- Profile
太田垣慶(おおたがき・けい)さん - 1981年生まれ。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、2006年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。ソーシャルゲーム事業の立ち上げプロジェクトリーダーなどを経て、11年よりサンフランシスコをはじめとした世界各地の拠点にて、プロデューサー、ゲームデザインアドバイザーとして活躍。13年5月にスマートエデュケーションに入社。現在、海外展開を念頭においた知育アプリの新ブランドGocco(ごっこ)の開発責任者を務める。
2歳半の子どもたちが
iPadのゲームに夢中になっている現実
太田垣さんの前職は、IT業界で急成長を遂げたディー・エヌ・エーだ。同社の主力事業であるソーシャルゲーム事業を立ち上げ、その後、海外展開のために世界各地を飛び回っていた。在職していた7年の間に、社員は10倍以上に増えた。そんな伸び盛りベンチャーでのエキサイティングな職を手放してまで、なぜ転職を決めたのか。
「犬とテニスボールの話って、ご存じですか。動物なら、追いかけずにはいられない、気になって仕方ないテーマがどこかに転がってる、っていう逸話なんですけどね。サンフランシスコ赴任中に、これは自分がやりたい!って心が動かされる、僕にとってのテニスボールを見つけちゃったんです」。それが、子どものための知育アプリだった。
前職での大人向けゲーム開発は面白かったが、一方で今後、誰を相手に仕事をしていこうかを考え始めていた時期だった。「僕自身に子どもはいないんですが、現地の友人宅に遊びに行くと、2歳半の子どもたちがiPadのゲームに夢中になっているんです。食いついて、離さない。衝撃的でした」。でも、そのアプリがそこまで秀逸とも思えない。「自分ならもっと良いものが作れるはず。スマートデバイスを使って、子どもたちの可能性をより広げられるサービスを作れるのではないか」。そんな思いが湧き上がってきた。
退職を決めた太田垣さんには、選択肢が4つあった。起業か転職か。このままサンフランシスコで働くか日本に戻るか、のかけ合わせ。この中から「日本で」「転職」を選んだ。「そのころ、徐々に知育アプリが世界で出始めていました。企業に入ることにしたのは、そんな状況を見て、今から一人で起業するのでは遅い、急ぐべきだと判断したからです」。
帰国を決めたのには別の理由もある。世界各国のアプリ開発の最前線を見る中で、「エンジニアの技術はもちろん、アート、デザインの分野でも、日本人の強さを再認識した」からだ。「サンフランシスコでは、ソーシャルゲーム系は現地企業よりも北欧系企業の方がシェアがあります。それと似た開発センス(デザイン、ゲーム企画など個別のレベルが高く、その集約をクオリティの高いアプリに統合できる力)を、私は日本にも感じていて。アニメ、マンガだけじゃなくて、世界に通用するデザインもできる。でも、挑戦していないだけ。"日本の力を世界に発信したい"というのも海外で強く感じたことでした」。
代表の池谷さんとは、前職時代から面識はあり、スマートエデュケーションを立ち上げたことも知っていた。帰国後すぐにアプローチしたと言う。転職後の年収はかなり下がる。「でも、待遇の優先順位は低かったんです。『世界中の子ども達の"いきる力"を育てたい』っていうミッションには100%共感して、裁量権を持ってやりたいようにやれる規模の企業はここだろうと思っていたので」。
子どもの才能を開花させるきかっけを
入社後の太田垣さんの代表作は、「Gocco ZOO」や「Gocco Fire Truck」。飼育士や消防士などの「ごっこ遊び」ができ、家にいながらにして、「キッザニア」に行ったかのように遊べるアプリだ。
昨年11月末に、「Gocco(ごっこ)」シリーズ第一作がリリースされて以来、シリーズ累計でのダウンロード数は100万を突破し、その2/3が海外でのダウンロード。特長は、シンプルに直感的に遊べるように作ってあることだ。「スマートデバイスやネットの強みって、親が連れて行ってあげられる範囲を超えて、疑似体験ができることだと思うんです。"いきる力"には、いわゆる"勉強"ではなく、遊びの原体験の幅が必要。これはいろいろな教育学者のメソッドや研究結果からすでに指摘されていることです」。
この領域で仕事をするからには、自身の教育観も磨き続けるべきだと考えている太田垣さん。前社を退職した後に、フィンランドの教育現場を視察したり、教育系の書籍や論文も積極的に読む。「最近も、印象的な研究がありました。30万人くらいを対象にした研究なのですが、人間、3歳までは98%が何かしらクリエイティブで天才的な才能を持っている。ところが25歳になると、たった2%に。視野や思考がどんどん狭まるからだそうです。天才的な才能って、何がきっかけで開花するか分からない。だからこそ幼児期の間に、幅広い経験をさせてあげたいんです」。
寛容に、個性を尊重できる社会にしていきたい
そんな思いで開発した「Goccoシリーズ」はすでに、高評価を受け始めている。「Gocco ZOO」はAppleJapanの「App Store Best of 2013」アプリとして選ばれ、イギリスや北欧でもメディアに取り上げられた。世界共通の「ごっこ遊び」をテーマにしていること、テキストレス設計でローカライズの必要性がないことが大きな強みだ。
今後のビジョンを尋ねると、普段から考えているのだろう、明確な答えが返ってきた。今僕は33歳ですが、30代は、「世界中の子どもたちの"いきる力"を育てる」ことにかける。まずは「Gocco」を世界に通用するブランドにすること。40代には、おそらくiPadなんて誰も使わない時代になるだろうけど、その時に一番効果的なデバイスを使って良いプロダクトを作っていきたい。40代後半からは、若い世代を育てることにシフトするー。そんな太田垣さんは、日本の教育についても、自分なりの見解を持っている。
「スマートデバイスの普及で、日本の教育現場に地殻変動がもう起き始めています。情報は簡単に手に入り、機械のできることがどんどん増えていく。ITと教育は切り離せない関係になりつつあるし、でもそんな時代だからこそ、人間にしか担えないクリエイティビティが問われます」。とは言え、デジタルネイティブの子どもを育てることに否定的な見方もある。どう考えるのだろう。「世の中、いろんな人がいていいと思うんです。これが好き、あれが得意、その一つにデジタルという選択肢があるだけ。もっと寛容に、個性を尊重できる社会にしていきたい」。Goccoで遊んだデジタルネイティブの子どもたちが、その子自身の可能性を伸ばす日も遠くはないかもしれない。
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