#088
2021.07.12
Q.自分に合ったストレスとの付き合い方を見つけて、
働く日々を幸せにしたい
ストレスとうまく付き合うには
どうしたらいいの…?
仕事をしていると、ストレスなく生きていくのは難しいもの。ならば、うまく付き合う方法を知りたい! 企業や行政機関で産業医を務める堤多可弘先生に、ストレスとうまく付き合う方法を教えていただきました。
ストレスって、そもそも何?どうして発生するの?
私たちが何げなく使っている「ストレス」の定義はどのようなものでしょうか。
堤多可弘先生(以下、堤先生)
実は、ストレスという言葉は、非常にあいまいな使われ方をしています。たとえば、「ストレスを感じている」と「部長がストレスで…」という場合では、意味が異なりますよね。
前者は何かの刺激を受けたときの心理面や身体面、行動面の反応、つまり“ストレス反応”を指します。一方、後者は心や体にストレスを与える何らかの刺激を指す“ストレッサー”を意味するのです。一般的に、この二つを合わせて“ストレス”と呼ぶことが多いです。
ストレス反応とストレッサー、この違いを意識すると自分が感じているストレスの正体を分析するのにも役立ちそうです。
ここで気になるのがストレッサーの内容。働く女性の場合、何がストレッサーとなるのでしょうか。
堤先生
働く人のストレス要因は、大きく「業務・環境・人間関係・プライベート」の4つに分かれます。これは、年齢や性別に関係なくあるもので、それぞれが相互に作用しています。
とくに女性の場合は、結婚・出産の選択やその時期、それに伴うキャリアプランの選択という“ライフとワークのかけ算”の組み合わせが複雑化しやすい傾向にあります。また、ライフコースの選択が職場の人間関係に影響を及ぼすことが多いのも特徴です。
“ライフとワークのかけ算”の組み合わせは人によって異なるため、職場の人と価値観のズレが生じやすくなるそうです。
堤先生
また、非正規雇用の人の場合、コロナ禍で企業の業績が悪化したことによる失職のリスクもストレスと関係します。雇用形態の問題にはなりますが、相対的に男性よりも女性の非正規雇用の比率が高いため、働く女性に多い悩みといえます。
ストレッサーそのものをなくすのは難しそうですが、それならストレスとうまく付き合う方法を身につけたいもの。そもそも、“ストレスとうまく付き合える状態”とは、どのようなイメージなのでしょうか。
堤先生
“ストレスとうまく付き合える状態=ストレスのバランスが取れている状態”です。ストレスという負荷が適度にかかっていると、実は脳の働きが良くなるため、仕事のパフォーマンスを向上させるメリットがあります。
一方、ストレスがまったくなかったり、ストレスがかかりすぎてしまったりすると、脳の働きが悪くなり、パフォーマンスの低下につながります。
ストレスがない状態は理想的にも感じられますが、言い換えれば「刺激がない状態」。仕事がテレワークに切り替わってから元気がない人が増えているのは、会社などで受けていた刺激が減ってしまったことが関係しているそうです。
堤先生
適度にストレスがかかった状態がいいとはいえ、ずっと緊張していては疲れてしまいます。オンとオフで“緊張と緩和”のバランスがうまく取れていることが重要です。
ストレスに対処できる「ストレスコーピング」とは?
前述の“ストレスとうまく付き合える状態”をつくるための方法を「ストレスコーピング」といいます。
堤先生
コーピングは、ストレスへの意図的な対処といわれます。大きく分けると、「問題焦点型」と「情動焦点型」があり、さらに、情動焦点型のなかに「認知的再評価型」と「気晴らし型」が含まれます。
ストレスコーピング①問題焦点型
堤先生
問題焦点型は、ストレッサーへの対処法です。たとえば、「部屋が暑くて仕事に集中できないから、エアコンをつける」「明日締め切りの仕事をストレスに感じていたら、すぐに片づけてしまう」など、直接問題にアプローチするもの。
このほか、「仕事が大変だから代わってもらう」「配置転換をお願いする」などの回避行動も含まれます。
問題焦点型は、取り組みやすい半面、対処できない課題(自分の働きかけや努力では解決できない問題)には適していません。
ストレスコーピング②情動焦点型
堤先生
情動焦点型は、ストレス反応への対処法です。たとえば、大切な人を失ってしまったなど解決できない課題を抱えている場合。誰かに相談して共感してもらったり、なぐさめてもらったりすると、直接ストレス反応を下げることができます。
問題そのものにアプローチせずにストレス反応を下げられるのが情動焦点型の特徴です。
ストレスコーピング③情動焦点型の認知的再評価型、気晴らし型
堤先生
「認知的再評価型」は、直面している問題の捉え方を変えるアプローチです。仕事の締め切りが迫っているときに「集中するチャンスだ」と考えたり、部屋が暑いと感じたときに、「夏らしくていいね」と捉え方を変えることで、前向きに気持ちを切り替えます。
「気晴らし型」は、ジョギングやサウナに行くなど、問題には触れずに気分転換をする方法です。
緊張や不安で動悸が激しいときに、深呼吸をして落ち着かせるやり方も「気晴らし型」に当てはまります。無意識で実践している方法もありそうですが、コツをつかむと意識して使えるようになるそうです。
ストレスコーピングの実践のコツ
続いて、ストレスコーピングのなかでも取り組みやすい問題焦点型と気晴らし型の実践のコツを解説してもらいます。
ストレスコーピングの実践方法①:問題焦点型
堤先生
流れとしては、まずは目の前の問題を一つひとつ分解します。そこから解決のためのアイデアを出して、表に書きましょう。次に、アイデアごとのメリット・デメリットを書き出して見比べ、できそうなことを試してみます。
たとえば、「最近部署の雰囲気が悪い」と感じたとします。まずは「なぜ雰囲気が悪いんだろう」「社内のコミュニケーションが足りないからだ」「じゃあ、コミュニケーションを活性化すればいいのか」と問題を分解します。
