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2021.03.22
Q.在宅勤務もう限界!
リモートワーク疲れの正体っていったい何なの?
通勤もなくなってラクになったはず…。
なのに、なぜこんなに疲れるの?
「仕事環境は整えたものの、なぜか疲れが取れない」「仕事のモチベーションが上がらない」。リモートワークに切り替わってからどっと疲れを感じ、心の中で悲鳴をあげている人も多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、働き方や仕事観も変化した今だからこそ生じる悩みを取り上げる「with コロナ時代の女性のはたらく特集」。
本記事では、“リモートワーク疲れ”の原因や対処法を企業や行政機関で産業医を務める堤多可弘先生にアドバイスをいただきました。
無自覚にむしばむ、リモートワーク疲れ
まずは、“リモートワーク疲れあるある”の一例をご紹介します。以下の事例に心当たりはないか確認してみましょう。
リモートワーク疲れあるある①:リフレッシュする機会の喪失
仕事帰りに毎日ヨガに行くのが楽しみだったのにコロナ禍で通えなくなり、生活に張り合いがなくなってしまった。(29歳/事務職)
リモートワークで通勤がなくなったことに加え、自粛によりヨガスタジオが休みになってしまったそう。
リモートワーク疲れあるある②:同居人によるストレス
リモートワーク中の恋人と同棲中。自分の仕事部屋がないので、電話のときは移動しなくちゃいけないし、オンライン会議が重なるとWi-Fiの速度が落ちてしまい、ストレスがたまる。(30歳/出版)
自宅に話し相手がいる心強さはあるものの、作業スペースが確保できないとお互いの仕事に支障が出てしまいます。
リモートワーク疲れあるある③:自己管理ができない
リモートワークにも慣れて、コミュニケーションは問題なく取れているはずなのに、仕事のモチベーションが上がらない。(32歳/総合職)
こちらの悩みは、リモートワークが1年近く続いた今、より深刻になっているそうです。
堤多可弘先生(以下、堤先生)
コロナ禍で会社の業績が落ちて、以前よりも厳しい納期でやらざるを得なくなったり、予算削減のために業務がテンプレート化されたりした結果、仕事でクリエイティビティを発揮できなくなることが関係しています。
それから、オンラインに切り替わったことで、ほめられたり、認められたりする「承認」が低下しているのも原因の一つ。社会情勢も影響しているため、複合的な要因によって疲れがたまっていると考えられます。
リモートワークはいつまで続くのか分からないため、終わるタイミングを気にするよりも「これからずっと続くもの」だと認識して対処するのがいいそうです。
そもそも、“リモートワーク疲れ”とは、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。
堤先生
メンタル面だと、食欲が低下してしまったり、逆に食べすぎてしまったりするケースや、不眠などの症状が出ている人が多いです。身体面だと、ビデオ会議などで同じ画面を見続けているため、眼精疲労や肩こりになりやすい傾向にあります。長時間座り続けていることから、腰痛になる人も。
会社にいると会議や昼休みなど、何度か席を立つ機会がありますが、自宅にいるとついダラダラ仕事を続けてしまいがちに。電車の時間や周囲を気にせず過ごせる気楽さが、かえって裏目に出ているのかもしれません。
リモートワーク疲れにかかりやすい人の特徴
続いて、リモートワーク疲れを覚えやすい人の特徴を挙げてもらいました。
堤先生
性格としては、きちょうめん、がんばりすぎる、まじめな人などに多い傾向です。つまり、仕事のオン・オフがつきにくいタイプ。リモートワークになる前から、自宅でもこまめに仕事のメールをチェックしていた人などが当てはまります。
行動傾向としては、友人とのランチやお茶、買い物やライブなど外に向かう行動でストレスを発散していた人が多いですね。
後者の場合はとくに、自粛によるストレスで生じる疲れが大きいとのこと。リモートワーク疲れを放置したままだと、身体面・精神面ともにさまざまな影響が出てしまうそう。
堤先生
運動不足やストレスからくる食べ過ぎなどにより、生活習慣病につながる可能性も。女性の場合は生理痛やPMSがひどくなる方もいます。
リモートワーク疲れを回避する工夫
心身の不調が悪化する前に、なんとかリモートワーク疲れを一掃したいもの。そこで、リモートワーク疲れをためない、回避する工夫を教えてもらいました。
