Q. 内定承諾期間が迫っていますが、労働条件通知書をもらっていません。いつもらえるものなのでしょうか?
希望の会社から内定をもらったものの、給与の説明が口頭のみでした。内定承諾期間が迫っているのですが、事前に給与や休日の規定などが書いてある労働条件通知書をもらうことはできないのでしょうか?(27歳/男性)
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A. 会社は労働条件を明示する通知書の交付が法律で義務付けられています。多くの場合は内定通知と同時に交付されます。
労働基準法第15条では、会社は採用した人に対して労働条件を労働条件通知書などの「書面で」明示しなければならないことが定められています※。
※出典:「労働基準法の基礎知識」厚生労働省
ただし、内定の段階では内定の通知のみで労働条件も一部しか伝えてもらえなかったり、電話など口頭のみで労働条件を伝えられ、書面は入社日に渡すと言われたりするケースもあります。その場合は、後述するリスク※を回避するためにも「採用時の労働条件の詳細を、念のためメールでもお送りください」と頼んでみましょう。
※労働条件通知書をもらわないまま入社するリスク
労働条件通知書は通知しなければならない項目も決まっています。その項目には給与額(賃金)や支払いの方法・時期のほか、労働契約の期間などがあります。2024年4月の改正では「就業場所」「業務の変更の範囲」などの項目が追加されました。
規定の労働条件がすべて記載されていれば、書類は必ずしも「労働条件通知書」という名前でなくても構いません。例えば、「労働契約書」「雇用契約書」「内定通知書」などの書類の中で労働条件に関する必要事項が記載されていることもあります。
労働条件は口頭での通知でもよい?
労働基準法によって、企業には労働条件を書面で通知することが義務付けられているため、口頭のみの通知は認められていません。
ただし、労働者が希望すれば電子交付(メールやSNSメッセージでのファイル添付、FAXなど)での通知も可能です。
※出典「労働条件の明示を適切に行っていますか?」厚生労働省
労働条件通知書をもらうタイミングは?入社時でもよい?
労働基準法の第15条では、会社は「労働契約の締結に際し」労働条件を明示しなければならないと定められており、内定通知と同時に労働条件も通知することがタイミングとして望ましいです。中途採用の場合は、最終面接に合格し、内定通知を受けるのと同じタイミングで、書面または電子メールの文面、PDFなどの電子ファイルで通知されるのが一般的です。
ただし即時入社など、内定承諾と入社のタイミングが同じ場合は、入社時の通知でも問題ありません。
労働条件通知書をもらえない場合の対処法
内定通知の段階で労働条件通知書をもらえなかったり、一部の労働条件しか記載されていなかったりする場合は、まず会社側に交付のタイミングを確認してみましょう。返答があいまいであったり、交付の予定がなさそうだったりする場合は、労働条件を書面で明示してもらわないと自分の待遇が分からないことをはっきりと伝え、再度交付を依頼します。
めったにないケースではありますが、それでももらえそうにない場合は労働基準監督署に相談しましょう。ただし、この段階で会社側から納得できる回答をもらえていない場合は、入社後のことを考え、内定辞退を検討することも一つの選択肢でしょう。
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転職時、労働条件通知書のほかに企業からもらう可能性がある書類
- 労働契約書
- 雇用契約書
- 内定通知書
- 採用通知書
- 就業規則
労働条件の明示方法は、「労働条件通知書」という名前の書類でなくても構いません。上に挙げた書類の中で、労働条件に関する規定の項目が明示されているケースもあるでしょう。
転職活動で内定が出ると、会社側からさまざまな書類をもらう可能性があるので、重要事項を見逃さないよう受け取った書類にどのような項目が記載されているのかよく確認しましょう。
労働条件通知書をもらわないまま入社するリスク
労働条件を書面でもらう必要があることを知らずに、もらわないまま入社してしまうと、想定と異なる労働条件で勤務することになる恐れがあります。
労働条件について口頭でのみ説明を受けていた場合、その内容を客観的に証明する方法がありません。結果的に、入社後に想定と異なる労働条件を明示されたとしても、やむを得ず、その労働条件で勤務せざるを得ない状況になってしまうでしょう。
また、契約期間や解雇に関する条件も不明瞭なので、予期せぬタイミングで契約終了を言い渡される可能性もあります。
労働条件は雇用関係を結ぶ上で知っておくべき、最も重要な項目の一つなので、必ず書面で明示してもらい、よく確認した上で内定承諾に進みましょう。
【要注意】労働契約上の「内定」とは?
本記事内では「企業から採用条件通知書などが発行されたタイミング」を内定と呼んでいます。 しかし、労働契約としての「内定」の成立時期については、企業の採用手続きや内容などによって異なり、「採用条件通知書」などが発行されただけでは「内定」とはならないケースもあります。
ここで扱った法律
労働基準法の第15条では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と定めています。
また、労働基準法施行規則の第5条では、会社が入社者に明示しなければならない労働条件について定めています。2024年4月からは、就業場所・業務変更の範囲や、有期労働契約の場合には更新上限の有無と内容、無期転換申込機会や無期転換後の労働条件も明示事項に追加されました。
※出典:「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」e-Gov 法令検索
弁護士法人第一法律事務所 パートナー(社員弁護士)。経営法曹会議会員。企業の顧問業務をはじめ、労働審判・労働訴訟などの係争案件や、ユニオンなどとの団体交渉対応、労災対応、M&Aにおける労務デューデリジェンス対応など、経営者側での労働法務案件を数多く手掛ける。