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トップ企業が本音で語る 飛躍を前に立ちはだかる事業課題・経営課題

早稲田大学 副総長 理工学術院教授(工学博士) 橋本 周司氏

Company&Personal PROFILE
1882年(明治15年)に大隈重信が創立した東京専門学校が前身となる、学生数5万5千人を擁する総合大学。私学の雄として、これまでさまざまな分野で、日本を代表する数多くの人材を輩出してきた。
橋本氏は、1970年に早稲田大学理工学部応用物理学科を卒業後、同大学院理工学研究科を経て、1977工学博士を取得。1979年東邦大学講師、1989年同助教授。1991年に早稲田大学助教授、1993年同教授、2006年から10年まで理工学術院長を務め、2010年11月より現職。

教育機関として、事業体として、自己変革していくための「Waseda Vision 150」 今回は、数ある課題の中から"国際化に向けた大学改革"についてお話しします

未だかつてない転機に立たされる大学 次の時代を牽引するために、策定した4つのビジョン

今、日本の大学教育は、その存在意義を時代に問われています。大きな社会構造の変化を引き起こすであろう、日本国内の少子高齢化と世界的な人口爆発。国境を超えて広がる環境・エネルギーや食糧、紛争、貧困などの問題。そして、国内産業の空洞化、大学間の国際競争。ビジネスの世界ではもう10年以上も前から、欧米諸国はもちろん、アジアの新興国との競争が激化していますが、その波は現在、大学教育の世界にも確実に広がりを見せています。この国際競争に、日本の大学は果たして打ち勝つことができるのか。これからの日本を背負って立つ人材育成、技術革新をリードすることができるのか。そんな厳しい問いを、世の中から突きつけられているのではないでしょうか。これからの大学は、社会の要請に応えるだけの「御用聞き」ではなく、人材育成を通して、どんな社会、どんな国、どんな未来をつくっていくべきかを社会に提示できる存在でなくてはならない。そのためにも、自らビジョンを掲げ、改革を実行していかなければいけません。ただ現段階では、満足のいく成果を残している大学はまだ少ないのが実情です。

2012年11月、私たちが掲げた「Waseda Vision 150」は、まさにそんな大学の現状を打破するための解答であり、私たちが果たすべき未来へのミッションです。2007年の創立125周年からの5年間、中長期的な成長計画として「Waseda Next 125」を掲げ、さまざまな改革を行い、ある一定の成果を残すことができました。この取り組みを一時的なイベントで終わらせてはいけない。常に進化させ続け、継続的な運動にすることで、本当の意味での改革を実現させなければいけない。そんな決意のもと、「Waseda Vision 150」は、創立150周年となる2032年に向けて策定され、プロジェクトがスタートしました。

「Waseda Vision 150」は具体的には、「世界に貢献する高い志を持った学生」「世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する研究」「グローバルリーダーとして社会を支える卒業生」「アジアの大学のモデルとなる進化する大学」という4つのビジョンから構成されています。このビジョンのもと、入試、教育・研究、国際展開、経営の4つの分野における13の核心戦略と、75にもおよぶ具体的なプロジェクトを立ち上げ、突っ込んだ討議に基づいた行動を開始したところです。これら4つのビジョンは、一見すると早稲田大学独自というよりは、どの大学でもあてはまるような発想かもしれません。しかし、どの大学にも求められている4つのビジョンを徹底追求できている大学が、ほとんど無いのも事実です。だからこそ、日本を代表する大学のひとつである早稲田大学が率先して取り組んでいく必要があるのだと考えています。

優秀な人材を自ら獲得しにいく入試 "キャンパスで学ぶ"価値を問われる教育

「Waseda Vision 150」の中でも、特にキーとなる分野は2つ。入試と教育です。この2つを大きく変革していくつもりです。ここ十数年でITをはじめとしたテクノロジーの大きな変化が起こり、それに伴い、社会も激しく変化しています。しかし、一方で、大学の入試と教育の仕方は大学制度が発足以来、ほとんど変わっていない。これはどう考えてもおかしいでしょう。

