげるさんの『のんのんばあとオレ』っていう本を1冊持って行って。寂しかったときのよりどころとしてそれをずっと読んでいたんですよ。

高須:水木さんの本好きなんですか? ええー! イメージが違う(笑)。

TIDE:そうですか(笑)? それで、水木さんは点描画といって、テンテンテンとすごい細かく描く手法で背景を描いているんですね。それを自分でも描いてみようって真似して。現地にある、すごい根を張っている大きな木の前で、毎日テンテンテン…って描いていたっていう。

高須:その最初の絵は、どれくらい時間がかかったんですか?

TIDE:2カ月くらい毎日行って。

高須:毎日行って(笑)? その原画ってまだ手元に?

TIDE:もちろん残っています。B4サイズにいかないぐらいのちっちゃい絵なんですけど。

高須:それに2カ月かけて(笑)。

TIDE:そう。ずっと描いて(笑)。

高須:それ俺、絶対無理やわ。よくやりましたね。

TIDE:でもそれがなんか自分の救いだったんですよ。それやってさえいれば。

高須・TIDE:(笑)

高須:どんだけ楽しくなかったかって話ですよね(笑)。

高須・TIDE:(笑)

「ちょっと東京に行ってくる」根拠のない自信で上京し、絵の道へ

高須:向こうで絵以外に「こんなことやっていく人生もいいかな」とかよぎったりしなかったんですか? ほかの自分の未来というか。

TIDE:幼稚園で日本語を教えるボランティアみたいなことをちょっとやっていたんですけど、それは少しあるかなぁとは。

高須:先生ってことですよね?

TIDE:そうです。大学が文学部なんですけど、英語の教師になるっていうコースがあったので、そこで教員免許を取ったりはしていたんですよ。だからそれも一つの(選択肢)。

高須:全っ然人生変わってますやん。

TIDE:そうですね。

高須・TIDE:(笑)

TIDE:「普通に就職はできないだろうな」ってなんとなく思っていました。

高須:ええ?

TIDE:オーストラリアの時間で過ごしていたら、すごくゆっくりすぎて(笑)。帰国してからの周りの就職活動とかのスピードに全然。

高須:ついていけなくて。

TIDE:ぼくはもう、ゆっくり過ごしてましたね。

高須:でも帰国されて「ちょっと就職する気がなくて」って言うと、お母さんお父さんから「1年間オーストラリアに行かせたのに何を言うてんの?」とかってことはなかったんですか?

TIDE:もちろんそうですね。

高須:(笑)。それはどういうふうにお母さんに?

TIDE:説得も何もしていないです。卒業してから1回静岡の実家に帰って。「ちょっと東京に行ってくる」って言って出て、そのまま東京に住んでしまいました。

高須・TIDE:(笑)

高須:何も言わず「ちょっと東京行ってくる」のまま帰らず?

TIDE:絶縁とかではないですよ?

高須:もちろん、もちろん。向こうからすると「就職活動すんのかなぁ?」ぐらいに思ってたんでしょうね。

TIDE:当然そうじゃないですかね。絵を描いていくとは伝えていなかったんじゃないかなぁ。自分の中では決めていたんですけどね。

高須:(絵描きになることを)決めたのは向こうで絵が1枚売れたことで決めたのか、戻って来てなんとなく「やっぱこっちだ」って思ったのか。

TIDE:戻ってきて最後の大学4年生の1年間を日本で過ごすんですけど、その間になんとなくそういうふうに思っていたのかもしれないです。

高須:絵の勉強をしていたわけでもないじゃないですか。それで「よし。絵や」ってなかなかいけないじゃないですか。直感として、自分がやっていけそうな気持ちはあったの?

TIDE:根拠のない自信はあったと思います。本当に根拠のない自信だったと思います。

埋もれ続けた十数年間。売れないことへの不安はなかった

高須:東京に来て描き始めてから、どういうふうに今に至るんですか?

TIDE:そこからサカグチさんと会うまで12、3年かな。もうちょっとかな。その間も絵はずっと描いていたんですけど。

高須:ご自身で個展を開いたり、どこかに見せたり送ったりとかしていたんですか?

TIDE:そうですね。イラストレーションみたいな雑誌のカットとかも描いていたりはしていたんですけど。

高須:ああ、なるほど。お仕事としてね。

TIDE:そうです、そうです。でも基本的には自分の作品というものをずっと描き続けていまして。知人のカフェで展示させてもらったり、たまには貸し画廊みたいなギャラリーに(展示したり)。

高須:どうですか? 売れましたか?

TIDE:いや、ほとんど売れていないんじゃないですかね。

高須:じゃあちょっと難しいと思い出すじゃないですか。10年もなかなか売れないと。根拠のない自信があったっておっしゃっていましたけど、でもやっぱりどっか不安もあるじゃないですか。「このまま俺、こういう感じで生活していくのかな」とか。そんな恐れは全然なかったですか?

TIDE:不思議となかったんです(笑)。鈍感というか、ね。なんて言うんでしょうね。

高須:「まあ、なんとかして食ってはいけるか」ぐらいな感じはずっとあった?

TIDE:うーん…、そうですね。「貧しくてもなんとかなるだろうなぁ」っていう気持ちがずっとありました。

高須:すごいね。その状況が10年ぐらい続くわけじゃないですか。描いてきた中には自分で「これいい作品やな」って思えるものも、もちろんあるわけでしょう?

