#093
2021.08.23
Q.時短勤務で「申し訳ない」
って思い続けるのに疲れました…。
時短勤務で肩身が狭い…。
でも、時短じゃないと家庭がまわらない…。
このモヤモヤ、どうしたらいい?
子育て中の時短勤務に感じる後ろめたさや心苦しさ。気持ちに折り合いをつけながら働くにはどうしたらいいのでしょうか。産業医として毎月30社以上の企業でカウンセリングを行う井上智介先生に教えていただきました。
時短勤務で感じた「気まずい!」エピソード
まずは、時短勤務で働く女性が職場で気まずいと感じたエピソードを紹介します。
普段から時短勤務で肩身が狭いと感じているのに繁忙期に『熱が出たので迎えに来てください』という保育園からの呼び出しが。同僚や上司は『大丈夫だから早く帰って』と言ってくれたけど、申し訳なさでいっぱいに。保育園で風邪がはやる期になるとヒヤヒヤします(35歳/出版)
子どもが小学校に入学してから、保護者会などの行事は平日の昼間に行われるように。スケジュールが分かった時点で早めに有休申請し、仕事の調整をするなどできることはやっているものの、罪悪感がすごくて周囲の顔色をうかがってしまいます(37歳/事務)
井上先生によると、必要以上に周囲に気を使い、「申し訳なさ」を感じやすい人の特徴は、大きく4つに分けられるそうです。
1:まじめでルールを守る人
井上智介先生(以下、井上先生)
社会の規律やルールを守ろうとする意識が強いため「他人の迷惑になることはしてはいけない」と強く思ってしまう人が多いです。
この気持ちが強ければ強いほど自分の行動や考え方にも影響するため、物理的に勤務時間が少ないことに負い目を感じてしまうことも。
しかし、まじめであるからこそ業務にしっかり取り組むため、周囲からの信頼も厚い人だと言えます。
2:ネガティブ思考な人
井上先生
周囲は迷惑だと思っていないにもかかわらず、『自分が悪い』とネガティブにとらえてしまうタイプです。
しかし、ネガティブだからこそ、最悪の事態を想定して事前に準備をしたり、回避策を考えたりすることができ、いざというときにすぐに対処できます。危機管理能力が高い人と言えますね。
3:責任感が強い人
井上先生
「自分の仕事は自分でやる」ことにこだわりすぎてしまい、他人に仕事を頼んだり、任せたりすることに抵抗感を抱いてしまうタイプです。
一方、責任感が強い分、途中で投げ出したり、誰かに責任転嫁したりすることがなく、周りから「この人に任せれば大丈夫」と安心感を持たれています。
4:共感力が高い人
井上先生
その場の空気を瞬時に察知して、相手がどのように考えているかをすぐに読み取ってしまう人です。
空気が読めるからこそ、相手のちょっとした表情などから「『いいよ』と言ってくれたけど、本当は嫌がっているのが分かる」「本音では仕事を押し付けられたと思っているんだろうな」と感じ取ってしまいます。
しかし、共感力が高い分、周りの人が苦しんでいるときにすぐに察知でき、手を差しのべることができます。誰かの成功に対しても、心から喜ぶことができる人です。
井上先生が言うように、上記4つの性格には長所・短所どちらの面もあります。しかし、極端にその性格の傾向が強まると「申し訳なさや負い目」につながり、自分自身を苦しめてしまうのです。
周囲への「申し訳なさ」とうまく付き合うためのアプローチ
時短勤務を続けるうえで、うまく気持ちに折り合いをつけながら働く方法はあるのでしょうか。井上先生は「周囲に対して申し訳ないという気持ちを無理に払拭しなくてもいい」と言います。
井上先生
申し訳なさが一切なくなってしまうと、尊大な態度につながることもあるので周囲とのコミュニケーションに支障が出るかもしれません。なぜなら、時短勤務は周りの協力が必須だからです。
とはいえ、そこから自分自身を強く否定するようになってしまうのは、明らかにいきすぎです。
ネガティブ思考にとらわれてしまうと、自分のダメなところにばかり目が向いてしまいがちに。この“負のループ”から抜け出せなくなってしまっているときに、すぐに実践できる方法を教えてもらいました。
①「今日、自分ができたこと」を箇条書きで3つ書き出す
寝る前に実践するといい方法です。
井上先生
周囲よりも早く帰って育児をするあなたは、決して楽をしているわけではありません。「ワーク・ライフ・バランスを取るために時短勤務制度を利用している」「今は、子どもの成長を見守れる貴重な時間を過ごしている」ととらえ直したら、「せっかくもらった育児の時間を充実させよう」と育児にも向き合うことができるはずですよ。
②「時短制度」や「育児」への考え方を見直す
続いては、考え方を変えて気持ちを楽にする方法です。
井上先生
「できたこと」の内容は「昼ごはんをゆっくり食べられた」「子どもと写真を撮れた」など日常のちょっとしたことで大丈夫。その日にできたことを自分で評価することで、少しずつネガティブ思考から抜け出せるようになりますよ。
「自分はダメだ」と自己評価が低くなってしまっているときに、「できたこと」を可視化することで、自分をポジティブにとらえられるようになりそうです。
「会社の時短勤務制度を利用しているのは、育児をするため」という原点に立ち返ることが大切のようです。
上手に周囲に頼るには? 「ごめんなさい」より「ありがとう」を伝えよう
時間に制限があるなかで仕事をするためには、素直に周囲を頼ってほしいと井上先生はいいます。
井上先生
「困っている」と伝えられると人は助けたくなるものだし、頼られてうれしく思う人もいます。「その代わり、私はこういうことが得意だから、あなたが困っているときはフォローするね」と自分ができることを伝えましょう。
