“グローバル人材”の輪郭

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第2回 加藤順彦氏

多様性を受け入れ、その上で行動を起こせる人——脳みそのモードと視座を変えよう

シンガポール在住の事業家・加藤順彦氏に聞く、アジアで活躍できる人材像

掲載日:2013.11.25

今回お話を聞いた人

事業家 加藤順彦氏

写真:事業家 加藤順彦氏
PROFILE

関西学院大学在学中から複数の起業に参画。1992年日広(現GMO NIKKO)創業。同社のGMOインターネットグループ傘下入りを機に退任して2008年、シンガポール移住。移住前から日本国内30社超のスタートアップの第三者割当増資に応じるとともにハンズオン支援(自ら資金を投じるとともに支援している)。現在も日本人の起こす企業に出資し、経営に参画している。主な参画先にsatisfaction guaranteed、@press、CROSSCOOP、ラングリッチ、電子書籍出版のGoma Books Asiaなど。著書に『シンガポールと香港のことがマンガで3時間でわかる本』(アスカビジネス)、『講演録 若者よ、アジアのウミガメとなれ』(ゴマブックス)。

国境を越えて活動する企業または個人にインタビューを行い、実際に企業で求められる“グローバル人材”とはどんな素養・能力を持つ人なのかを明らかにする「“グローバル人材”の輪郭」。第2回はシンガポールに移住、アジア各国を行き来しながら、日本企業の海外進出とアジア資本化に尽力する加藤順彦氏へのインタビューです。シンガポールを中心に企業のグローバル化やアジアの状況、グローバル人材になるために必要なことについて伺いました。

グローバル戦略とはグローカル戦略である

――日本企業のアジア進出もかなり進んだと思いますが、
シンガポールではどんな日本人が活躍しているのでしょうか?

世界の名だたる企業がシンガポールに進出していて、多くがアジア本社の機能を持たせています。次世代のマネジメント層を育てる場所として見ているんですね。僕は日本含むアジア6カ国でサービスオフィスを運営するクロスコープで役員をしているので、各国に駐在している人たちとお付き合いがあります。デリー、マニラ、ジャカルタ、ホーチミン、シンガポール……国によって来ている人のタイプは全然違いますね。どちらがいい、悪いということではなく、ミッションが異なるから人材の質も期待値も違うわけです。シンガポールはイケイケの営業マンというより、バランスの取れた管理人材、肩書きで言えば“管理本部長”みたいなタイプが多い。

シンガポールに置く人材とマレーシアに送る人材は全然違うべきで、違いを知って適所に適材を置ける企業がいい企業だと思います。理想を言えば、社長などボードメンバーや重要な役職者が移住するのが一番いい。

よく日本企業の社長から「うちもインドネシアに行きたい」といった相談をされるんですが、僕はいつも、「一番いいのは社長ご自身が移住することですよ」と答えます。すると、「インドネシア語しゃべれないから」と躊躇されますね。でも世界中の企業がインドネシア語をしゃべれなくてもジャカルタに行っています。言葉はハンディキャップではない。決定権を持つ人が、本当にその国、そのマーケットで成功するという覚悟を示すことが大事です。

――日本企業の駐在員だと数年で帰国することが多いのでは。

それだと現地の人やビジネスパートナーが、真面目に人間関係を築こうとしてくれないですよね。その点、韓国企業はすごい。サムスンは外国に赴任するとき、「上級管理職になれるまで帰って来られると思うな」と言われるそうで、彼らは現地に同化しています。だから現地で信用を得て商売になっている。その地域で成功するためには、マーケットに特化して、勝つために何をどうすべきか、誰よりも考えることです。

――外国に赴任して現地で信頼を得るのはなかなか難しいでしょうね。

東南アジアはだいたい1国家、1母語、1民族、1宗教と言われます――厳密に言えば細かく分類できますが。それくらいまったく異なっているんです。同じものを見ても見え方が違うし、「どちらが正しいか」という問いへの答えがまったく異なってもおかしくない。だから「多様である」「みな違う」ということを受け入れ、理解しないと共存できません。さらに上に立とうとなると、生半可な理解では足りません。

