Q 会社の特別研修に参加しました。退職する場合、会社に研修費用を返還する必要があると聞きました。この場合、払わなければならないのでしょうか?
会社の研修として1年間海外留学し、帰国しました。それから半年経ったころ、日本の本社があまりに閉鎖的なので、留学で得たものを転職して活かしたいと考えはじめました。同僚の話によると、退職をすると留学費用を返還しなければならない可能性がある、とのことでした。この場合、費用を払わなければならないのでしょうか?(29歳/男性)
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A 研修参加の前に、会社とどのような取り決め・契約をしたかを確認しましょう。
研修の前に、その費用に関して会社との間でどのような取り決めをしていたかを確認する必要があるでしょう。ポイントは、研修を受けるに当たって「研修費用を借り入れる契約」をしたかどうかです。
海外留学のような大きな費用のかかる研修の場合、会社によってはその費用を貸し付ける制度を設けて、社員と契約を結んでいる場合があります。社員の立場から見れば、いわゆる「借金」の制度です。そして、その契約の中に「帰国後5年間辞めずに働いたら、返還義務を免除する」といった特約を設けているケースがあります。
このような契約を会社と任意に交わしていた場合は、契約で定めた期間に満たないうちに退職すると、費用を返さなければならないケースが多いでしょう。留学する前に、そのような契約を交わさなかったかどうかを確認しましょう。
詳しく知りたい
高額な費用のかかる研修を受けるときはルールの確認を
会社の制度を利用して研修に参加したのだから、その費用は当然会社が持ってくれるはず…そう考える方もいるかもしれません。
原則的な話をすると、研修を受けることも、研修後に働くことも、会社と結んだ労働契約に基づくものです。また、「退職する」ということは、それ以後は労働契約上の義務を果たさないことを意味し、労働契約の不履行となります。
そして労働基準法は、研修や留学後に一定期間勤務せずに退職してしまう場合に、「違約金」のような意味合いで会社が研修費用・留学費用を社員に返還させること、そのような取り決めをすることを禁じています。
ただし、費用の返還請求が認められるケースがあります。それは、先に説明したように労働契約とは別に、研修費用を借りる契約を任意で交わしている場合です。もっとも、形式上は会社から研修費用を借りるという形がとられていても、研修の参加が任意ではなく業務命令である場合や、研修費用の返済の方法について特に取り決めのない場合などには、会社からの費用の返還請求が認められない可能性もあるでしょう。
高額な費用がかかりそうな研修を受ける場合、その費用を会社が負担してくれるのか、それとも任意に「借りる」形になるのか、事前の取り決めをきちんと確認しておく必要があると言えるでしょう。
ここで扱った法律
労働基準法の第16条に、「賠償予定の禁止」が定められています。これは、社員が労働契約を履行しなかった場合の違約金や損害賠償の額を、労働契約の中で取り決めてはいけないというルールです。
退職に当たって、会社がその社員に違約金や損害賠償を請求できるようになると、労働者の退職の自由が制限されてしまいます。この法律には、それを防ぐ目的があります。
弁護士:藥師寺正典(やくしじ・まさのり)
弁護士法人第一法律事務所 パートナー(社員弁護士)。経営法曹会議会員。企業の顧問業務をはじめ、労働審判・労働訴訟などの係争案件や、ユニオンなどとの団体交渉対応、労災対応、M&Aにおける労務デューデリジェンス対応など、経営者側での労働法務案件を数多く手掛ける。