#076
2020.11.16
Q.職場の派閥争い。
巻き込まれるのは嫌だけど孤立したくないし…どうしたら?
どちらの派閥にも属したくない…
中立の立場でいたいのに…
陰口や足の引っ張り合いなど、一度巻き込まれると身動きが取りづらくなるのが職場の派閥争いです。双方の主張に振り回されて板挟みになり疲弊するだけでなく、派閥に属さない選択をすれば孤立してしまうなど、仕事にも影響を及ぼしかねません。
そこで、企業や行政機関で産業医を務める堤多可弘先生に、職場の派閥への対処法についてアドバイスしていただきました。
グループやチームとどう違うの? 派閥の定義
まずは、派閥とグループの違いをおさえておきましょう。職場の派閥を定義する要素は2つあるそうです。
職場の派閥の定義①:排他的であること
堤多可弘先生(以下、堤先生)
自分が所属する派閥以外の人の意見や権利を認めないケースが該当します。場合によっては相手を攻撃することもあります。
職場の派閥の定義②:インフォーマル(「○○課」や「○○部」ではない非公式)な集団であること
堤先生
フォーマルな集団の場合は、基本的にチームや課、部と呼ばれることが多いです。一方、インフォーマルな集団はグループやチームと呼ばれていても、排他性が組み合わさることで派閥と定義されます。
これら2つの要素が派閥を定義するようです。つまり、いわゆる仲良しグループやチームなど、排他的でない=“他”とも仲良くできる集団の場合は、派閥には当たらないということにもなります。
どうして職場の派閥争いが起きるの? 派閥ができる理由は?
そもそも、どうして職場で派閥争いが起きるのでしょうか? 前出の派閥の定義を踏まえた上で、対立構造が生じる代表的な事例をみていきましょう。
職場で派閥争いが起きる理由①:社内で政治的な争いが起きるから
社内で限られた人だけが手にする地位をめぐって争うため、排他的にならざるを得ないパターン。その争いの周囲には、出世のためについていくなど割り切った考え方を持つ人が多いため、それぞれに加勢する人が増え、派閥争いが起きてしまうようです。
職場で派閥争いが起きる理由②:チームとしての目的や利益を推し進めた結果によるもの
所属するグループや自分自身の売り上げを維持するなど、目的を達成するために秘密主義になってしまい、他部署やグループとの連携がされずこじれてしまうパターンです。
職場で派閥争いが起きる理由③:そもそも排他的な目的で結成されているから
自分の存在や働き方を守るために集団を形成するパターンです。派閥を維持することが目的になってしまっており、感情的な要素が多く含まれています。
堤先生
社会心理学的に説明すると、ある意見に同調する人が現れると、徐々に同調する人が増えて意見が極化してしまいます。
次第にほかの意見を認めることができなくなり、さらに結束を強めるために攻撃してしまうと考えられます。
このように、派閥には悪い要素が含まれますが、必要悪と言えなくもないケースもあるそうです。
堤先生
職場にインフォーマルな集団がある場合、そこに属する人たちの仲間意識が強くなり、労働意欲や生産性が上がることがあります。
1924~年1932年にアメリカのシカゴ郊外で行われたホーソン実験によって証明されたことですが、あくまでも“排他的でない場合にはメリットになる”という条件付きです
ただし、派閥の結束が高まり生産性が上がったとしても、次第に他部署などとの足の引っ張り合いなどの対立構造が生じるため、会社として高いパフォーマンスを発揮できる全体最適は得られない場合も。
長期的にはデメリットに転じてしまう可能性があるようです。
派閥争いが生じやすい職場の特徴は?
続いて、派閥争いが生じやすい職場の特徴を挙げてもらいました。
特徴①:業務の目的が浸透していない
堤先生
たとえば、店舗で“パート社員として働く従業員”と“店長”のようなケースが考えられます。
店長の目的は売り上げを伸ばすことですが、たとえ売り上げが伸び、店長の成績が上がっても、パート社員の時給に反映されなければ、売り上げを伸ばすことが業務の目的として浸透しづらい。
パート社員は目的に共感できないまま働いていると不満がたまり、店長との対立構造が生じやすく、結果としてパート派閥のようなものが形成されるようになります。
特徴②:仕事量やスキルに対する、待遇のアンマッチが常態化している
堤先生
特に女性の場合は時短や育児休暇など働き方が多様化しやすい分、仕事量や給料に開きが出てしまいます。
マネジメント体制が整っていない職場だとフォローが行き届かず、『私はこんなに残業しているのに…』と不公平感につながってしまいます。
特徴③:“議論の文化”はあっても“対話の文化”がない
堤先生
A案とB案のどちらかに決めるような議論はされているけど、相手の話を聞くことで自分の考えを見直すような対話はされていないケースです。
意見の異なる相手がいる場合、お互いが納得できるような話し合いがされないと溝を深めることになってしまいます。
いずれの場合も、背景にあるのは社員が気持ちよく働けるような仕組みや文化が根付いていないこと。不平不満を解消する術がなく、蓄積された結果派閥が生まれていることが分かります。
職場で派閥争いに巻き込まれないためには?
