掲載日:2013.12.16
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三年予測ートップリーダーと考えるエンジニアの未来ー


“知恵を絞り、既成の価値観を引っ繰り返す

国家的なインターネット規制に「トンネル」を開けたVPN Gate

VPN Gate は、登が2013年に始めたプロジェクトだ。世界には、インターネットへのアクセスを国全体で制限している国家がいくつかある。例えば中国では「グレート・ファイアウォール」と呼ぶ仕組みにより、中国国内からはFacebookにもTwitterにもアクセスできず、Wikipediaの閲覧も制約されている。
VPN Gateは、グレート・ファイアウォールのような国家的なファイアウォールに「トンネル」を開ける仕組みだ。他のVPNと事なり「原理的に遮断が困難」な仕組みを導入した。もちろん、そのために登のいう「異常な努力」が投入されていることは言うまでもない。
ところが、このVPN Gateを本来の目的以外に悪用しようと考える日本国内の人間が現れた。例えば、発信元を隠して「2ちゃんねる」掲示板に書き込みができると考える人が出てきた。実際にはVPN Gateはログを記録してあり、発信元を隠すことはできない。だが、そのことを周知させるためにはどうすればよいだろうか。
登のやり方は意表を付くものだ。警察庁でVPN Gateの勉強会を開いたのだ。このことを公表するだけで「国内からの不正利用はほとんど無くなった」と登はいう。VPN Gateのログは、不正利用があった場合には犯罪捜査に利用できることが周知のものとなったからだ。
「ソフトウェア技術者の間では警察の評判は必ずしも良くないが、不正利用防止のためには、もっと有効に活用すればいい」
さらに「2ちゃんねる」運営側と協議し、VPN Gateから掲示板への書き込みはできないよう対策を施した。これにより、悪用の懸念は大幅に減った。
VPN Gateは、悪用される可能性と、インターネットの自由を天秤にかけ、後者を取ったプロジェクトだ。だが悪用を防ぐための手段は取っている。
もちろん摩擦はある。登の元には、「VPN Gateに反対する海外からの怪しいメール」が多数届くという。そこで「VPN Gateプロジェクトが継続できない事態になった場合は全体のソースコードを公開する」ことを公表している。そうなれば、登らとは無関係に誰でもVPN Gateクローンを立ち上げられるようになり、結果としてVPN Gateの当初の目的は継続されることになるはずだ。

AC入試のイメージを逆転させる「大学に最も貢献」

登が密かに自負していることがある。それは、筑波大学の「AC(アドミションセンター)入試のイメージが上がった」ことだ。
AC入試は筑波大学での呼び名で、他の大学ではAO(アドミッションズオフィス)入試と呼ばれる場合が多い。通常の入学試験とは別に、書類選考と面接・口述試験で受験生を評価する。登によれば、10年前は筑波大学ではAC入試で入学した学生に対する差別的な意識が強かったという。登自身もAC入試で筑波大学に入学した一人で、「AC入試は『裏口入試』と呼ばれていた」という。
そこで登はこんな手を打った。
「『自分はACだ』ということを示す『ACバッチ』を1,000枚作って配布した。大勢の人が自ら進んでACバッチを付けてくれて、ACは格好いい、というイメージを広げることができた」
ここで「AC」とは、AC入試で入学した学生という狭い意味ではなく、登が考える「面白い人」「他とは違う何か凄いことをやっている人」という意味である。こうした活動が功を奏して、2005~2006年頃を境に「AC」への意識が変わってきたと登は感じている。「通常の入試を経ていない人」というネガティブイメージから、「面白く突出した人」というイメージへの書き換えが起こったのだ。
「AO入試では慶應SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)が有名だけど、最近は筑波大学のAC入試でも面白い受験生が増えてきたらしい」と登は嬉しさを隠せない様子で語るのだ。

つくばに10年居続ける理由

最初のバージョンのSoftEtherを開発してから10年が経つ。ソフトイーサ株式会社は本稿執筆時点で10期目に突入している。9期目に当たる2012年度の売上げは2億8304万3000円、純利益は4252万6000円。8名の会社としては立派な数字だ。
だが登は「いや、事業計画通りに進んだということでは全くないし、先の事は分かりません」と牽制する。
それにしても10年は長い。「天才プログラマ」の称号を得た登は、行こうと思えばどこにでも行けたはずだ。ソフトイーサ株式会社を大きくする選択肢もあった。会社運営とは別の進路を取ることも可能だったはずだ。 だが登は、彼の表現を使うなら「中小企業」であるソフトイーサ株式会社の経営者であり続けることを選んだ。10年間つくば市に居座り、会社経営を続け、製品やサービスのリリースを続けて、「ACバッチ」のような既成の価値観を覆す取り組み、VPN Gateのようなインターネットの自由に関する取り組みを続けてきた。
「会社を続けてきたのは、自分たちに社会人の適性がなかったから」と笑う。
登たちにとって、プログラムを組むこと、製品やサービスを開発することは、普通の会社の業務とは違う感覚なのだ。「パソコンをいじり続けるために必要な収入を得るために仕事をしている感覚。普通とは逆だ」。登は、会社をプログラマとして活動しつづけるための共同体として捉えているのだ。

スポーツ選手のようなワークスタイル

登は、難易度が高く、「異常な努力」を要する製品、サービスの開発ばかりを手がけてきた。こうした「異常な努力」を必要とするアイデアは10個ほどが「キュー(待ち行列)に入っている」という。その中から、年に1個か2個のアイデアを選び、製品、サービスを作り出す。
スポーツ選手がトレーニングでコンディションを整え試合で全力を出すように、登は「年に数日から、最大20日」程度の、高度の集中が必要な開発を行うスタイルを続けてきた。
「集中する時期は冬が多い。夏は暑いから」
そして、集中する時期以外はどうかといえば、「ダラダラしています」と笑う。
「長期間集中してやりすぎると頭が痛くなって、調子を崩してしまう。だから、それ以上はやらない」
登が言う「異常な努力」とは、登の能力をもってしてもギリギリまで追い詰められる高度な集中のことだったのだ。
登は筑波大学の環境が気に入っている。「ここは自然公園のような場所だ。良い意味で頭がおかしい人、突出した人も多い」。
会社の人員を増やさず、本社をつくば市に置き続け、そして年に数回の「異常な努力」をし続ける登のスタイルは、プログラミングの才能で生きようとする人から見ればある種の理想型と見えるかもしれない。そして登の生き方は、世の中の主流となっている考え方に対する強烈な反証を、身をもって示しているとの見方もできるだろう。
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