データサイエンティストとは――21世紀で最も魅力的と称された職業の今とこれから
データサイエンティスト――2012年10月、アメリカのThomas H. Davenport氏とD.J. Patil氏が発表した"Data Scientist: The Sexiest Job of the 21st Century"(邦訳『データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない』DHBR2013年2月号)で、21世紀、最も魅力的と称された職業です。
そこから本記事を執筆している2022年9月時点で約10年が経過しましたが、今も魅力的といえる職業といえるのでしょうか。
時間の経過とともに技術が進化した結果、データサイエンティストの需要は高まりました。10年前は魅力的な職業という表現でしたが、2022年の今、なくてはならない職業の一つといえます。
その背景には、2000年初頭からの、各種Webサービスやソーシャルネットワークの普及、さらに、それを加速したスマートフォンの登場やクラウドサービスの浸透が、個々人の情報をインターネット上に共有・活用し、良質かつ詳細なデータが集まっている社会が整備されたことが挙げられます。
データサイエンティストはビッグデータを扱うプロフェッショナル
こうして蓄積された、いわゆるビッグデータはコンピュータ・ネットワーク社会においてはさまざまな活用法が考えられます。よく知られるところでは、Amazonによるレコメンドシステム(おすすめ)や、Googleなど各種サービスによる予測、最近では、個人のスマートフォンで撮影した写真の分析や分類など、身近なところで気が付かないうちに利用されるようになっています。
これらはいわゆるAIによるビッグデータの活用の数例ですが、このような利用以外にも、とくにビジネスの成長においてAIを活用するための人材として、前述のデータサイエンティストが存在します。
データサイエンティストと機械学習エンジニア
データサイエンティストとよく比較される職業として、機械学習エンジニアが存在します。どちらも、データを扱う専門職ですが、分かりやすく説明すると、データサイエンティストはAIで活用するためのデータを扱うプロフェッショナル、機械学習エンジニアはAIそのものを作り出すためのプロフェショナルと表現できます。
なお、機械学習エンジニアはAIエンジニアとも呼ばれることがありますが、データサイエンティストとの違いなど、もっと詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
データサイエンティストの業務内容
もう少し具体的にデータサイエンティストについて説明します。
データサイエンティストとは、用意されたビッグデータを分析し、必要な情報の収集や抽出を行うことで、データの価値を最大限に高めるための専門職です。
前述のように良質なビッグデータが蓄積されてきましたが、同時に、それを活用するための人材がいなければ、ビッグデータはただのデータの塊でしかなく、無意味になってしまうことも認識されました。そして、ビッグデータを最大限活用するための取り組みの一環として、IT・ネット企業が「ビッグデータの専門家」として定義したのがデータサイエンティストです。
日本でのデータサイエンティストを取り巻く状況
2022年、ここ日本ではデータサイエンティストを取り巻く状況がどうなっているのか、2つの視点から見てみましょう。
1つ目はGoogleトレンドによる「データサイエンティスト」の検索数の推移です。
2012年9月から2021年9月の人気度を見ても分かるように、年々右肩上がりとなっています※1。
※1:2022年1月からGoogleのデータ収集システムの変更が行われています。
次に、「データサイエンティスト」について学ぶという観点から、「データサイエンティスト」で検索してヒットしたAmazonの和書のタイトル数について調べてみました。
2013年2月刊行の『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』を筆頭に、2022年9月時点で53タイトルが発売されており、冒頭で述べた"Data Scientist: The Sexiest Job of the 21st Century"の発表以降、毎年確実に新刊が出ている状況です。多くの人間がデータサイエンティストを目指す時代、そして、さまざまな分野で求められている時代となっています。
一つの職業として「データサイエンティスト」が確立されたわけです。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)データサイエンティストは足りていない?――日本における学官のアプローチ
2012年以降に職業として注目を集めるデータサイエンティストですが、なりたい人が誰でもなれる職業なのでしょうか。答えは、「データサイエンティストに必要な知識と心構えさえあればなれる」です。
しかし、技術の進化(インターネットサービスの拡充)や社会情勢の変化(インターネット・デジタル社会)を背景にここ10年で注目されるようになったまだまだ新しい職業なので、育成や教育方法が体系立ててまとまっているわけではありません。
ネット企業はどこよりも早くデータサイエンティストに注目
GAFAMをはじめとする、いち早くビッグデータに注目し活用した企業は、自分たちの組織に適した育成プランや採用戦略を持っていますし、日本でもAI専門部署を設立しているLINEやメルカリ、DeNA、サイバーエージェント、ミクシィグループなど、AI関連の専門部署を設立した企業もまた、データサイエンティストを確保する体制を整備し始めています。ほかにも、データサイエンティスト集団を抱えてAIを主力事業とする企業も登場してきています。
それでも、これらは一部の企業に限定される話で、それ以外の多くの企業や組織はまだまだデータサイエンティストはもちろん、AIを活用できる人材確保、組織整備にはほど遠い状況といえるでしょう。
教育からのアプローチ~数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度
日本では国家戦略としてデータサイエンティストを含むAI人材不足を課題とし、その解決に向けた動きが見え始めています※2。
※2:経済産業省 平成30 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(IT人材等育成支援のための調査分析事業)における『IT人材需給に関する調査 調査報告書』より。
いくつかの解決方針が見られる中、とくに積極的に動いているのが教育関係者で、若年層からの人材育成に関する取り組みが積極的に進行しています。その一つとして、文部科学省が進めている「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」が挙げられます。
