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平成“はたらくファッション”振り返り年表平成“はたらくファッション”振り返り年表

オフィスファッションは
どう変化したの?

バブル期(〜平成前期)

時代を表す派手なオフィスファッション

湾岸戦争・バブル経済崩壊・オウム事件や阪神大震災などが続く混迷期。ポケベル・携帯などの情報ツールが発達し、雑誌やブランドが提示するファッションだけでなく、街から発信されるファッションに注目が集まりました。渋カジ以降、カジュアル化が進み、若者もファッションを楽しむという風潮が強まりました。ワンレン・ボディコン・オーバーサイズでルーズなシルエットのソフトスーツ・DCブランドなど、バブル時代のファッションに代わり、平成のスタートは、カジュアルファッションのスタートでもありました。
1980年代末に登場した、渋谷に集う高校・大学生の間で多様な着こなしを表現する「渋カジ(渋谷カジュアル)」を端緒とし、1990年代には、ファッションのカジュアル化とともに、「ギャル系」「裏原系」「ストリート系」など、さまざまなスタイルが加速度的に展開しました。
オフィスファッションでは、肩が大きいダブルのソフトスーツや、ボディコンシャスなシルエットのワンピースなど、1990年前後のバブル期に流行したスタイルが支持を集めましたが、バブル崩壊以降、カジュアルファッションの広まりと並行するように、オフィスの装いにもカジュアル化が波及しました。女性の茶髪の流行、男性のロン毛ブームなどの影響を受けて、職場でのヘアスタイルにも少しずつ変化がみられました。

平成元年(1989年)

  • ワンレン・ボディコン
  • バブリーなファッション
  • オーバーサイズでルーズなシルエットのソフトスーツ
  • 渋カジ
  • 紺ブレ

バンドファッション

ソフトスーツ、ボディコンシャスなワンピース
(平成元年・渋谷)

ワンレン・ボディコンにチェーンバッグのスタイル
(平成3年・銀座)

平成3年(1991年)

  • ファッションのカジュアル化

キレカジ / デルカジ / フレカジ / L.A.スタイル / グランジルック / ストリート系ブランドの台頭 / 茶髪人気

渋カジの定番、紺のブレザーにチノパンのコーディネート
(平成3年・渋谷)

平成5年(1993年)

  • フライデーカジュアル
  • シャネラー、ヴィトナーなど、
    ブランドブーム

コギャル / チビT / ピタT / へそだし / ルーズソックス / モード系ファッション / 黒ブーム / 裏原ファッション / ロリータファッション

平成8年(1996年)

アムラー / 茶髪・金髪 / 細眉 / ミニスカート / 厚底靴 / マルキュー系ファッションブーム / キムタク(木村拓哉)ブーム / APEのダウン / 江口洋介のロン毛 / シノラー(篠原ともえ人気) / デコラちゃん / ビジュアル系

企業の制服はどのように変化したの?

会社員

百貨店

デザイン性の高い時代を表すスタイル

各業界で制服の普及率は高く、着用は当たり前であり、制服は会社への帰属意識を高める重要な象徴でした。サービス業の店頭やメーカーの製造現場では男女問わず制服を着用し、オフィスでは女性社員だけが制服を着用することも普通に見受けられました。
また、当時台頭したデザイナーズブランドや著名デザイナーの起用がブームとなり、流行していたビッグシルエットを取り入れた制服にリニューアルする企業も目立ちました。バブル期においては、潤沢な予算を女性社員の制服にかける企業が多数存在しました。
さらに、合成繊維の飛躍的な進歩で、制服用の生地素材は高品質で表情豊かになりました。魅力的な制服が増えたことで、制服が憧れの職業を選ぶ基準の一つとなり、客室乗務員や百貨店の案内受付の制服が話題になりました。

就職氷河期(平成10年以降・平成中期)

オフィスファッションのカジュアル化、制服着用の減少

平成の半ばころ(2000年代)には、失業率の上昇や就職氷河期の影響もあり、この頃のファッションは、カジュアル全盛の1990年代に代わり、コンサバ・セレブ・トラッドが話題となりました。全体的に、エレガントでフェミニン、上品なイメージのファッションが台頭。若者の間では、パンクやモード系などのアヴァンギャルドなスタイルも支持されました。携帯やスマートフォン・インターネットなど、新しい情報ツールが身近な存在となり、ファッションの参考にする先が多様になった結果、読者モデルやブロガーなど、新しいファッションを作る人たちの幅も広がりました。また、タレントやモデル、販売員やサロンのスタイリスト、編集者など、カリスマやセレブと呼ばれる人なども生まれ、ファッションアイコンが多様化していきました。
オフィスファッションでは、カジュアルフライデーやクールビズの促進など、行政や企業も働きやすい服装で勤務することを推奨しました。女性では、2007年の男女雇用機会均等法改正のタイミングで、女性社員の事務服を廃止する企業が相次ぎました。その結果、女性では、セットアップのカーディガンにスカート、足元は生足やミュールサンダルのスタイルがみられるようになりました。男性では、スーツにネクタイ着用以外の、ジャケットとパンツの組み合わせなどが一般化しました。ディオール・オムが提唱したスリムなスタイルやお兄系ファッションなどの影響を受けて、男性のスタイルも細身のシルエットになりました。つま先のとがったビジネスシューズが登場するなど、一般のファッショントレンドが時間差で、ややマイルドな形でオフィスファッションに波及する動きが広まりました。

