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海外駐在員になるには
〜キャリアパスと必要な3つの能力〜

更新日:2023/1/20

「海外経験を積んでステップアップしたい」という求職者の声は多くあります。海外で働く方法はいくつかありますが、待遇面や今後のキャリアも考えて海外駐在員を希望する方もいるのでは。では、どうしたら海外駐在員になれるのでしょうか。3カ国合計17年間の海外駐在の経験を持つ、グローバル人材育成コンサルタントの野上健次さんは「海外駐在員になる方法は1つではありませんし、その『近道』もあります。しかし、どのようなルートで目指すにしても、その仕事を遂行するために必要な能力を培っていくことが大事」と、話します。
本コラムでは、海外駐在員になるためのキャリアパスと必要な能力を、野上さんの解説を交えながらお伝えします。

海外駐在員になるには? 4つの方法と実現までのステップ

海外駐在員になる方法を説明する前に、海外駐在員がどのような役割を果たすポジションなのか、野上さんに聞きました。

「海外駐在員は、日本の企業の社員として海外の拠点で働く人のことです。その仕事で重要なのは、本社と現地法人の間のコミュニケーションを円滑にし、日本と現地との相乗効果やイノベーションの創出の手助け。適性もありますが、チャレンジしがいのあるポジションです」

海外駐在員になる方法は、転職によるものと在職によるものの2つに分けられます。そのうえで、主に4つの方法が挙げられます。

■転職して海外駐在を目指す場合:
A. 海外駐在員のポジションを求人している企業へ転職
B. 海外駐在員派遣の実績がある企業へ転職

■在職している会社で海外駐在を目指す場合:
C. 海外駐在員を派遣する事例が多い部署へ異動
D. 社内で海外とのやり取りがある部署へ異動

A. 海外駐在員のポジションを求人している企業へ転職

2022年12月時点で、dodaの海外駐在員の求人数は300件弱あります(2022年に入り増加傾向)。海外駐在員の求人に応募して転職することは、海外駐在員になる最短ルートといえるでしょう。求人の国や地域、求められる経験、スキルが限定されている場合が多いものの、現時点で自分に合った求人をすぐにでも確認することができます。

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B. 海外駐在員派遣の実績がある企業へ転職

海外にビジネスを展開している企業であっても、駐在員を海外に派遣しているとは限りません。そのため、すでに海外拠点があり、海外駐在員派遣の実績がある企業を転職先として選ぶのが賢明でしょう。企業によって重点を置く国や地域が異なるため、自分が駐在を希望する国や地域が転職先企業と合致するかの確認も必要です。ただし、転職に成功しても海外駐在員として確実に選ばれる保証はなく、企業内で海外駐在員を選考する時間もかかるため、中長期的なキャリアプランが必要となるかもしれません。

C. 海外駐在員を派遣する事例が多い部署へ異動

転職をしなくても、海外駐在員の派遣実績が多い部署へ異動するのも一つの手です。一般的に、どんな部署に海外駐在員が多いのか、野上さんはこう話します。

「海外駐在員が多いのは、『お金』『品質』『現地の日系ビジネス』に関わる職種です。市場的には現地採用が増えているにもかかわらず、コストのかかる海外駐在員を派遣させる理由の一つは、現地社員には『任せにくい』役割があるからです。経理職・財務職、メーカーであれば工場での品質管理関連職、そして現地の日系クライアントに対応する営業職のような職種が海外駐在員として選ばれやすいようです」

従って、現在勤務している会社で上記のような職種の部署に異動しキャリアを積むことができれば、海外駐在員になる道が開けていくでしょう。

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D. 社内で海外とのやり取りがある部署へ異動

cで挙げたような部署への異動ができなくても、海外とのやり取りがある部署に異動することにより、海外駐在に必要な能力や経験を培うことができます。海外駐在の実績がない部署を希望することは遠回りに感じるかもしれませんが、野上さんはこのように解説します。

「海外駐在員の仕事は会社を代表して現地でビジネスをするという大きな責任のある役割なので、会社は海外駐在員の選考に関して慎重になりがちです。語学力またはTOEICのスコアが高くても、海外とのやり取りの経験がない社員を海外駐在させるのは、会社としてはリスクが高いと考える傾向があるのです。海外とのやり取りがある部署に異動して経験を重ねて『海外ビジネスを任せられる人材』という信頼を周囲から得ることで、海外駐在を実現できるかもしれません」