リモートワーク疲れを回避する工夫①:コミュニケーション面のアプローチ
ミーティングや面談などの業務的なやりとりから、ランチや飲み会、廊下でばったりなどの気軽なものまである対面のコミュニケーション。リモートでオンラインに切り替わっても、対面でのやりとりを補える方法はあるそうです。
堤先生
「Slack」や「Chatwork」などのコミュニケーションツールを活用しましょう。そのなかでも業務に関するやりとりとは別に、雑談用や相談用などの部屋を複数設けて話しやすい環境を整えることをオススメします。
複数のツールを使ってもいいですし、1つのツールで複数のチャンネルをつくるのも◎。間口を広げることで、相談や情報共有がしやすくなりますよ。
ブレストに特化したものや資料を共有しやすいものなど、用途によってツールを使い分けるのもいいそうです。さらには、こんな活用方法も。
堤先生
チームメンバーがテーマを決めて日替わりで“マイベスト3”を交代で発表してみましょう。発表者の人柄が分かったり、共通の話題が見つかったりするなどのメリットがあります。テーマを決めるときは「映画」や「漫画」や「デリバリー」や「レストラン」など無難なもののマイベスト3から始めてみるとよいでしょう。
ZoomでもチャットでもOKですが、自分では理由を添えて、周りのメンバーからはチャットなどでコメントする流れがベター。発言に対してリアクションし合うことで、リモートで不足していた“承認”に対する欲求も満たされます。
このほか、「オンライン会議の開始15分前をオープンな場にすること」や「1on1」など、業務以外の話ができる仕組みを部署内で設けるのもいいとのこと。
ただし、上司が不慣れなまま1on1を実施すると、貴重なコミュニケーションの場が“進捗チェック”や“説教タイム”と化してしまう恐れも。話を聞く側のスキルが求められるため、上司のタイプやチームに合う方法を選ぶのが良さそうです。
リモートワーク疲れを回避する工夫②:働き方や生活スタイルの見直し
オンとオフとの区切りをつけるポイントは、大きく分けて2つあるそうです。まず1つ目は、自律神経を整えるために生活をルーティン化すること。
堤先生
通勤がなくなった分すべてを睡眠にあてるのではなく、出勤時と同じ時間に起きるようにしましょう。「どうせ自宅だから」とパジャマのまま仕事をせずに、身だしなみを整えることで、仕事のスイッチも入ります。1日に1回は外に出たり、散歩などの軽い運動をしたり、意識的に体を動かすことも大切です。
これらのことをルーティン化した上で、たまにメイクを変えてみたり、毎日違う散歩コースを選んだりするのもいいそう。日常に遊びを取り入れて、脳に適度な刺激を与えると新しいアイデアが生まれやすくなるといいます。
体と心がしっかり休めるかどうかは、疲れの解消に大きく影響します。2つ目の改善ポイントは、“2つの距離と仕事のソトオキ化”にあるといいます。
堤先生
まずは、仕事とプライベートのための場所を分けて“空間的な距離”をつくることが大切です。間取り的に部屋を分けることが難しければ、仕事が終わったらパソコンを目につかない場所に片付けてしまうのもオススメ。
もう一つは、仕事と“時間的な距離”を持つことです。スマホの通知をオフにするなど、仕事をしない時間を意識的に持つようにしましょう。
空間と時間の2つの距離を意識することに加えて、さらに試したいのが以下の“仕事のソトオキ化”。
堤先生
“仕事のソトオキ化”は、仕事を頭の外に出してしまうこと。勤務時間以外で仕事のことを思い出したときは、簡単にメモだけ取って忘れてしまいましょう。また、1日の終わりにto doを振り返るのをやめましょう。プライベートな時間にしっかり休めない原因は、仕事が終わっていないストレスにあることも。元気に働き続けるためにも、休む時間は必要です。
業務をすべて「to do」に入れてしまうのも休めない原因につながるそう。優先順位の低いものは「to wish」に移して「できたらえらい」くらいのスタンスでいると、心の余裕も生まれるといいます。
リモートワーク疲れを回避する工夫③:仕事のやり方改善
仕事をする上で、プロセスを重視することによってリモートワーク疲れを回避できるといいます。
堤先生
雑談や相談がしづらく、プロセスが見えづらいリモートワークでは、仕事の成果が重視されます。上司やチームメンバーとコミュニケーションを密に取ることは、進捗を伝えたり、考えを整理したりするためにも重要です。