平成10年(1998年)

  • カジュアルフライデー
  • ドレスアップマンデー

マルキューブランド人気 / 古着 / レトロ調人気 / 60年代リバイバル / キャミソールルック / エスニック / ヒップホップスタイル / Bボーイ / Bガール / フリース大ヒット / ダメージデニム / カラーパンツ / ミニスカート

平成12年(2000年)

  • ビジネスカジュアル・オフィスカジュアルの進展
  • スリムなシルエット
  • コンサバスタイル

トラッドファッションのリバイバル / 姉ギャル / 神戸エレガンス系 / 名古屋嬢 / Gジャンや加工デニムの注目 / ヴィンテージ風人気 / 80年代 / 60年代リバイバル / パンク / モード系ファッション

平成14年(2002年)

  • セレブファッション
  • 海外のラグジュアリーブランドの支持

赤文字系雑誌人気 / マンバギャル / センターGUY / エロかわスタイル / スポーツ&ミリタリー / ビッグ&ルーズ / ジュニアファッション注目 / メトロセクシャルな男性の登場 / アシンメトリーなファッション

バーバリーブルーレーベルなどのブランド支持
(平成15年・原宿)

コンサバ・フェミニンなスタイル
(平成15年・原宿)

スリムなジャケットやスキニー、つま先の尖った靴がビジネスウエアにも広まる
(平成15年・原宿)

平成17年(2005年)

  • クールビズ
  • 女性の事務系制服の廃止が広まる
  • コンサバ・フェミニンスタイル
  • スリムなシルエットのビジネスウエア
  • お兄系
  • ちょい悪オヤジ

赤文字系雑誌人気 / マンバギャル / センターGUY / エロかわスタイル / スポーツ&ミリタリー / ビッグ&ルーズ / ジュニアファッション注目 / メトロセクシャルな男性の登場 / アシンメトリーなファッション

企業の制服はどのように変化したの?

会社員

百貨店

社員のリクエストを重視した機能性の高いスタイル

景気の悪化や業績悪化によるコスト削減を背景に制服を取り巻く環境も大きく変わり、大手企業の制服は激減します。時を同じくしてファストファッションやビジネススーツを提供する店舗が増えたことも重なり、女性社員のオフィスでの装いは一気に私服化が進む結果となりました。一方で、サービス業などではより洗練されたデザイン・コンセプトの店舗や制服へのリニューアルが加速します。中小規模の事業者向けに販売されてきた制服カタログでは、モデルが外国人から人気タレントやアイドルになり、その人たちが着用する商品がヒットしました。
制服が廃止され私服での勤務が増えましたが、服装規定が明確ではなく、オフィスにそぐわない私服を着用する人もいて、1998年を過ぎたころからは、職場環境改善を目的に制服が見直されるようになりました。また、バブル期とは異なり、デザイン・機能性はもちろん、メンテナンスなど維持管理コストについても厳しく検討されています。加えて実際に着用する社員からのリクエストも重要視され、幅広い年齢層に向けて、サイズ展開・ブラウスやスカーフ・リボンの色展開など、きめ細かい対応が求められるようになりました。

人生100年時代(平成20年以降・平成後期)

オフィスファッションの私服化

2008年の世界同時不況を背景に、ファストファッションが全盛となり、「すぐ買ってすぐ着る」が定着します。他方、地球環境・労働環境保全への意識からエコバッグ、リサイクル、エシカルなファションへの注目も高まりました。SNSの登場により、ファッション情報の波及方法が激変し、ブランドイメージや雑誌の系統、人気のあるファッションリーダーなど、90年代までのジャンル分けされたコンテンツの影響力が低下、自分のフィルターを通してものを見る、選ぶ、買うようになりました。また、トレンドに対する疲弊(買って着ればかぶる問題)も生まれ、「流行のものを着ること=ファッション(おしゃれ)」ではなく、個人が主体的に装いを選択する方向に変化しています。
オフィスファッションでは、働き方が多様化し、転職が当たり前になりつつあることなどから、会社の装いにおける規範や、その会社ならではのカラーが薄まりつつあります。アップル社創始者のスティーブ・ジョブズやFacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグなどがパーカやデニム等のカジュアルスタイルを徹底している影響や、ITやベンチャー系の企業を中心に、ラフなビジネススタイルが浸透していることで、カジュアルな仕事服は定着しつつあります。男性では、ジャケットにジーンズを合わせたデニム通勤、スーツにスニーカーやリュックの組み合わせも珍しくなくなりました。女性では、ライダースジャケットやロングカーディガン、ガウチョパンツなど、トレンドのアイテムを上手に仕事服に加えたコーディネートも広まっています。総じて、オフィスでの装いと、休日に外出するときの装いに大きな差はなくなりました。

