Q 裁量労働制とは?裁量労働制の会社で働くときのメリットとデメリットとは?
応募したい求人の勤務時間の欄に「裁量労働制」とありました。裁量労働制って何ですか?どんなメリットとデメリットがありますか?転職活動の選考のときに確認しておいたほうがよいことを教えてください。(26歳/男性)
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A 裁量労働制とは、仕事の進め方や時間配分が労働者の裁量に委ねられる労働時間制度のことです。
裁量労働制とは、実際に働いた時間とは関係なく、企業と社員の間で労使協定に定めた時間を働いたものとみなし、その分の賃金が支払われる制度のことです(ただし、深夜・休日労働に対しては法律で定められた割増賃金が支払われます)。
例えば1日の「みなし労働時間」を8時間と定めた場合、所定の労働日に9時間働いても、実際に働いた時間に関係なく「8時間働いた」とみなされるので、その分しか賃金が支払われず、1時間分の残業代は出ません。逆に、ある1日に7時間しか働いていなくても、1時間分の給与が減額されることはありません。
いっぽう、1日の「みなし労働時間」を9時間と定めた場合は、所定の労働日に8時間しか働かなかったとしても、1時間分の時間外労働割増賃金が発生することになります。
裁量労働制のメリット
裁量労働制のメリットは、ある仕事をやり遂げる上で、それにかける時間や進め方を、自分の裁量でコントロールできることです。「定時」の考え方も原則としてありませんので、きちんと求められる成果を上げていれば、何時から何時まで働くかは自由です。
裁量労働制のデメリット
「みなし労働時間」を超えて働いた場合に、超えた分の残業代が出ないことは、デメリットだと考えられます。仮に「みなし労働時間」だけでは到底上げられないような成果が求められている状態だと、このデメリットばかりが大きくなってしまいます。
そのため、転職活動の際には、面接などで「みなし労働時間」がどのくらいなのか、課される仕事と求められる成果がどの程度のものなのかを確認しておいたほうがよいでしょう。
※みなし労働時間制、事業場外労働のみなし労働時間制と裁量労働制の違い
総称 | 法律上の名称 | 対象になる業務 | |
---|---|---|---|
みなし労働時間制 | 1.事業場外労働のみなし労働時間制 | 会社(事業場)の外で行う業務 | |
2.裁量労働制 | 専門業務型裁量労働制 | 厚生労働省令等で定める、19の業務 ※ 2024年4月からは20業務 | |
企画業務型裁量労働制 | 労働基準法で定める、企画、立案、調査および分析の業務 |
詳しく知りたい
裁量労働制が適用できる業務は限られている
裁量労働制は、あらゆる社員に適用できるわけではありません。労働基準法等で定められている特定の業務に限り、労使協定を締結するなど所定の手続きを経て、この制度を適用することが認められています。
その「特定の業務」にも大きく2種類あり、「専門業務型」の裁量労働制が認められる業務と、「企画業務型」の裁量労働制が認められる業務があります。
「専門業務型」が適用される業務
「専門業務型」の裁量労働制の適用が認められる対象業務は、労働基準法の第38条の3と労働基準法施行規則で具体的に定められています。
仕事の進め方や時間配分を事細かに指示するのが難しい業務、例えば、システムコンサルタント、記者・編集者・ディレクター、デザイナー、証券アナリストなど、19の業務が対象です。また、2024年4月1日からは、いわゆるM&Aアドバイザー業務が追加されます。
「専門業務型」の対象業務
①新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
②情報処理システムの分析又は設計の業務
③新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
④衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
⑤放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
⑥広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
⑦事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
⑧建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
⑨ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑩有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
⑪金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑫大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
⑬銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザー業務)
⑭公認会計士の業務
⑮弁護士の業務
⑯建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
⑰不動産鑑定士の業務
⑱弁理士の業務
⑲税理士の業務
⑳中小企業診断士の業務
対象業務は、労働時間の長さではなく、労働の質や成果によって評価されるべきという趣旨に基づいていると考えられます。
「企画業務型」が適用される業務
「企画業務型」の裁量労働制の適用が認められる対象業務は、労働基準法の第38条の4で「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」であって「業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とされており、具体的には指針で以下のように定められています。
「企画業務型」の対象業務
①経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
②経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
③人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
④人事・労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
⑤財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
⑥広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務
⑦営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
⑧生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務
ここで扱った法律
裁量労働制については、「専門業務型」が労働基準法第38条の3に、「企画業務型」が同第38条の4に規定され、そのほか労働基準法施行規則や指針にも該当の規定があり、適用に必要な対象業務や手続きなどが細かく定められています。
弁護士法人第一法律事務所 パートナー(社員弁護士)。経営法曹会議会員。企業の顧問業務をはじめ、労働審判・労働訴訟などの係争案件や、ユニオンなどとの団体交渉対応、労災対応、M&Aにおける労務デューデリジェンス対応など、経営者側での労働法務案件を数多く手掛ける。