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- Company株式会社天童木工
- 1940年創業。木を曲げて形を作る「成形合板」の技術を日本で初めて取り入れた家具メーカー。世界的デザイナーの剣持勇氏、柳宗理氏、ブルーノ・マットソン氏といった巨匠と恊働し、「バタフライスツール(※)」をはじめとする数々の作品を世に送り出した。美しく機能的な家具作りを目指し、職人の高い技術にも定評がある。本社は山形県天童市。
- ※世界的デザイナー柳宗理氏が考案したいす。チョウが羽を広げているような美しいフォルムが特徴で、ニューヨーク近代美術館やルーブル美術館といった名だたる美術館で永久所蔵されている。
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- 企画部 取締役企画部長福島幸雄(ふくしま・ゆきお)さん
- 1951年生まれ。法政大学社会学部卒業。新卒で天童木工に入社し、社内報の編集業務を担当。2年後に営業職に就き、20年もの間コントラクト家具(議場やホテルなどに納品する特注の業務用家具)のセールスをする。2004年に社長室へ異動、主に秘書業務を担当。11年から現職。企画部の責任者としてマーケティングや販売促進、SPツール作成について部下の指導にあたる。
間伐材から生まれた家具が大人気に
2014年4月、天童木工は国産の針葉樹を使った家具の製造・販売をスタートさせた。これは、「手つかずのまま放置された針葉樹を使うことで、森を健全化したい」という企業の思いを行動に移したものだ。針葉樹を、デザイン性の高い家具にする天童木工の新技術は、インテリアにこだわりを持つ消費者から多くの支持を得て、現在注文が殺到している。
針葉樹林を使ったいす
針葉樹は成長が早く、真っすぐ上に育つ。そのため、柱やフローリングなどの建材に向く。政府はその性質に着目し、戦後復興期に「50〜60年後の木材利用」を見込んで膨大な針葉樹を全国各地に植林した。現在の日本の森林面積の4割を占める約1,029ヘクタールの針葉樹は、人の手によって植林された人工樹林だ。
ところがその後、輸入材が増加し、国産材の価格が暴落。さらに、住宅着工数の減少が進んだことで、使われるべき針葉樹は日の目を見ることなく放置されてしまった。「森林は、適切な間伐をして、手入れをしないことには荒れる一方です。メンテナンスを怠れば、大雨による土砂災害を起こしやすくもなります。日本の林業を復活させ森の"健全化"を図るためにも、針葉樹の間伐材を活用すべきだと思いました」。家具メーカーの天童木工だからできること。それは、針葉樹林を使った家具作りだった。
木を無駄なく9割使い切る、「成形合板」の技術
針葉樹は広葉樹に比べて柔らかく、家具には不向きだ。「天板の上で物を書こうものなら、筆跡がそのまま机に残ってしまうほど針葉樹は柔らかいんです。使えないことはないのですが、クローゼットや下駄箱など、細かな傷が気にならない家具に限られていましたね」。
針葉樹を使って家具を作るなら、人工的に強度や耐久性を補強する必要がある。そこで活躍するのが、加工木材を圧縮して木の密度を高める「圧密加工」という技術だ。ただ、圧密加工は、圧をかける際に熱が加わるため、木材表面がこんがりと焼けてしまう。これでは、見た目が格好悪い。また、ギュッと圧縮した一本の丸太を削って形成するため、複雑な曲線が描けずデザインの幅が出せないという課題もあった。
解決へのヒントは、天童木工が日本で初めて導入した、「成形合板」の技術にあった。成形合板とは、木を1~1.5ミリに薄くスライスした単板を、ミルフィーユ状に何枚も張り合わせ、木を自在に成形する技術のこと。丸太を桂むきのようスライスするため、木をムダなく使い切ることができる。「我々は3年の研究を経て、温度や強度を調整できる新型のプレス機を開発しました。これにより、成形合板と圧密加工の技術をかけ合わせることが可能に。美しくしなやかな家具作りを実現しました」。
優先的に使用している木材は、山形県の金山杉や西山杉の間伐材だが、「私の街の杉を使って」と要望があれば、全国各地へ飛ぶ。「過去の事例を挙げると、福岡県の八女杉を使った文化交流施設『九州芸文館』の机といすがそうですね。地元で育った木を地産地消してできた家具は自然と愛着が湧くでしょうし、大切に使っていただけますよね」。「その土地のものをありがたくいただく」という考え方が広がれば、地域材の需要はもっと増えるはずだ。
東京五輪を追い風に、国産木材の需要拡大へ
天童木工は、天童市内の企業4社と協力して、間伐のボランティア活動に取り組んでいる。対象となるのは、同市南東部に位置する13.7ヘクタールの「天童・不思議の森」。間伐や下草刈り作業を社員自ら実際にやってみることで、森林形成や保全についての知見を深めている。
地道な活動を進める中で、福島さんが「森林健全化の起爆剤になるかもしれない」と期待を寄せるのは、2020年開催の東京五輪だ。「林野庁や農林水産省が、国産の木材使用を積極的に推進しています。我々も積極的に展示会などへ出品し実際に商品に触れていただくことで、国産木材を使う意義を伝えたいです」。
発売からもうすぐ1年となる針葉樹を使った家具の人気は衰えない。「反響があるのはありがたいことです。でも手放しで喜ぶわけにもいきません」。日本人は熱しやすく冷めやすいところがある上に、"環境"とか"エコ"というフレーズに弱い。森を健全化するには、一時のブームで終わらせず、長く続けていくことが大切だ。「我々は作り手として、今後も家具の材料にふさわしい国産材を使っていきます。時間はかかるでしょうが、いつか、針葉樹の家具が一般化される日がくると良いですね」。家具作りを手段として、国産木材の自給率アップを図る。いきいきとした森林を取り戻すためのプロジェクトが確かに動き始めている。
天童木工の様子
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