めまぐるしく変化する経営環境のもと、企業をはじめ職場や人もまた、絶え間なく変わっていくことが求められています。そんな中、管理職として、身近な人や職場、ビジネスを変え続けている女性たちがいます。彼女たちが変えてきたもの、そして、彼女たちに影響を与えてきたものとは何なのか。今回は、「対顧客」「組織・職場運営」「人材マネジメント」「自分の価値観」の4つの観点で、それぞれのエピソードをひも解き、「変えていく力」を発揮するためのヒントを見出します。
※この記事は2015年3月に発行した株式会社パーソル総合研究所の機関紙・別冊『HITO』でまとめた記事をWoman Careerが再編集しました。
※所属や肩書きは取材当時のものです。
掲載日:2015年11月30日
五十嵐 伊津子(43歳)
株式会社みずほフィナンシャルグループ
グループ人事部 ダイバーシティ推進室 室長
※所属や肩書きは取材当時のものです
株式会社第一勧業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に総合職で入社、結婚・出産を経て、管理職に就いた五十嵐さん。常に新しいことに向かっていくチャレンジ精神は、確実に部下へ受け継がれています。そんな五十嵐さんが大切にしている1対1を尊重したマネジメントの姿勢や、チームワークを大切にした環境づくりについて伺いました。
株式会社みずほフィナンシャルグループ
日本3大メガバンクの一つである、みずほ銀行などの金融機関を集約した銀行持株会社。みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券など各子会社の経営を管理することで、グループ経営の効率を上げている。「日本、そして、アジアと世界の発展に貢献し、お客さまから最も信頼されるグローバルで開かれた総合金融グループ」がスローガン。
固定観念をなくし、
常に新しいチャレンジを
1994年に第一勧業銀行へ総合職として入社。98年に市場金融部に異動して以来、10年以上、資産の価値や信用リスクを活用した資金調達の仕組み「ストラクチャードファイナンス」を中心とした業務に携わってきました。銀行では、定期的にさまざまな部署への配置転換があることが多いのですが、結婚、出産を経た後も同じ部で仕事を続けられたのは、専門性の高さと独自のスキルが要求される分野で"手に職"をつけられたからかもしれません。2011年には、念願の管理職に就くことができ、丸之内支店で副支店長になりました。そこで管理職の経験を積ませてもらった後、13年に人事部ダイバーシティ推進室に異動しました。
異動を経て実感しているのは、私は常に新しいことに挑むのが好きということです。ダイバーシティ推進室主催では、毎年「女性活躍推進セミナー」を開いています。女性社員を対象に、一人ひとりが自律的な姿勢で中長期的キャリアを築けるようにするためのノウハウを伝えるセミナーです。先日開催した際には、ダイバーシティ推進室内で受け継がれていた「イベントはこうあるべきだ、このように運営しなくてはいけない」という固定観念をなくし、これまでのアンケート結果や社員の声を活かして、内容も大幅に見直してみました。
みずほフィナンシャルグループは社員の4割以上が女性ということもあり、「女性活躍推進セミナー」は重要なイベントです。例年の進行に慣れていた部下たちには不安を抱かせてしまった場面もありましたが、結果として前年150人だった参加者が、300人に増えました。また、イベント後の参加者アンケート結果も過去最高となりました。
新たな目的に向かうためには、
何かを捨てることも必要
このイベントで何よりもうれしかったのは、イベントを通してダイバーシティ推進室内に良いチームワークが生まれ、部下たちが達成感を味わえたことです。部下たちの成長を感じたと同時に、急な出来事にもチーム一丸となって対応していけるようになったことを確信しました。そうして仕事を成し遂げた達成感を得られると、部下も新たなステージにも恐れずにチャレンジできるようになります。そんな職場環境をつくっていくことで部下が成長していく姿を見ることは、私のやりがいでもありますね。
そのような環境をつくるために意識しているのは、一人ひとりに合わせたコミュニケーションです。管理職と部下は「個と個」であり、価値観や考え方が異なるのは当然なので、できるだけ多くの部下と1対1で話す機会を持つようにしています。そしてそれぞれが持っているキャリアビジョン、特技や強み、次のステージに進むために克服すべき弱みを共有し、一緒に乗り越えていくためのアドバイスをします。部下の希望するキャリアが私の専門外の分野であれば、詳しい人と引き合わせてより具体的にキャリアアップのイメージをつかんでもらう。そうやって目指すキャリアと現状とを比べ、足りない部分を埋めていけるようなサポートを心がけています。
その結果、部下たちは「新たな仕事に挑戦して成功し、達成感を得て、また挑戦する」というサイクルで成長していくようになりました。若いメンバーには、そうやって力をつけ、チャンスをつかんでいってほしいです。しかし、新しいことへのチャレンジは、これまでの成功パターンを捨てることでもあります。何も捨てることができない人は、何も変えることができません。そのため、新たな目的に向かう時には、何を捨てなくてはいけないかを、部下と一緒に考えるようにしています。私自身が捨てることをためらわない姿勢を見せるようにしたことで、部下たちが新しいことにチャレンジする際の抵抗感もなくなってきたように感じますね。
選択肢を多く持ち、チャンスがある時には果敢に挑戦してほしい
管理職として意識しているのは、あらゆる角度から物事を見るということです。いま自分が見ているのは、自分の"フィルター"を通して見ているものであり、ほかの人が見ればまた違った見方があります。管理職になればいろいろな"フィルター"を持った部下と働くことになるので、できるだけ広く大きな視野を持ち、多方面から物事を捉えて判断したいと思います。
管理職になることをためらう女性も多いと思いますが、私自身が管理職と子育てを両立してきて感じるのは、挑戦できるときには挑戦しておいたほうが良いということ。キャリアアップのチャンスは逃さず、山は登れるところまで登っておくべきだと思うのです。育児で仕事のペースを一旦落とすことは悪いことではありません。しかしながら、しかるべきタイミングでチャンスが巡ってきたら、ためらわずにチャレンジすべきです。チャンスはいつもやってくるとは限りませんので、随分後になって「やっぱりチャレンジしたい」と思っても、「時すでに遅し」ということはいくらでもあるかと思います。男女問わず言えることですが、若いうちは特に、チャレンジできる機会は逃さず、果敢に挑戦していってほしいですね。
そういう女性社員を増やし、管理職を目指してもらうために企業ができることは、二つあると思います。一つは、育児休暇や短時間勤務体制など、ワークライフバランスを整えてサポートをしていくこと。もう一つは、仕事も家庭もうまく両立させている女性管理職像を実際に見せることです。「ポジティブアクション」として女性たちに積極的にポジションを与えていくことも大切ですね。最初から完璧にできる人などいませんが、立場を与えられればその立場にふさわしい力は後からついてきます。企業がそこまで長期的な視点で女性を育成していけたら、より一層、女性の躍進につながるのではないでしょうか。私自身がキャリアアップを望む女性の見本となり、会社全体としても背中を押していける環境をつくっていきたいと思っています。
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