Q みなし残業代(固定残業代)とは?
求人の給与の欄に「みなし残業代(固定残業代)40時間を含む」とありました。みなし残業代(固定残業代)とは何ですか? 40時間は必ず働かなければならない、ということでしょうか? 40時間以上働いたときはどうなりますか?(24歳/男性)
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A みなし残業代とは、実際に残業をしたかどうかにかかわらず、残業したものとみなして支払われる残業代のことです。
会社が社員に時間外労働や休日労働をさせた場合、その労働時間に応じた割増賃金を支払わなければならないことが法律で定められており、会社は、法律に定められた計算方法により割増賃金を支払わなければなりません。
しかし、会社によっては、社員がある程度の残業をするものと考え、あらかじめ「月あたり●時間分の時間外労働割増賃金として〇万円を支払う」という取り決めを社員と結び、「みなし残業代制度(固定残業代制度)」を設けている場合があります。
たとえば、「毎月40時間分の時間外労働割増賃金として8万円」というみなし残業代制度が設けられている場合、実際に40時間働かなくてはならないというわけではなく、仮に残業がゼロでも、固定額のみなし残業代8万円が支払われます。
「固定残業代」という呼び方から、何時間残業しても固定額しか支払われないと勘違いされることがありますが、誤りです。発生した残業時間の割増賃金を計算し、みなし残業代として設定されている額を超えた場合は、会社はその超過分を社員に支払わなければなりません。
詳しく知りたい
みなし残業代制度を導入している会社から内定をもらったら?
みなし残業代制度は、法律に定められているものではありません。それぞれの会社が、独自に設けている給与の制度なので、みなし残業代制度の詳細は会社ごとに異なっており、多くは就業規則などで定められています。
そのため、みなし残業代制度を導入している会社から内定をもらったら、労働契約書(雇用契約書)に合意をする前に、どのような仕組みになっているのかを処遇面談などで確認することをおすすめします。
チェックポイントその1「所定労働時間分の給与(基本給)、固定残業代はいくら? みなし残業時間は何時間?」
みなし残業代制度を導入している会社に入社したときに最も多いトラブルが、給与の内訳を確認していなかったために起こるものです。
例えば、労働契約書の給与欄に「月給30万円」と書かれており、それを見て基本給が30万円と思い込み入社を決めたものの、実際は、その脇に「58時間分のみなし残業代10万円を含む」と書かれており、正しい基本給は20万円だった。初めからこの基本給であれば、入社を決めなかったと後悔することはよく起こりがちな事例です。
また、そもそも、時間外労働等に対する固定残業代と、所定労働時間分の給与(基本給)とが、就業規則や給与明細の内訳で明確に区別されていない会社すらあります。
月給の内訳として、基本給の額、固定残業代がそれぞれいくらなのかは必ず確認しましょう。また、みなし残業時間が何時間に設定されているかも確認してください。
チェックポイントその2「みなし残業時間を超えて働いた場合の残業代支給のルールは?」
上記のとおり、実際に働いた労働時間をもとに法律上の計算方法によって算出された割増賃金額と、みなし残業代として支給される額との間に差額が生じた場合、会社は差額部分の割増賃金を支払わなければなりません。しかし、差額部分の支払いをめぐるトラブルは多く、たくさんの裁判事例があります。
そのため、トラブルに巻き込まれないためにも、労働契約書(雇用契約書)に合意をする前に、会社の平均残業時間や、みなし残業時間を超えて働いた場合の残業代がどのように支払われるか、その会社のルールを確認することをおすすめします。質問したにもかかわらず、具体的に説明してもらえない場合は注意が必要です。
多くの会社では、当月の基本給と固定残業代が規定の給料日に支払われ、超過分の残業代は翌月の給料日に支払われています。
ここで扱った法律
未払い賃金を請求できるのが5年(※)までと定めているのは、労働基準法の第115条です。賃金を除く災害補償その他の請求権は2年、退職手当の請求権は5年で消滅する(時効になる)と規定されています。
※2020年4月1日施行の労働基準法改正により、2020年4月1日以降に支払期日が到来する全ての労働者の賃金請求権についての消滅時効期間が賃金支払期日から5年(これまでは2年)に延長されました。但し、第143条の第3項で、当分の間は猶予措置としてその期間は3年とされています。
未払賃金立替払制度については、「賃金の支払の確保等に関する法律」で定められています。
弁護士:藥師寺正典(やくしじ・まさのり)
弁護士法人第一法律事務所 パートナー(社員弁護士)。経営法曹会議会員。企業の顧問業務をはじめ、労働審判・労働訴訟などの係争案件や、ユニオンなどとの団体交渉対応、労災対応、M&Aにおける労務デューデリジェンス対応など、経営者側での労働法務案件を数多く手掛ける。