クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン株式会社 バイスプレジデント臨床開発事業本部長
品川 丈太郎氏
慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院などで医師として勤務。その後、ノバルティスファーマ株式会社やアストラゼネカ株式会社などで、臨床開発担当およびメディカルアドバイザーなどを務める。ヤンセンファーマ株式会社にてメディカルマーケティングディレクターとして活躍し、2010年にクインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンに入社。臨床開発事業本部に所属しながら、メディカルドクターとしても社員教育に情熱を注ぐ。休祝日は非常勤医師として内科救急医療に携わる。
砥上 貴恵
お話を聞いたdodaキャリアアドバイザー
モノづくり系エンジニア領域のdodaキャリアアドバイザーを経て、メディカル業界専任となり6年の経験を持つ。メディカル業界の中でも、CRAの方を中心に転職をサポート。
20代前半から60代まで幅広い年齢層の方、また医療機関や研究機関から製薬・医療機器メーカーへの転職のサポートなど、臨床開発職において数多くの実績を持つ。企業からも、CRA専任のキャリアアドバイザーとして信頼を得ている。
クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン社は、世界最大手の米国系CRO(Contract Research Organization:医療品開発業務受託機関)。グループ会社が世界中にあり、世界各国で臨床試験を同時に実施する際に、まずパートナー候補として名前が上がるのがクインタイルズだと言われています。グローバル企業の強みを活かし、先駆的な取り組みで業界に革新的な風を送り続けているのも特徴の一つ。CRO、そして「CRA(Clinical Research Associate:臨床開発モニター)は医療従事者である」というプライドを持ち、まさに世界を股にかけて活躍する人材を輩出している理由を聞きました。
砥上:
品川さんは、CRO業界の現状の課題は何だとお考えですか?また、クインタイルズは今後、CRO業界でどのような役割を担っていきたいとお考えですか?
品川:
現在、大手外資系の製薬会社をはじめとして、モニタリング部門を自社で持たないメーカーが増えてきています。そうした現状で私たちCROが抱える課題とは、リソースのコントロールや管理、サービスの質に対する高い期待にいかに応えられるか、ということです。まずリソースのコントロールや管理の面ですが、最近は顧客の開発計画やパイプライン、ポートフォリオマネジメントがかなり上下にぶれるようになってきています。来月10人のCRAの参加が大丈夫か、再来月は20人…というように、必要となる人材のリクエストがより厳しく、不安定な状況にフレキシブルに対応することを求められるようになってきています。
サービスの質に対する期待という点では、たとえばこれまでのCRAは、最低限GCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)を理解して臨床試験現場に出向き、データを集めて修正をしていれば良かったのですが、最近は臨床試験を動かすプロジェクトマネジメントの役割も期待されるケースが出てきています。このように私たちCROに求められるのは、製造工場機能と研究所機能以外のすべての機能であり、それゆえできるだけ質の高いCRAが必要とされているのです。
顧客のニーズに対してフレキシブルに対応することはサービス業として当然のこととして、私は常に「われわれは御用聞きではない。顧客にとってのベストソリューションを提供するのがわれわれの仕事だ」というメッセージを社員に投げかけています。パートナーとして意見やサポートを求められることが多くなってきており、今後はその傾向がより一層強くなるでしょう。また、モニタリングのやり方も従来の施設訪問頻度が固定されているやり方から、海外では主流になっているプロトコール、対象疾患、施設の能力に応じて訪問頻度を細やかに変えていく、リスクに基づくモニタリング(Risk-Based Monitoring 以下RBM)が日本でも採用されるようになっていくことが予想されます。
砥上:
そうした課題を踏まえて、業界を大手CROとして牽引していらっしゃるクインタイルズの強みは何でしょうか?
