掲載日:2013年11月11日
Progress story #03
日本マイクロソフト株式会社
実は多い管理職を志す女性たち。
女性活用のアイコンカンパニーとして、ダイバーシティを推進する。
定着まで何度も失敗した在宅勤務制度
女性活用DATA
- 女性役員比率
2割程度
- 在宅勤務制度
部門や理由を問わず、最大週3日まで。特別な理由がある場合は週5日まで
- 看護休暇制度
育児や介護などの理由で、年間5日まで有給休暇が取得可能
日本マイクロソフトの女性活用は「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」(※)の一環として、10年以上にわたって推進しされてきた。女性のキャリア構築について話し合う社内イベント「ウィメンズカンファレンス」(のちに、男性社員も交えて幅広く議論しようと「ダイバーシティ フォーラム」に改称)が2005年に、ママ社員、パパ社員による「ワーキング ペアレンツ コミュニティー」が2006年にそれぞれ発足。「福利厚生の制度面を拡充してほしいという要望が高まり、2007年度から在宅勤務を段階的に導入することになりました」と佐藤氏は振り返る。
「外資系でITインフラが整っているマイクロソフトなら、在宅勤務なんて当たり前と思われるかもしれませんが、導入には何度も失敗を繰り返しました」と佐藤氏は言う。障壁となったのは“マインド”の部分。管理職は、目の前にいない部下をどうマネジメントすべきか悩み、部下は上司に仕事ぶりが認められないのではという不安が強かった。制度の有用性が実感されたのは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。出社が難しく、在宅勤務をせざるを得ない状況だったが、社員の成果の低下や残業の増加は見られず、それまでの懸念が払しょくされた。それ以降、制度として定着し、今では週1回の在宅勤務の利用者は100人を超えた。
※
インクルージョンとは、包括、一体性の意。ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様な人材の雇用・育成を目指すダイバーシティをさらに推し進め、組織・制度づくりへの参加を促していく試みを指す。
社員の”草の根”から人事主導へ、そして全社的な取り組みへと進化
人事主導で進めてきた制度面の充実がいち段落し、2010年ごろからD&Iは新たな局面に。D&Iを重要な経営戦略として位置づけ、トップダウンで全社的な取り組みを進めることになった。役員や管理職による女性社員のメンタリングの義務化や、全社員が年1回は何らかの形でD&Iの活動に関わることが評価項目に加えられた。
2012年には「ダイバーシティ リーダーシップ チーム(DLT)」が発足。これは、各部門から代表者が30人前後集まってテーマごとにチームを組み、トップと現場の社員とをつなぐ役割を果たしている。「代表者を1年交代とすることでより多くの社員を巻き込み、D&Iを現場に浸透させていくのが狙いです」と阿部氏は語る。また「IT Women's Workshop あなたの周りにロールモデルはいますか?」と題した社外の女性技術者を対象にしたセミナーや、理系女子中高生向けの勉強会など、社外向けの取り組みも実施している。「女性の数自体が少ない業界。その中で人材を取り合っていてもしょうがない。理系女性の絶対数を増やして、業界全体のダイバーシティを推進していきたい」(阿部氏)とIT業界の底上げにも力を注ぐ。
成果は確実に現れている。日本の働く女性比率が約4割なのに対して、IT業界平均は3割弱と少ないのが現状だ。日本マイクロソフトも例外ではなかったが、2013年6月末時点でこの数値を超えた。男性社員の平均を大きく上回っていた女性の退職率も、男性と同程度まで引き下げられた。現在、新卒採用者の約半数が女性と、採用の女性比率は高まっているが「女性管理職を増やしていくことが今後の大きな課題」と佐藤氏はさらにその先を見つめている。
管理職を目指す女性が実は多いことが明らかに
2015年に、IT業界でダイバーシティや女性活用のアイコンカンパニーになることを目指す日本マイクロソフト。これまで女性社員は「管理職になりたがらない」と認知されてきたが、あらためて女性社員にヒアリングをしてみると、予想に反して管理職になりたいという人が多かった。「これまでも潜在的に管理職を目指す女性は実は多かったのかもしれません。ただ会社側がそれをきちんと引き出せていなかった。若い時に昇進を断ったとしても、ライフステージの変化などによって気持ちは変わるので『あの人は管理職志向ではない』と決めつけてはいけないことも痛感しました」と佐藤氏は語る。
管理職志向の女性を登用するために必要なのが「家庭との両立など、さまざまな理由で二の足を踏んでいる女性社員に対して『やってみたいのであれば、実現できるよう一緒に考えていこう』というカルチャーの浸透」と阿部氏は強調する。さらに「カルチャーの浸透に特効薬はないというのがこれまでの実感です。ただ、在宅勤務も時間はかかりましたが、出社して仕事をするべきという考えを変えることができました。オセロのように、どこかのポイントで一気に変革が起きる可能性もあると思っています」。管理職の育成のために、女性をプロジェクトリーダーに登用したり、経営陣にプレゼンする機会を与えたりして成功体験をさせる取り組みも始まっている。「こうしたトライ&エラーを積み上げ、本当にD&Iが必要だと認識する管理職や社員を増やしていく」(佐藤氏)。これをミッションに、日本マイクロソフトは前進を続けていく。
COMPANY DATA
- 企業名
- 日本マイクロソフト株式会社 (Facebook : https://www.facebook.com/msrecruiting)
- 設立
- 1986年2月
- 事業内容
- コンピュータソフトウエアおよび関連製品の営業・マーケティング
- 従業員
- 2,225名(2013年7月1日現在)
女性活用を進めてきた企業について知る
- #10 「アクセンチュア株式会社」
同じ「子育て中の女性」でも働き方の志向はそれぞれ
キャリアの「アクセル」と「ブレーキ」を、女性自身が踏み分けできる環境を - #09 「日本郵便株式会社」
サービスの充実、競争力の強化を図るために“女性活躍室”を設置。秘めている能力の引き出しに全力を注ぐ。 - #08 「株式会社IHI」
重工業界で先駆的に女性の活躍を推進。根底にあるのは、多様な人材の能力を引き出すことが「企業の重要な使命」という信念 - #07 「GEヘルスケア・ジャパン株式会社」
チャレンジするかどうか、最後に決めるのは自分自身。 そのために、フェアな環境を用意する。 - #06 「株式会社ローソン」
男女ともに活躍する環境を当たり前にするために女性の成果をあえて“見せて”いく - #05 「SGホールディングス株式会社(佐川急便を中核とする持ち株会社)」
会社の成長のために、必要不可欠な女性の力「物流業界は女性が活躍できる場所」というイメージを定着させたい - #04 「ヤフー株式会社」
ITで世の中の課題を解決できる会社であるためにまずは、働く人が幸せな会社でなければならない - #03 「日本マイクロソフト株式会社」
実は多い管理職を志す女性たち。女性活用のアイコンカンパニーとして、ダイバーシティを推進する - #02 「ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社メディカルカンパニー」
ダイバーシティ推進の“第2章”へ さらに進化するために、今、変わらなければならない - #01 「日産自動車株式会社」
変わらなければならない必然性そして根づいた「多様性を受け入れるカルチャー」