内定とは?
「内定」という言葉は法律などで明確に定義されているものではありません。そのため、「一般的に使用する場合」と「労働契約を結ぶ場合」とで、認識や定義が異なることがあります。それぞれの定義や意味の違いを押さえて認識の食い違いによるトラブルを避けましょう。
一般的に使われる「内定」の定義とは?
「内定」というと、「企業から採用条件通知書(または内定通知書、労働条件通知書など)が発行されたタイミング」を指すことが一般的です(本記事でも、以後「内定」という言葉は断りのない限りこちらの定義を使用します)。
ただし、この段階では労働契約上の「内定」は成立しておらず、あくまで企業から採用条件が提示されたにすぎません。
労働契約上の「内定」の定義とは?
労働契約上の内定とは、企業から「採用条件通知書」が送付され、求職者が求人企業に対し、入社日・年収等重要な条件を踏まえ、就業することの意思表示をした状態のことをいいます。つまり、求職者が採用条件通知書の内容に同意し、その企業に入社することを承諾してはじめて、労働契約上の「内定」といえるのです。
ですから、退職交渉の開始や他社選考の辞退は、労働契約が成立してから行うようにしましょう。転職エージェントを利用している場合は、キャリアアドバイザーに相談しながら、慎重に進めてください。ご自身で企業と直接やり取りしている場合は、エビデンスが残る形で進めていただくのが安全です。
内定後の基本の流れ
まずは転職における内定後の基本の流れをご紹介します。各工程で大切なポイントを確認し、スムーズに手続きを進めましょう。
① 内定通知を受ける
選考を通過するとメールや電話で内定の連絡があります。その際は「面接合格です」「弊社で働く意向があるようなら採用とさせていただきます」といった言い方をされることも。
この時点では細かな労働条件は伝えられない場合もあります。「いつか伝えてくれるだろう」と待つのではなく、困った事態になるのを避けるためにも、必ず詳細な労働条件を書面でもらえるよう企業に依頼しましょう。「内定ありがとうございます。条件を見たうえで判断したいので詳細を文書かメールでお示しいただけますか」と伝えましょう。
② 条件を再確認し、内定通知へ返事
内定の旨と、労働契約期間や賃金などの労働条件が書かれた書類は「内定通知書」「採用通知書」「雇用契約書」などと呼ばれます。しっかりと内容を確認して、内定の承諾・辞退を決めましょう。
返事の内容にかかわらず、まずは電話連絡をし、担当者につながらなければメールを。内定承諾・辞退の連絡方法や返答期限は企業から指定される場合が多いため、案内をよく確認する必要があります。特に指定がない場合は企業に確認しましょう。仮に、企業から返答期限を指定されていない場合でも、1週間以内に回答するのがベターです。エージェントサービスを利用している場合は、担当キャリアアドバイザーを介して返事をするため、よく打ち合わせしておきましょう。
返事を待ってもらいたい場合は、回答までに時間がかかる理由を添えて内定先の企業から許可をもらい、遅くとも2週間以内には連絡するようにしてください。入社承諾とあわせて契約書へのサイン・返送が必要な場合もすみやかに手続きをするようにしましょう。
③ 入社日を決める
面接時に「いつから働けるか」というやり取りをすることが多いため、内定通知の時点ではそれを踏まえた入社日を指定されることが多いようです。内定通知をもらってから調整することも可能ですが、面接時に伝えた入社可能時期と大きく変わると印象がよくありません。面接に臨む前に、今の会社の就業規則に目を通し、退職までに必要な期間を確認し、入社可能な時期を把握しておくようにしましょう。
なお、退職日は現在の職場の上司との相談になりますが、退職日を入社日前日の日付に設定できるとベターです。退職日と新たな職場の入社日の間が空くと、国民健康保険や年金に入る手続きを自分でしなければならなくなります。注意しましょう。
転職では内定から入社日までの期間はどれくらい?