平成20年(2008年)

  • ファストファッション

森ガールのナチュラルスタイル / ヘアやネイルなどの盛りファッション / 見せパンなど / 男性用インナーウエアの展開 / スキニージーンズ / ダメージジーンズ / マキシ丈ワンピース / フリルミニスカート / ライダースジャケット / エコバッグ人気 / ブーツサンダルやグラディエーターサンダル / ムートンブーツ / 山ガール / 美ジョガー / アウトドア・ファッション

ファストファッションと思しきトレンドのアイテムがキャリア服にも広まる
(平成21年・銀座)

平成23年(2011年)

  • ミニマム志向
  • ワークやスポーツ由来の機能的な衣服

ファッションブロガー台頭、韓流人気、オルチャンメイク、アメカジ、ダンガリーシャツ、シワ加工

平成25年(2013年)

  • エシカルファッション
  • きれいめなデニムスタイル

90年代ストリートスタイルのリバイバル / スニーカー大人気 / パンツの裾のロールアップ / MA-1フライトジャケット / キャップ帽 / ニット帽 / ホワイトデニム / Gジャン

平成27年(2015年)

ガウチョパンツ / ワイドパンツ / ロングカーディガン / 量産型女子 / ジェンダーレス男子 / ノームコア / サードウェーブ系男子 / 細ベルト / チョーカー / プードルコート / スヌード

きれいめデニムスタイル
(平成28年・銀座)

平成29年(2017年)

  • 脱・スーツデー
  • プレミアムフライデー
  • スーツにリュックやスニーカースタイル

抜き襟など、「こなれ感」重視 / ロゴ入りアイテム大流行 / ノースフェイス / トラックパンツなど / ゴープコア人気 / ショルダーバッグ・サコッシュ

リュックスタイルのビジネスカジュアル
(平成30年・銀座)

総括

オフィスファッション

平成の30年間を通して、ファッションにはカジュアル化という大きな変化がありました。また、ファストファッションの台頭により、トレンドのアイテムが瞬時に広まる流れも一般化したことで、ブランド信仰ではなく、コーディネートや全体のバランス感がファッションの重要なポイントとなりました。

オフィスファッションにおいても、この30年間で変化したといえます。景気の悪化や業績悪化でコスト削減を余儀なくされたことによって大手企業の制服廃止や、働き方そのものが変化したことで、オフィスにおけるファッションはより多様になり、ルールもカジュアルに変化しました。

気候温暖化の影響や、パソコンでの長時間作業などという背景から、スーツやネクタイ、ジャケットの着用は必ずしも必要不可欠ではなくなりました。スーツを着用していれば良かった従来とは異なり、ビジネスパーソンそれぞれが、仕事の場面や内容に応じて、どのような服を選んだらよいかを考える必要性は高まっていきます。これからは「どこで・どんな仕事をするか」が服装選びの基準の一つになっていくと考えられます。

今後、SNS時代における視覚的なコミュニケーションが拡大する中、仕事服がいわば名刺代わりとなり、一緒に仕事をしてみたいと相手が思うような清潔感・信頼感のある装いが一層重要視されるでしょう。

企業の制服

世界的に見ても、日本は企業における制服の普及率が高く、制服を着用することが会社への帰属意識を高める重要な役割をはたしていました。企業の制服は日本独自の文化とも言えます。

企業の制服は、平成の30年間で変化がみられました。バブル期には、企業は潤沢な予算を女性社員の制服にかけたり、有名デザイナーの起用により流行を制服に取り入れていましたが、景気の悪化に伴い、制服は経費削減の対象となり、廃止する動きが顕著になります。就職氷河期から現在にかけては、企業の制服が見直される傾向に。デザインや機能性だけでなく、社員の意見を重要視するなどきめ細かい対応が求められるようになりました。

今後、制服は支給や貸与されるのもから、個人の体形や好みに合わせて色や形をオンライン上でオーダーメイドできる「仕事用の服」に変わっていく可能性があります。

作成:渡辺明日香

共立女子短期大学教授。共立女子大学大学院家政学研究科修士課程修了。首都大学東京大学院人文科学研究科博士後期課程修了(社会学博士)。1994年から継続しているストリートファッションの定点観測をはじめ、若者のファッションやライフスタイルの分析、生活デザイン、色彩などをテーマに研究を行う。著書に『ストリートファッションの時代』『ストリートファッション論』『東京ファッションクロニクル』など。

作成:渡辺直樹

イラストレーター、桑沢デザイン研究所、共立女子短期大学非常勤講師。 著書に『日本の制服150年』、『日本のファッション』(青幻舎)、『おしゃれノート』(コクヨ)などがある。

イラスト出典:『日本の制服150年』青幻舎刊