今持っているスキルでCのような部署に行くことが難しいと感じる方は、Dのような部署で経験を積むことで可能性が広がります。また、国内で海外に関する仕事をしながら、Cのような業務の勉強や資格取得をするのに励むのも良いでしょう。

まずは海外とやり取りをする仕事に従事して、自らの適性を知ろう

転職、在職のいずれの場合でも、まずは海外の仕事に関わり外国人と直接やり取りをする仕事に従事し、自らの適性を確かめることは重要です。外国人とビジネスをしてみると、語学力だけでは業務遂行が難しいことが多々あります。野上さん自身も、「異文化の考え方や仕事の進め方など、カルチャーショックを受ける場面がいくつもあった」と、過去の駐在経験を振り返ります。

「カルチャーショックをポジティブに捉えて乗り越えることが、海外駐在員への『第一関門突破』と言えるでしょう。反対に、どうしてもポジティブに捉えられない人は、文化や価値観の違いに心が疲弊してしまう可能性もあるので、グローバルキャリア以外の道を考えてみてもいいかもしれません」と、野上さんはアドバイスします。

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海外駐在員に必要な3つの能力を培う

それでは、海外駐在員の仕事を遂行するために必要な能力とはどのようなものでしょうか。野上さんは、海外駐在員に必要なのは①専門性、②サバイバル力、③異文化コミュニケーション力(言語力を含む)の3つであると話します。

言語の4技能、区分と子どもが習得する順番

図1:海外駐在員に必要な3つの能力

① 専門性

前述の「お金」「品質」「現地の日系ビジネス」に関わる職種以外でも、海外駐在員は業務上の高い専門性が期待されます。海外駐在員は現地社員のマネジメントをする立場となる場合が多いため、専門分野の知識や経験が多ければ、多少の語学力のハンディがあっても現地社員から認められ、協業しやすくなるからです。

さらに、専門性の高い人材が海外駐在員に選ばれやすい理由を、野上さんはこのように続けます。

「イノベーションの父といわれる経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、『イノベーションは“既存の知と知の新結合”によって生まれる』と説きました。日本人の海外駐在員と現地社員との協業は、まさに“既存の知と知の新結合”。特に専門性の高い社員はイノベーションを促進すると期待され、海外駐在員の候補に挙がりやすくなるのです」

現地社員とのスムーズな協業、そして海外でのイノベーションという2つの理由から海外駐在員には専門性が求められることが分かります。

② サバイバル力

国内で海外ビジネスに従事するのと「海外駐在」が大きく異なる点は、海外での「生活」が伴うかどうかです。

「海外生活が初めての方にとっては、異文化の中で生活するためのサバイバル力は欠かせません。現地の歴史、文化、風習等をきちんと理解しながら、現地に適応する生活環境を整えることは、海外駐在員が現地で仕事をするうえで基本となります。また、家族が帯同する場合などは子女の学校の手配等、意外に労力がかかります」と、野上さんは指摘します。

③ 異文化コミュニケーション力

異文化コミュニケーション力とは、現地の文化を理解し、現地の人たちと円滑なコミュニケーションを図る能力を指します。「この能力は語学力以上に重要」と野上さんも力説します。

「TOEIC L&Rのスコアが800~900点を超えていても、現地に適合できずに帰国してしまう例を多く見てきました。語学力はもちろん大切ですが、語学力を効果的に発揮できるか否かは、異文化コミュニケーション力によるところが大きいです」

海外駐在員になるうえで、最も大事な異文化コミュニケーション力

野上さんが言う「異文化コミュニケーション力」とは、「異文化コミュニケーションスタイル適応力」と「異文化ブリッジング力」の2つから成ります。

1. 異文化コミュニケーションスタイル適応力

異文化の会議スタイルの傾向

図2:異文化の会議スタイルの傾向

国によって変わるコミュニケーションのスタイルについて、野上さんは海外4カ国で生活した自らの経験をもとに、上図のように説明します。ハイコンテクスト型・ローコンテクスト型という縦軸と、レクチャー型・ディベート型という横軸で掛け合わせて見てみましょう。

・ハイコンテクスト型…人とのコミュニケーションの際に土台となる言語や価値観が近く、意図を察し合って話せる状態
・ローコンテクスト型…土台の言語や価値観が遠く、より言語に依存したコミュニケーションをする状態
・ディベート型…ディベートのように、話す順番などに決まりがなく自由に発言が行われる状態
・レクチャー型…教授がレクチャーを行うときのように、話し手と聞き手、また話す順序などが明確に分かれる状態