まず入試については、学生が受験してくれるのをただ待つのではなく、世界各国の優秀な学生を自ら獲得しにいくようなスタイルに変えていきたいと考えています。学生を一斉に大学に集め、わずか2週間ほどですべての学部の入試を行う旧態依然としたやり方では、海外の大学にもう太刀打ちできないところまで来ています。インターネット等を駆使して、世界のどこにいても受験できる入試方式を導入する。国内選抜、海外選抜それぞれで、より多様な入試のあり方を考えるべきだと思います。

教育についても、同様です。今早稲田は約4,400名の外国人学生が学んでいますが、より国際化に対応した授業形態に変えていく必要があります。英語による授業を増やすのはもちろん、授業形態も教授が一方的に講義を聞かせるだけの講義型ではなく、ディスカッションを中心とした参加型の授業を増やしていきます。インターネットなどによる授業配信が世界で広がりつつあり、近い将来、講義を聴くだけであれば、わざわざ大学に通う必要がない時代もやって来ます。学生がキャンパスに足を運ぶ価値のある授業、受けに来たくなる授業をもっと考案するべきです。

また、大学の主役は、あくまで学生です。学生自身も大学から与えてもらうだけの「お客さん」意識を捨て、主体的に授業などに参加し、大学の運営にも入り込んでいく。そして卒業後も、引き続き母校と関わっていく。そんな意識醸成と関係構築をしていくための施策を、企画実行していきたいと考えています。

自主自営する私学ならではの大学モデルの確立へ 求められる事業組織としての成長

大学改革を通して、教育機関として進化することはもちろん、一事業組織としても成長していかなければいけません。北京大学や精華大学、ソウル大学など中国、韓国をはじめとしたアジアの大学のレベルはどんどん上がっています。ただし、それは国の膨大な投資による部分も非常に大きい。一方で、早稲田大学は私立大学です。国ではなく、自ら自営する大学であるため、投下できる資金には限界があります。しかし、国主導ではなく、自分たち自身で資金を生み出し、つくり上げていく。そんな私学ならではと言える新しい大学モデルの構築に挑戦していくところに、早稲田大学らしさがあるのだと思います。

では、どうやって新しい大学の成功モデルを確立していけばよいのでしょうか。現在、早稲田大学の収入の大部分は学費によるものです。より盤石な財政基盤を整えるために、国際化の中でさまざまな切り口から収入源を増やして教育研究のさらなる向上を図っていく必要があります。早稲田大学では外国からの団体研修を請け負うということも行っていますが、教育を本業とする大学ならではの事業として「教育システムの輸出」も考えられるでしょう。日本の大学、特に理工系では大学院生だけでなく、学部生時代から研究室に配属され、指導教員と二人三脚で学んでいく。大学院でも授業中心の欧米とは異なる日本独自の大学教育は、現在見直しが進んでいますが、良いところも沢山あります。適切な改良を行えば高等教育の一つのお手本となるものです。事実、エジプトではすでに日本型の教育システムを導入した大学(エジプト日本科学技術大学:E-JUST)がJICAの支援によって開校しており、本学もそのコンサルテーションに参加しています。

加えて、「社会の研究開発機関」として、企業や自治体など、それから国との連携をさらに促進させていく必要もあります。そのために不可欠なのが、事業体としての大学組織の成熟です。例えば、大学の研究室は企業から研究開発の依頼をいただいても、その費用の正確な見積もりをつくれないことが多い。一般企業で働く人は驚く話かもしれませんが、それが現実です。このままでは、企業連携の体制が整備され、経験も豊かなアメリカの大学に勝てない。今以上にガバナンスを強化し、研究そのものと組織に対する世の中からの信頼度を上げていかないといけません。このように取り組むべき課題は山積みですが、その一つひとつに逃げることなく取り組んでいくことが、2032年に向けたビジョン実現へとつながっていくのだと確信しています。

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