そもそもテックリードとは、どんな職位の人?
日本ではまだテックリードという職位が確立されておらず、比較的新しい区分となるため、あまり言葉としてなじみはないかもしれません。とはいえ、冒頭で触れたように最近は国内でもエンジニアのリーダーという認識でテックリードが捉えられるようになってきました。
もともとソフトウェア開発のエンジニアは、自身に割り当てられた担当パートを黙々と作業していくことが多いのですが、プロジェクトにおいて一つの成果物を完成させるためには、共通ゴールに向かって各エンジニアが動いていく必要があります。そこで、技術面でチームを支えエンジニアを引っ張っていく人物として、テックリードという職位が登場しました。
テックリードには、技術面でのチーム牽引役に加えて、ほかのチームや部署と連携する窓口役も期待されます。したがって、エンジニアのチームごとに配置していくことが理想的といえるでしょう。
テックリードとほかの周辺職位との違いは何か?
昨今、テックリードと似たような周辺職位が登場しているため、どのような違いがあるのかを確認しておきましょう。企業によって役割の解釈に若干のバラツキがあり、まだ明確な定義はありませんが、業務の担当範囲からある程度のポジションは理解できるでしょう。
エンジニアリングマネージャー、プロジェクトマネージャーとの違い
まず、テックリードとよく似ている職位として、エンジニアリングマネージャー(EM)やプロジェクトマネージャー(PM)が挙げられます。これらはマネージャー職であり、いずれも広い意味での管理業務がメインとなります。
エンジニアリングマネージャーは、エンジニア組織をまとめ上げ、生産性を高めていくために、開発環境の整備からメンバーの育成、ケアなど、組織マネジメント、ピープルマネジメントを幅広く担当します。またプロジェクトマネージャーは、プロジェクト全体を俯瞰しながら、プロジェクトの予算やスケジュールなどプロジェクトマネジメントを担います。
これに対してテックリードは、開発チームのリーダーとして現場に寄り添いながら、技術的な問題解決や、コード品質の方針策定・維持、テスト計画など、技術面に特化した役割を担っているといえるでしょう。
ただし、メンバーの育成や技術的な啓発活動もリードしていくことがあるため、エンジニアリングマネージャーと業務が重なるケースも見られます。企業によってはエンジニアリングマネージャーと兼任することもあります。ソフトウェアファーストのIT企業では、技術のスペシャリストとして、テックリードをキャリアパスに置いているようです。
このほかに、テックリードとVPoE、あるいはCTOとの違いが問われることがあるかもしれません。ただし、こちらは違いが明らかです。VPoEは企業のエンジニアリング部門の責任者であり、CTOは最高技術責任者です。いずれも経営側のポジションになります。テックリードの場合は、経営には直接関わらず、あくまで現場側の開発チーム単位のリーダーという立ち位置になります。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)どんな仕事、役割がテックリードの中心になるのか?
