[仕事上で自分に必要だと思う・または関心がある知識やスキル](以下、[自分に必要なスキル]と言います)について、ビジネスパーソンはどう考えているのでしょう。汎用的なビジネススキルや職種や業務に関連する専門スキルの中から20の知識・スキルをリストアップし、その中から選択してもらう形式で調査したところ、最も多く回答が挙がったのは、PCスキルや英語力を押さえてコミュニケーションスキルでした。
全体:ビジネスシーンで最も必要なスキルは[コミュニケーション力]
ビジネスパーソンの9割近く(89%)が、「今の自分には何らかの知識・スキルが必要」だと考えていて、「自分に必要なスキルはない」はわずか1割(11%)だけでした。
ビジネスパーソンが考える[自分に必要なスキル]のTOP3は、[コミュニケーション力](60%)[PCスキル](53%)[英語力](42%)の順です。ビジネスシーンで最も必要なのは[PCスキル][英語力]を押さえて[コミュニケーション力]という結果になりました。社会に出て何年たっても、どんなにキャリアを積んでも、[コミュニケーション力]はビジネスの基本中の基本スキルであると言えます。
4位には[プレゼンテーション力]が食い込んでいますし、[PCスキル]も[英語力]もコミュニケーションするためのスキルという側面があります。また、昨今のビジネス書のベストセラーといえば 「聞く力」 や 「○○○な雑談力」 など、コミュニケーションをテーマにしたタイトルが思い浮かびます。現代のビジネスパーソンがいかに自分の考えを伝えるか、いかに相手の思いを読み取るかに関心を寄せていることが本調査の回答傾向からも浮き彫りになりました。
5位以下には[データ分析力](34%)[企画提案力](33%)[リーダーシップ](33%)[意思決定力](30%)など組織や事業の方向性を策定するうえで必要なスキルやマネジメントに関わるスキルが挙がっています。[PCスキル][英語力]以外の専門スキルは中位から下位にとどまりました。
理由:[コミュニケーション力]と[PCスキル]は現在必要、[英語力]は近いうちに必要
スキル・知識を身につける理由を【表1】で表しました。黄色のセルは、列を縦に見たときに回答率が高めのものです。 1位[コミュニケーション力]と2位[PCスキル]は[現在の仕事に不可欠]がそれぞれ6割を超えています。これに対して3位[英語力]は[キャリアアップ](48%)[将来的に必要](41%)がおもな理由です。
[コミュニケーション力]や[PCスキル]は、“関心がある”という程度ではなく、現在の仕事で必要に迫られている、一方で[英語力]の習得にはまだ時間的猶予を感じているようです。現状、企業の英語公用語化やグローバル化がそれほど進んでいません。ですから、「現時点では英語ができなくても仕事はできるが、公用語化が急に進む可能性もある。今は“執行猶予”で、近い将来には身につける必要がありそうだ」と考えているのでしょう。
[コミュニケーション力]や[PCスキル][IT・Web]などの専門スキルは“現在の仕事”が理由になっています。これに対して[ファシリテーション力][プロジェクトマネジメント力][リーダーシップ]などは[キャリアアップ]や[将来的に必要]という理由が高めの回答です。今以上に、中長期的なキャリアプランとともに必要性を捉えているものと思われます。
職種:職種によって必要なスキルの違いは?