外国で活躍できる人材の条件として、「言葉ができること」が挙げられます。正しい面もありますが、それ以上に大切だと思うのは、「たくさん(人種や考え方が)あることが許容できること」、さらにいえば、「受容し、行動できること」です。

僕はアジアを股にかけて行動ができ、アジア全域を見渡し、物事を考えられる視座を持った人材を日本から送り出したいと常々考え、外から日本を揺さぶり、刺激を与えているつもりです。

――「違いを受け止める」。言葉では分かりますが、実際に行動できるか考えると難しい気がします。日本でも一昔前に比べると外国人を見かけるようになりましたが、交流する機会は意外に増えていない。

たしかに日本でずっと生まれ育っただけだと、多様性を受容するのは難しいかもしれません。でもグローバルな働き方を志すのであれば、英語やマンダリンが話せることだけでなく、そういうコミュニケーションが求められます。

例えば世界中で売れている、中高年女性向けのあるスキンケア化粧品は、アジアのマーケティングをシンガポールで一括してやっています。メディアバイイング、CMに起用するタレントの選定、クリエイティブの決定……日本のマーケットでどう売るか、どう宣伝するかをシンガポールで決めています。

商品のメッセージは共通だから1カ所で決めているのですが、販売戦略は国によって変えている。文化も習慣も異なるので、支持されるものが違うからです。消費者の感じ方だけでなく、販路や流通のシステムも各国で異なります。ウォルマートのような大規模小売店が進出している国もあれば、街中のパパママショップしかない国もある。化粧品に使えるお金も違う。だからタイのマーケットについてはタイ人が、フィリピンはフィリピン人がファインチューニング(最適化するための調整の意)する。日本のマーケットでどう売るかを決めているのは、シンガポールにいる日本人です。

日本人じゃないと日本語の微妙なあやが分からないように、その国の人、その国の感性を持つ人でないと、刺さるコピー、刺さる広告が分かりません。日本やタイ、フィリピンなどの人材が、シンガポールのアジア本社で、同じブランドミーティングに出て、同じテーブルでローカライズについて、英語で議論するんです。

そこで重要なのは、その国のことを知っていること。議論の場で使われる英語はファインで分かりやすくストレートです。伝わればいいわけです。皆母語はそれぞれだから、ウィット、ユーモアに富んだ、おしゃれな表現はありません。でもそれでいいんです。

――シンガポールで働きながら、日本向けの仕事をしているわけですね。

企業のグローバル戦略とは“グローカル戦略”です。ローカルに適した売り方、マーケットへの効果的な浸透の仕方を考える、その方法、その知恵です。各論であって総論じゃない。マニラでどうやれば売れるのか、ジャカルタで何をすべきなのか、東京でどう売るのか――。それを一緒くたにせず、それぞれの手法を考えることこそがグローバル戦略なんです。敬虔なカソリック教のフィリピンと、ムスリムのインドネシアとは、隣国で顔も似ているかもしれないけれど、考え方はまったく違いますから、マーケティング手法は異なります。

そしてマーケットを知るための最上の手法は、そこで暮らすこと。だから重要な決定を下す人に移住を勧めるわけです。

一つの価値観を共有しながら、違う背景、人種、宗教で、みんなで考える。多様性を受け入れ、それを徹頭徹尾やる。それが僕の考えるグローバル企業です。僕の中で一番イケてるグローバルカンパニーは「サイボーグ009」なんですよ(笑)。全世界から学歴、宗教、社会的背景が違い、人種も違う優秀なメンバーが集まって世界の平和を守るんですから。

――ボードメンバーが全員日本人という企業もまだ多くありますが……。

ボードメンバーがアングロサクソンだけの優良企業、外国人社員はいるけれど本社のボードメンバーは日本人だけの一流企業もありますね。僕はそれを否定する気はないです。「これからは、ボードメンバー、管理職が日本人だけの会社はうまくいかない」って言う人もいますけど、うまくいってる会社はあります。どっちが正しいということはない。