TIDE:もちろん。

高須:それが売れたことはあるんですか?

TIDE:数点はあるんですけど。

高須:本当数点ですか?

TIDE:ええ。展示をするたびに「今回めちゃくちゃいい」「今回いちばんすばらしい」と毎回思っているんですけど、それとお客さんの反応とか購入してくれるかどうかというのは、やっぱり別物だなと思って。

高須:いや、そうなんですよね。ファッション業界の人に、「ネットでバズったりしてみんなが“かわいい”“かっこいい”って言うものと売れるものは違う」って言われたんですよ。

TIDE:そうかもしれないですね。

高須:絵もそういうのがあるんだろうな。かわいいけどなんかお金が出ないものと、なんか惹かれて買っちゃうみたいな。

画像02

鬼気迫る大作から始まった成功までの作品遍歴

高須:(サカグチさんに出会うまでの)10年ぐらいで何作品ぐらい描いたんですか?

TIDE:数え切れないですね。最初に描いていた点描画っていうのは2カ月に1枚とかしかできないペースなので、年間10枚ももちろんできないわけですね。それはあまりにも時間かかるってなって。

高須:これは非効率やな、と。

TIDE:そう(笑)。非効率というか、ちょっと飽きちゃったのもあるんですけど。

高須:もっと早う飽きてください。長すぎます。

高須・TIDE:(笑)

TIDE:点描画を3年ぐらいやった後に鉛筆画に移るんですね。鉛筆でグラデーションを作って人物や風景を描いていたんですけど。

高須:それはどんな風景とかどんな人物を描くんですか?

TIDE:最終的には海の風景。海の夜景を描いていたんです。

高須:なるほど。鉛筆で。

TIDE:そうです。海の風景に家の明かりがたくさんともっていて。幻想とかファンタジー寄りの絵だったかなと思いますけど。

高須:そのときにサカグチさんはもう、TIDEさんの絵は知っていたんですか?

サカグチ:まったく存じていませんでした。

高須:(TIDEさんが)鉛筆画とか点描画を描いているときに作品を見ても、何も引っかからなかったと思いますか?

サカグチ:そのときだったらそうかもしれないですね。でも、オーストラリアで初めて描いた点描画の木の絵。ぼく実際見せてもらったことあるんですけど、手前みそになっちゃうんですけど、「天才か?」っていう(笑)。

高須:本当?

サカグチ:本当です。

高須:後付けじゃない? それ。

サカグチ:後付けじゃないです。

高須・TIDE・サカグチ:(笑)

サカグチ:本当にびっくりして。

高須:その絵見たいんですけど、写真とかないですか?

サカグチ:ええー、あるかなぁ…。「1枚目の絵がこれ?」っていう大作なんです。あと、「どんだけ孤独抱えてんの?」っていう(笑)。

高須・TIDE:(笑)

サカグチ:鬼気迫る。

高須:なるほどね。それがちゃんと絵に表現されていたんですね。

サカグチ:そうなんです。その作品の深度というか、深みがすごく感じられるというか。

TIDE:つらさがよく表れているんですかね。

高須:本当? 自分でも分かるくらい?

TIDE:そうですね。

高須:どんだけ悲しかったんやろ。

高須・TIDE・サカグチ:(笑)

TIDE:あ、(写真)ありました。

高須:あった? うーわぁ(笑)! すごいね、これ! それはこれ売るの嫌やわ。

TIDE・サカグチ:(笑)

アクリル画に転向して広がった可能性と世間からの注目

高須:納得できるものがその都度出せているのにもかかわらず、なんか世の中に認めてもらえないような。なんかこうフツフツと(していた)?

TIDE:そんな鬱屈とした感じはまったくなかったです。結構ひょうひょうと。淡々と。

高須:自分でこぢんまりでも個展を開ける楽しみがずっとあったってことですね。

TIDE:そう。売れる・売れないはあまり関係なかったかもしれないですね。

高須:絵が世の中に注目されたのは、どういうときからですか?

TIDE:2018年ぐらいに、今描いているようなアクリル画を始めるんですけど、たぶんそのぐらいからかなと思います。

高須:それはどういうきっかけでアクリルにいったんですか?

TIDE:五木田智央さん(※)の展示を見たんですよ。あの方が筆でさっと描いて成立させるようなディテールの絵をアクリル画で描いていて。ぼくがちまちまとやろうとしていたことを一瞬でやってのけているっていう、絵の具の良さをそのときに知って。ぼくも挑戦してみたいと思ったのが始まりだった気がします。

(※)画家。ドローイング(単色の鉛筆やペンなどの線で描かれた絵)やキャンバスにアクリルガッシュで描くモノクロームの人物画の作品が高い評価を得ている

高須:どうでした? 描いてみて。

TIDE:難しいと思う反面、「これは先が広がっている」って。すごく直感的に、そういうものを感じましたね。何を描くか全然決めていなかったんですけど、いいように広がっていくだろうなっていう感覚はありました。

――TIDEさんの軌跡、いかがでしたか? 次回はTIDEさんを世界的アーティストへと押し上げたサカグチさんとの出会いについてお伺いします。お楽しみに!

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