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転職ストーリー

海に光を灯し、人の安全を守る。
海上保安庁「技術官」という生き方

灯台を守り、日本の海上交通の安全を支える。そのために、設計・積算・工事監理・予算執行までを一貫して担うのが、海上保安庁の技術官です。今回は民間企業での経験を経て、海上保安庁に転職した二名に取材しました。なぜ公共機関への転身を選んだのか、前職の経験はどう活かされているのか。転職の背景から、現在の仕事、そして未来への想いについて聞きました。

PROFILE

増井 さわ子さん

海上保安庁 第四管区海上保安本部 交通部整備課 技術官(※4月より計画技術官)
高専で建築を学び、電力会社にて電力施設の保守管理や不動産開発に従事。31年間勤務した後、早期退職制度を利用し、海上保安庁へ。現在は灯台をはじめとする航路標識のメンテナンスを担当。

綱島 裕美さん

海上保安庁 第三管区海上保安本部 交通部整備課 技術官
高校卒業後、神奈川県警にて勤務。その後、大学で建築を学び二級建築士を取得。不動産鑑定事務所に転職し、再開発事業に従事し、海上保安庁に入庁。灯台などの航路標識の改修工事を担当。

それぞれのキャリアの先にあった、「海を守る」という選択

お二人とも、民間企業や警察といった別のフィールドで長く働いた後に、海上保安庁へ転職されています。まずは、増井さんから転職のきっかけを教えてください。

増井さん 新卒で電力会社に入社し、電力施設の保守管理、設計・工事監理に携わっていました。並行して不動産開発にも関わりましたね。仕事に不満はなく、31年間勤め上げました。ただ、子育てが一段落し、これからの人生を考えたとき、「このまま定年まで同じ場所でいいのだろうか」と一度立ち止まったんです。

そんなとき、会社の早期退職制度が目に留まり、仕事から少し距離を置くことにしました。その時点では「退職後、再び本格的に働く」という考えはなかったんですが、あるとき転機が訪れます。当時、高校生の息子が海上保安学校への進学を考えており、一緒に学校見学へ行くことになったんです。

ご自身ではなく、ご家族の進路がきっかけだったわけですね。

増井さん そうなんです。現場で直に訓練や設備を見たとき、「人の役に立つ仕事だ」ということがストレートに伝わってきました。日本は海に囲まれた国で、物流も資源も海に依存しています。その海を守る仕事は、社会全体の土台を支えているようなもの。そう考えたら、単純に「かっこいい」と感じ、自分もやってみたいと思っていました。

もちろん不安はゼロではありませんでしたが、「また新しいことに挑戦したい」という気持ちが勝ちました。当初はパートでもいいと思っていたところ、求人を見たら年齢や経歴的にも応募できるんです。気がついたら再チャレンジしていました。

綱島さんは警察から不動産鑑定事務所を経て、海上保安庁というユニークな経歴ですね。あらためて転職のきっかけを教えてください。

綱島さん 私は高校卒業後、神奈川県警に入りました。生活安全課で主に薬物対策を担当していたのですが、その中で水際対策として船に乗り、海上保安庁と一緒に仕事をする機会がありました。現場での連携の仕方や、仕事に対する使命感に、同じ方向を向いている感覚を覚えたんです。

警察時代から、どこか親近感を覚えていたのでしょうか?

綱島さん そうですね。その後、「ものづくりがしたい」と警察を離れ、大学に進学。建築を学びながら二級建築士を取得し、不動産鑑定事務所に就職して再開発事業に携わりました。街づくりに関わる非常にやりがいのある仕事でしたが、どこか、警察時代に感じた親近感を忘れられませんでした。それと同時に、父が沖縄出身ということもあり「沖縄で仕事をしたい」という気持ちも強くなっていたんです。

そんなときに目に留まったのが、沖縄県の海を管轄する海上保安庁の第十一管区における技術官募集。警察時代の経験と、建築・不動産で培った知識が重なる仕事だと感じ、すぐに応募しました。迷いはありませんでしたね。

民間企業で培った技術が、そのまま武器に

現在のお仕事について、詳しく教えてください。

増井さん 私が主に担当しているのは、灯台の改修工事です。現地調査から始まり、劣化状況の確認、改修方針の検討、予算要求、設計、積算、工事監理まで、一連の流れをすべて担当します。また、最近は船の管制を行う海上交通センター改修の検討にも関わっています。業務量としては、灯台関連がメインですね。

現場に出る頻度は、週に1〜2回ほど。もちろん体力は求められますが、「女性だから」「年齢的に」という理由で制限されることはありません。準備と段取り、そして根気があれば十分対応できます。

民間時代と比べて、仕事の進め方に違いはありますか。

増井さん 一番の違いは、やはり「分業ではない」ことです。民間では、設計、積算、工事監理がそれぞれ分かれていることも多いですが、海上保安庁では一人の技術官が最初から最後まで関わります。「自分の判断がそのまま現場に反映される」感覚があり、責任もやりがいも大きいです。

