健康保険とは
健康保険とは、病気・ケガ・出産・死亡などの不測の事態に備えるための公的な医療保険制度を指します。とくに通院時の医療費負担が3割(年齢・収入要件により2割の場合もあります)で済む制度を利用する機会は多いでしょう。ほかにも治療中や休業時の療養費や傷病手当金、出産時には出産手当金や出産育児一時金、さらに亡くなったときの埋葬料などを受け取れる場合もあります。
企業に勤務している場合は会社が加入している健康保険に加入するのが一般的です。しかし転職・退職をすると、それまで勤務先で加入していた健康保険の被保険者資格がなくなるため、自分で手続きをしなければならない場合があります。万が一手続きをしないままの状態で病気になったり事故に遭ったりした場合、健康保険の適用を受けられず高額な医療費の支払いが発生する可能性があります。忘れずに手続きしておきましょう。
転職・退職時の健康保険の切り替え手続きの流れ
退職後すぐに次の会社に転職する場合と、退職後に離職期間があり被保険者でない期間が発生する場合とでは手続き方法が異なります。とくに「転職先が決まっていない」または「退職から次の会社への入社まで期間が空く」場合には、任意継続被保険者制度の利用や国民健康保険への加入のための手続きが必要です。対応方法を確認しておきましょう。
離職期間なし(すぐに転職する場合)
会社に健康保険証を返却する
健康保険証は会社に返さなければなりません。被扶養者の分もすべてです。忘れてしまって返せない場合や退職日当日に病院に行くために使う場合などは会社に相談しておきましょう。郵送での後日返却も受け付けてくれるのが一般的です。
また後日返却の場合は、退職後に健康保険証を使用してはいけません。誤って使用した場合は退職した会社が加入している健康保険に保険者負担分(7割から9割分)を返金し、後日新しく加入する健康保険に療養費の申請をする必要があります。
健康保険資格喪失証明書を提出する (なくても再加入の手続き自体は可能)
転職先の健康保険に加入する際に「健康保険資格喪失証明書」が必要になる場合があります。その際は、退職する会社に発行を依頼しておきましょう。なお、転職先で健康保険の加入条件に該当せず、国民健康保険に加入する場合は「健康保険資格喪失証明書」が必要になります。
健康保険の再加入が完了すると新しい健康保険証がもらえる
入社後、転職先の担当者が手続きを進めてくれるため、あなたが何かする必要は基本的にありません。手続きが完了すれば、健康保険組合または全国健康保険協会(協会けんぽ)から新しい健康保険証が会社経由でもらえます(健康保険組合によっては、会社経由ではなく本人に直接渡される場合もあります)。1〜2週間程度過ぎてももらえない場合は、転職先の担当者に一度確認してみてください。
離職期間あり(退職後に離職期間が1日でも発生する場合)
会社に健康保険証を返却する
退職後に離職期間が発生する場合も、健康保険証は退職時に返却します。後日返却する場合は、退職日を過ぎてから健康保険証を使用してはいけません。退職後すぐに健康保険証を使用する場合は、スムーズに切り替え手続きできるよう退職前に準備しておきましょう。
3つのパターンのいずれかを選択する
次のいずれかを選択しましょう。
- 1.任意継続を利用する
- 2.国民健康保険に加入する
- 3.家族の扶養に入る
いずれも手続きや条件が異なります。詳しくは後述します。
入社して健康保険の再加入が完了すると新しい健康保険証がもらえる
申し込みのあと再加入ができれば健康保険証が自宅に郵送されます。
離職期間がある場合の健康保険切り替えの手続き方法
それまで加入していた健康保険の任意継続被保険者制度を利用する
任意継続被保険者制度とは?
