経営者 郡山龍
アプリックスIPホールディングス(アプリックス)代表取締役。マイクロソフト(現在の日本マイクロソフト)でOS/2開発のプロダクトマネジャーを務める。退職後、アプリックスはまずCD-ROMライターソフト、次に携帯電話向けJava実行環境「JBlend」のビジネスを成功させる。現在、Bluetooth® Low Energyに基づく「Beaconモジュール」を活用したソリューションを展開中。
- 郡山龍は悩んでいた。ソフトウェアがタダ(無料)になる時代のビジネスモデルを編み出すためだ。
- ソフトウェアは無料が当たり前になっていく。ハードウェアの価格も限りなく原価に近づく。同社の重要な収入源だったソフトウェアのライセンス収入が減る一方であることは確実だった。「なんでこんなに儲からないんだろう」。それが本音だった。
- 次のビジネスをどうやって生み出せばいいのか。考え抜いた結果たどり着いた結論は、意外なほどシンプルなものだった。
- 結論を語る前に、まず郡山が率いるアプリックスIPホールディングス(以下、アプリックス)がどんなビジネスを展開中なのかを見ていこう。同社は今、低価格の「Beaconモジュール」を活用する多種多様なソリューションをハイペースで生み出し続けている最中だ。
- Beaconモジュールとは、近接無線通信の規格であるBluetooth Low Energy(BLE)に準拠する発信器だ。マッチ箱に入るほどのモジュールで、何ヶ月も電池交換せずに情報を発信しつづける。Blutooth4.0に対応したスマートフォン(iPhoneの場合はiPhone4S/iOS7以降、Androidの場合はAndroid4.3以降搭載のBluetooth4.0対応機種)であれば、Beaconモジュールが発する信号を受信できる。ヘッドセットやキーボードのようなBluetoothデバイスを使う場合と違い、Beaconの信号を受信するにはペアリングする必要はない。
- Beaconモジュールが発する情報をスマートフォンが受け取る。このシンプルな機能から、同社は多種多様なソリューションを生み出し、あらゆるデバイスがネットにつながるIoT(Internet of Things)の時代のビジネスモデルを確立しつつある。
- 例えば、米国の浄水器メーカーAquasana社は、浄水器に同社の「お知らせビーコン」を組み込む契約を結んだ。その役割はたった一つだけだ。浄水器のフィルターの交換時期を、浄水器のユーザーのスマートフォンアプリに通知するのである。
- ユーザーは、通知を受けたその場で、スマートフォンアプリを使って新しいフィルターを発注できる。浄水器のユーザーにフィルターを適切な時期に交換してもらう仕組みを作り上げることで、メーカーはフィルターの売り上げ向上が見込める。その売り上げの一部をアプリックスが受け取る契約だ。浄水器をユーザーが使い続ける限り、アプリックスはそこから収入を得ることができるわけだ。
- 消耗品などの補充に「お知らせビーコン」を応用した事例は他にもある。例えばウォーターサーバーのボトル交換時期の通知に利用する。コンピュータやITとは無縁と思われていた製品群が、今やスマートフォンに通知を送れるようになりつつあるのだ。
- 最近登場したソリューションとして「おもてなしBeacon」がある。外国人観光客向けの店舗などに設置することを想定している。店舗に「おもてなしBeacon」を設置するだけで、スマートフォンアプリにその店の情報、飲食店であれば「おすすめメニューなど」を表示させることができる。海外からの観光客が飲食店の前に立ち止まったタイミングでスマートフォンでメニューなどの情報を母国語で表示できれば、その店を選んでもらえる可能性はぐっと高まるはずだ。
- 「おもてなしBeacon」では導入の費用も手間も最小限に抑えた。設置する店舗側はスマートフォンアプリを個別に開発する必要はなく、Webのフォームから店舗情報のWebサイトのリンクを入力するだけで済むようにした。「おもてなしBeacon」の設置の際に初期費用が発生するが、月額費用は無料としている。
- 居酒屋チェーンの各店舗にBeaconモジュールを設置し、スマートフォンを使ったチェックインおよび来店ポイントの付与に活用した事例や、書店のイベントでスマートフォンへの特典コンテンツ配布に利用した事例もある。Beaconモジュールは、いわゆるO2O(Online to Offline)マーケティングのツールとしても利用可能ということだ。
- このような多様なソリューションを展開できるBeaconモジュールに対して、アプリックスはテクノロジー事業の人的資源の大半を投入しようとしている。Beaconモジュールを軸に、ソフトウェアとハードウェアを組み合わせたソリューションを提供する企業として成長しようとしているのだ。
Vol.19 経営者 郡山龍
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