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転職ストーリー

空を飛ぶことを夢見た少年が、
“宇宙と社会”の懸け橋に

加藤 博司さん

空と宇宙と、そして人。歩んだキャリアが次代の宇宙開発へと繋がっていく―― 加藤さんは、研究者としてJAXAに入構後、民間への転職を経て再びJAXAへ出戻った異色の経歴を持ちます。研究者のキャリアを歩む中で芽生えた、「研究の社会実装」という目標と、だからこそ掴めた可能性。試行錯誤の先に見えた、宇宙への新しいチャレンジに迫ります。

PROFILE

加藤 博司さん

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 宇宙戦略基金事業部
技術開発マネジメントグループ 主任研究開発員/プロデューサー
2013年に新卒入構。その後、民間の広告代理店への転職を経て2025年に再入構した

飛行機への憧れが導いた、研究者の道

まず、キャリアのスタートに航空宇宙領域を選んだきっかけを教えてください。

子どもの頃から、飛行機と空の青さが大好きでした。だから、「パイロットになりたい」と、早い段階で将来の夢を決めていましたね。当然、就職活動では航空会社の入社試験を受けましたが、パイロットは身体的な条件も採用要件に含まれる、少し特殊な職業。試験を受ける過程で夢を断念し、「この先、何を目指すのか」と随分考えました。そのとき、「航空宇宙分野での研究者になる」という夢に切り替えることにしたのです。

大学ではどんな分野を専攻していたのでしょうか。

学部では、数値シミュレーションを専門とする研究室に所属し、CFD(数値流体力学)の研究に取り組んでいました。教授が元JAXAの研究者だったこともあり、航空に関わるテーマも扱えるということで、その研究室を選んだのです。中でも、航空宇宙分野での“空力シミュレーション技術の高度化”というテーマを推進していました。「研究者になる」と方針転換して博士課程に進んでからは、JAXAの研究者たちと研究交流をする機会が増え、自然と「JAXAで研究がしたい」という思いが強くなっていきました。そして、“第一志望”というより“唯一志望”でJAXAの試験を受け、採用されたという形です。

思いが通じてJAXAへの入構。一方で、その後民間企業へ転職したと伺いました。

JAXAでは、博士課程でやってきた研究の延長線上の仕事も多く、最初の数年間は研究員としての仕事を存分に楽しんでいました。研究のための外部資金を調達したり、研究会を自主的に立ち上げたりと、ドクターの頃にはできなかった経験もたくさんしました。しかし、次第に「自分の研究は、社会にどう役立っているのだろう」と思い悩むようになったのです。
そして、研究そのものを深めるだけでなく、「社会が本当に求めている研究とは何か」をもっと近い距離で考えたいという思いが強くなり、研究者としての自分のあり方を見つめ直すようになりました。その思いから、一度JAXAを離れる決断をしました。

研究と社会を繋げるために、“人間”と“社会”を理解する分野へ踏み出した

転職先はどのように選んだのでしょうか。

“研究”と“社会”は、どうすればうまく繋がるのか。その答えを探していた中で出会ったのが、『生活者発想』というフィロソフィを掲げていた会社でした。研究を社会実装するには、「技術だけでなく、“人間”、“社会”を理解する必要がある」と感じていましたが、当時の私はそのための知見をほとんど持っていませんでした。生活者や市場を理解するための“マーケティング”を知らなければ、研究と社会を繋ぐ議論にすら参加できない。そう思い、その会社への転職を決めました。

その会社では、どのような学びがありましたか。

当然ながら、これまで私がいた航空宇宙の世界とはまったく違いました。丁寧に紐解けば答えが見つかる物理法則の世界と違い、マーケティングには明確な正解がなく、同じ問いに対して複数のアプローチが成り立つ。その価値観の違いに直面し、頭の使い方そのものを変えなければなりませんでした。「答えがないものにどう向き合うか」という姿勢を学んだことが、一番大きいと思います。

加えて、知的財産情報を事業戦略に活かす『IPランドスケープ』という考え方に出会ったことも印象的でした。「研究を社会実装する」という自分の関心と相性がよく、知財の勉強を始めるきっかけにもなりました。 約5年の在籍期間で、マーケティングはもとより、「生活者や社会の視点から研究を見る力」が身についたと感じています。

そこから、再びJAXAに舞台が移ります。その背景には何があったのでしょうか。

約5年間という期間でしたが、前職では本当に数多くの経験をし、自分自身でも「成長」を強く感じています。一方で、「“生活者や社会の視点から研究を見る力”を身につけた先に、“研究と社会を繋げる”ことを実現するためには、どうしていくべきか」と思い始めたのも事実でした。ちょうどその頃、JAXAが『宇宙戦略基金』を立ち上げたことを知りました。

