- Androidの登場は、携帯電話向けミドルウェアのビジネスを「殺して」しまった。では、次にどのようなビジネスを展開すればいいのだろうか。郡山は悩み抜いた。
- Googleは巨額を投入して開発したAndroidを無料で配っている。携帯電話を作るのに必要な主要ソフトウェア・スタックがすべて無料になってしまった。同じレイヤーで戦っても、もう勝てない。Androidの登場で、携帯電話向けの組み込みソフトウェアという産業全体が危機に瀕したのだ。
- なぜ、GoogleはAndroidを無料で配ることができたのか。それは、Androidそのもので儲けようとは思っていないからだ。Androidは同社にとって、より多くの人々に情報を届ける手段の一つにすぎない。
- Googleの売り上げの大半は検索サービスに伴う広告収入だ。それなら広告ビジネスが同社の本質かといえば、それは違う。では広告代理店とGoogleは、本質的に何が違うのか。
- 違いはこうだ。Googleは人々の生活を豊かにする情報を届けることで、富を得ているのだ。
- 郡山が考えてたどり着いた結論は、「歴史を振り返ると、より多くの人々の生活を豊かにしたものが、より多くの富を得る」というシンプルなものだった。ソフトウェアにできることは、情報を扱うことだ。それなら、より多くの人々に必要な情報を届けることで、人々の生活を豊かにするのだ。ソフトウェアは無料になっていく。それなら、ハードウェアを無料で配り、ソフトウェアを組み合わせたソリューションを編み出そう。そのソリューションが人々を豊かにするものであれば、お金を稼げるはずだ。
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- 記事の前半で紹介したBeaconモジュールを活用したソリューション群は、このような思いから生まれた。当初は、郡山を含めて7人の小さなチームで作り出した。
- 先にハードウェアを「無料で配る」と表現したが、実際には「ほぼ原価で配る」という意味だ。本当に無料で配ったら、部品取りに使われてしまう恐れがあるからだ。Beaconモジュールは、大量調達する顧客にはほぼ原価で提供する。取材時点では約200円だ。
- 「大事なのは、量産して大量に出回るものにBeaconモジュールを入れること」だと郡山は説明する。
- Beaconモジュールを製造原価で配ることは、より迅速に普及させる上でも意味があるし、競合の参入の可能性を低くすることにもつながる。Beaconモジュールというハードウェアだけでは価値は生まれない。だが、ソリューションを成立させる要素として、安価で多様なBeaconモジュールというハードウェアは、なくてはならない存在なのだ。
- 「(クラウドファンディングの)Kickstarterで資金を集めるガジェットのように、セクシーな(格好いい)デバイスを作ることが狙いではない。どの家庭にも置いてあるようなもの、その辺のホームセンターや量販店で買えるようなもの。そこにBeaconモジュールを組み込みたい」
- 最終製品として目立つデバイスを作ろうとしているのではなく、自社のBeaconモジュールがどこにでも組み込まれている未来を作ろうとしているのだ。
- Beaconモジュールの開発には多様な人材が関わっている。ソフトウェアエンジニア出身なのに電子工作が大好きで、ハードウェア専任になったメンバーもいる。大手メーカーで働いていたが55歳で役職定年を機会に辞めて、入ってきたメンバーもいる。「その人が入ってから、数カ月で、あるハードウェアの製造原価が1/5になった。プロが作ると違う」と郡山はベテランの腕を絶賛する。
- そして、取材中こっそり教えてくれたことがある。
- 「実は、2年前に出した製品には、自分が書いたコードが載っている。本当は経営者がコードを書いているようではいけないんだが」。
- 「ドッグイヤー」という言葉があるように、IT業界の変化は速い。郡山は、その変化の中で30年近くを経営者として過ごし、CDWriter、JBlend、Beaconとヒットを飛ばした。そして今なおエンジニアとしての能力を磨きつつ、経営者として次の成功を目指して走り続けている。
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Vol.19 経営者 郡山龍
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