転職活動で内定を獲得してから入社するまでの期間は、2~3カ月程度が目安です。急募の求人や、既に離職している場合は、それよりも早い入社日の設定を求められることが多いでしょう。転職における入社日は、半年後など先延ばしにすることは難しいことが多いため、特に在職中の場合は、入社日・退職日の調整がスムーズに進められるようにスケジュールを把握して動きましょう。
④ 雇用契約を結ぶ
雇用契約を結ぶタイミングは会社により異なります。内定通知書への承諾の返事をもって契約とするほか、内定通知書の確認・承諾の返事を経て、改めて雇用契約書にサインする場合もあります。
入社承諾後や契約サイン後に「やっぱり辞退する」というのは厳禁です。入社に向けて雇用する側も、採用をストップしたり備品の準備などを進めたりしているので、契約後の辞退は非常に迷惑をかけてしまいます。雇用契約を結ぶ際は、しっかり入社意思を固めて臨みましょう。
⑤ 入社日に向けて、今の会社で退職準備をする
退職の意向はまず直属の上司に伝えましょう。上司や人事などと相談のうえ、退職日の調整や仕事の引き継ぎなどを進めつつ、同僚など周囲の人へ退職する旨のあいさつを始めましょう。トラブル防止のために、直属の上司を含めて具体的な転職先については伝えないのが無難です。
今の会社で必要になる退職の手続きはこちらを参考にしてください。
内定後の流れで必要な書類一覧
内定後の流れではさまざまな書類のやり取りが発生します。現在、所属する企業から何を受け取り、転職先に何を提出する必要があるのか事前に把握しておきましょう。
転職先に必ず提出する書類
まずは転職先に提出する必要がある書類をご紹介します。それぞれの提出日に遅れないよう、早めに準備を始めましょう。
退職する会社から受け取る3つの書類
- ①年金手帳
- ②源泉徴収票
- ③雇用保険被保険者証
①年金手帳(通知書)
転職先の会社で年金加入手続きをするために必ず必要です。基礎年金番号を確認できれば問題ないので、基本的にはコピーした後に本人へ返却されます。手元にない場合は、現職の会社で保管していることもあるので、早めに確認しておきましょう。
また令和4年(2022年)4月以降、冊子型の年金手帳の交付は廃止されています。令和4年度以降に新卒として勤務する方は、代わりに発行される基礎年金番号通知書で対応しましょう。
②源泉徴収票
転職先の会社が年末調整をする際に必要な書類です。一般的には退職して1月以内に前の会社から交付されます。退職時にいつごろ送られてくるか確認しておくと安心でしょう。発行してもらえない場合は、税務署や労働基準監督署に相談する必要があります。
もし提出日に間に合わない場合は、転職先に遅れる旨を伝えておきましょう。基本的に年末までに提出できれば問題ありませんが、場合によっては自分で確定申告を行わなくてはいけません。
③雇用保険被保険者証
退職する際に会社から返却される書類です。雇用保険に加入していることを証明するもので、ハローワークが発行したものを会社が保管しています。
転職の際は、返却されたものをそのまま転職先の会社に提出することで、雇用保険が引き継がれることになります。
紛失した場合はハローワークで再交付してもらえますが時間がかかるので注意しましょう。
転職後に用意する4つの書類
- ①給与振込先届出書
- ②健康保険被扶養者異動届
- ③扶養控除等申告書
- ④マイナンバー(個人番号)が確認できる書類
①給与振込先届出書
銀行名や口座番号など、給与振り込みを行う口座の情報を記入する書類です。転職先の会社から受け取ったら、記入して提出しましょう。
企業によっては、振込先の銀行に指定があるケースもあるので事前に確認し、必要があれば口座を用意しましょう。
②健康保険被扶養者異動届
扶養家族がいる人が健康保険に加入する際に提出する書類です。転職先の会社から受け取り、必要事項を記入して提出します。場合によっては、戸籍謄本または戸籍抄本または住民票の写しの提出を求められるので、事前に確認し準備しましょう。
配偶者や子どもを被扶養者に登録すると、被扶養者は保険料を支払うことなく、保険の給付を受けられます。ただし130万円未満の年収制限など規定があるので注意しましょう。
③扶養控除等申告書
扶養控除や配偶者控除などの控除を受けるために記入する書類です。扶養家族のあるなしに関わらず転職先に提出します。
給与振込先届出書や健康保険被扶養者異動届と同じように、転職先で指定された用紙に必要事項を記入して提出しましょう。
④マイナンバー(個人番号)が確認できる書類
社会保険や雇用保険の手続きをする際には、マイナンバー(個人番号)が必要です。番号が正確であることが分かればよいので、マイナンバーカードのコピーや住民票などを提出しましょう。マイナンバーカードのコピーを用意する場合は表裏の両面が必要です。
場合により提出を求められる書類
- ・免許、資格等の証明書
- ・健康診断書
- ・雇用契約書
- ・入社承諾書
- ・身元保証書
- ・卒業証明書
- ・退職証明書
- など
雇用契約書がなくても雇用契約は成立するので、法的な作成義務はありません。転職先で配布されたら、署名や押印をして提出しましょう。ただし労働条件は必ず明示するよう、労働基準法第15条に定められています。労働者側が何かを提出する必要はありませんが、企業からなにかしらの形で明示があるはずです。
また、前職での在職年数が浅い場合や第二新卒での採用の場合は、最終学歴の卒業証明書や成績表の提出が求められることもあります。履歴書に記載した免許や資格は、転職時に証明書を提出しなくてはならないケースも多いので、虚偽を記載するのは絶対に避けましょう。
内定後の対応で注意したいポイント
・内定通知は保存しておく
・書類提出の期限を守る
・内定取り消しとなる行動を起こさない
・内定辞退はできるだけ早く連絡する
内定後、実際に入社するまでの対応にはいくつかの注意点があります。不本意な内定取り消しを防ぎ、スムーズに手続きを進めるために押さえておきたいポイントをみていきましょう。