品川:
当社内ではグローバルスタディが当たり前に存在していて、会議でも普通に英語が飛び交っています。日本で手さぐり状態ではじまっているRBMについても、海外ですでにその方法論を確立しているので、日本ではそれを再現すれば良いだけです。RBMを導入することで、効率性も高くなりフレキシブルな対応がより可能になっています。
RBMが日本で普及すると、従来に比べ必要とされるモニターの絶対数は抑えられますが、より質の高いCRAが求められるようになります。医学知識を持ち、サイエンスの観点からドクターとのコミュニケーションが図れる、患者さんにいち早く良い薬をお届けしたいという熱意を持って仕事に取り組めるモニターが必要とされてくるのです。CRAにはサイエンスは必要ないと言う人もいますが、私は決してそうは思いません。その点、当社ではメディカルチームが充実していることも強みの一つです。メディカルチームの存在はグローバル試験ではスタンダードであり、CRAの臨床試験の教育研修もチームに属しているドクターが担当しています。臨床試験のサポートを目的として、複数のドクターを社内に抱えているCROは国内では私たちだけではないでしょうか。メディカルチームによるトレーニングによって、病気やプロトコールまで理解している質の高いCRAを育成できているのです。
パートナーシップという点でも、当社は先駆けています。以前は、パートナーシップというと試験はすべて任せる代わりに、ボリュームディスカウントを要求される状態でしたが、メルクセローノ社と提携した例のように、CRAのみならずSOP (Standard Operating Procedure:標準作業手順書)から開発関係のITシステムといったインフラの部分まで当社に任せていただけるケースも出てきています。
砥上:
クインタイルズで描けるキャリアの可能性についてお聞かせください。
品川:
私たちは、Individual development plan(自己開発計画)を重要視しています。CRAのキャリアプランとして用意しているのが、CRAたちの教育、育成、目標設定、評価に専念するラインマネジャーに進む道と、試験を動かすCTL(Clinical Trial Leader)というプロジェクトマネジャーに進む道の大きく二つです。また、製造工場と研究所機能以外はすべて持っている点もキャリアプランを考えるには好環境です。たとえば、人事や開発戦略コンサルテーション、ビジネスデベロップメント、薬事などへの転身を図ることも可能。臨床開発部門だけで1,200名を超える大きな組織だからこその幅広いキャリアがクインタイルズでは描けます。
キャリアプランをグローバルレベルで考えることもできます。最近も、結婚後にご主人の転勤でシンガポールに移ることになったCRAが、シンガポールのクインタイルズに転籍しました。国が変わっても同じクインタイルズの名刺を持ってキャリアを継続することができるのです。同様に、韓国のクインタイルズへの転籍話が進んでいるケースもあります。もちろん、当社に必要な人材だという前提や、空いているポジションがあるという条件にもよりますが、東京・大阪間と同じような感覚で、日本・シンガポールや日本・韓国という転籍ができるCROはほかにはないと思います。また、アメリカの本社に2年の期間で送り出しているダイレクターもいます。
グローバルなキャリアプランを考える上で役立つのがEBT(Extended Business Trip:海外出張制度)で、日本のCROでは当社が先駆けて取り入れている制度です。約2週間、年に20名のCRAを海外派遣しています。欧米諸国やアジアのクインタイルズに行き、英語環境下で海外の先輩に同行してモニタリングを経験するのですが、ここで英語を使ってアポイントメントを取り、病院でドクターと英語でコミュニケーションを図る現場や文書作成・管理などを経験します。また、日本ではどうなの?とくり返し質問されることにより、日本と海外との違いに関するより良い理解にもつながります。結果的に、皆、非常にモチベーションがアップして帰国しています。これはあるモニターから私宛に「外資系のクインタイルズなのだから、海外トレーニングの場を設けてほしい」というメールが来たことが始まりです。海外での経験は、自分のキャリアプランを見直し、足りないスキルや知識を知る上でも非常に有効に作用しているので、今後も継続していきたいと考えています。
今回の品川さんのお話の中で特に印象に残ったのは「CRAは医療従事者である」という教育を徹底されていること。それを実現できるように、高い専門知識が身につけられるような教育制度を整えていることや、メディカルドクター部隊の充実など、会社として現場社員の育成を強く意識されている様子が伝わってきました。ビジネスに関しても、社内でのキャリアパスや体制についても、グローバル企業だからこその強みが明確化されている企業であるとあらためて実感しました。
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- 砥上 貴恵
【臨床開発専任】
モノづくり系エンジニアの方のdodaキャリアアドバイザーを経て、メディカル業界専任に。メディカル業界の中でも、臨床開発(CRA)関連の方を中心にお会いしています。20代前半の方から60代の方まで、幅広い年齢層の方の転職サポートや、医療機関や研究機関から製薬・医療機器メーカーへの転職のご支援など、臨床開発職において数多くの実績があります。また企業からも、臨床開発専任のキャリアアドバイザーとして、直接、採用情報を得ています。
非常に大きなパワーを使う転職活動。転職活動に関してのノウハウや、業界・企業の情報提供はもちろん、精神面でのサポートも含めたご支援がモットーです。“その場限り”の「転職支援者」ではなく、キャリアについて悩んだ際に、いつでも、何度でもご相談いただけるような「キャリアアドバイザー」を目指しています。