自分自身、研究者としての宇宙航空分野としての経験・実績は少なからずある、加えて、「生活者や社会の視点」も少なからず身についた。自分自身が身につけたスキルセットを、『宇宙戦略基金』という場で活かせるのでないか。結果として、「研究の社会実装」というテーマを追求するためにも良い機会になると、直感的に思ったのです。

「研究」と「マーケティング」。キャリアの中で2つのピースが揃ったからこそ踏み出せたのですね。

そうですね。前職での経験があったからこそ、「研究者」とは違った形で航空宇宙領域に携わるチャンスが生まれたのだと思います。

宇宙を「誰しもが挑戦できる場」にしなければならない

JAXAの宇宙戦略基金事業の概要と、担当している役割について教えてください。

宇宙戦略基金事業は、民間企業や大学等が、複数年度(最大10年間)にわたって大胆に技術開発に取り組めるよう、宇宙分野の資金配分機関としてJAXAに設置した基金を活用して支援するものです。私は、プロデューサーという役割で技術開発マネジメントに対応しています。「研究する側」ではなく、「公募し、採択された案件での技術開発をさまざまな形で支援する側」です。

仕事の面白さ、やりがいについてはどう感じていますか。

公募する研究テーマについて、公募要項に用いる言葉が一つ変わるだけでも、集まる提案の幅や質は大きく変わります。私自身、かつては研究に携わっていたからこそ、提案者に寄り添った視点を持つことができているのではと感じますね。「この書き方だと応募しづらい」「こう書けば非宇宙領域の技術者にも伝わるだろう」という肌感覚は、今の仕事にとても活きています。

公募は、いかに、多様な提案を呼び込むかが重要なのですね。

私が担当する公募テーマにおいては、強く非宇宙層(宇宙分野に参入していないプレイヤー)からの提案を期待しています。そのためにどうすればいいのか? 色々と検討しなければならないところが、難しさでもあり、面白さでもあります。
たとえば、特定の領域の研究者だけしか提案できないような公募要項になってしまうともったいない。研究テーマや技術を具体的に書きすぎず、“課題”だけを提示し、アプローチは幅広く委ねる公募を心がけた結果、想定していなかった分野や企業から提案が集まることもありました。100件近い提案を読む中で、「こんなやり方があるのか」と驚かされる瞬間は、この仕事ならではの面白さだと思います。

非宇宙層への興味喚起という点は、まさにマーケティングの視点ですね。

非宇宙分野の参入は、今後の宇宙市場には絶対に必要だと思っています。基金は総額1兆円規模の事業で注目度は高いと思っています。しかし、それは宇宙分野にいる方々の観点であって、非宇宙層の観点から見ると、まだまだ非宇宙層の方々の行動を変えるほどの興味・関心は喚起できていないと思っています。いかにして、非宇宙層の方々の宇宙分野に対する意識を変えていくか、マーケティングの知見を活かして、戦略的に推進していきたいですね。

今後、どんなことに挑戦していきたいですか。

まずは、公募で採択された機関の方々が実際に成果を出し、社会が「宇宙開発技術が前進した」という手ごたえを感じられるまでにしたい。まだ、走り始めて数年の若い組織だからこそ、試行錯誤しながら仕組みづくりをしていきたいですね。
そして、非宇宙分野の人たちも含め、より多様な人が宇宙分野に関われる環境をつくりたいと考えています。そのためには、感覚や属人的な判断ではなく、データや調査に基づいた意思決定が欠かせません。技術動向や特許情報などを活用した「インテリジェンス機能」を強化し、研究開発投資を最適化することで、研究者も、そして、社会も納得感のあるような形で研究開発が推進される場や組織をつくっていきたいですね。

JAXAに興味を持った方々へのメッセージをお願いします。

JAXAは宇宙・航空を対象に扱う研究機関ですが、”宇宙”、”航空”という枠を取っ払って組織を見ていただければと思っています。「技術や研究を起点に、社会をより良くしたい」。そんな熱意を持てる方々にとっては、良い環境です。一方、これからは、宇宙は、その参入障壁を下げて、誰しもが挑戦をできる場にしないといけないと思っているので、これまでまったく宇宙との接点を持っていない方も、積極的に挑戦していただきたいと思います。そういう方こそ、これからの宇宙開発のキーパーソンになるはずです。

CAREER JOURNEY キャリアの変遷

  1. POINT01

    空への憧れを抱いた幼少期 海外旅行がきっかけで、「飛行機パイロットになる」という夢を抱くように。

  2. POINT02

    JAXAへ1度目の就職 ドクター時代に交流研究をしたJAXA研究員たちに刺激を受け、JAXAへ就職。

  3. POINT03

    ”生活者発想”への挑戦 「研究と社会を繋ぐ」というテーマが自分の中で膨らみ始め、”人間”、”社会”を理解するために転職。

  4. NOW!

    再びJAXAの門を叩く 宇宙開発を「非宇宙分野」に向けて開くため、宇宙戦略基金事業で奮闘中。

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