海外勤務に必要なのは英語の「スピーキング力」。
3つの効果的な上達法
更新日:2022/11/10
ビジネス英語で最も重要なスピーキング力
図1:言語の4技能、区分と子どもが習得する順番
語学習得の必要技能は、インプット(理解)であるリスニング力とリーディング力、アウトプット(発信)であるスピーキング力とライティング力の4つに分類されるといわれています。野上さんはスピーキング力を重視する理由について、次のように解説します。
「日系企業が社員を海外に赴任させる際、海外赴任者には現地の社員にはできない役割(役職)を与える場合が多いです。また、日本人が日系企業に現地採用される際においても、ほぼ同様で、現地社員では果たしきれない役割が与えられるでしょう。いずれにせよ、周りの現地社員を巻き込み、率いていくためのリーダー的役割となるため、英語によるアウトプット力、中でも『スピーキング力』が必要な場面が圧倒的に増える、と言って間違いないでしょう」
海外勤務では、現地社員が持っていないスキルを期待されるため、自分の意見を積極的に伝える機会が増えていきます。さらに、リーダー的役割で周囲を巻き込むためには言葉によるコミュニケーションが不可欠。英語のスピーキング力が重視されるのも納得です。
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なぜ日本人は英語のアウトプット(特にスピーキング)が苦手なのか
英語のスピーキング力が重視されるといっても、まずは何から始めるべきでしょうか。「文字情報がベースのリーディング力・ライティング力と、話し言葉がベースのリスニング力・スピーキング力は、まったく別物であると認識することが英語力上達のための最初のステップ」と、野上さんは話します。
「まず子どもは、親とのコミュニケーションを通してリスニング力を身につけ、その後スピーキング力が発達します。小学校に入る前、子どもたちは人との意思疎通をするための十分な母国語力を備えていますが、まだ文字の読み書きはできていないでしょう。子どもは親との関わりにおいて、リスニング力からスピーキング力を培い、その後の学校教育によって、リーディング力とライティング力を習得します。また、話し言葉でも文字情報でも共通するのは、先にインプット力(リスニング力、リーディング力)が培われ、その後アウトプット力(スピーキング力、ライティング力)につながっていくことです」
それでは、英語が母国語ではない人たちが自然と英語を覚えることはないのでしょうか。野上さんは自身の海外生活を振り返りながら、海外の事例を教えてくれました。
「多くの外国では、公用語が英語でなくとも、テレビを見れば英語番組が放送され、街に出ると多くの外国人に出会う等、日常生活においても英語との接触が多くなる傾向があります。これは別言語を話す隣接国があったり、かつてアメリカやイギリスの植民地だったりした国や地域ほど顕著です。東南アジア諸国においても、公用語の一つが英語であるシンガポールやフィリピン、多民族国家で英語話者の多いマレーシアはもちろんのこと、タイやインドネシアも都市部であれば同じような状況です。これらの国では、英語教育を受けていない人でも、日常の英会話は可能です。これは、リスニング力とスピーキング力は環境次第である程度の習得が可能であることを証明しています」
それでは、日本の状況はいかがでしょうか?
