転職ストーリー
鉄鋼メーカーから研究者へ。
現場視点を力に、大阪のものづくりを支える
取り付けたときには何も問題がなかったねじが、翌日には壊れていた。その原因を、破断面に残されたわずかな痕跡から探っていく。大阪産業技術研究所は、こうした企業の課題に分析や改善支援で応える公的研究機関です。研究員の澤さんは、企業支援を手がける一方、自ら研究テーマを立て、実験にも取り組んでいます。製造現場で培った経験を生かし、より多くの企業の課題解決に貢献したい。企業支援から研究テーマが生まれ、その成果が再びものづくりの現場へ還元される仕事に迫ります。
澤 源士郎さん
地方独立行政法人大阪産業技術研究所
和泉センター 金属材料研究部 微細構造評価研究室/研究員
鉄鋼メーカーを経て、2022年10月に中途入所
分析から研究、実用化へ。企業と新たな技術を追求する
大阪産業技術研究所が担っている役割を教えてください。
大阪の中小企業を中心に、ものづくりを技術面から支える公的研究機関です。企業から持ち込まれた材料や部品の分析、新しい技術の研究開発、研究所が保有する設備の活用や、培ってきた技術の普及などに取り組んでいます。
その中で、澤さんはどのような仕事を担当されていますか?
私は金属材料研究部に所属し、電子顕微鏡を使った金属材料の分析や研究開発、企業支援に携わっています。また、研究所の技術を知っていただくためのセミナーに登壇することもあります。
分析や試験の依頼は、製造業を中心に、商社や製品を導入・使用する企業などからもいただいています。研究所には専門的な設備と技術があり、企業が自社だけでは解決しにくい課題に対して、実際に分析を行い、結果を示せることが私たちの強みです。
具体的には、どんな依頼があるのでしょうか?
私が多く担当しているのは、金属製品が壊れた原因を調べる仕事です。例えば、現場で問題なく取り付けたねじが、翌日には壊れていたという相談がありました。
そこで、壊れた箇所の断面である「破断面」を電子顕微鏡で観察します。金属の壊れ方には、原因によって特徴的な痕跡が現れることがあるんです。このケースで考えられたのは、めっき工程で金属内部に水素が入り、材料がもろくなる「水素脆化」でした。
この場合は、めっき方法の変更や、めっき後に金属内部の水素を低減する処理などが対策の選択肢になります。分析結果をお伝えして完了する場合もあれば、ご要望に応じて、その後の改善方法まで一緒に考えることもあります。
一つの依頼から、さらに支援が広がっていくこともあるんですね。
そうですね。依頼に対応する中で新たな課題が見つかり、共同研究へ発展することもあります。研究、技術普及、企業支援を個別の取り組みで終わらせず、互いに結び付けながら、新しい技術の開発や特許取得、実用化へつなげていく。そこに、この研究所ならではの役割があると考えています。
製造現場で経験を重ねながら、持ち続けた研究への思い
学生時代から、研究職を志していたのでしょうか?
はい、大学・大学院では研究職を目指して、金属工学を学んでいました。素材産業は、さまざまな産業の上流にあります。素材が少し変わるだけでも、その先の製品や産業に大きな影響を与えられるところに魅力を感じたんです。
大学に残って研究を続ける道も考えましたが、企業で研究に携わり、成果を製品やものづくりにつなげることで、広く社会に貢献したいという思いがありました。そこで、企業の研究職を希望して鉄鋼メーカーに入社しました。
そこから研究職としてのキャリアをスタートしたんですね。
いえ、実は配属されたのは、研究部門ではなく24時間稼働する工場でした。製造ラインの技術開発から生産管理などを担当し、担当ラインに関わることを幅広く担っていました。
もちろん技術的な仕事も多くありましたが、研究職とは少し異なり、現場で起こるさまざまな問題に向き合う必要がありました。前職での業務を通じて、ものづくりを成り立たせる難しさを学べたことは良い経験だったと思います。
働き続ける中でも、研究への思いは残っていたのでしょうか?
そうですね。ただ、積極的に転職先を探していたわけではなく、基本的には前職で働き続けるつもりだったんです。そんな中、大学時代から知っていた大阪産業技術研究所の職員募集を見つけました。出身大学である大阪大学との共同研究や学会発表を通じて名前を目にしていたので、「一度受けてみよう」と思ったのがきっかけです。
転職の決め手は何だったのでしょうか?
説明会で印象に残ったのは、研究設備の充実ぶりです。大学時代に経験した、EBSD(電子線後方散乱回折法)を用いた金属組織解析ができる設備もあり、これまでの経験をすぐに生かせると感じました。 また、自ら研究テーマを提案できることに加え、企業支援にも携わり、研究成果をものづくりへつなげられる。その環境にも魅力を感じつつ、公的機関という安心感もあったため、応募を決めました。
多様な企業と向き合い、研究成果を社会へ
製造現場で得た経験は、現在の仕事にどう生きていますか?
前職では、安全や品質、コストなど、さまざまな条件を踏まえながら製造現場を支えていました。その経験があるからこそ、企業が抱える制約やニーズを、具体的に捉えられていると思います。
多くの企業を支える立場になり、仕事の幅も広がりましたか?
そうですね。前職では一つの工場や製造ラインを支えていましたが、現在は規模も業種も異なる企業から相談を受けています。
相談の対象が金属部品であっても、その部品が使われる製品には、樹脂材料や加工技術、電気・電子技術など、さまざまな分野が関わっています。研究所には各分野の専門家がいるので、必要に応じて相談しながら、金属だけでなく、製品全体の構造や使用環境まで踏まえて考えられるようになりました。
研究や分析に取り組むうえで、大切にしていることを教えてください。
一つは、できるだけ自分で手を動かすことです。例えば、試料を切ったときに「思ったより硬い」と感じることがあります。最終的な分析データだけを見ていたら、そうした情報は抜け落ちてしまいます。実験や分析の過程で得た感覚を、次の検討に生かせるところに研究の面白さを感じています。
もう一つは、分析結果の信頼性を守ることです。企業から急ぎの依頼を受けた場合も、正確な結果を出すために必要な時間や手順は、きちんと説明します。企業の事情を理解しながら、第三者の立場から、客観的で信頼性の高い結果をお返しすることも、私たちの役割だと考えています。
これから、どのような成果を生み出したいですか?
現在は、EBSDで得た金属組織のデータをAIや機械学習で解析する研究に取り組んでいます。一つの材料で得た成果をほかの材料にも応用し、技術の適用範囲を広げていきたいです。
目標は、研究成果を企業とともに実用化し、目に見える形で社会へ届けることです。いつか自分の子どもに「この製品には、自分が貢献した技術が使われている」と伝えられるような成果を残したいですね。
キャリアの変遷
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産業への影響力が大きい金属工学を専攻 素材の変化が幅広い製品や産業へ影響することに魅力を感じ、大学・大学院で金属工学を専攻
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製造現場で、ものづくりのプロセスを学ぶ 鉄鋼メーカーに入社し、生産管理を担当。安全・品質・コストなど、技術だけでは完結しないものづくりの難しさを経験
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研究への思いが後押しした転職 前職で経験を重ねながらも、研究への思いを持ち続け、2022年10月に大阪産業技術研究所へ中途入所
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現場経験を、企業支援と研究に生かす 企業の事情や制約を理解しながら、金属材料の分析や研究に取り組む。企業とともに研究成果を実用化することを目指す







