人間による運転をコンピュータが補佐するか、あるいは人が全く操作しなくても目的地に行ける「自動運転車」の開発が世界各国で急速に進んでいます。エネルギー消費や運転する人の疲労を抑え、自動ブレーキなどで従来よりも安全に移動できる手段として期待されています。
人間とコンピュータの分担度合いによって、自動運転はレベルが4~5段階に分かれます。ドライバーがほとんど操作しないか、人間を乗せずに荷物を運ぶ無人トラックのようなレベル4~5相当の自動運転は、実現までに更なる技術開発と法規制などの環境整備が必要です。ドイツのアウディ、日本のトヨタ自動車やホンダなどが各社が実現を急いでいるのが、車載システムが主で人間が補助するレベル3です。
人間が運転するものの、コンピュータから大幅な支援を受けるレベル2相当の車は、既に手が届く存在になりつつあります。日産自動車は2016年夏に発売したミニバン「セレナ」の新型に単一車線なら自動走行できる機能を盛り込み、2017年秋発売のEV新型「リーフ」にもさらに拡充した自動運転技術を搭載しました。
自動運転車には、周囲の状況を把握するセンサーや地図情報、それに基づき車体を適切に操作する人工知能(AI)など多様な機器・システムが必要です。自動運転レベルが1~2程度の車種であっても、カーナビだけでなく車全体で外部と情報をやり取りできる「コネクテッド・カー」(インターネットとつながった車)としての機能が求められるようになりつつあります。
自動運転の市場拡大をにらんだ投資や買収・提携、新規参入が世界的に相次いでおり、部品メーカーもこれに対応できる開発戦略や技術力を持つことを迫られています。また自動車のもう一つの潮流であるエコカー(環境配慮車)化で、将来はガソリンエンジン車やディーゼル車を廃止・制限する方針を示す国が相次いでいます。自動運転やコネクテッド・カー化は、動力として電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)などのいずれを主流として選択するのか?という各国政府の産業政策や自動車メーカーの戦略とも密接に関わります。
こうした背景もあり、自動運転市場の主導権は従来の大手自動車メーカーが握るとは限りません。アメリカではかつてのビッグ3(大手自動車メーカー3社)がリーマン・ショック後に破綻や再編を経験する一方で、テスラがEV大手として急速に台頭しました。高いAI開発能力や潤沢な資金を持つグーグル、アマゾン・ドット・コムなど大手IT(情報技術)企業が独自ブランドの自動運転車を開発し、製造を外部委託して自動車メーカーを下請け化する可能性もあります。
また建設・鉱山機械や農機の自動運転化も開発が進んでいます。(協力:日経TEST)
自動運転の車を“開発・実装する”のはどんな企業?
自動車業界は安全や運転しやすさを高める過程で、これまでも初歩的な自動運転の技術を開発・実装してきました。自動ブレーキ機能などを盛り込んだSUBARU(旧・富士重工業)の運転支援システム「アイサイト」はその代表例です。自動運転とEVなどのエコカー・シフトという二大潮流の中でも、完成車・部品のメーカーは長年培ったノウハウや技術に“頭脳“(=AI)や“眼”(=カメラやセンサー)などを加え、今後も車の開発や生産、販売で主導権を維持することを目指しています。
大手自動車メーカーとはいえ、従来の取引先を含めた自社グループ内だけで、自動運転やコネクテッド・カー、エコカーを巡る国際競争に勝つことは困難です。トヨタ自動車は2017年にマツダとより深い資本・業務提携を決め、ダイハツ工業やスズキ、SUBARUなどを含めた陣営を形成しました。このほか米シリコンバレーにAIの研究所(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)を設立。KDDI、NTTという通信大手からAI企業プリファードネットワークス(東京)のようなベンチャー企業まで、広範な国内外企業と協業しています。
ホンダは安全運転支援システム「Honda SENSING」を搭載した車を販売するとともに、ソフトバンクグループなどと「運転手と話せるAI車」の研究を始めています。
自動運転やEV化は自動車部品などの協力企業にも変革を迫ります。従来製品が不要になったり、異業種からの参入に晒されたりするためです。例えばデンソーは2017年、AIなどを研究するために基礎研究所を「先端技術研究所」に改組するとともに、自動車向け半導体開発の新会社を設立しました。
(協力:日経TEST)
- 関連する企業(一部の例・順不同)
- トヨタ自動車/日産自動車/三菱自動車工業/ホンダ/SUBARU/マツダ/スズキ/デンソー/富士通テン/日本プラスト/ルネサスエレクトロニクス/日本プロセス など
自動運転の車を“支える”のはどんな企業?