「日本は今でこそ外国人観光客や留学生、労働者や技能実習生が増えていますが、外国人材の受け入れや日本の観光プロモーションが積極化に取り組むようになった2010年代以前は外国人と接する場面がそこまで多くなく、英語を日常的に使用する機会が限定的でした。ほかの国や地域に比べると日常生活の中で習得できるリスニング力やスピーキング力は低くなりますが、学校で習うリーディング力は比較的高い、というのが現実になります」
英語を日常的に使う機会が少なくても、義務教育では英語を習い、大人になってからもTOEICの高得点を目標に英語学習に励む人は多いため、英語に触れる機会は多いはず。しかし、そこには思わぬ落とし穴があることを、野上さんは指摘します。
「一般的なTOEICの Listening&Readingテストはいわゆる英語の『理解力』としてインプットに注力したテストです。リスニング力は、常に英語を聞くことにより1人で勉強しても向上できるため、TOEICのListening&Reading では高いスコアを取れる人も多いですが、このスコアが高いからといって、アウトプット技能であるスピーキング力が高いということには決してなりません。要は、海外の仕事現場で最も必要とされているスピーキング力は、日本で生活している環境においては、またTOEICを勉強するだけでは、習得することが困難な技能なのです。最も困難である技能であるからこそ、習得すれば大きな財産になるのです」
3つの効果的なビジネス英語スピーキング上達法
では、日本で暮らす一般的な日本人がスピーキング力を上達させるためには、どうすれば良いでしょうか。野上さんによる「効果的な3つの上達方法」を、スピーキング力が伸び悩む理由も交えながらご紹介します。
① 尊敬語や謙遜語を使う思考をリセットする
② 発音に注力して反復練習する
③ スピーキングの練習相手を見つける
① 尊敬語や謙譲語を使う思考をリセットする
ビジネスで日本人が日本語を話すとき、尊敬語や謙譲語を使い分けています。例えば、「行く」という動詞でも、相手が目上の人であれば尊敬語の「いらっしゃる」を使用しますし、その人に対し自分の身内が「行く」と言う場合には、「伺う」という謙譲語を使いますよね。 野上さんは、このような言語上の特性が、少なからず英語のスピーキング力に影響していると分析します。
「日本人はビジネスの場では、相手と自分との相対的関係を常に判断しながら話しています。しかし、実は尊敬語や謙譲語の使い分けが、英語を話すときには大きな障害になっているのです。尊敬語の思考が残ったままだと、『go』や『come』といった簡単な動詞でも言うのを躊躇してしまい、相手を『You』と呼ぶことさえ違和感を覚えてしまいます」
さらに、目上の人やクライアントを立てることが得意な日本人だからこそ、英語を話すときの「姿勢」にも気をつけなければならないようです。
「日本人の多くは、目上の人を立てるために遠慮がちになって声が小さくなったり、口数が少なくなったりしてしまう傾向があります。英語圏では『自信がない人』『自分の意見を持たず、発言をしない人』という印象を与えてしまいます。相手に敬意を示すため良かれと思ってやったことが、完全に裏目に出てしまうのです。外国人に英語で話すときは、相手の立場や肩書に関係なく対等にコミュニケーションをするマインドで臨んでください。この姿勢こそが、スピーキング力向上の第一歩となります」
しかし、「このような文化的ギャップに多くの日本人は気付いていないまま英語を学習しているのが現実」と、野上さん。
② 発音に注力して反復練習
野上さんは日本の学校における英語教育にも、日本人のスピーキング力が伸びにくい理由があると考察します。
「日本の学校で英語を教えるとき、文法や読解力が重要視されており、発音を重点的に習うことは、あまりありません。発音が悪いのは単に『格好が悪い』という問題にとどまらず、『通じない』『理解してもらえない』という本質的な問題に関わります。相手に何度も聞き返されるなど、理解してもらえなければ、気持ち自体が萎縮してしまい、最終的には口数が少なくなる、という悪循環を引き起こしてしまうのです。一度この悪循環に陥ってしまうと、英語に対する苦手意識が強くなるだけでなく、英語嫌いになってしまう方も少なくありません。反対に、発音がきちんとできていれば、話した内容がすべて相手に伝わることが多く、話すこと自体が楽しくなり、自ら話す機会を積極的に増やすようにもなります。これを続けることによって、最終的にはスピーキング力が向上する、という好循環が引き起こされるのです」
とはいえ、日本に生まれ育っている日本人であれば、日本語にない英語の発音ができないのは自然なことです。ましてや、スピーキング力に自信がない時点では、会話で萎縮してしまうのも当然ですよね。