相手に対しての申し訳なさから、つい口にしてしまいがちな「ごめんなさい」よりも「ありがとう」を伝えることが大切とのこと。伝え方を変えるだけで、相手に与える印象もポジティブなものになるはずです。
井上先生
もう一つの方法としては、帰宅途中にメールやLINEを送り、後から感謝の気持ちを伝えることです。
仕事が時間内に終わらなかったり、子どもの急な発熱で早退しなければならなかったり…。業務を代わってもらうにしても、さまざまなケースがあります。いずれにせよ、仕事を助けてもらったら、感謝をしつつ「次は自分を頼ってね」とメッセージを伝えることが大事といえるでしょう。
また、仕事を分担してもらったときはもちろん、その後のフォローも大切とのことです。
井上先生
上司に書類を提出するときや業務の報告をする際には、「◯◯さんに手伝ってもらったので、期日に間に合わせることができました」とチームで一緒に成し遂げたことを伝えましょう。
助けてもらったことをしっかり伝えられれば、相手へ感謝も伝わり信頼関係にもつながりそうです。
自分の今の状況をきちんと見つめよう
周囲へのアプローチと同様に仕事面で自分にできることを把握するのも大切です。
◆「今の自分に求められていることは何か」を確認する
井上先生
まずは、上司に「今の自分に求められている役割・仕事」を聞いてみましょう。そうすることで、会社が自分に何を求めているかが明確になれば注力すべきポイントが分かるため、やみくもにがんばらなくてもよくなります。
私が相談を受けたケースでは、上司に気まずさを感じていたものの、思いきって聞いたことで壁がなくなり、その後のコミュニケーションが円滑になった人もいます。
注力すべきポイントは、言い換えれば「今の自分にできていないこと」でもあります。それを一つずつ減らしていけば、自分が組織の役に立っていると実感できるはずです。
◆毎日の引き継ぎは時間に余裕を持って
井上先生
ある時短ママさんが実践している方法です。帰宅直前に慌ただしく仕事を頼んでは十分な引き継ぎができません。相手にも仕事があるため、誰かに仕事を頼みたいときは少なくとも帰宅時間の30分前には声をかけるようにしましょう。
子どもの発熱などの突発的なケースは除きますが、日常的に取り入れるといい方法です。時間に余裕を持って引き継ぎをすることで、連絡漏れなどのトラブルも防げそうです。
◆引き継ぎマニュアルは安心材料
井上先生
誰かに仕事を頼みたいときや自分がいないときにアクシデントが起きた場合に備えて、引き継ぎ用のマニュアルを作成しておくのもいいですよ。
マニュアル作成は自分の仕事の整理にもつながるので一石二鳥です。ただ、マニュアル作りが業務を圧迫しないようにできる範囲で準備しておくのが良さそうです。
職場の理解を得られない場合は、距離を置くことを考える
ここまでさまざまなアプローチを教えてもらいました。なかには、本人がいくら努力してもうまくいかないケースもあるのでしょうか。
井上先生
残念ながら、時短勤務に協力的でない企業もあります。そのような価値観を持つ人たちや社風をすぐに変えることはなかなか難しいもの。自分なりにできる方法を試してもうまくいかずにストレスを抱えすぎてしまう人もいるのが現状です。
井上先生が「職場と距離を置いたほうがいい」と判断するポイントがあるそうです。
井上先生
ストレスが自分の許容範囲を超えてしまい、心身に不調をきたしてしまうときです。例えば、毎日ひどく落ち込んでしまい家事が手につかなくなってしまう、急に涙が出る、睡眠に支障が出るなどの変化が現れたとき。体調面では、出勤しようとするとおなかが痛くなったり、動悸がひどくなったり、めまいや過呼吸を起こすなどの症状が現れたりするときです。
ここまでのストレス反応が出るようなら、体のためにも一度会社を離れたほうがいいでしょう。休職を選択するのも一つの方法ですが、周囲からの時短勤務の理解を得られないことが原因で精神的なプレッシャーを感じるなら、状況が変わらない限り復職しても同じような症状が出てしまうでしょう。その場合は、転職を視野に入れることをおすすめします。
まとめ
- 時短勤務で肩身が狭い…。どうしたらいい?
-
・「今日自分ができたこと」を3つ書き出して、小さな自己肯定感を積み重ねよう
・「時短制度」「育児」を見直す時間を持ち、原点に立ち返ろう
・周囲には、「ありがとう」を伝えよう
・引き継ぎマニュアルを作るなど、周囲に頼るための環境を整えよう
仕事にもプライベートにも割ける時間が限られている育児期間中の時短勤務。自分がやるべきことを実践すれば、周囲に遠慮することもなくなりそうです。
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- 井上智介(いのうえ・ともすけ)
- 産業医・精神科医。大阪府在住。島根大学医学部を卒業後、現在は産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医としては、毎月30社以上を訪問。すべての人に「大ざっぱ(rough)」に「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから「ラフドクター」と名乗り、赤縁の眼鏡、金色のアフロヘアと白衣姿でSNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。著書に『職場での「自己肯定感」がグーンと上がる大全』(大和出版)、『ストレス0の雑談 「人と話すのが疲れる」がなくなる』(SBクリエイティブ)など。