取り組むべき課題が分かったら、コミュニケーションを活性化させるためのアイデアを表に書きましょう。次に、それぞれのメリット・デメリットを書き出して見比べます。
「仮に問題焦点型のアプローチがうまくいかなかったとしても、落ち込む必要はない」と堤先生。
堤先生
「失敗したら終わりだ」という切羽詰まった状態では、いいアイデアは生まれません。まずは目の前の問題に取り組むことに集中しましょう。それから、“うまくいったらラッキー”くらいのマインドで臨むことが大切ですよ。
ストレスコーピングの実践方法②:気晴らし型
堤先生
気晴らし型コーピングは、大きいものから小さいものまで、複数のストックを持っておくのがポイントです。“大”は旅行やライブに行く」など時間やお金がかかるもの。“中”はサウナやジョギングなどで、“小”はアロマや深呼吸などの時間やお金の負担が少なく、一人でできるものです。
気晴らしにもいろいろありますが、気をつけたほうがいいのはドカ食いや散財、ギャンブルなどの刺激が激しいもの。一時的にスカッとするかもしれませんが、その刺激を求めてやめられなくなってしまうなどの依存につながってしまう恐れがあるそうです。
自分の状態に合ったストレスコーピングの選び方
種類や内容は分かっていても、自分がどのストレスコーピングを行えばいいか判断するのは難しいのではないでしょうか。
しかし、「この問題には、◯◯型が向いている」とはっきりとは決めづらいそうです。
堤先生
そのときの自分のコンディションや問題との関係性によって、適している型が異なるからです。問題焦点型は取り組みやすい半面、それだけを行うとかえってストレス反応がたまってしまうと過去の研究から明らかになっています。
問題焦点型を行っているときは、ずっとONモードの状態です。多くのエネルギーを消耗するため、その状態が続くと疲れてしまいますよね。それに、そもそも元気のない状態では、問題焦点型は適していません。
自分のコンディションがよくないときは、問題と向き合い続けるだけの体力や気力がないもの。無理に解決しようとしすぎるのもよくないようです。
堤先生
問題焦点型は、情動焦点型とうまく組み合わせることでストレス反応が下がると分かっています。たとえば、気晴らし型を取り入れてリフレッシュしながら問題解決をしたほうが、パフォーマンスが上がります。
このような取り入れ方のコツに加え、自分がどのコーピングを行うのがいいかを判断するのに役立つ方法もあるそうです。
堤先生
普段から自分のコンディションを把握しておくことが大切です。おすすめは、1日を振り返って1行程度の短い日記を書き、その日の総合点を10点満点でつけるセルフモニタリングです。
スマホのメモ機能などを使って、寝る前や入浴時などのリラックスした状態で行うといいそうです。あとで振り返れるようにするのも大事なポイント。
堤先生
実践するときのコツは、「どんな1日だったかな」と漠然と振り返ること。それから、「to do」ではなく「to feel」が大事です。総合点は、「今日は楽しくて、頭も冴えていたから10点」のようにフィーリングでつけましょう。
タスクを振り返らず、自分がどう感じたかを書くのがポイントとのこと。慣れるまでは難しいかもしれませんが、続けるうちにコツをつかめるようになります。
ここまでストレスとうまく付き合う方法を解説してもらいましたが、ときにはアプローチを変える必要も出てきます。
堤先生
自分の限界ラインを判断するポイントに“食う・寝る・遊ぶ”があります。これらがうまくできなくなっているときは、ストレス反応が大きく出ている状態。つまり、コーピングでストレス反応を鎮める必要があります。
ただし、2週間経っても状態が改善しない、むしろ悪化していると感じるようであれば、自分が限界を迎えているということ。無理をせずに周囲や専門家の助けを借りることをおすすめします。
実は、このように信頼できる上司や友人、産業医などに相談する行動もコーピングの一種なのだとか。業務や職場の問題であれば、キャリアアドバイザーに転職相談をするのも有効です。
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信頼できる他者に相談するメリットは、以下の記事でも紹介しています。
関連コンテンツ(https://doda.jp/woman/guide/100moya/084.html末尾参照)
まとめ
- ストレスとうまく付き合う方法は?
-
・適度なストレスは必要なので“ストレスのバランスが取れている状態”を目指す
・ストレス反応やストレッサーにアプローチするコーピングを活用する
・その日に感じたことを1行日記と点数で振り返り、自分の状態を把握しておく
・コーピングを行っても2週間以上、状態が改善しなかったり、悪化していたりする場合は自分が限界を迎えているサイン。無理をせずに周囲や専門家の助けを借りる
ストレスの原因やストレス反応にアプローチするストレスコーピング。目の前の課題や自分の状態を考えながら、無理なく取り入れるのが得策と言えそうです。
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- 堤 多可弘(つつみ・たかひろ)
精神科医/産業医 - 弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長と、健康経営コンサルティング企業である株式会社Appdateの取締役を務めるとともに、首都圏および青森県の企業や行政機関の産業医を10カ所以上担当。ブログや著作、研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営、産業保健の情報発信も行っている。共著に『企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医』(祥伝社新書)。