Q 競合他社・同業他社に転職してはいけないのでしょうか?
外資系の医療機器メーカーに勤めています。競合の企業のほうが待遇面や仕事内容などが魅力的です。私が今勤めている会社を辞めてライバル会社に就職した場合、現在、勤めている会社から訴えられる可能性はありますか?(28歳/男性)
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A まずは、就業規則などでいまの会社の「競業避止義務規定」を確認しましょう。会社の機密情報を扱っていない、役職者ではない場合は訴えられる可能性は低いでしょう。
大前提として、日本では「職業選択の自由」が憲法で保障されています。ですから本来、退職後に何の仕事をしようと、ライバル会社に転職しようと問題ではありません。
一方で、会社としては退職した元社員に、その会社独自の技術・ノウハウや、顧客情報をライバル会社に持って行かれ、類似の製品を作られるなどして営業上の利益を侵害されては困ってしまいます。それを避けたい会社は、別途、契約書や誓約書などの形で、社員が「競業避止義務」を負うことについて本人の同意を取っています。
「競業避止義務」とは、所属する会社と競合する会社に転職する、競合する会社を起業するなどして、会社の情報(製品・商品の開発情報、技術情報、顧客名簿、営業ノウハウ等)を利用してはならないという義務のことです。在職中は労働契約に基づき競業避止義務が認められますが、退職後は別途契約上の根拠が必要になり、個別の契約書や誓約書を取り交わすことになります。
そのため、「競業避止義務」を負うことに同意したあとでライバル会社に転職すれば、訴えられる可能性があります。競業避止義務違反に厳しい会社の場合、就業規則等に記載があることが多いため、どのような行為が禁止されているのか事前に確認することをおすすめします。
仮に競業避止義務違反で訴えられたとしても、法的効力が有効になる範囲は限定されています。会社の機密情報を扱っていた人や、役員・事業部長などが対象になることが多いでしょう。
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訴えられる可能性が高いのはどんなとき?
競業避止義務違反で会社が退職者を訴える事例で最も多いのは、退職者が競合企業に転職し、機密情報を漏えいしたことによって前の会社が損害を受けたときです。逆にいうと、競合企業に転職したとしても、前の会社の営業上の利益が侵害されていない場合は訴えられる可能性は低いでしょう。
会社が元社員を訴える場合、基本的には、競業行為の差し止め請求、被った損害の賠償請求、退職金の一部または全額の返還請求、この3つのうちいずれかを請求することになります。そして裁判では、転職先で行う業務が「競業」に当たるかどうか、競業避止義務を負わせることが妥当かどうか、会社に損害が生じたかどうかが主に争われます。
競業避止義務を負わせることが妥当かどうかを判断する際には、競業行為を制限する期間・場所、制限する職種・仕事内容の範囲、会社が競業を制限することへの代償を払っているかどうか、などが考慮されます。なお、前職での職位・地位が高い場合や、会社として守るべきノウハウや情報にアクセスできるポジションだった場合は、一般的に会社の正当な利益を尊重しなければならない立場にあると考えられますので、そうでない場合と比較して競業避止義務を負わせることが妥当と判断される可能性が高いと言えます。
訴えられないようにするためには?
会社が競業避止義務違反を理由に退職者を訴えるためには、競業避止義務に違反したといえるだけの証拠を集めなければなりません。一般的に、今の会社で得た仕事の進め方や知識、人脈などを競合企業で活かすだけであれば、客観的に証拠として残るものが少ないため、訴えられる可能性は低いでしょう。
しかし、顧客リストや研究結果などの書類を持ち出したり、転職先で使おうと個人のメールアドレスに現職で得た情報を転送することなどは、競業避止義務違反の証拠となるおそれがあるだけでなく、損害賠償などの民事責任を問われる可能性が高くなります。また、会社の営業秘密を侵害したとして刑事責任を問われる可能性もあるため、避けましょう。
また、競合他社に転職する場合は、仲の良い同僚であっても転職先を伝えない、「競業避止義務」の契約書に同意せずに退職することもトラブルを避ける方法といえます。就業規則で、競合企業に転職する場合は退職金の減額や没収をすると規定している会社もありますので、転職活動を始める前に確認しておくのが良いでしょう。
在職中も「競業避止義務」は負っている
在職中については、労働契約を結んでいる以上、競業避止義務を負っているものと考えるのが一般的です。副業として競合会社で働いたり、競合する事業を自ら起こして行った場合は、懲戒や解雇の対象になったり、会社から損害賠償を求められる可能性があります。
ここで扱った法律
一般に「職業選択の自由」といわれる権利は、日本国憲法の第22条に「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」という条文によって保障されています。
弁護士法人第一法律事務所 パートナー(社員弁護士)。経営法曹会議会員。企業の顧問業務をはじめ、労働審判・労働訴訟などの係争案件や、ユニオンなどとの団体交渉対応、労災対応、M&Aにおける労務デューデリジェンス対応など、経営者側での労働法務案件を数多く手掛ける。