転職ストーリー
海の安全を科学で守る。
環境分析の先にある新しいフィールド
海上保安庁は、日本の海上の治安と安全を守る、いわば「海の警察」です。そこで試験研究官として働く関島さんは、もともと民間企業で水や大気の分析をしてきました。入庁後も「分析」という仕事は同じですが、その意味は大きく変わったと言います。分析は科学捜査になり、鑑定書は証拠にもなる。民間から公共機関へ。キャリアの選択がもたらした変化に迫ります。
関島 香織さん
環境計量証明会社を経て、2025年海上保安試験研究センターに入庁。
環境を数値で示す。きっかけは高校時代に手に取った本だった
現在のキャリアの原点を教えてください。
高校生のとき、環境分析について書かれた本を読んで、「環境を測る」という考え方を知ったんです。たとえば、「この水きれいだよ」と言われても感覚にすぎませんが、数値化すれば「有害物質が基準以下です」と客観的に証明できる。それが「環境計量」です。環境計量という分野に興味を持ったことがきっかけで、学生時代は環境化学を専攻。卒業後は、環境計量証明会社に入社しました。
1社目の環境計量証明会社ではどんなお仕事を?
主に、河川水や工場排水に含まれる物質を測定し、数値化し証明する仕事をしていました。対象は水だけでなく、土壌や大気など多岐にわたり、幅広い分析に携わる中で技術を磨くことができました。経験を重ねるにつれ管理職としてグループ運営にも携わるようになり、分析だけでなく、マネジメントにも挑戦できたのは、大きな成長機会でした。また、在職中に結婚や出産も経験し、2人の子どもを育てながらキャリアを築いてきました。仕事とプライベートの両立を模索しながら、走り抜けた19年でした。
転職を考えたターニングポイントは何でしたか?
第二子の育休中に取得した「環境計量士」という資格がきっかけでした。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染などの化学物質の濃度測定や計量管理が行える国家資格なのですが、ふと、自分の技術や経験を活かして、今よりもっと社会に貢献できる仕事はないのだろうかと考え、資格名で検索したのです。すると、海上保安庁の求人が出てきました。この資格が公的機関で活かせるなら、広く社会で役立てられるチャンスだ!やってみたい!と直感的に思いました。合格したときは、嬉しかったですね。子どもも「海上保安庁で働くお母さん、かっこいい!」と言ってくれました。
海の「鑑識」として、科学の力で海を守る
海上保安庁へ入庁後のお仕事を教えてください。
海上浮流油や工場排水の鑑定分析からスタートしました。なかでも海上保安庁ならではの仕事で印象的だったのが、海に流出した油の分析です。本来、油は海に排出してはいけませんが、給油作業中などに意図せず流出してしまうケースがあります。 私の役割は、その油の成分を分析し、「どの船舶から流出したものか」を特定すること。海に浮いた油は、時間の経過とともに太陽光や波の影響を受けて性質が変化してしまうため、必ずしも特定できるとは限りません。そのような難しさがあるからこそ、複数のデータを丁寧に照合し、原因にたどり着けたときの達成感はとても大きいです。
分析結果は「鑑定書」としてまとめられ、現場の海上保安官へと渡されます。その内容は、違反船を特定し、場合によっては起訴へとつながる重要な証拠となります。
それは責任が重いですね。民間企業での仕事とはどんなところにギャップを感じますか?
結果の重みでしょうか。民間企業では主に依頼元である企業に対してデータを提出する形でしたが、その後どう使われていくかを実感する機会は多くありませんでした。現在は、自分の分析結果が違反の有無を判断する根拠となり、社会的な措置へと直結していきます。
科学的な分析を通じて、海の環境を守るだけでなく、法律を守らない行為に対して明確な根拠を示す。そうした意味で、今の仕事は「社会正義に直接関わる仕事」だと実感します。一つひとつの分析結果に、責任と意味があるので、プレッシャーも感じますが、やりがいでもありますね。
次のミッションは、人命を守る基準づくり
これから挑戦されることはありますか?
近年、次世代の船舶燃料としてアンモニア燃料が注目されています。これまでは重油(石油)を燃やして船を動かしてきましたが、CO₂を大量に排出してしまいます。一方アンモニアは燃焼時にCO₂を出さないため、脱炭素社会の実現に向けた燃料として期待されています。しかしその反面、アンモニアは有毒性を持ち、高濃度では人の命に関わる危険もあります。
私の次の仕事は、流出事故が発生した際、現場で装着する防護服の安全性の検証です。防護服の透過性については、メーカーの公式結果は存在するものの、我々が必要とする濃度における透過性は数値化されていません。そこで、アンモニアの濃度や、活動可能時間など、さまざまな条件を想定し、安全に作業できる目安となる基準をつくることが重要になります。アンモニア燃料を使った船が安全に航行でき、事故時にも現場の人の命が守られること。その両方を支える仕事に関われることに大きな責任と誇りを感じます。
最前線の現場にいるんですね。日々の働き方についてはどのように感じていますか?
民間企業のときは繁忙期に土日出勤もしていましたが、今は緊急の依頼がない限りありません。分析業務自体は研究センターでしかできませんが、デスク作業が続くときなどはテレワークやフレックス勤務などを活用しています。現在子どもは小学校5年生と2年生。夏休みや、学校から帰ったときに私が家にいると嬉しそうにしています。子育てと仕事を両立し、どちらも妥協しない働き方を実践できるので、日々の業務にも前向きになれます。
今後の目標について教えてください。
今後はさらに分析技術を深めていきたいと思っています。薬物分析や塗膜分析、船で使用している油の分析など、新しい分野にも挑戦していきたいです。そして、日々の業務で得た知見を自分の中にとどめるのではなく、チームや組織全体に還元し、より広い形で貢献できる存在になりたいです。
キャリアの変遷
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環境を“数値で測る”仕事に興味を持つ 学生時代は環境化学を専攻。新卒で環境計量証明を行う会社に入社
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分析のプロとして成長し、マネジメントに挑戦 水質や大気、土壌など幅広い分析を経験し、技術力を向上。管理職としても活躍の場を広げる
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さらなる社会貢献に挑むため、海上保安庁へ 第二子育休中に環境計量士を取得し、より社会に直接貢献したいと考え、海上保安庁へ転職を決意
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次世代燃料の研究で、命を守る基準をつくる 海上保安庁で鑑定分析に従事し、違反の証拠を科学で示す。現在はアンモニア燃料対応の研究にも取り組み、現場の安全を支えている