内定通知は保存しておく
内定通知書は、紙で送付された場合であれ、データの場合であれ必ず保管(保存)しておきましょう。メールやPDFなど電子媒体の場合は、誤って削除しないよう特に気をつけます。 内定通知書をなくしたからといって、内定が無効になることはありませんが、不当な内定取り消しを受けた際に、訴訟における重要な証拠となります。
書類提出の期限を守る
転職先から指示された書類の提出期限を守らないと、社内での受け入れ業務が滞ってしまいます。場合によっては、仕事に対する姿勢を疑われ、入社前から評価が下がる恐れもあるでしょう。入社する前から関係部署に迷惑をかけるのを避けるためにも、必ず提出期限は守りましょう。
内定取り消しとなる行動を起こさない
基本的に、内定者の同意なく企業が内定を取り消すことは違法です。ただし、内定者が何らかの違反行為を行った場合は内定取り消しが認められることもあります。具体的には、提出書類に虚偽の記載があった場合、会社の信用に影響するような素行不良を起こした場合などです。
内定をもらった時点から会社の一員のつもりで行動に気をつけましょう。
内定辞退はできるだけ早く連絡する
企業は内定を出した時点で受け入れに向けた準備を始めます。準備段階であっても、費用や時間、人など会社の資源を使うことになるので、内定辞退の連絡が遅れれば遅れるほど会社に無駄な資源を使わせてしまうことに。 内定辞退を申し訳なく感じて連絡を先延ばしにしてしまう人もいるのですが、早く連絡するほうが心証がよいでしょう。エージェントを介して内定を得ていた場合は早めにエージェントに相談しましょう。
内定後の流れに関するQ&A
内定後の流れはスムーズに済ませたいものですが、初めての転職では分からないことも多いですよね。よくある質問とその回答を紹介するので、ぜひ参考にご覧ください。
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口頭で内定と言われただけで内定承諾書が送られてこないけれど大丈夫?
- 書面の契約書がないまま入社に至るケースもあります。その場合も労働条件は確認しておきましょう。入社承諾の返事をする前に、条件面だけでもメールや書類などで提示してもらいたいとお願いして、あとあと残る形にしておくことが大事です。
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他社の選考結果を待ってから返事したい場合どうしたらいい?
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内定通知をくれた企業の心証を損なわないように伝えるのが大事。まず内定に対するお礼を伝え、具体的な回答日を示したうえで待ってほしい旨をお願いしましょう。たとえ連絡をしても、返事を引き延ばすのは印象がいいものではありません。「この転職に関して真剣に考えている」こと、だからこそ「家族と相談したうえで返事をしたい」など、真剣さが伝わる言い方にすること。勝手に返事を引き延ばすのではなく、あくまで待ってもらう「お願い」をする姿勢が大切です。
「最後の転職にしたいので、他社と条件面も比較検討して慎重に判断したい(だからあと×日間待っていただきたい)」とストレートにお願いしてもよいですが、まったく関係のない企業だった場合、「なぜその企業と比較?」とそもそもの転職軸を疑われることにもなりますので気をつけましょう
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入社承諾をした後にやっぱり辞退したいのだけど……。
- 契約書がなく口約束だけの場合も含め、入社承諾後の辞退はモラル違反。あまりに失礼な応募者の悪評は、同業他社へ広まる可能性もあり得ます。決断を覆す事態にならないよう、しっかりと考えてから内定通知の返事をしましょう。
内定後の流れを押さえてスムーズに転職しましょう
企業から内定の連絡を受けたら、労働条件を再度確認し返事をしましょう。内定承諾する場合はもちろん、辞退する場合もできるだけ早く返答したほうがよいでしょう。無事に双方の合意のうえ内定が決まったら、今度は入社日を決定し、雇用契約を結びます。ここまで済んだら、現職での残りの仕事に集中し、引き継ぎなどの退職準備をしましょう。この間に転職先に提出する書類などを少しずつ準備しておきましょう。転職先から指定された期日に間に合うよう、計画的に準備を進めることが大切です。
dodaのキャリアアドバイザーは転職活動のサポートはもちろん、内定後の流れもていねいにフォローします。現職の引き継ぎなどで忙しい場合も、タイミングごとに行うべき手続きをサポートするので、安心して転職準備を進めることができるでしょう。ぜひお気軽にご利用ください。
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記事監修
じんじ労務経営研究所代表(社会保険労務士登録)
労働保険事務組合 鎌ヶ谷経営労務管理協会会長
清和大学法学部非常勤講師
「月刊人事マネジメント」(株式会社ビジネスパブリッシング)取材記者
千葉大学大学院社会科学研究科修士課程修了(経済学)
大学在学中に社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引士の各試験に合格。社会保険診療報酬支払基金、衆議院議員秘書、株式会社矢野経済研究所、等を経て、1991年、じんじ労務経営研究所を開設。企業のトップ・人事担当者を中心に人事制度を取材・執筆するほか、中小企業の労働社会保険業務、自治体管理職研修の講師など広範に活動。著書に『社会保険・労働保険の実務 疑問解決マニュアル』(三修社)、『管理者のための労務管理のしくみと実務マニュアル』(三修社、監修)、『リーダー部課長のための最新ビジネス法律常識ハンドブック』(日本実業出版社、共著)などがある。
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