一人で抱え込まないための対策として、「10分調べて分からなかったら相談する」などの目安をつくるのもいいそうです。
仕事への取り組み方では、主体性を持つことがポイントのよう。仕事やプライベートをコントロールできているという感覚を持つのも大切です。
堤先生
仕事と同様に、「◯日の19時からヨガ教室」などのプライベートの予定もスケジュールに入れましょう。サボっているのではなく、あなたにとって大事な予定です。もし仕事が終わらず予定が侵食されてしまったら、キャパを超えてしまっているサイン。業務量の見直しについて、上司に相談することをオススメします。
キャパに余裕を持たせた生活をするためには、仕事とプライベートを合わせて6割の力でこなすのがポイントなのだとか。
堤先生
すべてを6割の力でこなすことにかえってストレスを感じる人もいますが、その原因の多くは「これで大丈夫なのかな?」という不安からくるものです。6割の成功体験を積み重ねていけば、解消できるはずですよ。
小さな成功体験を重ねて、「これで大丈夫」と自信を持てるようにすること。そして、自分を追い詰めないためにも、「今日はここまでできたら終わり」と決めて、ダラダラと仕事をし続けないようにしましょう。
リモートワーク疲れで片付けていいの? 自分の限界ラインを知る方法
先述のリモートワーク疲れに対する解消方を試しても、自分だけでは対処しきれないことも。そんなときは上司や産業医、キャリアアドバイザーに相談するなど、別のアプローチを判断する必要があります。まずは、自分の限界を知るポイントをチェックしましょう。
堤先生
ポイントは、“食う・寝る・遊ぶ”がしっかりできているかどうか、それから、休日に自分の時間を持てているかどうか。食欲減退や過食に加え、甘いものや辛いもの、ジャンクフードを過剰に食べてしまうなど、嗜好が極端に変わったときやお酒を飲みすぎるときは注意が必要です。
これまで自炊していた人が料理をしなくなるのも限界アラートが出ているサインとのこと。
堤先生
レシピを考えて買い物に行くなど、料理はエネルギーを使います。それができなくなったら、疲れがたまっているサインです。料理は自分の体を大事にすることにもつながるため、「自分の健康を二の次に考えている=限界ラインに来ている」と判断する目安にもなります。
デリバリーサービスの普及により、現在は衝動的に「食べたい!」と思ったものを簡単に入手できます。便利になったのはいいことですが、体への負担にならない程度に利用するのが良さそうです。
あらゆる方法を試しても改善されない場合は、転職を検討してみるのも一案。キャリアアドバイザーの柏木あずさからのアドバイスを紹介します。
柏木
リモートワーク疲れになるのは、実はもともと向いていない仕事であったり、成果につながらず認めてもらえなかったりすることに原因がある可能性も。
客観的評価を受けづらいリモートワークでは、自分の仕事が前に進んでいる感覚を得られにくいのですが、これまでやってきたことはスキルとして身についています。キャリアアドバイザーに相談していただければ、次のキャリアにつなげるお手伝いができますよ。
まとめ
- リモートワーク疲れを解消するコツは?
-
・ツールや仕組みを活用して、雑談や相談しやすい場をつくる
・生活スタイルのルーティン化と「2つ距離と“仕事のソトオキ化”」でオンとオフの区切りをつける
・仕事と休日や余暇の予定を合わせて6割の力でこなすことを意識する
オンラインツールや仕組みを活用するとともに、生活にメリハリをつけるなど、“リモートワーク疲れ”の改善に向けたアプローチはさまざま。最初からすべてを完璧にこなそうと思わず“ほどほど”を意識して取り組むのが良さそうです。
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識者プロフィール
- 堤 多可弘(つつみ・たかひろ)
精神科医/産業医 - 弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長と、健康経営コンサルティング企業である株式会社Appdateの取締役を務めるとともに、首都圏および青森県の企業や行政機関の産業医を10カ所以上担当。ブログや著作、研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営、産業保健の情報発信も行っている。共著に『企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医』(祥伝社新書)。