退職後も在職中と同じ健康保険の被保険者資格を継続できる制度で、退職前の被保険者期間が継続して2カ月以上あれば、最長2年間まで利用できます。
任意継続被保険者制度を利用するための手続きは、退職日の翌日から20日以内に行う必要があります(20日目が営業日でない場合は翌営業日まで)。過ぎてしまうと、正当な理由がない限り受け付けてもらえなくなってしまいます。申請できる期間が比較的短いので注意してください。
手続きを行う場所はそれまで加入していた健康保険によって異なります。全国健康保険協会(協会けんぽ)以外の健康保険組合に加入していた人であればその健康保険組合、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していた人であれば居住地を管轄する協会けんぽです。郵送でも受け付けてくれます。健康保険証に保険者の名称が記載されていますので、確認してください。
任意継続被保険者制度 | |
---|---|
手続きの期間 | 退職の翌日から20日以内 |
手続きの場所 | 加入していた健康保険組合または居住地域の社会保険事務所 |
必要なもの | 健康保険任意継続被保険者資格取得申請書 |
1カ月分(退職日によっては2カ月分)の保険料(口座振替も別紙で申請すれば可能) | |
保険料 |
それまでの負担額の倍程度 (ただし上限あり) |
- ※健康保険に「被扶養者」として加入していた家族がいる場合は、住民票や被扶養者(16歳未満は添付不要)の収入を証明する書類などが必要となりますので確認してください。
任意継続被保険者制度のメリットとデメリット
■メリット
- ・原則、在職中と同じ給付を受けられる(傷病手当金は受け取れないケースもある)
- ・保険料の最高限度額が決められている(在職中の収入が多かった場合、保険料が安くなる可能性がある)
- ・申し出により、自己都合での中途脱退ができる(ほかの方法への変更ができる)
- ・条件をクリアすれば、家族を扶養に入れられる(1人分の保険料で加入が認められた家族全員に保険が適用される)
■デメリット
- ・保険料は全額自己負担(会社との折半ではなくなるため退職時の2倍の保険料支払いが発生する)
- ・任意継続を利用できる期間が2年間に限られる
- ・2年間は保険料が原則変わらない(収入が減っても同じ額の支払いが必要)
- ・受付窓口が自宅から遠方になる可能性がある
国民健康保険に加入する
国民健康保険とは?
都道府県および市区町村(特別区を含む)が保険者となる健康保険です(業種ごとに組織される国民健康保険組合もありますが、こちらは再就職した場合が対象になると想定されるためここでは除外します)。国民健康保険の保険料は、「前年の所得」「世帯の資産」「家族の人数」などをもとにして決定されます。しかし算出方法は自治体によって異なっており、所得が同じでも住んでいる市区町村によって支払う保険料が異なってきます。
納付の方法も自治体ごとに異なるため、詳細はお住まいの市区町村の国民健康保険窓口に問い合わせてください。手続きは退職日の翌日から原則として14日以内に行うルールになっています。遅れても手続き自体は可能です。ただしこの場合も、保険料は退職日の翌日までさかのぼって支払わなければなりません。
国民健康保険 | |
---|---|
手続きの期間 | 退職日の翌日から14日以内 |
手続きの場所 | 住所地の市区町村役所の国民健康保険窓口 |
必要なもの | 健康保険の資格喪失が分かる証明書(健康保険資格喪失証明書)※自治体や条件によっては退職証明書、離職票でも可 |
各市区町村で定められた届出書 | |
マイナンバー(個人番号)が分かるもの | |
保険料 | 市区町村により異なる |
国民健康保険のメリットとデメリット
■メリット
- ・保険料の軽減・減免申請ができる場合がある(人によっては任意継続より保険料が安くなる場合もある)
- ・各市区町村役所に担当窓口がある(自宅から近くなる)
■デメリット
- ・所得が上がれば保険料も割高になる
- ・傷病手当金や出産手当金がない
- ・家族を扶養に入れられない(家族の人数分の保険料支払いが必要になる)
家族の扶養に入る
家族の扶養に入るとは?
あなたの年収が130万円未満の場合、家族が健康保険の被保険者になっていて、あなたの年収の倍以上であれば、家族が加入している健康保険の被扶養者になれる場合があります。家族の健康保険の保険者(健康保険組合または全国健康保険協会)に問い合わせてみましょう。
逆にいうと、年収が加入基準の130万円以上になった場合や、パートなどをしていて労働時間や週の所定労働時間数が正社員の4分の3以上になった場合などは、審査に通らずに加入できない可能性があります。働いている場合は勤務先の健康保険に加入したり、自身の名義で国民健康保険に加入したりしましょう。
家族の扶養に入るメリットとデメリット
■メリット
- ・健康保険料の負担がなくなる(被保険者の支払金額も増えない)
- ・国民年金保険料の負担がなくなる
■デメリット
- ・給与収入を一定金額以下に抑える必要がある(働き方に制限が生まれる)
- ・将来もらえる年金が少なくなる
健康保険の保険料の計算方法
■健康保険の保険料を被保険者の給与から控除する方法
健康保険の保険料は被保険者と事業者とで折半します。また給与として支払う時点で健康保険の保険料は控除されているのが一般的でしょう。そのため下記の式に基づいて、毎月の給与から健康保険の保険料が控除されます(「標準報酬月額」(※)をもとに控除額が計算され、その額が控除されます)。
※健康保険料・厚生年金保険料の計算をする際に基準となる金額(月の平均給与額を保険料額表にあてはめて決定する)
控除する金額=その被保険者の標準報酬月額×保険料率÷2
※折半した額に1円未満の端数がある場合は、端数処理(被保険者負担分の端数が50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げ)が行われます。
■賞与から健康保険の保険料を控除する方法
賞与からも健康保険の保険料は控除されます。計算式の考え方は同じですが、「給与」が「賞与」に、「標準報酬月額」が「標準賞与額」(※)に変わる点に注意しましょう。
また給与のように「標準報酬月額」をもとに控除額が計算されるのではありません。被保険者ごとの標準賞与額に保険料率を乗じた額の1/2が、賞与から控除されて支払われます。
※標準賞与額…賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた額
控除する金額=その被保険者の標準賞与額×保険料率÷2
※折半した額に1円未満の端数がある場合は、端数処理(被保険者負担分の端数が50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げ)が行われます。
■計算例
下記の条件のもとで健康保険の保険料の計算をしてみましょう。
- ・標準報酬月額(または標準賞与額)が44万円
- ・東京都の会社
- ・年齢:40歳未満(40歳以上65歳未満は介護保険料が発生します)
- ・保険料率が9.98%
控除する金額=440,000円(その被保険者の標準報酬月額または標準賞与額)×9.98%(保険料率)÷2
=43,912円÷2
=21,956円
健康保険が届くまでどうすればいい?などよくあるQ&A
Q1.転職先の保険証はいつ届く?保険証が届くまでどうすればいい?
