転職・求人dodaエンジニア IT/トップ > 転職情報・成功ガイド > 三年予測 > ヤフー勤務、政府CIO補佐官、大学講師 楠正憲 氏
掲載日:2014.1.6
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三年予測ートップリーダーと考えるエンジニアの未来ー


「カバン持ち」から出発、「天を見よ」に気付きを得る

上司の「カバン持ち」がきっかけで政策への関心を深める

楠はIT業界で働くビジネスマンとしてのキャリアを築いてきたが、それ以外の顔も持つ。国の情報政策に関わる立場、そして大学講師の立場だ。
楠が情報政策への関心を持ち始めたのは、インターネット総合研究所時代のことだ。(所長の)藤原洋氏の「カバン持ち」として、国の委員会に出入りする経験を積んだ。この分野への関心が高まり、本業に直接関係がない勉強会やミーティングにも積極的に参加するようになる。
2003年に経済産業省からマイクロソフトに転身した大井川和彦(現、シスコシステムズ合同会社専務取締役)とは、こうしたミーティングの一つで知り合った。マイクロソフトに来た大井川は、後に同社に「政策企画本部」を立ち上げるが、その際に楠も参加している。まだ20代だった楠が、マイクロソフトの看板を背負い、政策関連の渉外に取り組むことになったのだ。
今の楠はヤフーでの勤務を続けながら、内閣官房に所属する補佐官を務める。取り組む仕事は、IT戦略の推進や社会保障・税番号制度を支えるシステムの調達支援だ。責任は大きい。
楠は、30代の働き盛りの時期に公務員として働くことを以前から望んでいた。「研究会などで有識者として政策に関わることがあったが、役所の内側から関わらないと見えてこないものがある」からだ。さらに2011年3月11日の東日本大震災が、楠の「国の仕事に関わりたい」気持ちを強めたという。

20代前半から大学の教壇に立つ

楠が最初に大学で講義をしたのは2002年、大学卒業のすぐ後の時期だった。インターネット総合研究所所長の藤原洋が流通科学大学で持っていた講義の代講を務めた。
2004年には、早稲田大学で「オペレーティングシステム実装論」の講義を同僚と2人で担当した。講義の内容は、その前年に東京大学で米Microsoftのカーネル・アーキテクトであるDave Probertが行った講義を引き継ぎ、日本の大学生向けに作り直したものだ。「経済学部卒なのに、OSの仕組みの講義をすることになった」と楠はぼやく。もっとも楠はKondara MNU/Linuxの開発に関わった経験から、OSの知識は持っていた。 2008年からは文部科学省の先導的ITスペシャリスト育成推進プログラムに日本経団連を通じて協力し、九州大学での集中講義「高度ICTリーダー特論」を取りまとめた。若手の経営者や官僚を交えてIT業界の最新動向や課題を生々しく語る講義は人気を博し、プログラム終了後の現在も続いている。初年度は修士2年向けに開講したが「こんな大事な講義をどうして就職先が決まった後に行うのか」という抗議が相次ぎ、翌年度からは修士1年向けに切り替えた。それから目に見えて大手だけでなくベンチャー企業に就職する卒業生が増えた。
2013年度より、東京大学で修士課程の大学院生を対象とする「ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム」の講師を務めている。楠の講義は「受講者の飲み会参加率が高いことも特徴」だ。受講生の中には、ベンチャー企業を立ち上げる若者もいる。
楠は、仲間たちとの人間関係を「ゆるやかな紐帯」と表現する。会う間隔が時には半年に一回といった“ゆるい”人間関係の間で、水面下で共通の関心事が形成されていき、プロジェクトの準備が進み、あるタイミングで表舞台に名前が出る──楠は、そのような人間関係のネットワークを大事にしてきた。楠が大学講師として呼ばれて教壇に立つのも、こうした専門性が濃い人々の「ゆるやかな紐帯」によるネットワークの動きが表に出ている一例といえる。

マイクロソフト時代に古川享から受けた影響とは

楠が影響を受けた大人たちの中に、マイクロソフト日本法人の初代社長を務めた古川享氏(現、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)がいる。楠がマイクロソフトの技術調査室 主席研究員だった時代の上司である。
古川の言葉で、楠がよく覚えているのが「上を見るな、天を見よ」だ。楠は内心で「天ばかり見ているとドブに落ちるぞ」などと思ったこともあるものの、やがて「組織に振り回されるのではなく、根源的な顧客ニーズや社会の課題を認識して、個別の事情や損得では揺るがない世界観を持つことが、目先にとらわれない判断には必要なのだ」と思うようになった。
楠は、古川の「歴史好き」にも影響を受けた。新聞で報道されていないような、IT業界の「本当の歴史」を古川はよく語ってくれた。楠自身も歴史好きだ。大学の講義では、楠はITの歴史をよく題材にする。
「歴史は未来を考える材料になる。“うまくいかなかった過去”の中に、“これからくる未来”があるかもしれない」
今まさに起こっている出来事を冷静に価値判断して見ることは難しいが、過去の出来事であれば、例えば複数の視点から見て“なぜそうならなかったのか”を分析できる。魅力的な“うまくいかなかった”アイデアは膨大な数に上る。前述のEMIPもその一つだ。今の楠が補佐官として取り組むマイナンバー制度も、数十年前から必要性が認識されていながら実現できなかったことのひとつといえる。

納得できないことを受け流さず、疑問と好奇心を持ち続ける

IT企業での勤務、政府CIO補佐官としての公務、大学講師としての活動──このような“複線”のキャリアを歩んできた楠は、“逆張り”の選択や、「ゆるやかな紐帯」の仲間たちとのプロジェクトを通して、自分のキャリアを築いてきた。節目節目の判断の基準は、楠によればこうだ。
「納得できないことの先には、いずれ解決すべき課題や、今の自分には見えていない世界がある。諦めずに疑問と好奇心を持ち続けていれば、いずれ変化の萌芽や見えていなかった世界に気づき、主体的に関わる機会が生まれる」
「もともと納得できないことを納得できないままやるのが苦手。勉強に納得できず、留年してしまった」と楠は茶化して言うのだが。
楠のキャリアは、嵐の中で変化球を投げ続けるようなものだ。他人が真似できるものではない。だが、変化の節目で判断を下すときの楠の考え方には、混沌とした時代の中で判断に迷う人たちにとってのヒントがあるはずだ。
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