職種によって[自分に必要なスキル]に特徴があるかを【表2】で表しました。すべての職種で[コミュニケーション力][PCスキル]のいずれか、または両方がTOP3に入っており、職種を問わず関心が高いことが分かります。
【表2】から職種ごとの特徴をいくつか挙げてみます。
[営業]と[専門職]は[コミュニケーション力]とともに[プレゼンテーション力]がTOP3です。コンサルティングファームをはじめとするBtoBの専門職は営業職と同様に顧客の前でプレゼンする機会が多いためでしょう。
[技術系(IT/通信)]は2位に[IT・Web]が入り、[クリエイティブ]はTOP3を[PCスキル][IT・Web][クリエイティブ・デザイン]が占め、ITやWebの職種は専門スキルに特化しています。
[技術系(建築/土木)]は3位に[段取り力・タイムマネジメント]が入り、現場の工期を守る意識が表れたのかもしれません。
全体3位の[英語力]は職種によるバラつきがあり、[企画・事務系][技術系(メディカル)][技術系(化学/食品)][販売/サービス]でTOP3に入っています。[技術系(メディカル)]は海外とのテレカンファレンス(電話会議)、[販売/サービス]が訪日外国人の増加が背景にありそうです。
男女:男性はマネジメント系、女性はスペシャリスト系のスキルを意識
男性のほうが回答率が高いのは、[ネゴシエーション力][プロジェクトマネジメント力][リーダーシップ][ロジカルシンキング][戦略構築力][意思決定力]などです。女性の回答率が高いのは、[コミュニケーション力][段取り力・タイムマネジメント力][データ分析力][英語力][PCスキル]などです。男性の回答からは課題解決やチームをリードする組織マネジメント志向が、女性の回答からは業務効率化や担当業務にひも付くスキルを磨こうとするスペシャリスト志向が見て取れます。
年代・年収:30代は管理職、40代は経営層を視野に
年代ごとに[自分に必要なスキル]はどう捉えられているでしょう。
30代は[コミュニケーション力](64%)[プレゼンテーション力](48%)[リーダーシップ](36%)[ネゴシエーション力](33%)[プロジェクトマネジメント力](23%)などが他の年代よりも回答率が高くなっています。30代は年齢・キャリアともに管理職へのステップアップが現実的になるためと思われます。40代は[データ分析力](37%)[意思決定力](31%)[アカウンティング](20%)などの回答率が高めです。マネジメントのレベルが上がり経営的な視点を意識している表れでしょう。20代は、キャリアの方向性を模索する時期のためか突出した回答傾向は見られません。
参考に、年収別の[自分に必要なスキル]です。
年収が上がるにつれて回答率が上がる項目が[プレゼンテーション力][ファシリテーション力][ネゴシエーション力][ロジカルシンキング][意思決定力・仮説構築力][企画提案力・問題解決力]で、年代別(【グラフ5】)の傾向と似通っています。年代、年収に比例して責任も重くなり、部署や部門を統率して高度な判断を求められるという証左です。
転職意向:転職を考えている人のほうがスキルアップに積極的
転職意向の有無による差を見てみます。いつ転職したいかという時期は問わず、今転職を考えている人を[転職意向あり]としています。[今の自分に必要なスキルはない]の回答率に着目すると、[転職意向あり]の人は8%、[転職意向なし]の人は15%と差がついています。転職活動をスムーズに進めるため、あるいは入社後の活躍のためにスキルを活用しようとしているようです。また、[転職意向あり]の人のほうが高い回答率になっているのが[PCスキル][英語力]と[ロジカルシンキング][プロジェクトマネジメント力]です。転職直後は誰でもいったんキャリアがリセットされます。未経験の業種・職種に転職した場合は成果を出すまでにさらに時間がかかる可能性があります。[転職意向あり]の人の回答率が高かったスキルは、業種や職種を飛び越えても活かせるポータブルスキルだと考えられているのでしょう。
転職に有利になりそう・有利になったスキル
[転職に有利になると思うスキル](全体が回答)では、1位[コミュニケーション力](49%)2位[英語力](45%)で、先に示した【グラフ1】と同様です。が、3位に[プレゼンテーション力](37%)4位に[リーダーシップ](34%)が挙がっています。転職活動では、応募書類や面接などで自分の職務経歴や貢献度をいかにプレゼンテーションするかが鍵になると考えているようです。
実際に転職した人が[転職に有利だった]ものとして最も多く回答したのは意外にも[(有利になるスキルは)ない]で3割超(32%)です。[転職に有利になると思う]で半数近くが挙げた[コミュニケーション力]も27%にとどまりました。では、転職するにはスキル・知識は必要ないのでしょうか?もちろんそんなことはありません。自分自身の強みやビジョンとして正しく伝えるべきです。しかし実際の転職活動では、職務経歴、実績、志向、企業文化とのマッチ度、そして多くの場合はタイミングが成否を左右します。転職経験のある人は、そのことを実体験を通じて理解しているのだと思われます。
まとめ
今回の調査を通じて、年代や職種にかかわらずビジネスパーソンの多くが「今の自分に必要なスキルがある」と考えていることが分かりました。実務経験とスキルのバランスが取れていることがキャリアの充実につながります。今の仕事だけでなく、数年後にどんなビジネスパーソンでありたいかから逆算して、これからの自分に必要なスキルを身につけていきましょう。
調査概要
・調査名: ビジネスシーンにおいて必要だと思う知識・スキルに関する調査
・2016年3月に、関東、東海、関西在住で20~49才のビジネスパーソンに対してネット調査