語学力より会話力 脳みそのモードを変えるために

――一方で、個人レベルでグローバル人材になるためには何をすればいいのでしょうか。

僕は就職をしたことがないので雇う側からの話になるのですが、日本企業の管理職は、自分より外国語を話せる日本人を重用する傾向にあります。その意味では語学は必要ですが、語学力より会話力のほうが大事です。文法はブロークンでもいいので、自分のことや自分の国のことがちゃんと相手に伝えられること。

外資系企業に入ったり、日本マーケット担当になったりすると、浅草や富士山、清水寺に行く機会が増えます。そこで日本について英語で言えなきゃいけない。歌舞伎、狂言、天皇制、祭り、なぜ電車が絶え間なく来るのか……。外国に行って初めて日本について知ること、いかに自分が日本について知らないかに気づくということは珍しくありません。文化を学ぶことは違いを知ることにつながります。「浮く」「空気読め」の日本は、周りと同じでないといけないという雰囲気が濃いので、多様性を実感するのは難しい。

日本企業でもダイバーシティの重要性が指摘されていますが、ダイバーシティとは違うということを知ることです。日本のことしか知らずしてダイバーシティなんて言っているのはおかしい話です。

――多様性を受け入れるために何ができるでしょうか。

いろいろあると思いますが、一番いいのは旅に出ること。そうして多様な人種、多様な価値観に触れる。僕はフィリピン・セブ島のラングリッチという英会話スクールにも参画しているんですが、例えば転職するチャンスがあって、100万円くらい貯金があるなら半年間フィリピンに行って英語漬けの生活をすることを強く勧めます。

そこで大事なのは人と交わること。セブには世界中から英語を学びに人が来ています。そういう人たちと、ブロークンな英語でいいのでコミュニケーションする。半年は無理でも、3カ月くらいなら50万円もかからず滞在できます。1日8時間レッスンがあるとして、大事なのはその8時間以外の16時間。お酒を飲んだりしてコミュニケーションを図るんです。

ただフィリピンは先日、台風で多くの死傷者を出す被害を受けました。セブはもともと、首都マニラなどとは違って台風はあまり来ないところで、今回もさほど被害は大きくなかったようです。とはいえ、フィリピン全体で見れば大勢の方が避難生活を余儀なくされており、一日も早い復旧を願っています。

――まず「違う」ということを体験しないと、グローバルに活躍できる人材になるのは難しいということでしょうね。

ギアチェンジしなきゃいけない根っこにあるのは、脳みそのモードです。普通の日本人のモードはモノカルチャー(単一の文化)。グローバル人材になるために大事なのは、世界はそうじゃないということを実感すること。日本にいて日本人とだけ交流していては、なかなかモードは切り替わりませんからね。

加藤氏が製作総指揮を務めた映画「恋するミナミ」

©FLY ME TO MINAMI
- 恋するミナミ - All Rights Reserved.

香港、韓国、大阪・ミナミを舞台にした恋愛映画で、主役は香港人、韓国人、日本人。台詞も3分の1がハングル、英語と広東語が6分の1ずつ、残りの3分の1が大阪弁という。大阪生まれの加藤氏は「日本にいると異人種で付き合うことは珍しいですが、シンガポールはじめアジア各国では普通のこと。大阪は韓国人や中国人が多いですが、日本人とは交わらない。メルティングポットじゃなくモザイク。でも、交わったり付き合ったりする人たちの姿が、日本人が見慣れた光景の中で普通に描かれた映画を見ることで、視座が変わればうれしい」と話している。

監督・脚本・編集 リム・カーワイ。企画・製作総指揮 加藤順彦。東京12月21日、関西12月14日先行上映開始。当日1700円、前売り1300円。劇場・前売り券に関する情報は公式サイト

今回の学び

  • グローバル戦略とは、実は“グローカル戦略”。マーケットごとに浸透の仕方を考える
  • 多様性を「受け入れる」だけでなく、それを踏まえて「行動を起こせる」ことが重要
  • 旅をする。さまざまな人とのコミュニケーションを通じて「視座」を手に入れる
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