綱島さんはいかがでしょうか。

綱島さん 入庁後は沖縄で4年経験を重ね、それを活かして今は第三管区に所属。増井さんと同様、灯台の改修工事に携わっています。第三管区では、静岡県から茨城県までの1都8県を管轄しており、約530基の航路標識を管理しています。航路標識の点検は、場所によっては船でしか行けない、あるいは無人島の山を登らなければならないといった場合もあり、やりがいは大きいです。現地で確認するのは、「灯台が光っているか」だけではありません。建物の構造的な健全性、外壁や基礎の劣化、周囲への影響まで細かく見ます。

光って機能しているだけでは不十分なんですね。

綱島さん 例えば、タイルや塗料が剥がれていれば、それが波で流され海洋汚染につながる可能性があります。安全面だけでなく環境への配慮も欠かせません。

前職の経験が活きていると感じるのは、どんな場面でしょうか?

綱島さん 民間時代に木造からS造まで幅広い建物の積算や法令チェックをしていた経験は、そのまま役立っています。RC構造を本格的に扱うのは初めてでしたが、「未知」という感覚はありませんでした。また、警察時代の経験も、現場での判断に活きています。安全第一で物事を整理し、優先順位を明確にする姿勢は、公共インフラの保守という仕事に通じています。

増井さん 前職では電力施設という「止められないインフラ」を扱ってきました。そのため、工事の段取りや関係者との調整、限られた条件の中で最適解を探す姿勢は、今の仕事でも自然に活かせています。

初めての仕事なので、戸惑うことも当然ありますが、そんな私を職場の方が丁寧にフォローしてくれます。本庁・管区の両方でサポートしてもらえますし、困ったときに相談しやすい雰囲気があることは、いい意味でギャップを感じました。

海上保安庁は規定等が厳格な、いわゆる「規律官庁」ですが、そのイメージとはギャップがあったんですね。

増井さん 敬礼や時刻の言い方など、独特の文化はありますが、それが息苦しいわけではありません。規律があるからこそ、安心して仕事ができる。民間企業出身の方でもなじみやすい職場だと思います。

灯台を守ることは、人の命と暮らしを守ること

この仕事ならではのやりがいについて教えてください。

綱島さん 工事が無事に終わり、感謝の言葉をいただけたときでしょうか。特に印象に残っているのは、沖縄勤務時代に担当した北大東島の灯台改修です。老朽化対策に加え、地域の方々と相談しながら、琉球瓦の意匠を取り入れたところ、工事後に島の役場や港の方から「ありがとう」とたくさんの声をいただきました。さらに、灯台が観光スポットになり、小中学校の社会見学の場にもなったと聞いたときは、本当に嬉しかったですね。前職時代に携わった街づくりと同じで、灯台もただの構造物ではなく、地域の象徴になり得ると実感できたことも、心に残っています。

素敵な事例です。増井さんはいかがでしょうか。

増井さん 私は現場に行く瞬間が一番好きです。岬や離島、山の上など、普段なかなか行けない場所に立ち、海に向かって灯りが伸びているのを見ると、「この光が人の命や暮らしを守っているんだ」と実感します。自分が直接担当した工事でなくても、航路標識全体を見渡したときに、チームの一員として関われていることに誇りを感じます。

入庁前と入庁後で、仕事のイメージが変わった点はありますか。

増井さん 技術官にはどこか個人プレーの印象を持っていたんですが、実際はコミュニケーションが盛んで、組織全体で支え合っている感じがします。南極観測や国際任務など、多様な経験を持つ職員が多く、その話を聞くだけでも刺激になります。

綱島さん 全国転勤があるので、その点は覚悟が必要ですが、土地ごとの特性を学べる点はメリットだと感じています。沖縄での経験は、自分の視野を大きく広げてくれました。最初は生活面も含めて大変でしたが、子どもが自立した後は、転勤を前向きに楽しみたいと思っています。

お二人とも、素敵なお話をありがとうございました。最後に、今後の目標を教えてください。

綱島さん 全国各地で経験を積みながら、「灯台を守る=人々の生活を守る」というこの仕事の意味を、ひとつひとつの現場で実感していきたいです。そのうえで、建築士としても技術官としても、どこに行っても通用する力を高めていきたいですね。

増井さん 航路標識には、明治期から積み重ねられてきた技術があります。FRP、小割タイル、波力を考慮した構造設計など、過酷な環境に耐えるための工夫は、まさに先人たちの知恵の結晶です。そんな先人たちが残したノウハウを学び、現代の基準に合わせて更新しながら、次の世代につなげていく。それが私の使命だと思っています。伝統を未来につなげられるよう、これからも頑張っていきたいです。

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