A1.転職先からの保険証は、1〜2週間程度でもらえるのが通例です。
しかし通常よりも届くのが遅れる場合もあります。例えば新入社員の入社時期にかさなる4月などは、保険証の発行件数が増えて、届くまでに時間がかかる場合があるでしょう。新しい保険証が発行される前に病院を利用する予定がある場合は、交付までの間に保険証の代わりとして利用できる「健康保険被保険者資格証明書」を発行してもらえないか会社に相談してみてください。
Q2.転職先の健康保険の給付内容をチェックするときのポイントは?
A2.健康保険は、種類によって給付内容が異なります。
特にチェックしたいのが「付加給付」の有無です。健康保険の給付には2種類あります。法律で定められた「法定給付」と、法定給付に上乗せされる「付加給付」です。70歳未満の人が医療機関を利用した際に3割の医療費負担で済むのを知っている人も多いでしょう。これは法定給付によるもので、医療費の7割が健康保険で給付される仕組みなのです。
そして「付加給付」がある健康保険の場合は、法定給付だけよりも支給額が増えたり支給期間が延長されたりします。例えば出産時に1児につき48.8万円(産科医療補償制度に加入している医療機関での出産の場合は50万円)がもらえる「出産育児一時金」は、付加給付があるとさらに10万円が上乗せされる場合があります。業務外での病気やケガで会社を休み給与がもらえない場合に直近1年間の月収平均の約2/3が1年6カ月間は支給される「傷病手当金」も、最長3年まで期間が延びる場合があるのです。
Q3.国民健康保険の切り替え手続きに必要なものは?
A3.「健康保険の資格喪失が分かる証明書(健康保険資格喪失証明書 ※自治体や条件によっては退職証明書、離職票でも可)」「各市区町村で定められた届出書」「マイナンバー(個人番号)が分かるもの」です。
Q4.国民健康保険の手続きが退職後14日を過ぎてしまったらどうしたらいい?
A4.退職日の翌日までさかのぼって保険料を支払う必要はありますが、遅れても手続き自体は可能です。医療の給付は原則として手続きが完了した日から可能となります。
上のA2で紹介している「手続きに必要なもの」を準備しておきましょう。また国民健康保険税も加入した日までさかのぼって一度に請求されます。
Q5.失業中に病気やケガをした場合、保険はおりる?
A5.退職後に加入した国民健康保険や、雇用保険の手当を利用しましょう。
仕事に就けない期間の長さによって受給可能な手当が異なったり、受給期間の延長ができたりすることもあります。
詳細は下記をご確認ください。
Q6.マイナンバーカードに健康保険証の利用登録をしたら何が変わる?
A6.2024年12月2日から現行の健康保険証が廃止され、マイナンバーカードに一本化される予定です。(マイナ保険証を保有していない方には「資格確認書」が交付されます)
A6.マイナンバーカードに健康保険証の利用登録をした後は、転職や退職の際に健康保険証の発行を待つ必要がありません。ただし、加入手続きは引き続き必要になります。最新の情報や詳しい内容は、市区町村の窓口や会社の担当者に確認してください。
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この記事を監修した社会保険労務士
北 光太郎(きた・こうたろう)氏
きた社労士事務所 代表 大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士資格を取得し、不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善などさまざまな取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。読者に分かりやすく信頼できる情報を伝えるとともに、Webメディアの専門性と信頼性向上を支援している。
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