例えば、日本でのコミュニケーションスタイルは、ハイコンテクスト型かつレクチャー型を取ることが多いといわれています。一方、ローコンテクスト型かつディベート型のスタイルは、インドやアメリカが代表的です。

コミュニケーションスタイルの違いは、海外駐在員が現地で会議をした際に大きく影響します。インドに4年駐在した経験を持つ野上さんが、当時のことをこのように振り返ります。

「私がインドに駐在したのは、インド拠点の副社長兼営業責任者という立場ででした。インドの会議はローコンテクストかつディベートスタイルで、会議では多くの社員が積極的に発言して議論します。相手の言葉を遮ったり否定したりするなど、かなり自由に議論が進むことも多かったです。私は副社長というリーダー的なポジションにもかかわらずこのような現地のスタイルに慣れておらず、十分に発言さえもできずに会議を終えることがありました。その後、できる限り多くの情報を共有してハイコンクキストな状況を作る、遠慮せずに積極的に発言を行うなど、自分のコミュニケーションのスタイルも活かしながら徐々に現地のスタイルに適応することでリーダーシップを発揮できるようになり、仕事の効率や効果が格段に上がりました」

駐在する国や地域によって、コミュニケーションスタイルを使い分ける力を培うことは、海外駐在を成功させる鍵となりそうです。

2. 異文化ブリッジング力

異文化コミュニケーションをするうえでもう一つ重要な要素は、異なる文化が交わったときのギャップを最小限にする能力です。この異文化間の橋渡しのような役割を「異文化ブリッジング力」と、野上さんは呼びます。野上さんは異文化ブリッジング力について自らの海外駐在の経験を通して、このように説明します。

「私は広告代理店の営業責任者として長く海外駐在員を経験しましたが、異文化のギャップを最小限にし、文化の橋渡しをすることが海外駐在員の仕事の醍醐味と言えます。実際に、異文化による考え方の違い、やり方の違いで発生する誤解や非効率性は自社内だけでなくクライアント社内でも数多く見てきました」

日本人駐在員と現地スタッフとの関係例

図3:日本人駐在員と現地スタッフとの関係例

どのような誤解や非効率なやり取りが発生するか、図を参照しながら、詳しく解説をしていきます。赤色の人物が日本人駐在員、緑色の人物が現地スタッフとします。図のとおり、クライアントと自社の間で、日本人同士、現地人同士が2つのラインでコミュニケーションをしていることを想定してみましょう。このような状況で、クライアント側で日本人駐在員と部下の現地スタッフの意思疎通が円滑に行われていない場合、自社の日本人駐在員と部下である現地スタッフの状況理解にギャップができてしまい、社内でさまざまな誤解や非効率を引き起こします。「このギャップを埋める唯一の方法は、海外駐在員が自らの部下である現地スタッフと情報共有を重ねること」と、野上さんは指摘します。

また、通常のコミュニケーションのルートでなくても海外駐在員本人がクライアントの現地スタッフと積極的にコミュニケーションを行うことで、双方の社内のコミュニケーションギャップの解消にも貢献できます(図3の赤線参照)。「グローバル化の波による異文化の交わりの増加に伴い、誤解や摩擦も増加しています。だからこそ異文化ギャップを最小限にする『異文化ブリッジング力』が貴重な能力となるのです」と、野上さんは結論づけます。

ライフステージを考慮したキャリアパスの選択も大切

海外駐在員を目指すためには、①専門性、②サバイバル力、③異文化コミュニケーション力という3つの能力が必要であることが分かりました。しかし、それ以外にも、自分が置かれている状況や今後のライフステージも考慮しながらキャリアパスを選択していく必要があるでしょう。例えば、既婚者であれば、家族を現地に帯同するか否かは、配偶者や子どもの人生にも大きな影響を与えることになります。特に、子どもにとっては母語が日本語以外になる場合もあるため、人生を大きく変えるような出来事になるかもしれません。「現在の会社で海外駐在のチャンスを待つのか、転職で自ら取りにいくのか、どちらにしても海外駐在は人生においての大きなマイルストーンになることは間違いありません」と野上さん。

海外駐在員に興味があるけれど自分は向いている? 今のキャリアで海外に挑戦しても大丈夫? そんな疑問がある方は、まずはグローバルキャリアアドバイザーにご相談ください。これからのライフプランやキャリアを考えながら、海外への挑戦の最適な方法を一緒に探しましょう!

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