それぞれの関連職位がだいたい把握できたところで、テックリードの主な仕事内容について見ていきましょう。大きく分けると、「開発チーム内での仕事」と「開発チーム外での仕事」に大別できます。以下、それぞれについて解説していきます。
チーム内での仕事について
リーダーとしてチームをまとめて仕事を成功に導く
繰り返しになりますが、テックリードはエンジニアチーム内の技術面におけるリーダーです。高品質な成果物を出すために開発メンバーのメンターとなり、技術的な方向性を示してチーム全体をまとめ上げていく必要があります。開発手法を提示し、開発環境を整備してチームの生産性を最大化できるようにリードしていくのです。
そのために、メンバーの技術レベルを確認し、スキルアップの施策を講じることも仕事のひとつになります。人材育成についてはエンジニアリングマネージャーの仕事と重なる部分もありますが、優れた成果物につなげるためには、勉強会やコーチングによってメンバーの技術レベルを底上げすることも重要な役割になります。
採用する開発言語やフレームワークなどを検討する
テックリードは、プロジェクトの要求に合わせて、どんな技術で開発を進めるのか、その方向性を示す役割も担います。サーバーはオンプレミスなのか、あるいはクラウドを利用するのか、データベースは何を採用するのか、ソフトェア開発に最適な言語やフレームワークはどうすべきか等々、システムを俯瞰しながらチームにおけるビジョンを示して、設計方針を検討し決定していきます。
開発・実装段階において、できるだけ手戻りを減らして作業を効率化することもテックリードの腕の見せ所になります。特にIT系は技術の進歩が著しいため、豊富な知識や経験をもとに最適な技術をチョイスしてプロジェクトを成功に導くことが肝要です。また、何かトラブルが発生した場合に備えて、迅速に対応できる体制の構築や業務フローの策定も重要な仕事になります。
ソフトウェアのコード品質を十分に担保する
テックリードは、チームの成果物に対しての最終的な責任を負います。そのため、チームが作ったソフトウェアの品質を担保するという重要な役割があります。高品質を維持するには、コードレビューをこまめに実施し、一貫性のある指示やチェックを行います。
長期的に通用するような優れたコードを作るためには、パフォーマンスを考慮しながら安定して動くことも確認しなければなりません。最近はパフォーマンスのみならず、セキュリティ面も重視されるようになっています。事前にセキュリティに配慮した「セキュア・コーディング」を取り入れることも多くなりました。このようにセキュリティ関連の知識も必要になっています。
スケジュール管理・作業の割り振りなどの担当
テックリードは、チームのスケジュール管理も担当します。プロジェクトを計画どおり円滑に進めていくためには、メンバーのスキルやリソース状況を把握しながら、適切な作業の割り振りを行います。それぞれのタスクを整理して、チーム内でのメンバーの分担を明らかにします。そのうえで、特定のメンバーに負荷がかかりすぎてボトルネックにならないように、仕事量を調整することも重要な仕事になります。
ほかにも、チームリーダーとしてメンバーの開発の障害となる要因を取り除く努力をしなければなりません。メンバーと頻繁にコミュニケーションをとって、技術的な課題や悩みがないかをチェックします。
チーム外での仕事について
企画段階から関係部署に事前確認やすり合わせを行う
テックリードは、エンジニアチームの代表として、ほかのチームや部署と関わることが多いポジションです。プロジェクト開始時には、企画段階から他部署と情報共有してスケジュールについて打ち合わせを行います。初期段階で事前に関係部署と認識を合わせておくことが実装段階のリスク発生を抑え、エンジニアチームの生産性を向上させることにつながります。
他部署とのミーティングの際は、会議への出席やエンジニアリング的な視点からプロジェクトの進捗報告や調整などを行います。テックリードは、技術的な説明やプロジェクトの目的を明確にするために、エンジニア職でない人から質問された場合には、相手に理解しやすい言葉を使って分かりやすく説明する能力も求められます。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)テックリードに求められるスキルとは?
これらの仕事内容を踏まえて、テックリードが身につけておくべきスキルについて考えてみましょう。
チームをまとめ上げるリーダーシップ
当然のことですが、テックリードはチームをまとめ上げるためのリーダーシップが必須の能力になります。周囲のメンバーから信頼を得られなければ誰もフォローしてくれないでしょう。エンジニアのお手本となるように、普段から一貫した言動や行動を心がけ、相手を説得できる能力を身につけることも重要です。
また、テックリードは技術的なサポート役という側面が強いものの、プロジェクトを成功させるためにメンバー間のトラブルを解決したり、相談を親身に聞いてアドバイスや調整を行ったりしながら、チームのムードメーカーやメンターとしての役割を果たすことも大切です。
ソフトウェア開発に関する技術力と知見
テックリードには、チームのエンジニアをリードできる技術力と実務経験、ノウハウが不可欠です。すべての設計を担当するわけではありませんが、チーム内で決定権を持ち、最終成果物に対しての責任を担う立場です。
そのため、設計や品質に対するスキルはもちろんのこと、チームを引っ張っていく技術的なビジョンを持ち合わせておく必要があります。ほかにも、技術的な側面からメンバーを支えていくには、常に課題解決につながるようにアンテナを張り巡らし、セミナーやイベントなどに参加することで最新技術を積極的にキャッチアップしていく姿勢も求められます。
問題解決のための的確な判断力と折衝力
プロジェクトをスムーズに遂行していくために、テックリードは生産性や効率性にも配慮しながら、メンバーが抱える課題を見つけて、技術的なアドバイスを行いフォローアップしなければなりません。何か問題が発生したら、現状を正確に把握・分析して、問題解決に向けた的確な判断と指示を下せる能力が重要になります。
これはチーム内だけにとどまりません。チームの代表窓口として、会議に出席して進捗状況を報告したり、ときには課題解決のために他部署に協力を仰いだりすることもあるでしょう。その際に円滑にコミュニケーションを図って、ロジカルに状況を説明し、折衝する能力が必須になります。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)テックリードになるためのキャリアプラン~まず何から始める?