これは、AIの素養を身につけた人材育成を目的に、学生の数理・データサイエンス・AIへの関心を高め、それを適切に理解し活用する基礎的な能力(リテラシーレベル)や、課題を解決するための実践的な能力(応用基礎レベル)を育成するものです。数理・データサイエンス・AIに関する知識と技術について体系的な教育を行う大学等の正規の課程(教育プログラム)を文部科学大臣が認定及び選定して奨励しています。
最新の状況では、リテラシーレベルで139件、応用基礎レベルで68件の認定が行われており、大学・短期大学・高等専門学校での、データサイエンティストを含めたAI人材の育成基盤が整い始めています。
データサイエンティストに限ってみても、この認定を受けた教育機関では、知識を身につけるだけのプログラムではなく、その知識を活用して実践できる人材を育成するためのプログラムを用意しているのが特徴です。言い換えれば、データサイエンティストになるためには、「○○だけを学べばいい」ということにはなりません。
そのうえで、データサイエンスの観点で必要な学問としては、
- 数学・物理学(統計学・解析学)
- コンピュータサイエンス(計算機科学)
- 経済学
など、数字やコンピュータを扱う基礎知識の習得は欠かせないといえるでしょう。
AIを扱う上で求められる数学の知識については以下の記事で解説しているため、あわせてご参照ください。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)データサイエンティストになるためのスキルセット
上記のように、先行しているIT/ネット企業、また、学官による取り組みなど、特定の組織や体系的な教育環境により、データサイエンティスト育成・増加に向けた動きは活発になっています。
ところで、このような企業への就職や教育環境に身を置く以外に、データサイエンティストになる道はないのでしょうか。
効率的かつ確実にデータサイエンティストを目指す、ということであればそのとおりですが、独学でデータサイエンティストを目指す道も存在します。
その足がかりとなるのが、一般社団法人データサイエンティスト協会が発表している「データサイエンティスト スキルチェックリスト」です。
同協会は、企業や組織が求める「データサイエンティスト」の人材育成・人材獲得の円滑化と、ビッグデータ関連市場の健全な発展を目的に2013年に設立した団体です。
同協会では、定期的にデータサイエンティストに必要なスキルセットをチェックするための項目をまとめた「データサイエンティスト スキルチェックリスト」を公開しています。
ここではすべてのリストを紹介しませんが、データサイエンティストに必要なスキルを以下のように分類し、それぞれについてチェックする項目をまとめています。
- データサイエンス力(18カテゴリ、282項目)
- データエンジニアリング力(8カテゴリ、159項目)
- ビジネス力(10カテゴリ、131項目)
に分類し、それぞれについてチェックする項目をまとめています。
最新の「スキルチェックリスト ver.4」のダウンロードはこちらから行えます。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)データサイエンティストへの道
最後に、データサイエンティストになるための道標についてまとめます。
まずは、上述の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」で認定された学校・教育機関に入学し、学ぶ方法です。
もちろん、専門的に学ぶ以外にもさまざまな方法があります。
データサイエンティスト関連書籍から知識を吸収する
たとえば、独学で学ぶ一番の方法はデータサイエンティスト関連の書籍を読むことです。「データサイエンティスト」「データサイエンス」をメインテーマとした書籍はもちろんのこと、それに付随した情報・知識・学問に関する書籍もおすすめです。
具体的には、前述した「数学・物理学(統計学・解析学)」「コンピュータサイエンス(計算機科学)」「経済学」などの分野に関する書籍を探すとよいでしょう。さらに、この分野、とくにコンピュータ関連については日進月歩で進化するものなので、スキルに関連した内容は可能な限り最新のものを探すことが重要です。
その点で、英語力を持っていれば、洋書を読むことも、スキルアップにつながる強力な方法といえます。
eラーニングなどでPythonを学ぶ
今では各種eラーニングサービスが拡充しており、「データサイエンス」やデータサイエンス領域での主力プログラミング言語である「Python」に関連した講座を受講すれば、自宅でデータサイエンティストへ進む道が開けます。
テックカンファレンスなどに参加する
各種企業が開催するテクノロジーカンファレンス、学術領域で行われる学会への参加、オンライン・オフラインコミュニティへの参加も、スキルアップとともに、データサイエンティストとして役立つ人脈づくりにつながるのでおすすめです。
今挙げたすべての方法において、先ほどの「データサイエンティスト スキルチェックリスト」を活用すれば、自分自身の強み・弱みを確認しながら、学びを進めていくことができます。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)データサイエンティストへの転職を考えるのであれば、転職エージェントへ相談するのも手
本記事ではデータサイエンティストを目指すために役立つ情報をお伝えしてきました。とはいえ、実務経験を重視されることが多いエンジニア転職では、未経験からデータサイエンティストを目指すのは一筋縄ではいかないことも多いです。もし、データサイエンティストへの転職をお考えなら、転職エージェントサービスを利用するのもおすすめです。
dodaエージェントサービスでも、市場感や求人探し、転職につなげるための独学ポイントや面接対策など、転職活動のお手伝いをいたしますのでぜひお気軽にご相談ください。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)馮 富久(ふぉん・とみひさ)
株式会社技術評論社デジタル事業部部長
1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属、同誌編集長(2004年1月~2011年12月)や『Web Site Expert』編集長を歴任。その後、2007年、gihyo.jpの立ち上げなど、技術評論社のWeb・オンライン企画、イベント企画などを担当。現在は、2022年4月に設立したデジタル事業部にて、技術評論社の電子出版やEC、企業マーケティング、広告を中心に、デジタル・オンライン事業を取りまとめる。2021年5月、電子書籍専門企業 株式会社GREEPの社外取締役に就任。社外活動として「電子書籍を考える出版社の会」の代表幹事や「WebSig 24/7」のモデレーター、「TechLION」プロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワードほか各賞審査員などの経験を持つ。
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