「英語はスポーツなどと違い、人によって得手不得手があるという性質のものではありません。例えば、日常で耳にすることのない英語の子音の『f』『v』『th』等は、基本的に日本人には発音ができないのです。スピーキング力を高める段階では、発音を恥ずかしがる必要はまったくないので、自信を落とさず練習を積み重ねてくださいね」
ネイティブスピーカーではなく、大学から英語を学んだ野上さんも、このように励まします。
それでは、発音に自信がない人は、どんな方法でスピーキング力を向上させればいいのでしょうか。
「日本語にない英語の発音は、リスニングにおいてもスピーキングにおいても反復練習をするのが、地道ながらも上達の最短ルートです。特にスピーキング力を上達させるのであれば、YouTubeなどの英語素材を最大限に活用しシャドーイングを行う、またiPhoneユーザーであればSiriなどを使用して繰り返し発音練習することも効果的です」
こうした反復練習は地道なものですが、半年後、一年後にはきっと結果につながるはずなので継続的に練習するとよいでしょう。
③ スピーキングの練習相手を見つける
日本語的な尊敬語や謙譲語の思考から離れ、発音の反復練習を続けられたら、次は「スピーキングの機会を増やすための練習相手を探してください」と、野上さんは助言します。
「最も手っ取り早いのは、日本にいる英語を話す外国人の友人を作ることや、SNS等で英会話の練習に付き合ってくれる友人を見つけることです。そして、その相手とできるだけ広いトピックの会話をしてみてください。あなたより英語がうまい方ならネイティブでなくても構いません。なぜなら、あなたが話そうとしている内容を、より正しい英語で言い直してくれることを期待できるからです」
続けて野上さんは、過去にあったこんな体験を明かしてくれました。
「外国人の友人との会話で『昨日テニスをする予定だったけど、雨で中止になった』と言おうとしたときに、『I wanted to play tennis, but I could not play because of rain』と言ってみたところ、友人が『Oh, you were supposed to play tennis, but you couldn’t because of rain, right?』とより的確な表現で言い直してくれました。『wanted to play』だけでは、『やりたかった』だけで、『やる予定になっていた』というニュアンスが入っていないのです。この会話を通して、より的確な表現を覚えることができ、次回からこの表現を使って、人に伝えることができるようになりました」
これは言い回しや表現だけでなく、単語に関しても同じことが言えます。幅広く、より難しいトピックについて話すことによって、より的確な表現や単語が習得できます。使える単語を増やしていけば、スピーキング力も向上していくでしょう。
スピーキング力を上達させながら海外就活アクションを
語学は一朝一夕では身につかず、習得には時間がかかるものです。また、いつまで経っても「これで十分」と言えないのが、言語学習の特徴と言えるでしょう。ただし、「英語力に自信がないために海外勤務の目標を先延ばしにするのはもったいない」と、野上さんはアドバイス。
「東南アジアの多くの国には、現地の方々も英語を第二言語として使用している国が多く、求められる英語力のレベルも異なっています。例えば、タイ、インドネシア、ベトナム等ならば、お互いが英語を第二言語としてコミュニケーションしているという意識が高いので、英語のスピーキング力が発展途上でも、仕事が成立できるケースも多くあります。逆に言えば、スピーキング力を向上させるには、必然的に英語のアウトプットが求められる環境に身を置いてしまうということも、語学習得の近道になるのです」
英語力は海外勤務のアドバンテージになりますが、野上さんが言うとおり国や地域によって求められるレベルは異なります。それ以上に「海外で働きたい」という思いが大切です。英語力のほか、海外勤務の疑問や不安をキャリアアドバイザーに相談しながら、転職活動をスタートしてみましょう。
この記事の監修者
野上健次 氏
グローバル人材育成コンサルタント
【経歴】
東京都目黒区生まれ。都立青山高校卒業後、アメリカ留学を決意。
オハイオ州立トレド大学大学院で英語習得学を修了後、日本に帰国、株式会社電通に入社。
27年一貫して電通の海外ビジネスに関わり、うち17年はアジア3カ国へ
海外赴任。日本に帰任後は、人事局でグローバル人事、特にグローバル人材育成を担当。
2022年5月、グローバル人材育成コンサルタントとして独立・開業。
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