「えっ!?あの電気機器メーカーにお勤めなんですか!それならぜひ弊社にきませんか。」――2017年夏、ある自動車メーカーがJR南武線沿線に展開した求人広告が注目を集めました。川崎市と東京・多摩地区を結ぶ南武線の沿線には大手の電機・精密機械メーカーの事業所が集まっています。そうした会社からの転職を誘うこの求人広告は“自動車のIT化”が加速していることの象徴でした。
電機メーカーは従来も自動車メーカーから電子・電装部品の製造を請け負ったり、カーナビを販売したりしてきました。自動運転とEVへのシフトで、自動車関連での電機・IT企業の商機は増えます。
BtoB(企業間)事業の強化を掲げるパナソニックは、EV電池なども含む自動車関連を「オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社」として、4大カンパニーの一つに位置づけています。日立製作所も本体での取り組み以外に、日立オートモティブシステムズというグループ会社を持っています。
カーナビを手掛けてきたパイオニア、JVCケンウッド、クラリオン、さらにコニカミノルタなども、IT化が進む車向けのセンサーや光学機器の開発に力を入れています。こうした車載機器やネットから得た進行方向などの情報を、現実の風景に重ねてフロントガラスに表示する自動車版AR(拡張現実)技術も、日本精機などにより実現されつつあります。
自動運転は居眠りやよそ見など人間のミスによる危険を軽減する半面、システム・トラブルやサイバー攻撃への対応という課題もあります。このためセキュリティソフト開発や保険の業界も、自動車のIT化に詳しい人材を求めています。
(協力:日経TEST)
- 関連する企業(一部の例・順不同)
- 日立オートモティブシステムズ/三菱電機/ゼンリン/ダイナミックマップ基盤/パイオニア/オムロン/富士ソフト/萩原電気/日本IBM/パナソニック/シマンテック/ネットエージェント/損害保険ジャパン日本興亜/三井住友海上火災保険/ティアフォー など
自動運転の車を“使う”のはどんな企業?
完成車やその基幹技術・部品のメーカー側からではなく、そのサポートやユーザー側から自動運転の活用を探る動きも活発です。その代表例がDeNA(ディー・エヌ・エー)で、一般的な乗用車のほかタクシー、バスなどさまざまな自動運転の実験に取り組んでいます。DeNAと連携する会社の一つであるヤマト運輸は自動運転をトラック運転手不足に対する長期的対策として、ドローン(小型無人航空機)と並んで注目しています。
国土交通省や自治体が民間企業などと組み、自動運転車を過疎地住民の足として活用することを目指す実験も、各地の「道の駅」などで行われています。
このほかコマツや鹿島などは建機の、クボタなどは農機の、ヤマハ発動機とティアフォー(名古屋市)は低速・近距離車両の自動運転開発にそれぞれ取り組んでいます。
(協力:日経TEST)
- 関連する企業(一部の例・順不同)
- DeNA(ディー・エヌ・エー)/ロボットタクシー/ヤマト運輸/豊田通商/ソフトバンクグループ/SBドライブ/イオン/クボタ/鹿島/コマツ/ヤマハ発動機
キャリアアドバイザーが注目した転職事例
事例1
- 前職
- 総合電機メーカー 組み込み設計
- 転職先企業
- 自動車部品メーカー 自動運転開発エンジニア
家電製品の組み込みエンジニアが、大手自動車部品メーカーへ。組み込み設計の技術が異業種でも高く評価され、転職に至る。
事例2
- 前職
- 国立の研究機関 データサイエンティスト
- 転職先企業
- 自動車メーカー データサイエンティスト
経験は浅かったもののデータサイエンティストとしての実務経験が評価された。
センサー・通信、AI、セキュリティなど他業種からの採用も広がる
自動運転は、センシング・通信によって自動車自体や周囲の状況を常に把握し、そのデータを元にAIによって制御を決め、その通りにソフトウェアで車を動かす技術です。そこには複数の要素技術が使われており、さまざまな専門領域の経験者を集めて開発が進められています。
センシング・通信には、ネットワーク、通信プロトコル、無線、セキュリティ技術などが必要なため、通信キャリアや、ネットワーク機器メーカーにいるエンジニアなどに活躍の場があります。また、AIの頭脳部分のアルゴリズム開発に必要な、データサイエンティスト、画像処理・機械学習の領域に強い人のニーズも高まっています。
これまで、自動車業界の中には他業種からの採用はあまり行ってこなかった会社もありましたが、スピード感をもって自動運転の開発を進めなくてはならない今、システムインテグレータ(SI)やWebサービス会社などの経験者にも門戸を開いています。
また、自動運転車をサービスに活用する会社も出てきています。自動運転車が浸透していく過程で、そうしたサービスとユーザーを結びつけるインターフェースとしてのWebサービスやスマートフォンアプリの開発エンジニアも、今後ニーズが高まってくるでしょう。