身の回りで派閥争いが起こっている場合、どのように振る舞えばいいのでしょうか。まず考えられるのが、特定の派閥に属さず中立の立場を取ること。しかし、「中立になる前に、まずは立ち止まって考えてみてほしい」と堤先生は指摘します。
堤先生
中立化することは第三の派閥を作ることと見なされかねず、実はリスクのある行為です。
本人はフラットな状態でいるつもりでも、ほかの派閥からすると排除する対象として見られてしまいます。
まずは中立化することを目的にせず、自分が自分らしくいられるためにはどうしたらいいかを考えてみましょう
ポイントは、自立にあると堤先生は言います。
堤先生
ここで言う自立とは、なんでもひとりでやることではなく、精神的に頼れる場所を増やすことを意味します。
自分ひとりの力で生きている人は世の中にほとんどいません。必ずしも派閥に属さないのが正解ではなく、派閥に入ったとしてもどっぷり浸かりすぎないこと。
派閥の意見に対してすべてやみくもに同意するのではなく、自分の意見も大切にすること、それが大事だと思います。
派閥間の争いに“巻き込まれない方法”を探すことにとらわれず、自分の主張と近ければ派閥に入ったほうが過ごしやすい場合もあるようです。
派閥の主張と自分の考えが違うと感じたとき、角が立たないように自分の意見を伝える方法を堤先生から伝授してもらいました。
堤先生
派閥の主張の大部分には同意した上で、どうしても譲れない部分に関してだけ『私はこう思います』と意見を述べると通りやすくなります。
すべてを否定するのではなく、可能な限り譲歩した上で伝えることがポイントのようです。
どちらの派閥に属するかどうかを選択するためには、派閥の意見を自分ごととして判断する必要があります。どのような部分に着目すればいいのでしょうか。
堤先生
まずは、派閥の主張に一貫性があるかどうかをチェックしましょう。それが自分にとって違和感のない内容であれば、所属してもいいと思います。
しかし、反対勢力の存在そのものを否定するような考え方であれば、そのときの感情で意見がコロコロ変わってしまい、一貫性がない恐れが。
このような派閥では上長の意見に振り回されたり、足の引っ張り合いも起ったりするので注意が必要です。
派閥の主張と自分の考え方が「合致」もしくは「まあまあ合致」していれば、派閥に入るのは構いません。ただし、所属はしても染まりすぎず、自分の考えを持ち、派閥の主張に同意も反対もする状態…つまり自立の道を選ぶことが大切です。
自分の立場が決められず判断に困ったときは、その派閥の主張を声に出したり、書いてみたりするといいそうです。
堤先生
このときに肝心なのが、『私は営業部の成績を伸ばしたい』など、派閥の主張の主語を自分に置き換えて、断定的に発することです。
発した内容に嫌な感じを受けたり、違和感を覚えたりしないかを確認しましょう。
派閥の主張をひとつずつ可視化し、自分のなかでしっくりくるものがあれば所属してもOK。同意できるものが何もなければ、無理に派閥に所属しなくてもいいそうです。
ただ、一番重要なのは、派閥の主張とは関係なく、自分がその会社でどうありたいかという“自分の考え”がある程度かなえられている環境かどうかということ。
堤先生
たとえば、自分の考えが『月30万円は稼ぎたい』だった場合に、今の会社でそれが実現できているなら、派閥争いへの多少の不満は許容していいと思います。自分の考えが揺らいでしまいそうなときには、その都度『私は○○したい』と確認するといいですよ。派閥のことより、まずは自分が自分らしくいられてラクになれる方法を選ぶようにしましょう。
ただし、以下に当てはまる場合は、転職を検討するのも一案です。
・上層部に相談をしても全く対応してくれない
・ハラスメントレベルの不利益をこうむる
・仕事内容が正当に評価されない
・心身に不調をきたす
堤先生
心身の不調を判断する目安としては、睡眠に支障が出てしまったり、休日に好きなことをしなくなってしまったり、極端に嗜好が変わったりするなどの症状が2週間以上続いたときです。
相談先は、派閥と関係ない立場にいる上司や産業医、メンタルクリニックなどいくつか確保しておくのがオススメです。まずはそうなる前に、今の職場で「自分らしくいることが難しい」と感じたらキャリアアドバイザーに転職相談をしてみるのがいいかもしれません。
まとめ
- 職場の派閥争い。巻き込まれず孤立しないためには?
-
・派閥に属さず中立な立場でいることを目的にしない
・自分が自分らしくいられるための“落としどころ”を見つける
・派閥の主張に一部同意した上で、自分を主語にして意見を伝える
派閥間の争いに惑わされず、まずは自分がどうしたいかを知ることが大切です。「私は○○したい」と定期的に確認し、自分がつらくならない方法を見つけましょう。
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識者プロフィール
- 堤 多可弘(つつみ・たかひろ)
精神科医/産業医 - 弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長と、健康経営コンサルティング企業である株式会社Appdateの取締役を務めるとともに、首都圏および青森県の企業や行政機関の産業医を10カ所以上担当。ブログや著作、研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営、産業保健の情報発信も行っている。共著に『企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医』(祥伝社新書)。