最後にテックリードになるためのキャリアプランについて説明します。
テックリードはエンジニアチームのまとめ役となるため、まず一人の技術者として研鑽を積んでいくことになります。エンジニアとしてさまざまなプロジェクトに参加し、十分な実務経験を積みながら、技術的な知識に加えてチームリーダーとしてのマネジメントも学んでいきましょう。
そのうえで、ご自身のスタイルとして技術志向が強ければテックリードを目指し、もう少し幅広い業務まで含めてエンジニア組織を取りまとめたり、プロジェクト全般を見たりしたいのであれば、エンジニアリングマネージャーやプロジェクトマネージャーを目指すのもといでしょう。
このような職位は、企業の方針によっては兼任ということになることもあります。さらに、その先には経営寄りのVPoEや最高技術責任者のCTOが控えています。転職を考える場合は、ご自身の適性に応じてキャリアパスが用意されている企業を選びましょう。
なお、ここで挙げたプロジェクトマネージャーやVPoE、CTOについて興味をお持ちの方は以下の記事も参考にしてください。
VPoEとは?役割や求められるスキル、CTOや周辺役職との違いとは?
プロジェクトマネージャー(PM)とは?仕事内容やスキル、年収についても解説
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)まとめ
テックリードには、エンジニアチームの内外において大きく2つの役割があります。まず、チーム内でチームリーダーとしてメンバーを牽引する役割です。設計の方向性と具体的な施策を決定し、メンバーへの技術的なアドバイスや成果物の品質を保つための指示を行います。一方、チーム外では窓口的な立場で、他チームからの相談や情報共有、認識のすり合わせ、調整などを行って業務をスムーズに運ぶ役割も果たします。
このように、テックリードの仕事内容は多岐にわたるため、エンジニアとしての高い技術力と豊富な実務経験が求められます。いきなり未経験でテックリードを目指すのはハードルが高いため、まずはエンジニアとして技術に対する理解を深め、実務経験を十分に積み重ねてからチャレンジしてみてはいかがでしょう。
ここまで、テックリードの定義や仕事内容、求められる能力などを解説してきました。本記事をお読みの方の中には、さらに踏み込んだ情報を必要とされている方も多いことでしょう。
中でも、キャリアの選択肢としてテックリードに興味を持ったものの、今の勤務先にテックリードのポジションがないというような方は転職エージェントを利用し、情報収集から始めるのも一つの手です。dodaエージェントサービスでも、テックリードに関する求人の市場感や具体的な求人探し、選考対策はもちろん、キャリアの悩みといった段階からお手伝いしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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転職タイプ診断を受けてみる(無料)技術評論社 デジタルコンテンツ編集チーム
理工書やコンピュータ関連書籍を中心に刊行している技術評論社のデジタルコンテンツ編集チームでは、同社のWebメディア「gihyo.jp」をはじめ、クライアント企業のコンテンツ制作などを幅広く手掛ける。
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